令和3年度報酬改定現場からの声-医療的ケアが必要な児童に対する支援の充実

「新ノーマライゼーション」2021年12月号

特定非営利活動法人銀河 看護師長
松本和可子(まつもとわかこ)

事業所紹介

当法人は、青森県西部のリンゴとサクラが代表的な弘前市に所在しています。2013年に放課後等デイサービス事業所を開所し、現在では近隣市町村を含め、福祉型児童発達支援センター1か所、放課後等デイサービス事業所5か所設置し、市町村委託事業等を加えると、計7事業を展開しています(表1)。代表者の【子ども発達支援運営の先駆者となる】をビジョンに掲げ、「すべての人が地域でごく普通に生活する」という福祉の理念を実現化していくために、お子さまが今この“瞬間”と先の“将来”を見据え、自分で生きる(自立・自律)・生きていくための基盤作りや応用の体得に向け、「療育」という視点を常に持ちながら一人ひとりのニーズを受け止め、きめ細かな支援を展開していくことに尽力しています。その中で、当法人では2019年に『医療的ケアを必要とする児童』を本格的に受け入れ、地域の福祉・保育・教育・医療の多職種連携の中核的な役割を担うために尽力しています。

表1 特定非営利活動法人銀河の事業内容

事業形態 事業所名
福祉型児童発達支援センター 幼児発達支援センター大空
放課後等デイサービス事業/日中一時支援事業 放課後デイステーションEarth
放課後デイステーションOrion
放課後デイステーションCygnus
放課後デイステーションAries
放課後デイステーションSirius
障害児相談支援・特定相談支援事業 プランサポートステーションPolaris
福祉有償運送事業 送迎サポートステーションPegasus
法人オリジナル事業 パーソナルサポートステーションLeo
地域支援 地域支援室Aria

※太字の事業所が医療的ケアを必要とする児童の受け入れ事業所

医療的ケアを必要とする児童について

今回のテーマである『医療的ケアを必要とする児童』は、日常生活及び社会生活を営むために恒常的に医療的ケア(人工呼吸器による呼吸管理、喀痰吸引その他の医療行為)を受けることが不可欠である児童(18歳以上の高校生等を含む)とされています※1。医療技術の進歩に伴い、急速に対象児数が増え、現在は全国に2万人以上となっていますが、病院を退院した直後から障害福祉サービスが受けられず、ご家族さまのみで育て支えている現状の課題が表面化し、医療的ケアを必要とする児童とご家族さまに対するサービス提供体制の強化の必要性が、今回の報酬改定に繋がり示された形となっています。

報酬改定について

今回の報酬改定の内容は、1.新判定スコアを用いた基本報酬の創設2.看護職員加配加算の算定要件の見直しがポイントとなっています。改定から半年経過しましたが、報酬改定により基本報酬が高くなったことで、これまで医療的ケアへの対価が得られていなかった部分に評価を受けられるようになりました。また、医療的ケアの重症度により点数化され(図1)、一定の基準(15点未満、16~31点、32点以上)に応じて看護師の配置が求められたことにより、医療的ケアを必要とする児童の支援の充実が図られるようになりました。

図1 医療的ケア児の基本報酬の創設(障害児通所支援)(厚生労働省 令和3年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容 令和3年2月4日より)
図1 医療的ケア児の基本報酬の創設(障害児通所支援)拡大図・テキスト

1を当事業所に当てはめると、従来の830単位から、新判定スコアの導入により対象児が16点以上の1,885単位に当てはまり、2倍以上の単価となりました。報酬改定にかかわらず、地域全体で受け入れできる施設は少ない現状であり、今後も当法人での受け入れは増加していく流れになるかと考えます。

2について、当法人は看護職員加配加算の算定要件対象外となっています。看護職員加配加算の算定要件の有無にかかわらず、当法人での受け入れ対象事業所では、看護師を常勤で2名ずつ配属している現状であり、今後利用人数が増えても、さらに追加で常勤として雇用する状況になるとは言い難いと考えます。

