福祉制度を利用した重度障がい者の在宅就労の取り組み

「新ノーマライゼーション」2021年9月号

株式会社沖ワークウェル 代表取締役社長
堀口明子(ほりぐちあきこ)

1.はじめに

コロナ禍で在宅勤務が働き方の一つとして定着しつつあります。沖ワークウェル(以下、OKIワークウェル)は2004年の設立当初より、通勤が困難な重度障がいのある人の在宅就労に取り組んできました。現在、“会社に行かない”社員は59名を数えます。

2.OKIワークウェル概要

沖電気工業株式会社(以下、OKI)の特例子会社であるOKIワークウェルには87名の社員がいます。そのうち77名に障がいがあり、大半が重度の障がい者です。大きな特徴は通勤だけでなく、OKIの得意な情報通信技術を活用して在宅勤務をしている社員がいることです。

在宅勤務の良さは外出の準備がいらないこと、また、通勤による体力消耗やストレスがなく仕事に集中できることです。さらに自分に合った環境にいることで、何があっても大丈夫という精神的な安心感が得られます。OKIワークウェルでは会社設立時に10名だった在宅勤務者が、今は59名になりました。勤務地も最初は東京都のみでしたが、今では北海道から鹿児島まで全国22の都道府県に広がっています。

3.在宅勤務者の働き方

在宅勤務者はホームページ制作、システム開発、似顔絵・ポスター・名刺などのデザイン、データの入力・加工、委託訓練等の教育支援業務を担当しています。体調を崩したメンバーが出てもお互いにカバーできるように仕事はチームで行っています。勤務時間は一日6時間、週30時間が基本です。障がいの程度に応じて食事や休憩、介護に必要な時間がそれぞれ異なるため、ヘルパーの訪問や通院予定により勤務時間を8時から20時15分の間で柔軟に設定できるようにしています。また、日によって勤務時間を変更できます。

仕事の開始時は、自社開発のバーチャルオフィスシステム「ワークウェルコミュニケータ®」を立ち上げます。最大100名が会議をすることができ、オフィスに相当する「共用」ボタンを押すと、社員の挨拶や呼び声が聞こえてきます。仕事に集中あるいはトイレなどで離席する時は「一時退席する」ボタンを押します。本システムでは始終、誰かの声が聞こえ、また、いつでも気軽に呼び出せるため、あたかも同じ職場で働いているような雰囲気で仕事ができ、孤独感や疎外感を軽減しています。

4.福祉制度を利用して働く社員

ALSや筋ジストロフィーなどの病気で24時間介助や見守りが必要な人は、長時間ヘルパーを派遣してもらえる公的な障害福祉制度「重度訪問介護」を利用しています。「重度訪問介護」は、これまで通勤、営業活動等の経済活動に係る外出など、報酬が発生する仕事中や通勤・通学、学業などでは使えなかったため、就労中の介助利用は認められていませんでした。しかし、令和2年10月から雇用施策との連携による重度障害者等就労支援特別事業が地域生活支援事業のメニューの一つとして開始され、実施する地方自治体が増えてきており、OKIワークウェルの在宅勤務社員も利用しています。

(1)重度訪問介護サービスを利用して働く社員

さいたま市に在住する薄田玲奈さんはその一人です。薄田さんはウルリッヒ病という筋ジストロフィーの一つに分類される病気で歩くことができず、電動車椅子に乗り、人工呼吸器を24時間装着しています。10歳の時に親元を離れ、専門医のいる埼玉県の病院に入院しながら特別支援学校に通いました。高校卒業後は自分が本当にやりたい夢がなかなか見つからず、病院でなんとなく過ごしていましたが、20歳後半になり一念発起し、退院に向けて動き始めました。

難病を抱える薄田さんが一人暮らしをするには24時間の介助が必要です。そのため、薄田さんは退院準備に1年をかけ、埼玉県の中でも障がい者への制度が充実しているさいたま市に住むことを決めました。また同時に就職活動を始めましたが、障がい者の雇用条件が出社を前提とするものが多く、就労中の介助をつけられないこともあり、苦戦しました。そのような中、就労移行支援事業所でeラーニングによりパソコンを学び、その担当者より在宅勤務が可能なOKIワークウェルを紹介され、それが縁となり、2020年に入社しました。さいたま市重度障害者の就労支援事業の対象要件である「市内に在住して1年以上」を満たし、審査を経て就労中の重度訪問介護サービス利用を始めました。

薄田さんはデータ入力や集計、加工などの業務を担当していますが、自宅で仕事をしているとはいえ、24時間介助がなければ一人で仕事をすることは不安だそうです。突然トイレに行きたくなったら我慢しなければいけないのか、もし緊急事態が起きた場合はどう対処したらよいのかを考えると、仕事に集中できないと言います。幸い、薄田さんはさいたま市で公的支援を受けることができ、安心して働いています。20年間入院生活をしていましたが、今は自分で働いたお金で外出し、ショッピングやおいしいものを食べるといった生活を楽しんでいます。

(2)地域生活支援事業所内で働く社員

2016年に入社した和田直哉さんは鹿児島市に在住し、自立支援給付である生活介護と地域生活支援事業である日中一時支援を利用しています。和田さんは生後10か月で脊髄性筋萎縮症(SMA)の診断を受けました。座位や立位がとれず、歩行も難しいため、食事、排泄、移動等の介助が必要です。また、嚥下や呼吸器の障害による医療的ケアも欠かせないため、複数人による支援や見守りが受けられ、看護師が常駐する生活介護施設へ通所しています。

和田さんは中学3年の時に、進路指導の先生から地元鹿児島で在宅勤務をしているOKIワークウェルの社員がいることを聞き、実際の働き方について話を聞く機会を得ました。その時、将来はホームページ作成やデザインの仕事に就き「人を魅了させるものをパソコンで作りたい」との夢を持ったそうです。高校2年生でOKIワークウェルの遠隔職場実習を受け、その達成感と成長を実感し、「ここに就職して自分の力を活かし、社会に貢献したい」と、強く思うようになりました。

しかし、日常生活の介護や医療的ケアに加えて入浴支援も受けられる生活介護施設へ通所している和田さんにとって、そのサービスを受けながら就労を実現するには、施設と制度の両方の課題を解決する必要がありました。和田さんは家族とともに粘り強く関係者に働きかけ、自立と社会参加への強い思いを訴え、自ら道を開きました。

現在、和田さんはホームページ制作の現場で活躍しています。自分が制作したWebサイトがインターネットの世界に公開される時の達成感は大きいと言います。そして何より、納税することで、社会を支える立場の一人になったと実感しているそうです。なお、和田さんは2020年12月1日に鹿児島市から「かごしま市チャレンジド大賞(産業就労部門)」を授与されました。

5.おわりに

就労中に公的な生活介護サービスを受けることは、重度障がいのある人の就労機会を増やすことにつながります。今後、雇用施策との連携による重度障害者等就労支援特別事業を実施する地方自治体がさらに広がることを期待しています。

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