地域で暮らす・支える-地域生活支援拠点等の整備-厚木市の地域生活支援拠点について

「新ノーマライゼーション」2022年10月号

厚木市福祉部障がい福祉課
滝悠磨(たきゆうま)

厚木市障がい者総合相談室ゆいはあと
栗原大(くりはらまさる)

1. 市の概要(令和4年9月1日現在)

厚木市は、人口244,095人、面積93.84km2で神奈川県のほぼ中央に位置しています。小田急小田原線の本厚木駅から新宿駅まで乗り換えなく約1時間、横浜駅まで約40分でアクセスできることに加え、東名、新東名、圏央道といった高速道路が走り、複数のインターチェンジが整備されている等、交通の要衝となっています。

また、神奈川県の観光名所の一つである大山をはじめとした豊かな自然や温泉郷といった観光資源にも恵まれた都市でもあり、不動産・住宅情報サイトLIFULL HOME’Sでは、令和2年中の検索・問い合わせ数から算出された「首都圏版2021年LIFULL HOME’S住みたい街ランキング」で本厚木駅が「借りて住みたい街」で第1位、「買って住みたい街」で第3位となりました。

本市の各種障害者手帳所持者は9,824人、障害福祉サービス等の利用者は2,513人で毎年右肩上がりに推移しています。市内には、障害者支援施設を運営する社会福祉法人等が複数存在しており、さまざまな事業を展開し、地域を支える重要な役割を担っています。

2. 地域生活支援拠点の整備経過について

厚木市の地域生活支援拠点(以下、「拠点」という)は、平成28年度に面的整備しました。

平成27年度に、障がい者基幹相談支援センター「厚木市障がい者総合相談室ゆいはあと」(以下、「基幹」という)の設置、翌28年度は、障がい者相談支援センター(以下、「センター」という)を市内に4か所(令和4年度は8か所)展開し、障がいに関する相談を幅広く受け付け、基幹では緊急時の24時間対応のダイヤルを所持していることから、相談機能は拠点整備以前から充実していたといえます。

また、基幹に就労相談員、ピアカウンセラー、令和3年からは発達障がい相談員といった専門的人材を配置し、市内相談支援事業所への研修会や地域包括支援センター、地域のコーディネーターとの連携等、専門的人材の確保や地域の体制づくりも併せて実施しています。

これら本市の資源を整理し、既存の事業を拠点の機能として位置付けるとともに、不足している緊急時の受け入れ・対応及び体験の機会・場の機能の整備を目的として、市内指定短期入所事業所で構成する「緊急時受入体制整備プロジェクト」及び同共同生活援助事業所で構成する「体験の機会・場の整備プロジェクト」を本市と基幹が主導となって平成28年度に立ち上げました。

その結果、緊急時の受け入れ・対応機能として、「安心生活支援プラン」を創設し、サービス等利用計画に当該プラン対象者であること及び相談支援専門員の連絡先を記載することで、サービス担当者会議で事前に関係事業所に緊急時の対応が必要なことを共有し、事業所開所時は相談支援専門員に、閉所時は基幹の24時間対応のダイヤルに連絡することで、緊急時の受入調整を行う体制を確立し、平成29年3月をもって拠点の整備としました。

3. 整備後の取り組みについて

前述のとおり、安心生活支援プランを創設しましたが、当プランは計画相談支援利用者に限られるため、計画相談支援利用者以外は、生命や生活の危機の事態でも緊急時の対応ができていませんでした。

そのため、さらなる緊急時の対応を図るため、令和3年度に「厚木市障がい者地域生活支援拠点機能強化補助金」を創設しました。

この補助金は、本市在住の在宅の障がい者で介助者が緊急的な不在となった場合に、拠点の登録事業所において、図1の対象行為を実施した際に補助金を支弁するものです。

図1 厚木市地域生活支援拠点機能強化補助金に係る補助メニュー
図1 厚木市地域生活支援拠点機能強化補助金に係る補助メニュー拡大図・テキスト

1の「受入支援」は、短期入所事業所や共同生活援助事業所だけではなく、居室環境を有し、必要な支援を提供できる拠点の登録事業所であれば、指定障害福祉サービス事業所に限らず、補助金の支弁ができます。同様に、2の「介護支援」は、訪問系サービス事業所だけではなく、例えば、障がい者が通所している等、受け入れる障がい者の支援に精通している日中活動系サービス事業所の職員が自宅を訪問し、緊急対応にあたることも可能です。

この補助金により、提供するサービス、さらには、指定障害福祉サービス事業所に限らず対応できるため、限られた地域資源を有効活用し、緊急時の受け入れ・対応機能の強化を図りました。

さらに、拠点の登録の促進を図るため、補助金の周知について、市内全事業所に対して複数日の説明会を実施した結果、説明会以前は15事業所の登録でしたが、令和4年3月末には37事業所に拠点の登録になり、うち11事業所が普段利用のない障がい者の緊急時の受け入れを「可」となりました。

また、緊急時の際、どこに連絡すればいいか明確な連絡先がなく、緊急時の連絡体制が課題でしたが、補助金と併せて、図2のように緊急時の対応の流れを確立しました。市役所開所時は障がい福祉課、閉所時は市役所の当直に連絡することとし、近隣住民やヘルパー等の発見者からの連絡を受け、孤立した障がい者の円滑な受け入れまでの流れを確立しました。

図2 緊急時の対応メニュー
図2 緊急時の対応メニュー拡大図・テキスト

4. 今後の課題及びまとめ

本市の拠点について紹介しましたが、ここまでお読みになられた方は、体験の機会・場について整備がなされていないと思われるでしょう。実際のところ、本市の拠点の体験の機会・場については、具体的な機能はありません。

そのため、今後取り組むべき課題は、体験の機会・場の機能であり、短期入所の体験的利用の促進や施設入所者の地域移行の体験の場の創設等を現在検討しています。

短期入所の利用がない行動障害等の生活上の支援が必要な障がい者や、介助者が高齢な障がい者への緊急時の対応に備えるために、短期入所事業所との関わりを構築することが重要です。

また、現行の緊急時の受け入れ態勢では、支援に当たったことのない障がい者を拠点の登録事業所が受け入れることが想定されます。障害特性や服薬管理等の情報がないまま支援すると、障がい者本人にとっても大きなリスクが伴います。この課題を解消するため、必要な情報を共有できる体制の確保を図り、障がい者本人も安心して受け入れられる仕組みを構築していきます。

次に、施設入所者の地域移行は、国や神奈川県の施策としても大きな課題です。重度の障がいがあっても自らの意思で住みたい地域で過ごせることを目指し、地域移行の体験ができる場は重要と考えています。この体験を通して、施設から環境が変わり、障がい者本人に関する新たな気づきを得ることで、意思決定支援におけるヒントや施設に帰所した際の支援のさらなる向上を期待し、体験の場の機能の一つとして検討する予定です。

最後になりますが、本市では、市内の資源を有効的に活用し、相談機能や専門的人材の確保等の既存の事業を拠点に位置付け、生命や生活の危機に関わる緊急受け入れ・対応機能に重点的に取り組み、拠点の整備を進めました。

しかし、地域のニーズや課題等は常に変化し、障害福祉行政は次々と新たな課題に直面すると日々の業務で実感しています。そのため、拠点を整備して終わりではなく、拠点の現状を適宜見直し、地域の実情と照らし合わせ、地域の方が安心して住み続けられるよう引き続き取り組んでまいります。

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