地域生活と住まいの支援

「新ノーマライゼーション」2021年2月号

厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課 障害福祉専門官
吉野智(よしのさとる)

はじめに

我が国の障害保健福祉施策においては、障害者及び障害児(以下「障害者等」という。)が、基本的人権の享有主体である個人の尊厳にふさわしい日常生活又は社会生活を営むことができるよう必要な支援を行うことにより、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に寄与することを目指して、制度を整備して参りました。

本稿では、障害者等が安心して地域で暮らすための制度について解説を行い、その理解を深める一助としていただければ幸いです。なお、文中意見にわたる部分は、筆者の私見であることを予めお断りしておきます。

自立生活援助サービスの創設と整備の促進

平成28年の障害者総合支援法改正において、障害者支援施設やグループホーム等から一人暮らしへの移行を希望する知的障害者や精神障害者などについて、本人の意思を尊重した地域生活を支援するため、一定の期間にわたり、定期的な巡回訪問や随時の対応により、障害者の理解力、生活力等を補う観点から、適時のタイミングで適切な支援を行う自立生活援助サービスを創設しました(図1)。

図1 自立生活援助サービスについて
図1 自立生活援助サービスについて拡大図・テキスト

また、自立生活援助サービスの整備を促進するため、令和3年度障害福祉サービス等報酬改定において、人員基準の緩和や支給決定の更新に係る運用の見直し、機能を充実するための報酬の見直しを行うこととしています。

障害者の地域移行・地域生活を支える支援について

障害者の施設等からの地域移行や地域生活を支えるサービスとして、地域移行支援、地域定着支援、前述した自立生活援助を組み合わせた支援が実施できます(図2)。

図2 障害者の地域移行・地域生活を支えるサービスについて
図2 障害者の地域移行・地域生活を支えるサービスについて拡大図・テキスト

○地域移行支援は、障害者支援施設や精神科病院等に入所又は入院している障害者を対象に、住居の確保その他の地域生活へ移行するための支援を行います。

○自立生活援助は、グループホームや障害者支援施設、病院等から退所・退院した障害者等を対象に、定期及び随時の訪問、随時の対応その他自立した日常生活の実現に必要な支援を行います。

○地域定着支援は、居宅において単身で生活している障害者を対象に、常時の連絡体制を確保し、緊急時には必要な支援を行います。

障害者の住まいの確保や地域生活の支援に当たっては住宅施策との連携が重要であり、これらのサービスの実施に当たっては、住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律に規定する住宅確保要配慮者居住支援法人や住宅確保要配慮者居住支援協議会との連携を推進していく必要があると考えています。

地域生活支援拠点等について

障害者等の重度化・高齢化や「親亡き後」を見据え、障害者等の生活を地域全体で支えるサービス提供体制を構築するものとして、地域生活支援拠点等の整備を推進しているところであり、

・第5期障害福祉計画(平成30年度~令和2年度)に係る基本指針においては、令和2年度末までに「各市町村又は各圏域に少なくとも1つを整備することを基本」とするとともに、

・第6期障害福祉計画(令和3年度~令和5年度)に係る基本指針においては、「令和5年度末までの間、各市町村又は各圏域に1つ以上の地域生活支援拠点等を確保しつつ、その機能の充実のため、年1回以上運用状況を検証及び検討することを基本」としています。

また、地域生活支援拠点等の整備や機能の充実のため、令和3年度障害福祉サービス等報酬改定において、市町村が地域生活支援拠点等として位置づけた短期入所事業所や緊急対応を行う訪問系サービス事業所、自立生活援助事業所、地域定着支援事業所について報酬上の評価を行うこととしています(図3)。

図3 地域生活支援拠点等について
図3 地域生活支援拠点等について拡大図・テキスト

おわりに

障害者等が望む地域生活の支援として、いくつかの障害福祉サービス等をご紹介いたしましたが、地域のニーズを踏まえて地域生活を支えるサービスの整備を進めていくことが重要と考えています。

特に地域生活支援拠点等の整備については、現在、各市町村において、平成30年度を初年度とする第5期障害福祉計画に基づき体制整備に向けた取組を進めていただいていますが、全国の整備状況については、令和2年4月1日時点で468市町村(速報値)に留まっており、第5期障害福祉計画の最終年である今年度末に向けて未整備である市町村における体制整備が求められるとともに、整備済みの市町村においても地域のニーズを踏まえた機能の評価・充実を進めていく必要があります。

厚生労働省においても障害者等が望む地域生活の支援のさらなる充実のための検討や各種取組を推進してまいります。


【参考文献】

厚生労働省:第6期障害福祉計画基本指針(令和二年 厚生労働省告示第二百十三号)

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