行政の動き-障害者差別解消法の改正について

「新ノーマライゼーション」2021年9月号

内閣府政策統括官(政策調整担当)付参事官(障害者施策担当)付 上席政策調査員
伴睦久(ばんむつひさ)

1.障害者差別解消法の概要

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号。以下「法」という。)は、障害者の権利に関する条約(以下「条約」という。)の締結に向けた国内法整備の一環として制定されたものであり、障害者基本法(昭和45年法律第84号)第4条に規定する「差別の禁止」の原則を具体化し、差別の禁止に関するより具体的な規定を示し、それが遵守されるための具体的な措置等を定めるものです。

法は、障害を理由とする不当な差別的取扱いを行政機関等及び事業者に対して禁止するとともに、障害者からの申出に応じて、過重な負担がない範囲で、社会的障壁(障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のもの)の除去の実施について必要かつ合理的な配慮、いわゆる「合理的配慮」を提供することとしております。法の制定時には、合理的配慮の提供については、行政機関等は義務、事業者は努力義務とされました(法第7条第2項及び第8条第2項)。

また、法の施行後3年を経過した場合において、事業者による合理的配慮(法第8条第2項)の在り方その他法の施行状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に応じて所要の見直しを行うこととされました(法附則第7条)。

2.改正の経緯

法附則第7条の検討規定を踏まえ、内閣府の障害者政策委員会において法の見直しの議論が行われ、同委員会による「障害者差別解消法の施行3年後見直しに関する意見」が令和2年6月に取りまとめられました。その意見書では、事業者による合理的配慮の提供について、更に関係各方面の意見等を踏まえつつその義務化を検討すべき等とされたことから、これを受けて、内閣府において同年10月に事業者団体及び障害者団体へのヒアリングを行いました。その結果も踏まえ、政府は、障害を理由とする差別の解消の一層の推進を図るため、事業者に対し合理的配慮の提供を義務付けるとともに、行政機関相互間の連携の強化を図るほか、障害を理由とする差別を解消するための支援措置を強化する措置を講ずることを主な内容とする改正法案を第204回通常国会に提出しました。同法案は、衆議院及び参議院において、いずれも全会一致で可決され、令和3年5月28日に成立し、改正法として同年6月4日に公布されました。

3.改正法の主な内容

以下、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律(令和3年法律第56号。以下「改正法」という。)における主な改正事項について解説します。

(1)事業者による合理的配慮の提供の義務化

法の施行以降、多くの事業者に合理的配慮の提供に取り組んでいただいており、地方公共団体においても、これを義務付ける条例の制定が進んでおります。また、東京2020パラリンピック競技大会を契機とした官民の取組等が広がっており、事業者による合理的配慮の提供は一定の定着が図られてきております。

さらに、条約では、合理的配慮の提供を確保するための全ての適当な措置をとること(第5条3)等が求められております。条約の理念の尊重及び一層の整合性の確保を図る観点から見直しを行うことの重要性は、障害者政策委員会の意見においても、法の見直しに当たっての基本的な考え方として示されました。

これに加えて、事業者による合理的配慮の提供が努力義務にとどまっていることにより、合理的配慮の提供やそのための話し合いが拒否される事例があるとの声も障害者団体から聞かれることから、合理的配慮の提供を社会的な規範として確立し、社会全体で取組を進めることも求められております。

こうしたこと等を踏まえ、事業者による合理的配慮の提供については、現行の努力義務を義務に改めることとされました。

(法第8条第2項関係)

(2)国及び地方公共団体の連携協力に係る責務の追加

今般の改正では、事業者による合理的配慮の提供を義務化することとされておりますが、合理的配慮として求められる内容は多種多様で個別性が高く、相談件数の増加も見込まれること等から、例えば、国、都道府県、市町村の機関の間で相談事案の引継ぎを行うことなど、国及び地方公共団体が相互に協力をする必要性が一層高まると考えられます。

そのため、改正法においては、国及び地方公共団体は、障害を理由とする差別の解消の推進に関して必要な施策の効率的かつ効果的な実施が促進されるよう、適切な役割分担を行うとともに、相互に連携を図りながら協力しなければならないとされました。

(法第3条関係)

(3)差別解消のための支援措置の強化

改正法では、事業者による合理的配慮の提供の義務化に伴い、以下の差別解消のための支援措置を強化するための措置が講じられました。

ア 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針に定める事項の追加

改正法の円滑な施行が図られるよう、相談体制の充実や事例の収集・共有の取組といった各種の支援措置の強化等を図ることが必要と考えられます。

このため、改正法では、基本方針に定める事項として、障害を理由とする差別を解消するための支援措置の実施に関する基本的な事項が追加されました。

(法第6条第2項関係)

イ 障害を理由とする差別に関する相談及び紛争の防止等のための体制の見直し

相談件数の増加や多様な相談が寄せられること等が想定されることから、適切な相談対応が可能となるよう、相談に的確に応じ、解決を図ることのできる人材の育成・確保を図ることが重要と考えております。

このため、改正法では、国及び地方公共団体が障害を理由とする差別に関する相談に対応する人材を育成し又はこれを確保する責務が明確化されました。

(法第14条関係)

ウ 障害を理由とする差別に関する事例等の収集、整理及び提供の強化

個別の事例において、障害当事者と事業者の間で、提供されるべき合理的配慮の内容や過重な負担についての認識の相違が生じることも懸念されることから、今後、事業者や各相談機関が参考にできる事例の重要性が一層高まることが想定されます。

このため、改正法では、地方公共団体は、障害を理由とする差別に関するための取組に資するよう、地域における障害を理由とする差別及びその取組に関する情報の収集、整理及び提供を行うよう努めるものとする旨が定められました。

(法第16条関係)

4.改正法の施行に向けて

改正法の施行に向けて、障害者や事業者等の関係者の意見も踏まえながら、まず、法第6条に基づき、基本方針を改定することが必要となります。その後、これを受けて、各省庁においては、法第11条により、各所管分野を対象とする対応指針、いわゆる事業者向けのガイドラインを見直すことになります。あわせて、各地方公共団体においても、相談体制の整備をはじめとする様々な対応が必要となることが想定されます。

このため、改正法の施行期日は、それらの取組や国民全体への周知啓発といった施行前の準備に必要な期間を勘案し、同法の附則において、「公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日」とされております。具体的な施行期日は、今後の施行に向けた準備の進捗状況も踏まえつつ、定めることになります。

5.おわりに

今般の改正法の成立により、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し支え合いながら共生する社会の実現に向けた取組が進むことが期待されます。

引き続き、政府として最大限の努力を尽くしてまいりますので、関係者の皆様の御理解・御協力をよろしくお願いいたします。

menu