生きづらさを抱えた方を包摂する「共生社会」の実現に向けて

「新ノーマライゼーション」2022年4月号

社会福祉法人南高愛隣会 長崎県地域生活定着支援センター 所長
一般社団法人全国地域生活定着支援センター協議会 事務局長
大坪幸太郎(おおつぼこうたろう)

1.はじめに

日本における犯罪状況について、法務省『令和3年版犯罪白書』には「出所受刑者全体の2年以内再入率は、低下傾向にあり、令和元年の出所受刑者については初めて16%を下回ったが、満期釈放等による出所受刑者の再入率は仮釈放による出所受刑者よりも相当に高い状態で推移しており、再犯防止対策の更なる充実強化が求められている。」1)との記載があります。

こうした再犯防止対策の一翼を担うのが地域生活定着支援センター(以下、「センター」という)です。センターでは受刑者のうち障がい・高齢を理由に出所後、福祉的な支援が必要な対象者に対して住まいの確保や地域生活に必要なサービス等の調整を行い、対象者が地域で孤立し、犯罪を繰り返すことがないよう活動しています。全国の都道府県に1か所(北海道は広域のため2か所)、計48センターが設置されており、支援対象者は全国で年度あたり約1,400名にのぼります。

2.地域生活定着支援センターの業務

センターは、他の相談支援機関と異なる点として2つの特徴があります。1つ目は、都道府県を越えた広域調整を行うことです。その理由としては、対象者が受刑する刑務所は処遇指標という基準に沿って決まりますので、住んでいた地域から遠く離れた刑務所で受刑する場合もあるためです。帰住を希望する都道府県へ戻るために、刑務所所在地センターと帰住希望地センターとが協力して支援を行っています。

2つ目は、対象者の年齢や障がいの有無、福祉サービスの利用に左右されず関与し続ける伴走的な支援が可能という点です。対象者である障がい者について、各障がい者手帳がない、疑いの方でも関与ができます。その理由は、対象者の多くはご自身の障がい等に気づかず、必要な支援が得られていない場合があるので、私たちが関わることで初めて取得に繋がることが多いからです。

上記のような特徴を持つセンターが行う支援業務(図1)は4つあります。まず、受刑中の対象者に対して出所後の生活に向けた準備を行う「コーディネート業務」。次に、出所後の生活を見守る「フォローアップ業務」。3つ目に、出所後の対象者等からの相談を受ける「相談支援業務」。最後に、令和3年度から開始された「被疑者等支援業務」です。

図1 厚生労働省 地域生活定着促進事業の概要
図1 厚生労働省 地域生活定着促進事業の概要拡大図・テキスト
https://www.mhlw.go.jp/content/000827745.pdf

刑務所に入る前段階の支援を「入口支援」、刑務所受刑中もしくは出所後の支援を「出口支援」と呼称していますが、被疑者等支援業務開始までセンターの業務は基本的に「出口支援」しかありませんでした。令和3年度から「被疑者等支援業務」が開始されたことは、これまで各センターが任意で実施してきた相談支援業務の成果といえます。全国のセンターが出口支援同様に入口支援を地域に関係なく実施でき、これまで手の届かなかった方へ支援が届くようになったという意味で大きな前進だと考えています。

3.支援の現状と課題

長崎県地域生活定着支援センター(以下、「当センター」という)は、平成18年度に社会福祉法人南高愛隣会で実施した厚生労働科学研究(田島班)「罪を犯した障がい者の地域生活支援に関する研究(3か年事業)」の調査研究の成果を踏まえ、平成21年1月19日に全国に先駆けモデル的に開設しました。その先駆的な取り組みは都道府県によるセンターの運営事業である『地域生活定着促進事業』に繋がり、平成23年には全国にセンターが設置に至りました。

当センターは、開設から令和4年3月31日現在までの約14年で987名の支援(図2)を実施しており、ここ数年は年間90件前後の新規相談を職員8名で対応しています。

図2  長崎県 依頼件数の年次推移(令和4年3月31日現在)
図2  長崎県 依頼件数の年次推移(令和4年3月31日現在)拡大図・テキスト
(長崎県地域生活定着支援センター作成)

対象者をカテゴリー別でみると「障がい者(疑いを含む)」の人数は、実に788名と3人に2人以上になります。また、傾向として「精神障がい者」が毎年、右肩上がりで増えていることと、「知的障がい者」が毎年平均して30名前後一定数いることがわかります。次に、「年齢別」にみると15歳から92歳までと幅広く対応しています。そのうち「65歳以上」をみると、987名に対し357名と、3人に1人の割合となっています。福祉の手続きはあくまで本人の同意の下に支援を開始しますが、福祉が必要な対象者がいかに多いかがおわかりになるかと思います。

このような対象者のうち、当センターが帰住先等を調整し、出所及び釈放後に長崎県内へ帰住した対象者は472名います。そのうち、再び罪を犯し刑務所に戻った対象者の割合は全体の1割弱(10.6%)になります。出所者以外の対象者も含みますので条件の違いはあるものの、法務省『令和3年版犯罪白書』における令和2年の「再入者率」が『58.0%』2)であるのに対して、かなり低い数値といえ当センターの福祉的な支援は再犯防止の観点から有効であると考えます。

一方で、支援上もっとも苦慮するのが「帰住先の確保」と「支援の長期化による業務量の増加」になります。その理由として、犯罪行為自体が敬遠されることになりますが、さらに、障がい・高齢による諸問題のリスク、それを保証する身元保証人や緊急連絡先がない点がさらに壁を高くしている状況です。そのような状況のなか、センターの対象者がどんな形態の住居に帰住しているかというと、一番多いのは「単身アパート(約4割強)」。次に「障害者グループホーム(約2割弱)」になります。その理由は、対象者の希望に基づき資源を開拓してきたからです。しかし、当センターが身元引受人を担うことはできないめ、その代わり、受け入れてもらった不動産や福祉事業所から入居後の諸問題に対してアフターケアを求められることになり、それが当センターの支援の長期化に繋がっています。また、もう一つ、長期化する理由として、センターの特徴として紹介した年齢、障がいの有無に左右されない幅の広い対応ができる反面、そのような相談支援機関が他にないため、適切な引き継ぎ先がないということが挙げられます。

このような課題に対して、国・都道府県の施策において、市町の基幹相談支援センター(地域生活支援事業)や重層的支援体制整備事業との連携、さらには、居住支援協議会や居住支援法人との連携等の動きが模索されており、センターが抱える諸問題の解決策を検討できるのではないかと期待しているところです。

4.おわりに

平成28年に「再犯の防止等の推進に関する法律」が施行され、支援を行う上でさまざまな課題をもつ対象者の支援も、行政・地域からの関心や理解が少しずつ深まり「再犯防止」の機運は高まりつつあると感じています。しかしながら当センターのような一民間機関に役割が集中している実態もあり、今後の施策を通してさらなる多機関連携を強化し分担化が進むことを望みます。もう一点お伝えしたいことは、「再犯防止」が目的ではないということです。私たちが目指す方向は「共生社会の実現」であり、罪を犯した人をも包摂する地域社会づくりを目指し活動しています。どのような方でも包摂する「やさしい社会」が実現する日がくるよう今後も活動を続けていく所存です。


【引用文献】

1)法務省『令和3年版犯罪白書』はしがき

2)法務省『令和3年版犯罪白書』P.241

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