コミュニティ・スクールと特別支援学校

「新ノーマライゼーション」2022年9月号

全国コミュニティ・スクール連絡協議会 会長(東京都三鷹市教育委員会 教育長)
貝ノ瀨滋(かいのせしげる)

コミュニティ・スクールという言葉を聞いたことがありますでしょうか。コミュニティ・スクールは、保護者や地域住民等が学校運営や学校に関わる活動に参画する「地域とともにある学校」のことです。さらに具体的に言えば、法律(※1)に基づく「学校運営協議会」を設置する学校のことです。

私ども、全国コミュニティ・スクール連絡協議会は、早くからコミュニティ・スクールを設置している全国の教育委員会の教育長を中心に、コミュニティ・スクールに関する「熟議」(※2)や情報交換を通じて、コミュニティ・スクールの取組を一層、充実・発展させることを目的とした団体です。

本稿では、特別支援学校においても導入が進むコミュニティ・スクールの概要や現状についてご紹介します。

コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)の概要

学校運営協議会の委員は、保護者や地域住民等から教育委員会が任命し、一定の権限と責任をもって学校運営に参画します。学校運営協議会の有する権限には次のものがあります。1.校長が作成する学校運営の基本方針を承認すること、2.学校運営について、教育委員会または校長に意見を述べることができること、3.教職員の任用に関して、教育委員会に意見を述べることができること(※3)の3つです。また、学校運営への必要な支援に関する協議を行い、関係者に理解を促したり、情報を提供する役割もあります。

教育委員会から任命された保護者や地域住民等が「地域でどのような子どもたちを育てるのか」「何を実現していくのか」というビジョンや目標を共有し、学校・家庭・地域それぞれが当事者として学校運営に参画することができる体制を制度的に保障しているのがコミュニティ・スクールなのです。

こうした体制が常に確立されていることで、学校・家庭・地域が課題を共有し効果的な教育活動を行うとともに、災害や感染症の拡大のような困難な状況においても保護者や地域住民等の理解と協力を得て、安定した学校運営が可能となります。また、学校運営協議会でそれぞれが果たすべき役割について協議し、連携・協働することで教育活動の質が向上したり、学校の多様な業務の見直しにつながり教師がその専門性を生かした業務に専念できるようになるなどの効果も期待されます。

また、学校運営協議会に地域の関係者が集まり、一緒になって協議し、さらにその協議を踏まえた学校に関わる活動などを行うことで、人的ネットワークが強化され、時には地域課題の解決にも資するなど地域コミュニティの活性化にもつながります。当事者意識や参画意識を持ち、多数の関係者と立場を超えて、共通の目標に向かって合意形成を図ることは、民主主義社会の基盤をなす経験ともいえます。

図1 コミュニティ・スクールの仕組み(制度概要)
図1 コミュニティ・スクールの仕組み(制度概要)拡大図・テキスト
「コミュニティ・スクールの在り方等に関する検討会議最終まとめ」参考資料より

コミュニティ・スクールに関する政策動向と導入状況

こうしたコミュニティ・スクールを国はどのように政策的に推進しているのでしょうか。

学校運営協議会制度は平成16年の法改正により導入されました。その後、平成29年の法改正により、学校運営協議会の設置が教育委員会の努力義務となりました。当然、各教育委員会が設置する特別支援学校についてもその対象です。

コミュニティ・スクールの導入状況は、令和3年5月時点で、全国の公立学校の11,856校、33.3%となっています。

また、学校種別では、小学校7,051校(37.5%)、中学校3,339校(36.5%)、高等学校805校(22.9%)や特別支援学校286校(26.0%)となっており、導入率でみると、義務教育段階に比べ、高等学校や特別支援学校で低くなっており、導入状況については学校種間で差があります。

平成29年の法改正の際、施行後5年を目途として、学校運営協議会のあり方について検討することとなっていたことを踏まえ、文部科学省では令和3年4月に「コミュニティ・スクールの在り方等に関する検討会議」を設置しました。私も副座長として議論に加わり、同検討会議は、令和4年3月に最終まとめを取りまとめました(※4)

この最終まとめでは、今後の取組について、「全ての関係者が相互の信頼関係の中で、コミュニティ・スクールについて正しく理解して取り組むことが重要」とし、「全ての公立学校へのコミュニティ・スクールの導入を迅速かつ着実に進め、地域に開かれた学校運営の実現を目指すことが必要」としています。

この最終まとめ等を踏まえ、6月には、末松文部科学大臣(当時)が、今後3年間でコミュニティ・スクールの導入数の倍増(約2万校に拡大)を目指すことを表明しています。

特別支援学校とコミュニティ・スクール

これまで述べてきたコミュニティ・スクールの効果は、特別支援学校においても変わるものではありませんが、先述の最終まとめで掲げられている特別支援学校での取組におけるポイントを紹介します。

特別支援学校においては、多様な年齢や配慮を必要とする子どもが在籍しています。所在する地域の理解、就業先となる企業等との連携・協働やつながりづくり、地域での活動の場をつくるなどの観点も重要ですので、学校運営の基本方針や教育課程に、保護者や地域住民はもちろん多様な関係者が関わることが効果的と考えられます。

また、障がいのある児童・生徒の卒業後を含めた生涯にわたる学習や生活について、学校と地域でどのようにシェアしていくのかという課題を協議する場としても、コミュニティ・スクールの導入が効果的とされています。

こうした観点から、コミュニティ・スクールの導入により、地域の行政や医療関係者、福祉団体等が学校運営に参画している事例も見られます。

是非、特別支援学校の子どもたちのために、学校・家庭・地域が一体となって取り組むコミュニティ・スクールの仕組みを活用していただきたいと思います。

全国コミュニティ・スクール連絡協議会では、毎年、全国コミュニティ・スクール研究大会を文部科学省、開催地教育委員会とともに開催しています。研究大会では、全国各地、さまざまな学校種のコミュニティ・スクールに関する取組が発表されます。令和4年度は10月29日(土)に大分県玖珠町において開催予定です。今回の特集でご関心を持っていただけましたら、是非ご参加ください。詳細については、全国コミュニティ・スクール連絡協議会ウェブサイト(※5)に随時、掲載予定です。


(※1)地方教育行政の組織及び運営に関する法律(第47条の5)

(※2)多くの当事者による「熟慮」と「討議」を重ねながら政策を形成していくこと。

(※3)ただし、教育委員会規則で定める事項に限定される。

(※4)「コミュニティ・スクールの在り方等に関する検討会議最終まとめ~学校と地域が協働する新しい時代の学びの日常に向けた対話と信頼に基づく学校運営の実現~」令和4年3月14日
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/163/toushin/mext_00001.html

(※5)https://japan-cs.org/

【参考文献】

貝ノ瀨滋「図説 コミュニティ・スクール入門」一藝社、2017年

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