令和3年度報酬改定現場からの声-グループホームにおける重度化・高齢化に対応するための報酬の見直し~強度行動障害者や医療的ケアが必要な人への支援のあり方~

「新ノーマライゼーション」2021年9月号

さつき福祉会グループホーム事務局
伊藤成康(いとうしげやす)

1.暮らしの場としてのグループホーム

1980年代、共同作業所運動の全国的な高まり中で、養護学校(現・特別支援学校)を卒業した障害者の地域での働く場が広がりました。そして、その作業所づくりを進めた家族の次の願いは、自分たちが亡くなっても我が子が安心して暮らせる場の実現でした。

当時、家族が介護できなくなれば、1人で暮らせない障害者は「入所施設」を選ばざるを得ませんでした。しかし、とても狭き門で、多くの家族が自分の子どもの将来を案じていました。

そして遂に1989年、国の制度としてグループホーム(現・共同生活援助事業)がスタートしました。新たな暮らしの選択肢として多くの人の期待を背負い、現在は利用者数も「入所施設」を抜いて14万人を超え、地域の暮らしを支える重要な役割を担っています。

障害者権利条約の第19条では、「自立した生活及び地域生活への包容」「他の者との平等や住まいを選択する権利」として、一般の人と同等の生活の保障を大前提としています。まだまだ多くの障害者が『自分の暮らしは自分で決める』までにはなっていませんが、彼らの暮らしに寄り添って、質の高い暮らしの支援に向けてグループホームが悪戦苦闘してきた32年の歴史は大きく評価されると思います。

2.今回の報酬改定の特徴

グループホームは、入所施設には及びませんが、重度の利用者も増え、強度行動障害や医療的ケアが必要な人への支援も広がり始めています。

私の法人でも、数年前に重度対応型のグループホームを建設して、医療職の配置と手厚い職員体制で支援していますが、特に重度対応型のグループホームは運営的に大幅な赤字で職員確保も厳しく、管理者も宿泊勤務をせざるを得ない実態です。

今回の報酬改定の項目の筆頭に「障害者の重度化・高齢化を踏まえた地域移行・地域生活の支援、質の高い相談支援を提供するための報酬体系の見直し等」があり、その一番目が『グループホームにおける重度化・高齢化に対応するための報酬の見直し』でした。厚労省の担当者も「まさにグループホームの重度化・高齢化は報酬改定の一丁目一番地」と強調されていました。

その具体的な改定内容は、以下の5点です。

1.重度障害者支援加算(強度行動障害者)の対象拡大
2.医療的ケアが必要な人の支援の看護師配置加算の創設
3.強度行動障害者受け入れ促進のための体験利用加算の創設
4.日中サービス支援型を含む基本報酬の見直し
5.夜間支援等体制加算の見直しで、報酬のメリハリと夜間巡回職員を追加配置した場合の加算を創設

でした。

※重度障害者の個人単位のホームヘルパー利用は引き続き継続です。

今回の報酬改定では、重度化に対応して、新たな3つの加算を新設したことと、財源確保のための報酬額のメリハリとして、支援区分3(注)以下の軽度の人の基本報酬を大きく下げ、区分4以上の人の重度の人の基本報酬は1単位上げました。夜間支援等体制加算も区分4以上は変わりなしですが、新たに区分3以下の加算が下がりました。また、新規の夜間巡回職員加算は、職員の休憩時間確保のためです。((注)障害者総合支援法では、非該当・区分1~6の支援区分に合わせて報酬額を決め、区分6の報酬が最も高くなります。)

全体的に、重度の人に手厚く軽度の人に厳しい報酬改定に見えますが、区分6の基本報酬でみると、2015年の報酬改定時よりも1単位少ない残念な結果でした。

グループホームは基本的に小規模の事業所なので、重度の人を受け止めていくためには、基本報酬の大幅なアップがないと厳しいと思います。また、今回の報酬改定では軽度の人が多い事業所はますます運営が厳しくなっています。支援区分が低くても、実際の支援が困難な人も多くいます。

3.報酬を重度化・高齢化にどう活かすか

強度行動障害の人を受け入れるだけでなく、安定した暮らしの支援をしていくためには、やはり職員体制の量と質の向上が欠かせません。

できれば正規職員をしっかり配置したいところです。基本報酬では、日中サービス支援型なら3対1、介護サービス包括型なら4対1の世話人配置を行い、報酬はすべて取りこぼさないこと、利用者の支援区分が適正かの判断も必要です。支援度が高いのに低い区分とならないために、認定調査時の面談ではしっかりと支援実態を報告することが大切です。また、強度行動障害者体験利用加算はとても良いですが、初利用は本人が不安なので、重度障害者支援加算との併用ができる方が望ましいです。

今回の重度障害者支援加算1か2が初めて出た事業所は、行動障害研修が必要ですが、最近は民間の研修機関もあるので、早めの申請・請求ができると良いです。私の事業所では、重度加算対象者が増えたので、新たな正規職員を確保する予定にしています。

支援の質を高めていくためには、計画相談、日中事業所、居宅事業所等とのケース・カンファレンス等、集団での支援課題検討を行うことと、ホーム職員間での一致した支援のための研修が必要です。

医療的ケアが必要な人の支援では、今回、新たな医療的ケア対応支援加算が創設されましたが、1日120単位なので、ある程度の対象者が確保できないと看護師1名分の配置が厳しそうです。医療連携加算も医療的ケアが有るか無いかで報酬が大幅に変わりましたので、対象者が少数で外部医療機関の協力があれば、こちらの方が良さそうです。

看護師の宿泊が厳しい場合は、宿泊職員かヘルパー支援で夜間の医療的ケアを行うことも必要となるかと思いますが、支援職員の研修が必要です。

高齢化対応については、今回の報酬では何ら対策はなかったと感じています。過去の報酬改定で、日中支援加算1や日中サービス支援型で、平日昼間にグループホームに残る人の支援ができました。

高齢化すると、若い時元気だった人も体調が衰えて、呼吸器系や成人病関係の通院や入院が増えてきます。障害がある人の多くは実年齢の20歳ぐらい上の健康状態だと私は思います。今の入院時特別支援加算が実態に合っておらず、職員数は変わらず、大幅な報酬減(9割減はざら)は対策が必要です。

4.今後のグループホームのあり方に向けて

令和3年度報酬改定では、重度化・高齢化に向けた支援がテーマでしたが、その実現を進めていくには多くの課題が残されています。

グループホームを利用する障害者の8割以上が継続して利用を希望しているという調査結果があります。彼らは、日々高齢化に向かっています。今後ますます重度の人の利用も増えてきます。

小規模な暮らしの集団。夜間・休日も継続した支援。一人ひとりの自由な地域生活。命を守り、人生をサポートするグループホームですが、重度の人も安心して利用していくためには、入所施設のように複数の正規職員を配置させ、しっかりと研修を積み重ねて支援の質を高めていくことが重要です。

安定した基本報酬の確保に加えて、重度・高齢化に特化した報酬を大きく追加していく必要があります。また、幅広い支援の確保のためにヘルパーの利用をより広げていく必要があります。

医療的ケアの充実のためには、看護師の配置やスタッフの喀痰吸引等の研修も必要ですが、地域の訪問看護や訪問医療との連携を深めていく必要があります。

障害が重くても、誰もが当たり前に利用でき、安心した地域生活ができるような、充実したグループホームの制度づくりがまだまだ必要です。

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