全国の通勤が困難な障がいのある人にも、働く機会を

「新ノーマライゼーション」2021年9月号

三菱商事太陽株式会社ワークサポート室
日元麻衣子(ひのもとまいこ)

はじめに

三菱商事太陽(株)は(社福)太陽の家と三菱商事(株)の共同出資にて、1983年に大分県別府市に設立されたIT企業であり、三菱商事(株)の特例子会社です。(社福)太陽の家を設立した故中村裕博士の「保護より機会を!」「世に身心(しんしん)障害者はあっても仕事に障害はあり得ない」という理念に三菱商事(株)が賛同し同法人への支援を決めたことが設立のきっかけとなりました。設立当初は親会社のシステム開発がメインであった業務内容も会社の発展とともに拡大し、現在ではネットワーク構築・運用、各種アウトソース業務等多種多様な業務を行っています。

在宅勤務の取り組みについて

弊社の在宅勤務の取り組みは2014年10月、データ入力業務において2名の重度の身体障がいがある社員を採用したことから始まりました。以後在宅勤務社員の雇用を拡大しながら、より働きやすい就労環境整備のため遠隔での就労サポート体制の構築、ウェブシステムによる勤務時間や作業の管理など、ノウハウを蓄積してきました。

また、近年地元でのシステムエンジニア(以下、SEという)の採用が思うように進まなくなったことを受け、2018年には全国の在宅勤務希望の障がいのある人を対象とした、「在宅SE養成事業」を実施しました。在宅でSEとして必要なスキルを身に付けられるよう、(株)エヌ・ティ・ティ・データ・イントラマートのe-learningプログラムを在宅勤務希望者に提供し、課題を修了した人を採用につなげました。2018年8月から3期に分けて実施した研修には全国から応募があり、28名の履修者のうち13名が入社いたしました。現在も10名が在籍し、全国各地より日々オンラインで接続しながら共に働いています。

2021年6月1日現在、障がいのある在宅勤務社員は15名(身体障がい8名、精神障がい7名)、総務・管理部に1名、アウトソーシング部に5名、開発部に9名在籍しています。時短勤務の社員が多く契約社員ですが、今年度よりフルタイムで働く社員2名は正社員になりました。また、障がいの進行により通勤困難となった社員も、在宅勤務に切り替えることにより就労を継続することができています。

オフィス勤務社員と在宅勤務社員のコミュニケーション不足は常に起きる課題です。解消する手段としてはビデオチャット常時接続や、毎日朝会を開催する等、積極的にコミュニケーションをとる場を設定しています。会社全体としては、本社・東京事務所・在宅勤務社員全員で、毎月オンライン昼礼なども行っています。コロナ前は、全従業員が集まる職場イベントや旅行を開催していましたが、昨年度はオンラインクイズ大会を開催。移動が困難な在宅勤務社員も同じように参加できるイベントとして大好評でした。打ち上げもオンライン飲み会が開催され、大いに盛り上がりました。

在宅勤務社員として働く人の声

総務・管理部業務チームに所属する田中崇さんは、東京コロニーの主催するIT技術者在宅養成講座の卒業生です。在宅SE養成事業を経て2019年9月に入社しました。

障がいは脳性小児麻痺による四肢体幹機能障害で、移動は電動車いすです。重度の障がい故に通勤やオフィスで働くことは非常に難しい方です。PC操作は座椅子に座り足でトラックボールマウスとキーボードを動かしながら行います。口で話すことができないため、対面のコミュニケーションは文字盤を足指さしで行いますが、私自身PC上チャットは会話が弾み、田中さんが口で話されないことを忘れてしまいます。勤務形態は週5日9時から16時30分までの勤務です。弊社は柔軟な勤務時間の設定が可能ですので、お昼は1時間30分休憩を取得しその間にヘルパーを利用されています。担当業務はPCの設定など社内インフラの整備です。得意分野を活かし日々活躍しています。

「養護学校の高等部を卒業し、通所施設に通う傍らほぼ独学でプログラミングとPCのスキルを身に付け、長い間フリーランスでプログラミングの仕事をしてきました。縁あって採用され、業務チームでお世話になっております。在宅勤務は一見孤独にみえますが、ネットワーク越しに同僚や上司がいるので孤独さは全く感じません。足での操作のためオンタイムの会話は遅くなりがちですが、チャットの文章を全部入力しないで、予測変換をフル活用して候補を選ぶことでより速く返信できます。また、込み入った内容の時は、誤送信防止のため、チャット画面に直接打たずエディタに書いてそれをコピペしています。チーム会にも参加し、あらかじめ伝えたい内容を送っておくようにしています。これまで身に付けたスキルをフルに活用し、さらにスキルを磨いて、定年まで働けるよう頑張ります。」(田中崇さんコメント)

ワークサポート室の役割

私が所属するワークサポート室は、在宅勤務社員だけでなく、「定年まで働き続けられる会社」を目標に、全従業員の働く上でのさまざまな支援を行っています。室長の他、精神保健福祉士3名とジョブコーチ1名で構成されています。

在宅勤務社員の採用にあたっては、室員が自宅を訪問し、本人や家族と顔を合わせて面談し、また現地での支援機関や医療機関とも情報交換を行っています。また、働く上での環境整備や体調管理の支援も行います。例えば身体障がいのある方へは地域の理学療法士と連携しながら、手の可動域に合わせたノートPCのデスクスタンドを購入し角度の調整することを提案しました。また、体調管理が整っていない方には、入社前からセルフチェックシート等に気分や睡眠時間をつけてもらいながら、体調管理のアドバイスも行っています。

入社後は室員から週に1回チャットで話しかけ、3か月から1か月に1回面談を実施するように心がけています。その中で、上長や一緒に働く同僚たちに共有した方が良いことは代理で伝えたり、一緒に伝える場面を設定したりと橋渡し役を行います。

図1 在宅勤務職員の支援体制
図1 在宅勤務職員の支援体制拡大図・テキスト

最後に

在宅勤務は障がいのある人、企業双方にさまざまなメリットがあります。現在のように新型コロナウイルスの感染拡大が続いている中では、感染リスクの高い人は、リスクを懸念することなく業務に従事できます。車いすや杖を利用している人、視覚障がいのある人等は、移動および通勤によるストレスも軽減されます。また、日常的に福祉サービス(ヘルパー等)を利用している人は、休憩時間や勤務時間を調整することでサービスを利用しながら勤務することができます。

精神障がいや発達障がいのある人であれば、「対人関係のストレス」「聴覚過敏」「口頭によるコミュニケーションの取りづらさ」等がよく課題として上がりますが、在宅勤務であればそれらの多くが解消されます。企業側もオフィスやトイレなど、バリアフリーや静かな環境を整備する必要性がないというメリットもあります。また、採用ターゲットを全国に拡大することで、弊社の要件に合致する人材確保の可能性が高まります。

私自身、東京事務所にもともと出社していましたが、感染症対策の一環で、現在週に3回から4回は在宅勤務を利用しています。子育て中である私にとっても在宅勤務は通勤時間を有効に使うことができ、とても働きやすくなりました。在宅勤務は、障がいのある人にも健常者にもメリットがある制度だと思います。より多くの企業が導入し、より働きやすい環境が整うことを願います。

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