障害のある人たちのテレワーク―その現在地で思うこと

「新ノーマライゼーション」2021年9月号

社会福祉法人東京コロニー職能開発室 所長
堀込真理子(ほりごめまりこ)

新型コロナウイルスが現れた2020年の年明け以降、その感染を避けるため、誰しもが突然に「通勤困難者」や「通学困難者」となりました。この間、回避策としてのテレワークが一般化し、多くの事業所で今も在宅勤務が推奨されています。急速に進化したリモート技術や遠隔サービスは、結果として障害のある人が感じてきた不便さや働きにくさの多くを解消しました。われわれ支援側の長きにわたる環境調整力や合理性の不足を、ある意味、一般社会の利便性の共有があぶり出したような、そんな感じもしています。テレワークが特定の人のものでない時代になったからこそ、あえて障害のある方に特化したその概要を現在地から振り返っておきたいと思います。

1.テレワークは手法-本質は個別の環境調整

筆者の所属法人は、重度障害のある方の在宅就労を前提としたコンピューター教育等に30年以上携わっております。90年代前半までは、難関の情報処理の国家資格を取得しても在宅雇用の扉はなかなか開きませんでした。しかし、90年代半ばになると、在宅勤務で雇用保険に加入する際の要件や雇用率の適用が明確になったこともあり、インターネットの普及に後押しされて、場所にとらわれない雇用事例が特例子会社などを中心に少しずつ生まれます。

一方で、請負いで働く人たちを支援する「障害者在宅就業支援事業」が制度化された2000年半ばには、作業量や作業時間に縛られない、さらに柔軟な就労を目指すフリーランスという働き方もクローズアップされるようになりました(図1)。そしてそこから約10年後、障害者総合支援法の就労継続支援事業(A型、B型)においても在宅での利用が制度化されます。十分ではないにせよ、全国レベルで、福祉サービス系の就労もリモートでできることとなったのです。コロナ禍にはこの制度の柔軟な運用で、多くの方の通所利用を在宅利用に切り替えることができ、感染リスク防止に一役買いました。

図1 在宅就業支援制度
図1 在宅就業支援制度拡大図・テキスト

こうした流れを受けてわかることは、“テレワークは、ICTの技術を活用して柔軟に働くための「手法」の1つ” だということです。障害のある人にとってテレワークの本質は個別の環境調整であり、雇用や請負い、福祉サービス系の就労など働く形はさまざまであっても、必要な人が必要な時に必要なだけこの手法を使えることが大切です。強制されてやるようなものでもありません。

2.障害の特性とテレワーク

わが国の障害者就労において、テレワークは実に1980年代から研究や実践の蓄積があります。牽引したのは重度の身体障害のある人たちでした。そうした方々の就労を阻害する要因の大半が「移動」や「トイレ」「食事」の自立でしたので、筆者の法人でも1981年に情報処理センターを設立すると、頸椎損傷や重い脳性麻痺のある従業員たちの事情に合わせて自宅でのパソコン作業を可能にしました。このような動きはやがて全国に広まり、在宅就労のノウハウに併せて、作業効率を左右するパソコンの支援機器やその適合技術も就労支援の要となっていきます。昨今は、福祉や医療のサービスを終日利用する全身性の障害の方にもテレワークで働くケースが出てきています。こうしたことが、テレワークロボットなど新たなツールの活用を促進するとともに(図2)、就労中の介護費用を自治体と事業所が連携して負担するなど「福祉と労働の連携施策」にもつながっています。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図2はウェブには掲載しておりません。

一方で、身体に障害はないけれど、通勤や集団行動、他人との関係性等に何らかの苦しさを覚える人などにも、テレワーク希望者や実践者が増加しています。精神障害、発達障害の方の中には一般的な働き方やルールになじめない方もおられますが、その特性を特定の業務に最大限に発揮できるよう工夫を凝らした就労の形がここ数年増えてきています。これまでの就労訓練は、たとえ自宅での単独作業であっても、周囲の人や社会ルールと結び合わせて育成する方法を取っていました。しかし、必ずしもそこからスタートしなくとも得意な作業をこなすことを優先し、そのやりとりの中でコミュニケーション基盤を理解していく実践なども始まっています。ひきこもり状態の方が、自宅を出てシェアハウスで在宅就労にトライするダイナミックな支援事例もあり、テレワークという手法が、障害特性をカバーしたり活かしたりしながら、さまざまな方の挑戦を後押ししています。

3.コロナ禍とテレワーク

前章で障害特性に触れましたが、コロナ禍に筆者にいただいたテレワーク相談の中で最も差し迫っていたのは、知的障害のある社員様のケースでした。それまでICTの作業をしていなかった方々、例えばメール便の仕分けや清掃などに携わっていた人たちがやむを得ず在宅就労するケースです。事業主はそういった方のICTリテラシー向上の検討から始め、慣れないオンライン会議やWebベースの研修をどう効率よく行うか、手探りの実践でした。試行の中では、会議の録画に字幕を入れるツールや、Webサイトにルビ振りや書き下しができるサービスなど新しいデジタル技術が注目されましたが、一方で、カメラに手書きの絵や文字を見せるための手持ちホワイトボードなどアナログなツールも意外に効果がありました。

対面労働のほうが効率が良い方やモチベーションが保てる方は、コロナ禍が終われば従来の働き方に舵を戻すことでしょう。だとしても、知的障害の方のICT活用への配慮や試行は間違いなく今後も役立ちます。コロナ前にあまり例がなかったのは、可能性に線を引いていた傾向もあったかもしれません。令和2年度の就労支援事業所対象の調査に、在宅就労の形態で雇用となった人の数を前年度と比較するものがありました(表1※注)。ここからは、就労移行支援事業や就労継続支援事業において、明らかにコロナ禍以降在宅雇用が増加したことがわかります。緊急事態下ゆえ準備不足や拙速な事例も見られましたが、同時に、緊急事態下だったからこそテレワークが新しい可能性を拓いた事例も少なくありません。

表1 令和元年及び令和2年各月の一般就労移行者のうち在宅就労で雇用された者の総計

  1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月
令和元年 7 8 6 16 9 13 11 8 78
令和2年 9 9 26 38 13 21 23 24 163
対前年増減 28.6% 12.5% 333.3% 137.5% 44.4% 61.5% 109.1% 200.0% 109.0%

4.終わりに

昨今「多様な働き方」という言葉が頻繁に使われ、テレワークがその象徴として挙げられます。冒頭に申しましたが、テレワークは手法の1つなので、この手法を用いて雇用を目指すケースもあれば、非雇用の自営やフリーランス、短時間の在宅パート・アルバイトなどの選択肢もあるでしょう。その選択は本人の働く目的や働く意義が決定づけます。これこそが多様でなくてはならず、テレワークはそれを実現させるための助っ人です。

テクノロジーがもたらす社会の変容は、障害のある方の働き方をこれからも大きく変えていきます。テレワークは効率一辺倒のための手法になるのではなく、働く普遍的な喜びをすべての人が感じられるよう、常に自由で身近なものであってほしいと思います。同時に、交通機関での通勤や移動が容易になるための社会のたゆまぬ努力がもう一つの車輪であることは言うまでもありません。


※注
令和2年度厚生労働省障害者総合福祉推進事業「障害者の多様な働き方と支援の実態に関する調査研究」
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/trackrecord/assets/pdf/the-diversity-of-disabilitiesreport.pdf

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