特別支援学校の役割と期待されること~特別支援学校のセンター的機能の充実を目指して~

「新ノーマライゼーション」2021年4月号

文部科学省初等中等教育局特別支援教育課 特別支援教育調査官
深草瑞世(ふかくさたまよ)

はじめに

障害のある子供の学びの場については、障害者の権利に関する条約に基づく「インクルーシブ教育システム」の理念の実現に向け、障害のある子供と障害のない子供が可能な限り共に教育を受けられるように条件整備を行うとともに、障害のある子供の自立と社会参加を見据え、一人一人の教育的ニーズに最も的確に応える指導を提供できるよう、通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性のある多様な学びの場の整備を行っています。その中で、特別支援学校では、障害のある子供に対して、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準ずる教育を施すとともに、障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を授けること目的とした教育を行っており、地域において特別支援教育を推進していく上で、中核的な役割を担うことが期待されています。そこで、本稿では、特別支援学校のセンター的機能について概説するとともに、今後の方向性について解説します。

1.特別支援学校のセンター的機能

特別支援学校は、特別支援教育に関する相談のセンターとして、その教育上の専門性を生かし、地域の小・中学校等の教師や保護者に対して教育相談等の取組を進めてきています。特別支援学校のセンター的機能については、平成18年から学校教育法第74条に次のように規定されています。

第74条 特別支援学校においては、第72条に規定する目的を実現するための教育を行うほか、幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校又は中等教育学校の要請に応じて、第81条第一項に規定する幼児、児童又は生徒の教育に関し必要な助言又は援助を行うよう努めるものとする。

また、特別支援学校学習指導要領総則学校運営上の留意事項においても、次のように定められています。

3 小学校又は中学校等の要請により、障害のある児童若しくは生徒又は当該児童若しくは生徒の教育を担当する教師等に対して必要な助言又は援助を行ったり、地域の実態や家庭の要請等により保護者等に対して教育相談を行ったりするなど、各学校の教師の専門性や施設・設備を生かした地域における特別支援教育のセンターとしての役割を果たすよう努めること。その際、学校として組織的に取り組むことができるよう校内体制を整備するとともに、他の特別支援学校や地域の小学校又は中学校等との連携を図ること。(特別支援学校小学部・中学部学習指導要領)

小・中学校等に対する具体的な支援の内容としては、例えば、個別の指導計画や個別の教育支援計画を作成する際の支援のほか、自立活動の指導に関する支援、難聴の子供に対する意思疎通上の配慮や教材の工夫に関する情報提供、弱視の子供に対する教材・教具の提供、授業に集中しにくい子供の理解や対応に関する具体的な助言等が考えられます。

保護者等に対して、障害のある子供にとって必要な教育の在り方や見通しについての情報を提供するなどして、特別支援教育の実際についての理解を促す活動もあります。

支援に当たっては、例えば、特別支援学校の教師が小・中学校等を訪問して助言を行ったり、障害種別の専門性や施設・設備の活用等について伝えたりすることなども考えられます。

2.特別支援学校のセンター的機能の現状

文部科学省では、特別支援学校のセンター的機能の取組に関する状況調査を実施しています。平成29年度の調査結果では、国公私立の特別支援学校の9割以上が小中学校等の教員からの相談や自校に在籍する子供以外の子供及び保護者からの相談に対応していました。同年度の相談延べ件数は、小・中学校等の教員からの相談が131,870件、子供及び保護者からの相談が113,146件です。取組内容の割合については、図1に示しました。

図1 特別支援学校のセンター的機能の取組内容
図1 特別支援学校のセンター的機能の取組内容拡大図・テキスト
(「特別支援教育資料(平成30年度)」令和元年6月.文部科学省初等中等教育局特別支援教育課)

取組の具体例としては、次のような取組が報告されており、それぞれの地域において学校、福祉、医療、労働など関係機関等と連携を取りながら実施されています。

○小・中学校等の教員への支援、障害のある子供への指導・支援等

  • 域内の幼稚園、小学校、中学校及び高等学校等の教職員を対象とした研修・相談を実施
  • 域内の教職員及び福祉関係職員を対象とした勉強会を毎月開催
  • 域内の小学校及び中学校において、障害者理解のための授業を実施
  • 高等学校における通級による指導を支援
  • 巡回相談の実施
  • 支援機器、教材・教具の貸出し

○福祉、医療、労働などの関係機関等との連絡・調整等

  • 支援の必要な幼児子供に対するケース会議を関係機関と開催
  • 地域の関係者を対象とした研修会を実施
  • 福祉、医療等の関係機関との連絡協議会を開催
  • 教育事務所、特別支援教育センターと連携した地域支援体制を整備
  • 地域の特別支援教育コーディネーターの連絡会を設置し、各学校における支援状況等の情報共有、研修を実施

○特別支援教育等に関する相談・情報提供等

  • 就学前の幼児の教育相談を実施
  • 教育相談の案内を教育委員会、福祉、医療等の関係機関、保護者に配布

3.今後に向けて

令和3年1月にまとめられた「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議」の報告では、特別支援学校のセンター的機能の強化について次のように記載されています。

○連続性のある多様な学びの場の整備が進む中で、特別支援学校のセンター的機能を強化していく必要があり、学校間や教育委員会等との連絡調整を担う特別支援教育コーディネーターの役割を明確にしていく必要がある。また、幼児教育段階、高等学校教育段階における特別支援教育を推進するためのセンター的機能の充実に資するような教員配置や設置者を超えた学校間の連携を促進するための体制の在り方についても検討していく必要がある。

○視覚障害や聴覚障害等に係る特別支援学校が都道府県内に1校しかない場合があり、専門性の高い教師も限られている。弱視や難聴をはじめ障害のある児童生徒は小学校等にも在籍しており、こうした児童生徒が専門性の高い指導を受けられるよう、小学校等に在籍する児童生徒が、在籍する小学校等の教師が同席する中で、特別支援学校の教師のICTを活用した遠隔からの専門的指導を受けたり、小学校等の教師が特別支援学校の教師の助言を受けたりする機会を充実させることが必要である。このため、小学校等に対する特別支援学校の支援体制を充実させることが必要である。

こうした機会を充実させるためには、小中学校に在籍する障害のある児童生徒が特別支援学校に副次的な籍を置く取組も有意義である。

特別支援学校が、地域における特別支援教育のセンターとしての役割を果たしていくためには、各学校において、教師同士の連携協力はもとより、校務分掌や校内組織を工夫するなどして、校内体制を整備し、学校として組織的に取り組むことが必要です。また、地域の小・中学校等に在籍する障害のある子供の実態は多様であることから、他の特別支援学校や小・中学校等との連携の下、それぞれの学校の有する専門性を生かした指導や支援を進めていくことが重要です。

今後、特別支援学校の高い専門性を生かしながら地域の小・中学校等と共に子供の教育的ニーズに応じた教育が提供されるよう、その体制の充実が求められています。

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