経営の安定化と今後の課題

報酬改定がなされ、基本報酬が増額したから経営は安定的ではないか…と思われるかもしれません。しかし、同一条件で継続できる保障が全くありません。

その理由として大きく二つあり、どちらか一つでも当てはまると経営的な安定は図れないと考えます。一つは、看護師の人材確保と人材育成です。単純な頭数で看護師を雇用しても、医療的ケアを必要とする児童との関わりを経験した看護師が雇用されないと、支援の現場では積極的に児童を受け入れる状況にはなりません。やはり、安心・安全の信用があっての受け入れだと考えます。「ここに通って本当に良かった!」と思える居場所を創るためにも、児童対応の経験者を確保したいところです。そして、雇用された看護師は、これまでの経験を糧に福祉の場で活かす必要がありますが、福祉と医療では捉える視点に差異があることもあります(私の経験談です)。捉える視点が異なることは、理想と現実の隔たりに葛藤することがあり、この隔たりを受け止め、時には耐える、そして乗り越えようとする想いを持てないと、人材育成まで至らず流出する状況になります。確保した人材を、福祉、医療の両面から捉えられるよう長期的に育成していかなければなりません。

二つ目に、医療的ケアを必要とする児童の継続した利用日数の確保です。1日の利用につき報酬が算定されるため、体調を崩し、入院等により利用が減少すると当然減収に繋がります。事業所の利用日数は、個々で明確に定められているため、欠席した場合の穴を埋めるのは容易ではありません。現状と1,2歩先の動きを見据えた確保が必要となります。

去る2021年9月18日より『医療的ケア児支援法』の施行もあり、これまで努力義務とされていた医療的ケアを必要とする児童の支援が「責務」と法律に明記されたことで、受け入れ支援体制の拡充が求められるようになりました。当法人にとって「責務を全うする」とは、ご家族さまから託された想いや願いを受け止め、児童が今とこの先の将来を『自分らしく』輝かせ、豊かに歩むための、発達支援へ尽力していくことと考えます。そのためには、一つの法人だけの取り組みでは限界があり、国や自治体も含めて1.看護師の人材確保・人材育成を進め、長期的に医療的ケアを必要とする児童を受け入れた施設及び事業所への助成2.開所の際の備品を含めた設備投資の補助3.長期利用が無い時の休業保障に取り組むことで、安定的な運営が可能となり、児童の「最善の利益」への追求も腰を据えてできるようになると考えます。

最後に

最後に、私自身のお話をさせていただきます。もともと大学病院の小児科で医療的ケアを必要とする児童やご家族さまと出会い関わる中で、お子さまやご家族さまが地域に繋がる場所がない現状に直面したことで、当法人に転職し、地域に受け入れる場所を作る(創る)ことができました。当法人は療育のできる看護師を育成しており、私自身も、日々医療的ケアと共に発達支援をどう展開できるか、を常に考え精進しています。時には壁に当たり辛い時もありますが、お子さまの笑顔と成長していく姿を見ると、自分自身の頑張れる力となり成長にも繋がっています。障害や疾病の有無にかかわらず、この世に生を受けたお子さまには、子どもの権利条約で示されているとおり、生きる権利、育つ権利、守られる権利、参加する権利があり、そして私が考えるに「幸せになる権利」があります。その基本的な権利が失われてはならないし、その権利を保障する場所を護り、たくさんの経験を積み重ね、毎日『自分らしく』人生を歩み、未来への夢が持てる支援をすることが私の役割だと思いながら、これからも真正面から向き合っていきます。同じ想いをもつ同志の皆さま、共に頑張っていきましょう!


【引用】

※1)厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課 障害児・発達障害者支援室「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」について 医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律の全体像

【参考文献】

厚生労働省 令和3年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容 令和3年2月4日より
・令和3年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容
・医療的ケア児に対する支援の充実(全体像)
・医療的ケア児の基本報酬の創設(障害通所支援)

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