障害のある人の在宅勤務の取り組み

「新ノーマライゼーション」2021年9月号

株式会社日本ビジネスデータープロセシングセンター人事部
弘原海信(わだづみまこと)

1.はじめに

株式会社日本ビジネスデータープロセシングセンター(以下、当社)は、IT・医療・公共・AIという異なる4事業を柱として事業展開をしている創業50年を超える(2021年時点)会社です。4事業とは、BtoBを中心に展開する“ITソリューション事業”、総合病院などで受付や会計・医師事務作業補助など病院運営を支える“医療事務事業”、自治体で介護認定や窓口業務をサポートする“公共福祉事業”、さらに社会が抱えるさまざまな課題解決を『AI・ロボット』を駆使し全く新しいサービスとして世に送り出す“AI・ロボティクス・IoT 事業”で、それぞれ社会インフラに深く関わる事業をしております。IT事業を展開しているので、業務の在宅化は推進しやすい環境ですが、一方では医療事務や公共福祉事務はエッセンシャルワーカー(生活必須職従事者)なので、勤務地(病院や官公庁)への出勤が必須となる環境です。そんな環境の中、障がいのある方への在宅勤務取り組みの社内事例をご紹介いたします。

2.在宅勤務導入の経緯

コロナ禍が拡大し始めた2020年2月より少し前から在宅勤務を推進するシステム販売を当社にて検討していたこともあり、社内での業務在宅化は比較的早期に実現できました。しかし、まず課題となったのは「社員(メンバー)間でのコミュニケーション」です。チャットツールをフル活用するものの、会話の温度感や物理的距離感、スピード感、相手の理解度など対面でのコミュニケーションとの違いに課題も多くありました。特に、ニュアンスを伝える難しさや質問や確認事項への回答対応も増えてしまい、在宅勤務を中心とした場合の両者(障がい者とフォロー側)への負担は相当大きかったです。また、フォロー側の在宅勤務者への作業依頼や指示出しが不慣れな状況もあり、どの仕事が在宅でできるのかイメージができていないことも障がい者の在宅勤務導入の壁となっておりました。そんな中、私の所属する管理本部では出勤率を大幅削減する推進活動で、障がいの有無に関係なくチャットでコミュニケーションを取り業務を遂行していくうちに、チャットコミュニケーションへの抵抗感が少しずつ減少していき、『在宅でできる仕事』というカテゴリ分けができるようになりました。『在宅でできる仕事』を明確にすることで、フォロー側の負担を減らしつつ、障がいのある方の在宅勤務を進めることができました。

3.在宅ワーカーとして働く人たちとの関わり

(1)障がいについて

在宅で働く方の中にも、精神や発達、身体などさまざまな障がい特性がありますので、入社後(または入社前)に数日出社して働いてもらい、障がい特性への理解とフォロー側と障がい者とのコミュニケーションを図ることで、スムーズに在宅勤務ができるようにしています。

(2)仕事の内容や役割

仕事の内容は、1.データ入力、2.資料作成、3.求人更新、4.新卒サイト運営、5.HP更新、6.HPサイトの構築、7.応募者の取込、など、個々のスキルに合わせて業務の切り出しを行っています。時には、1を行う際のデータ化(PDF化)を在宅障がい者が出社時に準備したり、出勤している障がい者がサポートしたりと自立や相互支援を行いながら取り組んでいただいています。在宅障がい者の中には、いろいろな業務を覚えてスキルの幅を広げたい方やWeb系やデザイン系が得意な方もいますので、フォロー側が個々の得意分野や希望をヒアリングした上で、役割分担をしています。

(3)仕事の進め方や配慮している点

特に初めての仕事を依頼する際には、フォロー側はチャットでの業務指示と電話確認を行うことで認識のずれがないようにフォローを行います。また、定例的な業務を行う際にも、チャットでいつでも質問をしてもよいという雰囲気をつくることで、「わからなければ聞ける環境がある」という心理的安全性を確保するように心がけています。障がい特性にもよりますが、『日報』という形で業務報告をして、一日の仕事内容や気持ちの変化、質問事項などをフォロー側へ共有する方もおられます。障がいのある方一人ひとりに合わせたコミュニケーション手段を使うことで、感じていることをリアルにキャッチアップできるようになりました。きちんと障がい特性を理解し許容する職場環境をつくることは、コミュニケーションを図る中でとても大切なことだと考えています。

日報記入用紙(表面)
図1 日報記入用紙(表面)拡大図・テキスト

4.現状と課題

現状としては、管理本部内の業務を切り出すことはできていますが、多数の在宅勤務者を支えるほどの業務量とそれをサポートする管理体制が整っておりません。また、一人でフォローできる在宅勤務者の人数にも限度があり、他業務と並行しながらでは1人~2人が精いっぱいとなります。メインのコミュニケーション手段がチャットとなるため、在宅障がい者からの質問にリアルタイムで返答することができなかったり、十分な定例業務がないために在宅障がい者側が「手が空いてしまう」という状況も少なくありません。双方のコミュニケーションを大切にしているため、フォロー側が即答できないこともあると在宅勤務者は認識しているものの、不安要素となっていることは間違いないと思います。十分な業務の切り出しと標準化(手順化)が大きな課題です。

5.今後の展開

まずは、「手が空いてしまう」という状況を防ぐため、社内業務の切り出しをスムーズに行える社内環境をつくることが最優先と考えます。現状では、管理本部内業務が切り出しの中心となりますが、『在宅でできる仕事であればサポートできる!』という体制を整えることで他の事業部門の「こんなことやってもらえたら…」「〇〇したいけど手が足りなくてできない…」「資料作成に時間がかかる…」などのお悩みを解決することができれば自然と業務も切り出してもらえると考えています。今後の展開としては、他の事業部門からの依頼を在宅チームリーダーが引き受け、在宅障がい者メンバーで役割分担できるような独立チームを作り社内業務に貢献できればと考えています。また、リーダーや後輩育成など新たな役割も期待できるため、キャリアアップの幅を広げ、多様な働き方を実現することにもつながると考えています。まだまだ過渡期であり課題も多いですが、心理的安全性のある職場環境を構築できるよう、日々改善を続けてまいります。


当事者の声

私は、適応障害がありますが、事務未経験でこの会社に入社し人事部の仕事をしています。仕事内容は、データ入力やマニュアル整理・作成、応募者対応、求人・資料作成、障がい者向け会社説明会など採用業務が中心です。

在宅での勤務は、チャットにて始業報告をして担当業務を進めますが、業務指示や相談については基本的にチャットで行います。チャットなのですぐに返事がない場合もよくありますが、後で見返すこともできるので、慣れれば便利なツールだと思います。在宅は難しいところもありますが、自分なりの対策を打つことでできる仕事が増えていきます。そこに自分の成長を感じ、楽しいと思い働くことができています。

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