持続可能なコミュニティ・スクールを目指す熊本県立天草支援学校の取組

「新ノーマライゼーション」2022年9月号

熊本県立天草支援学校
楠田未來(くすだみく)

はじめに

本校は、熊本県南西部に位置し、周囲を藍く美しい海に囲まれた天草諸島からなる天草地域における唯一の知的障がい特別支援学校です。2016~17年度にかけて文部科学省「コミュニティ・スクール(以下CS)導入等促進事業」の指定を受け、県内の特別支援学校の先駆けとして総合型CSに取り組み始め、本年度で7年目となります。PDCAサイクルを機能させながら、持続可能なCSの在り方を模索してきた歩みをご紹介します。

1. コミュニティの捉え

県立特別支援学校における「地域」を考える際、市町村の小中学校と異なる点は、学校の所在地と在学児童生徒の居住地が必ずしも同じではないということです。このことは、これまで県立特別支援学校でCSの導入が積極的に行われなかった理由とも言えます。小中学校では「地域の子どもたちは地域で育てよう」というローカル・コミュニティとしての取組が浸透しやすいですが、本校児童生徒の通学区域は天草2市1町(天草市・上天草市・苓北町)と広範囲のため、「地域」をどう捉えるか共通理解を図ることからのスタートでした。天草全域を「地域」と捉えつつ、学校所在地を「地域のコア」として捉えること。そして、この生まれ育った天草という「地域」で自立し社会参加する子どもたちの確かな育ちを支えること。以上の共通ビジョンを共有しながらテーマ・コミュニティとしての側面を踏まえて取り組むこととしました。

2. ビジョンの共有

CS導入時から、本校の子どもたちの学びと暮らしを支える人々が、現状や課題、取組の柱を俯瞰して共有することができるよう『CSビジョン図』を作成しています(図1)。毎年5月上旬に、CSについて全体確認後、学部ごとにブレーンストーミングを行い、KJ法で児童生徒・家庭・学校・地域の実態からよさや課題を明らかにしています。「こんな子どもに…」「こんな学校に…」「こんな地域に…」とチームでビジョンを共有する有意義なひとときです。コロナ禍の影響もあり、学校の実態や課題も変化していく中、本年度は特に大きな変化がありました。近年の高等部生徒数の増加に伴う教室不足の解消を目的とした本県の県立特別支援学校整備計画に基づき、本年度より高等部が天草拓心高校本渡校舎敷地内に移転しました。学校所在地も2か所となり、小・中学部の児童生徒と高等部の生徒が異なる校舎で学校生活を送ることになりました。しかし、この『CSビジョン図』のおかげで、本校を取り巻く状況に変化が生じても、地域とのつながりの中で子どもたちの「今」を見つめ、何のために、今何をすべきかというビジョンを共有することができています。

図1 CSビジョン図
図1 CSビジョン図拡大図・テキスト

3. 3つのサポートチーム

図1の『CSビジョン図』の中央部にある1.あいサポート2.まなびサポート3.くらしサポートは、取組の要となる3つのサポートチームです(サポート名の頭文字は“天草“)。1は学校と地域、保護者間のつながりづくり、2は地域資源や地域人材を生かした授業づくり、3は防災教育の充実や自立と社会参加に向けた進路支援の充実等を目的とした学校と関係機関との連携づくりの取組を担っています。校内では3つのサポートチームと校務分掌組織を連動させ、職員一人ひとりが負担感なくCSの視点で学校運営に参画できるようにしています。また、学校運営協議会(以下、協議会)の委員もいずれかのサポートチームに所属することで、学校と協議会との連動も図っています。6月と2月の年2回開催する協議会では、本校の子どもたちの学びと暮らしをサポートしていくビジョンを委員の方々と共有し、目標・取組計画・評価・次年度の志向を1枚で可視化できる『PDCAシート』を用いて、サポートチームごとに課題に対する方策についての協議やプランの作成、年間取組の評価や次年度の志向に関する協議を行っています。

4. 各サポートチームの取組

1.「あいサポート」チーム

本校児童生徒の教育活動や、学校運営協議会の様子、各サポートチームの取組等について、学校HPや「CSは~とふる通信」(図2)で定期的に情報発信することで、誰もが知っている天草支援学校を目指しています。CS導入後、学校HP閲覧数は急激に増加しました。情報発信は地域とのつながりの第一歩。最近では、天草市のコミュニティFMラジオ番組に進路指導主事が出演し、障害者雇用への期待も込めて本校の魅力を語りました。また、保護者や地域の方の趣味や特技を生かして子どもたちの学びを支える「天支サポーター」の募集(コロナ禍により現在募集休止中)とその活用は、本校児童生徒一人ひとりの個性を地域の人々に知ってもらう機会となりました。ウイズコロナでの、出会い・ふれあい・支え合いの方法やツールについては、ICTの活用等、柔軟な発想をもって検討しているところです。

図2
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2.「まなびサポート」チーム

本校は以前から学校行事をはじめとして学校間交流や地域貢献活動など、地域とのつながりを深めるさまざまな活動に取り組んでいました。それらの活動を地域とのつながりという視点で意味づけたり、学びを学校のみで完結しないCSの視点で地域資源・地域人材を活用した授業づくりをしようとしたりする等、CS導入後、教師の意識には変容が見られています。「天支サポーター」の協力により、校内外での体験的な学習の機会が増えたほか、事前、事後学習といった系統立てた授業展開や振り返りを大切にすることで、体験で終わることのない学びの深まりも見られるようになりました。

3.「くらしサポート」チーム

CS導入直後に発災した熊本地震の教訓も踏まえ、地域協働による防災体制については毎年協議を重ねています。体制づくりの初期段階では協議会の特別委員として天草市防災危機管理課や広域連合中央消防署の職員に避難所運営や支援を要する児童生徒の避難について助言を得て、防災マニュアルの策定につなげました。地元の消防団や区長らの協力を得た地震避難訓練(写真1)、PTA役員による避難参観、保護者や福祉事業所と連携した引き渡し訓練、居住地における緊急時避難先の把握等、連携・協力をキーワードに取り組んでいます。本年度より移転した高等部は、天草拓心高校と合同の避難訓練を実施しました。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

おわりに

2017年2月の協議会で、本校と天草地域の未来の姿を描いた『天支’s PATH(Planning Alternative Tomorrow with Hope)』を語り合ってから7年。こんな学校に、こんな地域になるといいな…と思い描いたことがいくつも実現しています。コロナ禍、ICTの普及、そして特別支援教育を取り巻く情勢等、今後もさまざまな変化が予想されますが、変化することを恐れず、長期的な展望をもち、取組のビジョンを共有し、課題解決に向けて「今できることは何か?」3つのサポートチームで具体的な目標・計画を立て、実践し、評価・改善しながら翌年につなげていくこのPDCAの歯車を、学校・家庭・地域の三者でこれからもゆっくり回し続けていきます。

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