地域で暮らす・支える-地域生活支援拠点等の整備-根室圏域(根室市・別海町・中標津町・標津町・羅臼町)における地域生活支援拠点整備

「新ノーマライゼーション」2022年7月号

根室圏域障がい者総合相談支援センター「あくせす根室」
浜尾勇貴(はまおゆうき)

1. 圏域の概要

根室圏域は北海道の最東端に位置し、根室振興局管内の根室市、別海町、中標津町、標津町、羅臼町の1市4町で構成されています。土地面積は約8,500km2(北方四島を含む)で、北海道の10.2%を占めています。北方四島を除いた管内の面積は約3,497km2で、人口は約72,000人です。

当センターの事務所は圏域の中心に近い中標津町にあり、根室市中心部までは77km程度、羅臼町までは64km程度の位置になっています。実施事業は北海道委託事業である広域相談支援体制整備事業、基幹相談支援センター(拠点コーディネーター配置)、計画相談、地域相談の指定を受けています。地域相談以外は、1市4町を対象範囲として事業運営をしています。

根室圏域内には3か所の相談支援事業所がありますが、根室市(相談支援専門員1名)、別海町(相談支援専門員2名)、中標津町(相談支援専門員4名)となっておりすべての市町に設置されていません。

2. 整備までの経過

根室圏域内では平成21年度に1市4町の広域の委託相談支援事業として1名の相談員が当センター(中標津町)に配置されました。当時は圏域内に相談支援事業所が1か所しかなく広域範囲を相談員2名で対応していました。サービス等利用計画導入が始まり、相談支援専門員も増えましたが、同時に解決しない(できない)地域課題に直面することも多くなりました。

地域生活支援拠点整備について、平成27年度より圏域内市町福祉担当者と北海道(根室振興局)、市町委託相談の当センターで、現状把握、各市町の拠点整備の取り組み方針、課題検討、ニーズ把握を定期的に実施してきました。

検討は、これまで対応してきた事例等をもとに示された地域生活支援拠点機能の中で「できていること」や「課題」を整理し、意見交換、協議を重ねてきました。いきなり完璧な拠点整備を目指すのではなく、できそうなことや足りない機能をどのように整備できるかを検討してきました(図)。

図 地域生活支援拠点等の整備プロセス
図 地域生活支援拠点等の整備プロセス拡大図・テキスト

圏域全体で検討した内容は各市町の自立支援協議会でも協議し、平成30年4月から地域生活支援拠点としてスタートしています。

3. 整備の方向性

(1)相談支援機能

委託相談支援を基幹相談センターへ変更。拠点コーディネーターを1名配置。1市4町で2名の相談員を配置し、24時間365日相談受付の体制を継続して緊急時等、幅広く相談を受ける体制としました。

(2)体験の機会・場の提供

一人暮らしに向けて気軽に練習、体験できる場としてアパート1室の予算を確保し委託先の法人にてアパートを借り上げる仕組みとしました。

グループホーム(以下、GH)利用者にも利用してもらい一人暮らしのイメージづくり、一人暮らしへの移行を応援する。また、在宅の利用者が親元を離れた時のイメージづくりに利用してもらうことを想定しています。

(3)緊急時の受け入れ等の対応

基本的に短期入所利用での調整をしています。しかし圏域内には2か所の入所施設しかなく空きも少ないことから、対応できない場合は、圏域外の施設を探すことや体験アパートを一時的に活用する体制としています。

過去に、家族間や大家とのトラブルにより、住まいを一時的に失ってしまう方もいたため、想定外の利用でも柔軟に対応できるようにしています。

(4)専門的人材の確保・育成

基本的な知識獲得のための研修、スキルアップのための研修の開催、相談支援事業所と支援学校とのネットワークづくり、各種団体が実施する研修の案内周知をしています。

(5)地域の体制づくり

圏域内市町の福祉課や相談支援事業所とのネットワークを維持して必要なニーズを把握し、課題の整理をしていくことにしています。住まいの場として下宿や貸間、保証人不要のアパートなどの情報収集を行い生活の場をコーディネート、他分野との連携も積極的に行い障害福祉分野以外(困窮、児童、高齢、医療、司法分野等)の資源なども有効活用をしていく体制としています。

4. 整備後の実態(平成30年~令和3年度)

(1)相談支援機能

福祉サービスを利用していない方の相談は毎年200人程度で推移しています。土日や9時~17時以外の対応も全体の10%程度以上になっています。お子さんにかかわる相談(育児、学校、就職)や触法に関する相談、滞納・借金、自己破産等の相談が増加傾向になっており、福祉サービスだけでは解決できない相談も多くなっています。

(2)体験の機会・場の提供

これまで体験アパートを利用した方は9名。GH入居者も利用し、2名が一人暮らしを実現させました。家族から自立するために利用し一人暮らしを実現した方、体験して一人暮らしは難しいと判断し、GH入居を決めた方もいました。利用者が体験して検討できることは有効だと実感しています。

(3)緊急時の受け入れ等の対応

緊急的にアパートを活用した方は6名いました。離婚後に家を追い出されて住む場を突然失った方、親子げんかで家出し警察に保護された方、虐待の疑いがあっての利用等、さまざまな理由で緊急的に体験アパートを活用しました。

整備前は住まいを探す労力の負担が多く、相談センター内でやむを得ず一緒に泊ることもありましたが、整備されたことで相談員の精神的負担も減りました。

また、「夜に配偶者の緊急搬送時に身体障がいが理由で救急車には同乗できず、病院へ連れていき、亡くなるまで寄り添う」「妻が発作で倒れ救急車を呼んだがどうしたらよいかわからない」等、身内に頼ることができない方々からのSOSがあり、緊急的状況を一緒に考え対処することもありました。

(4)専門的人材の確保・育成

コロナ禍もありオンライン研修中心に実施をしています。当日、参加できない方でもオンデマンド対応することで多くの人に受けてもらえるメリットも感じています。

(5)地域の体制づくり

他分野と協働で関与することも増え、児童(教育)、高齢、医療に加え、生活困窮関係や弁護士等との協働が増えています。どの制度にもすき間があり、それを補うために各関係機関が知恵を絞ることが大切だと実感しています。

5. 課題

最近は、当事者が親を支える必要がある場合(緊急入院、看病、介護など)や親が亡くなった際の対応など、一人で対応することが難しいことがあり、「老いていく親を支えていく」ことも課題だと感じています。

医療的ケアや強度行動障がいのある方などに対応できるサービスが少なく、どこにも通えない方や、遠方に住み公共交通機関もないため通所ができない方(見学同行だけで1日400km移動することもあります)、GHがないため地元を離れるしかない方など、課題はたくさんあります。

働き手不足の中、労働条件も考慮して、24時間365日安心した生活を支える体制をつくることの難しさを実感しています。

地域生活支援拠点整備はゴールではなくスタートラインに立つための準備だと考え、年月とともに変化するニーズや制度、地域事情の変化にあわせ、地域で生活するための「安心」を少しでも多く準備していけるよう取り組み続けたいと思います。

menu