体を動かすことによる健康づくり~横浜市における取り組み~

「新ノーマライゼーション」2021年7月号

障害者スポーツ文化センターラポール上大岡
熊谷俊介(くまがいしゅんすけ)

1.はじめに

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催決定を契機として、障害者スポーツに対する社会の関心が高まっています。ところで、我が国は65歳以上が総人口の28.4%と、国際的に最も高い高齢化率を示す超高齢社会です1)。障害者の高齢化率はさらに高く、特に身体障害者は65歳以上人口が72.6%となっています2)

このような背景から、オリンピック・パラリンピックを頂点とした競技性の高いスポーツだけでなく、健康づくりを目的としたスポーツ活動への関心が高まっています。スポーツ庁が行った「スポーツの実施状況等に関する世論調査」3)では、この1年間に運動やスポーツを実施した理由は、健康のためと回答した方が75.2%と最も多くなっています。

一方で、我が国では喫煙と高血圧に次いで、運動不足が原因で毎年約5万人が亡くなっていると報告されており4)、運動不足の解消は健康寿命の延伸に向けた重要な課題です。また、障害者の場合は、疾病や事故等の後遺症により心身機能が低下し、身体活動の制限を受けやすいため、慢性的に不活動な生活となりやすい傾向があります。不活動な生活は、肥満や痩せ(筋力低下等)の原因となるため、障害者にとって活動的な生活を送ることは、健康づくりを実践するためには必要不可欠です。

そこで本稿では、横浜市での取り組みや具体的な実践内容を紹介し、そこから見えてきた今後の課題について述べます。

2.これまでの横浜市における取り組み

横浜市では、1992年に開所した障害者スポーツ文化センター横浜ラポール(以下、横浜ラポール)が市域の中核拠点として、障害者のスポーツ・レクリエーション・文化活動を通じた健康づくりや社会参加の促進を図っています。その特徴は、隣接する横浜市総合リハビリテーションセンターと連携した医療や福祉、工学等の専門職のチームアプローチにより、リハビリテーションの早期からスポーツの導入を行っていることです。

また、地域生活へ移行した後も生涯にわたってスポーツ活動を継続できるように、各地域へスポーツ指導員を派遣し、現地での指導や関係機関への技術的な援助を通して、障害者が住み慣れた地域でスポーツ活動を継続するための環境整備も行っています。

そして、2020年に横浜市の南部方面拠点として、新たに障害者スポーツ文化センターラポール上大岡(以下、ラポール上大岡)が開所しました。ラポール上大岡は、横浜ラポールに比較すると小規模な施設ですが、横浜市の副都心としての役割を担う上大岡駅に直結しており、障害者にとってアクセスしやすい利便性があります。これまでの横浜ラポールの取り組みで培ったノウハウを活かしながら、障害者の健康づくりに重点を置いた事業を展開しています。

3.ラポール上大岡における健康づくりの実践内容

(1)プログラムの概要

ラポール上大岡では、障害者が自立して健康づくりや体力づくりを行えるように、運動・栄養・生活を総合的に支援する健康増進プログラムを行っています。プログラムの概要を図1に示します。

図1 プログラムの概要
図1 プログラムの概要拡大図・テキスト

はじめに、会員登録・相談を行い、ソーシャルワーカーや看護師が関係機関と情報共有のうえ、リハビリテーションの経過や障害福祉サービスの利用状況、健康状態や服薬状況等の安心・安全にプログラムに参加していただくために必要な情報を確認します。

次に、身長、体重、腹囲等の身体計測、筋肉量や体脂肪量等の体組成測定、体力測定等の結果を踏まえて、スポーツ指導員が個々の障害状況や体力水準、支援目的に応じたトレーニングメニューの作成と指導を行います。また、管理栄養士が本人や家族に対して栄養相談を行い、生活状況を踏まえたうえで食事改善の助言を行います。このように各専門職が連携することで、健康づくりに関する包括的な支援を提供しています。

(2)実践例とその効果

実際に、プログラム参加によって得られた効果を紹介します。対象は、減量を目的に参加した27名で、障害状況は、脳血管疾患や心疾患、骨関節疾患等による身体障害者、知的障害者、統合失調症や気分障害等による精神障害者等でした(表1)。対象に、約3~6か月間、週2回、約90分のトレーニング指導を実施し(表2)、参加前後の体重、BMI、体脂肪率、腹囲の変化について、統計学的な検討を行いました。その結果、すべての肥満指標の項目に有意な改善を示しました(図2)。

表1 対象者の属性(n = 27)
表1 対象者の属性(n = 27)拡大図・テキスト

表2 トレーニングメニューの例
表2 トレーニングメニューの例拡大図・テキスト

図2 肥満指標の変化
図2 肥満指標の変化拡大図・テキスト
*P<.05 **P<.01

4.今後の課題について

このように適度な運動やバランスの取れた食生活の実践は、障害者の健康づくりに効果があることがわかりました。しかし、これらの実践を生活に根付かせるためには、いくつか課題があります。令和元年度横浜市民スポーツ意識調査報告書5)によると、障害者のスポーツの実施理由は「健康・体力の維持増進」が66.9%と最も高いにもかかわらず、「週に1日以上」の実施率は36.7%で、横浜市スポーツ推進計画が定める目標値の40%には及ばず、実施状況は十分ではありませんでした。

また、横浜市における令和元年度の障害者数6)は、身体障害者99,732人、知的障害者32,281人、精神障害者39,232人と合計で約17万人ですが、このすべての方に横浜ラポールとラポール上大岡で対応することは不可能です。そこで、今後の取り組みとしては、障害者のスポーツ活動を支える人材の養成と活用が鍵になります。横浜市域のスポーツ振興の中核を担う横浜市スポーツ協会や加盟する競技団体等と連携・協力のうえ、指導者やボランティア等の人材と実際に活動を運営する側とのマッチングを図る調整役としての役割が重要です。

5.おわりに

横浜市におけるこれまでの取り組みや具体的なプログラムの実践内容、今後の課題について述べてきました。障害者の健康づくりを実践するにあたって、各自治体の抱える課題や状況はさまざまです。しかしながら、各施設の単一的な支援だけでなく、関係機関と適切に役割を分担し、障害者の生活全体を捉えた包括的な支援が重要であることは共通しています。

各施設の資源は限られていますが、多機関が連携・協力することで解決できる課題も少なくありません。まずは、対象の方に寄り添い、その方の生活において何が必要か現状を知ることが健康づくりの第一歩であると思います。


【参考文献】

1)令和2年版高齢社会白書(全体版)(PDF版) - 内閣府 (cao.go.jp)
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2020/zenbun/pdf/1s1s_01.pdf(参照2021-06-04)

2)令和元年版障害者白書 全文(PDF版) - 内閣府 (cao.go.jp)
https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/r01hakusho/zenbun/pdf/ref2.pdf(参照2021-06-04)

3)令和元年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」(mext.go.jp)
https://www.mext.go.jp/sports/content/20200225-spt_kensport01-000005136-1.pdf(参照2021-06-04)

4)池田奈由,他:なぜ日本国民は健康なのか. 『ランセット』日本特集号:国民皆保険達成から50年.2011年.p.29-43.

5)公益財団法人横浜市スポーツ協会:令和元年度横浜市民スポーツ意識調査報告書(yspc.or.jp)
https://www3.yspc.or.jp/koho/chosa-r1.html(参照2021-06-10)

6)横浜市統計書 第14章 社会福祉 横浜市(yokohama.lg.jp)
https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/yokohamashi/tokei-chosa/portal/tokeisho/14.html(参照2021-06-10)

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