肢体不自由特別支援学校におけるセンター的機能

「新ノーマライゼーション」2021年4月号

東京都立志村学園 統括校長(全国特別支援学校肢体不自由教育校長会 会長)
諏訪肇(すわはじめ)

1.はじめに

肢体不自由特別支援学校(以下「肢体不自由校」と表記)には小学部から高等部まで幅広い年齢の児童生徒が在籍しており、元気に一人で通学してくる児童生徒もいれば高度な在宅医療のため訪問教育を受けている児童生徒もいるなど、その実態はさまざまです。また、肢体不自由校には、病弱や知的障害の部門を併置した学校も多くあります。センター的機能においても、この点を前提としてご理解いただければと思います。

2.医療的ケアに関する支援

肢体不自由校には、早くから医療的ケアを必要とする児童生徒が在籍していました。また近年、在宅医療の進展から人工呼吸器管理など新たな課題と向き合っています。

まず、学校における医療的ケアについてご説明します(図1参照)。医行為のうち、学校で実施可能な医療的ケアがあり、吸引や経管栄養など教員や介護職員が「社会福祉士及び介護福祉士法」に基づく研修を受けて可能になる「特定行為」と、人工呼吸器管理など医師の指導のもと学校看護師が実施する特定行為以外の医療的ケアがあります。この医療的ケアを必要とする児童生徒の対応は、以前は肢体不自由校中心だったのですが、現在は小中学校や高校、それに他の障害種別の特別支援学校においても実施されています。そのため、肢体不自由校には今まで積み重ねてきた医療的ケアの実績を活かしたセンター的機能が求められています。事例1~3として、1.人工呼吸器ユーザーの生徒が通う高校への支援事例2.気管切開をしている児童の通う知的障害特別支援学校への支援事例3.医療的ケア児とその保護者の居場所づくりの事業への支援事例についてご紹介します。

図1 学校における医療的ケア
図1 学校における医療的ケア拡大図・テキスト

【事例1】人工呼吸器ユーザーの生徒が通う高校への支援

東京都立水元小合学園(統括校長 篠崎友誉先生より)

本校では、医療的ケアが必要な生徒(人工呼吸器ユーザー)が入学した都立高校に対して、当該校の医療的ケアの組織の立ち上げから、ケア実施までの支援・助言を行っています。年度初めに高校の副校長・担任・コーディネーターと本校のコーディネーター及び看護師が会し、医療的ケア実施に向けて、高校が必要とする支援と本校が提供できる情報や資源の確認を行いました。東京都の「人工呼吸器による医療的ケアを必要とする子供の安全な学校生活のためのガイドライン」の確認から日常の健康観察まで、多岐にわたる内容でした。その後、医療的ケアの実施に必要な物品の予算請求の情報提供や、養護教諭が本校に来校しての研修等を実施しました。また、医療的ケアを必要とする生徒の宿泊行事参加のための実地踏査チェックリストも提供しました。医療的ケアの本格実施に向けて、医療面や健康面で配慮が必要な生徒の学習支援に関して、高校の求めに応じていつでも支援ができる体制を整えています。

【事例2】気管切開をしている児童の通う知的障害特別支援学校への支援

東京都立志村学園(筆者)

本校では、地域の知的障害特別支援学校(小中設置)に対し支援を行っています。当該校小学部に2名の医療的ケア児(気管切開・胃瘻(いろう)からの経管栄養)が入学することとなり、1.副校長・養護教諭・非常勤看護師の本校で実施する医療的ケアの見学2.医療的ケアに関するマニュアルの確認3.検診や指示書など書類準備の支援4.医療的ケアの研修会5.医療的ケア実施時の指導・助言などを行いました。

【事例3】医療的ケア児とその保護者の居場所づくりの事業への支援

京都市立呉竹支援学校(校長 平元良子先生より)

本校では、医療的ケア児とその保護者の居場所づくりをしている事業への支援を行いました。具体的には、「就学後の学校生活について」をテーマとする研修と、個別の相談を受けるという支援です。計3回実施したこの活動には、医療的ケア児の保護者だけではなく、広く就学前の子どもがいる保護者が関心を示し、特に個別の相談では多くの保護者から悩みを打ち明けられました。そこで実感したことは、我が子の育ちに発達上の悩みを抱えながら、どこにも相談できず困っている保護者が少なくないということです。発達に課題のある子どもの人生を豊かにするためには、保護者の支援が欠かせません。センター的機能には、本来、そうした保護者に対する身近な相談場所としての役割もあるべきだと再認識した活動でした。

3.小学校・中学校・高校への支援

小中学校への支援は、期待されるセンター的機能の中心です。本校でも「麻痺があるために鉛筆やコンパスが上手く使えない」「発達検査の結果、長期記憶や処理速度に困難があるとわかったが、授業でどうすればよいのか」などの小中学校の教員からの相談を受けています。また「合理的配慮」についての説明や、高校への支援なども増えています。事例4・5として、4.広い地域を学区域とする学校の支援事例5.高校への支援事例についてご紹介します。

【事例4】広い地域を学区域とする学校の支援

北海道白糠養護学校(校長 仲條正輝先生より)

本校は、北海道の東部、白糠町に位置し、白糠学園という施設に併設されている肢体不自由校です。北海道東部で唯一の肢体不自由校で、支援地域は150km以上離れた根室市まで及びます。本校の特徴的な支援を2点ご紹介します。一つは『パートナー・ティーチャー派遣事業』として、特別支援教育に必要な助言又は援助を行うために、年間3回まで幼小中高の学校に訪問しています。肢体不自由の特別支援学級への支援が中心ですが、地域の特殊性もあり、障害種別を超えた支援を行っています。支援は一日がかりになることが多く、訪問時間が限られてしまうので、事前に訪問先の状況や情報を集めるなど、訪問先の協力も得ながら支援を行っています。

もう一つは、年2回、地域の学校のコーディネーターや保育園・幼稚園の職員、保健師、行政の方が本校に集まり、研修や事例の交流などを行っています。昨年度は、『気になるお子さんの支援を考える~体・手先の動きの視点から~』として、はさみを上手に使うことが難しいお子さんが、どのような状態ではさみを使っているのかを疑似体験していただきました。本校の自立活動教諭から、毎日少しの時間でも経験を積むことができる環境づくりや支援、ご家族の協力を育ちにつなげていくことが大切との話がありました(写真参照)。
※掲載者注:著作権等の関係で写真はウェブには掲載しておりません。

【事例5】高校への支援

大阪府立平野支援学校(校長 春井勝先生より)

今年本校に、府立高校から「支援を要する生徒へのアプローチを学年で共通認識するために、個別の教育支援計画を立てなければならない。具体的にどのようにすればよいか?」との相談を受け、当該学年の先生方へ研修を行うことになりました。ニーズに添った研修にするために、当該の生徒に対応している学習支援員の方々から直接話を聞き取り、研修資料は具体的な対応手順を簡潔に示すことに支援の重点を置きました。それらをもとに研修を進めたことで、具体的な生徒の様子を身近に感じ、計画を立てる上での素直な疑問点を引き出せ、支援内容がより深まりました。今回の支援を通して、進路先が多岐にわたる高校において、適切で必要な支援を考えることは、支援を要する生徒自身の将来の選択肢を広げることにもなると実感しました。

4.おわりに

肢体不自由校では、今後どの学校でも広まっていくと考えられる医療的ケアへの支援など、新たな課題に対応したセンター的機能を発揮していきたいと考えています。

menu