「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」の解説

「新ノーマライゼーション」2022年6月号

障害児者の情報コミュニケーション推進に関する議員連盟 事務局長
参議院議員 滝波宏文(たきなみひろふみ)

1 はじめに

本年の通常国会において、「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律」(通称:障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法)が成立しました。ついては、本法律制定の経緯やその概要などをご紹介します。

2 制定の背景・経緯

すべての障害者が、社会を構成する一員として、あらゆる分野の活動に参加するためには、情報へのアクセシビリティ(取得・利用)の向上やコミュニケーション(意思疎通)手段の充実が極めて重要です。すでに、障害者基本法や障害者基本計画に基づいて、情報の利用におけるバリアフリー化等の施策が講じられてきているところではあります。

超党派の「障害児者の情報コミュニケーション推進に関する議員連盟」(創設以来、事務局長を私が務めさせていただいています)では、3年前に「読書バリアフリー法」(視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律)を議員立法したところですが、施策のより一層の推進を図るため、障害者の皆様や関係団体から精力的にヒアリングを行ってきました。その中で、総合的な障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション関係法律制定の要望が強く寄せられました。これを受け、当議員連盟において検討を重ね、本法律の案が取りまとめられました。

そして、当議員連盟は会長の衛藤晟一先生はじめ参議院の先生が多いことから、前回の読書バリアフリー法と同様に、今回の法案も参議院からの議員立法として国会に提出され、令和4年5月19日に成立、同月25日に公布・施行されました。

図 障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律概要拡大図・テキスト

3 法律の概要

1 目的(第1条)

障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策を総合的に推進し、それにより障害者基本法が目指す共生社会の実現に資することを、目的としています。

2 「障害者」の定義(第2条)

障害者基本法における「障害者」の定義を用いることにより、すべての障害者を施策の対象としています。

3 基本理念(第3条)

障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進の基本的な考え方として、次の1~4を掲げています。

1.情報の取得・利用、意思疎通の手段について、可能な限り、障害の種類・程度に応じた手段を選択することができるようにする(第1号)。

2.日常生活・社会生活を営んでいる地域にかかわらず等しく情報を十分に取得・利用し、円滑に意思疎通を図ることができるようにする(第2号)。

3.障害者が取得する情報について、可能な限り、障害者でない者と同一の内容の情報を同一の時点において取得することができるようにする(第3号)。

4.デジタル社会において、高度情報通信ネットワークの利用や情報通信技術の活用を通じ、必要とする情報を十分に取得・利用し、円滑に意思疎通を図ることができるようにする(第4号)。

4 国・地方公共団体等の責務、障害者等の意見の尊重等

国・地方公共団体、事業者、国民のそれぞれについて責務を定めるとともに、関係者相互の連携・協力について規定しています(第4条~第7条)。

特に、第4条第3項において、『国・地方公共団体は、障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策が障害者でない者にも資することを認識しつつ、施策を策定・実施するもの』としています。これは、例えば、駅のホームのエレベーターはもちろん障害者の方などが優先ですが、空いていれば健常者でも大きな荷物を運んだり、ベビーカーを押したりしている際などに役立つように、「障害者に優しい社会」は「健常者も生きやすい社会」になるという認識を持って、施策を実施することが大切だという意味です。これにより、健常者にも、障害者施策を決して他人事でなく「自分事」として認識してもらいたいとの考えに基づくものです。

また、当事者と共に施策を実施していくことは非常に重要であることから、障害者等の意見の尊重に努めなければならないこととしています(第8条)。

さらに、障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策が他の障害者施策と「一体的」に講じられるようにするため、障害者基本計画等が本法律の規定の趣旨を踏まえたものとなるようにし、施策の実施状況が障害者白書において明らかになるようにするものとしています(第9条)。

このほか第10条として、『政府は、施策を実施するため必要な法制上・財政上の措置等を講じなければならないこと』としていますが、議員立法で「財政上の措置」まで入ることは必ずしも多くはなく、加えて「法制上の措置」まで明記できたことは、大きな成果であり、とても良かったと思います。

5 基本的施策

(1)障害者による情報取得等に資する機器等(第11条)

ICT機器や情報通信技術を活用したサービスは、障害者のハンデを一定にカバーし得る可能性を持っており、障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーションに不可欠なものです。今後、デジタル社会の進展にも伴って一層重要になると考えられることから、それらの「開発・普及」等に関する施策の規定を設けています。

具体的には、国・地方公共団体は、障害者による情報取得等に資する機器等の開発・普及の促進を図るため、それらの開発・提供に対する助成や規格の標準化、障害者等に対する情報提供・入手支援等の施策を講ずるとともに、それらの利用方法の「習得」のための障害者の居宅における支援、講習会の実施等について規定しています。

また、先述のように当議員連盟で法律案をまとめて3年前に成立した「読書バリアフリー法」で、施策の効果的な推進を図るために設けた、関係者による法定の「協議の場」をモデルとして、今回の法律でも『国は、障害者による情報取得等に資する機器等の開発・普及の促進・質の向上に資するよう、関係行政機関の職員、当該機器等の開発・提供者、障害者等その他の関係者による「協議の場」を設けること、その他関係者の連携協力に関し必要な措置を講ずるものとすること』とさせていただきました。この法定の「協議の場」により、IT機器の開発・普及において、障害者のハンデをカバーする動きが、我が国のIT・電子機器関係企業からも出てくることを期待しています。

(2)防災・防犯、緊急の通報(第12条)

防災・防犯に関する情報や110番・119番等は、障害者の生命、身体及び財産に直接関わるものであることから、国・地方公共団体は、障害者が、障害の種類・程度に応じて迅速・確実に防災・防犯情報を取得し(例えば、設備・機器の設置の推進など)、円滑な意思疎通により迅速・確実に緊急の通報を行える(例えば、メールやアプリなどによる通報の仕組みの整備の推進など)ようにするための施策を、講ずるものとしています。

(3)障害者が自立した日常生活・社会生活を営むために必要な分野に係る施策(第13条)

国・地方公共団体は、障害者が自立した日常生活・社会生活を営むために必要な分野において、「意思疎通支援者」の確保・養成・資質の向上等の施策を講ずるとともに、障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーションのための取組を行う「事業者」を支援するための施策を講ずるよう努めるものとしています。

(4)障害者からの相談・障害者に提供する情報(第14条)

行政が障害者からの相談に適切に応じ、行政からの支援が障害者に漏れなく行き届くようにしてほしい、行政文書や資料の「分かりやすい版」の充実を図ってほしいといった要望を踏まえ、国・地方公共団体は、障害者からの各種の相談に応ずるに当たり障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーションに配慮するとともに、障害の種類・程度に応じて情報提供を行うよう、「双方向」の場面で配慮するものとしています。

(5)国民の関心・理解の増進、調査研究の推進等

国・地方公共団体は、広報活動・啓発活動の充実等の施策を講ずる(第15条)とともに、調査・研究の推進、その成果の普及に努める(第16条)ものとしています。

4 今後について

以上、ご紹介したように、本法律は障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーションの面から関係施策に「横串」を通すものであり、今後、この法律の成立を大きな気運・後押しとして、予算の充実等によりそれらが有機的に一層推進されていくことを期待しています。

その際、3 5(1)の「協議の場」は、当事者参画の具体的な仕組みであり、これも通じて、より障害者のニーズに沿った施策が展開されていくものと考えています。

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