社会福祉法人佐用福祉会相談支援事業所すまいる 相談支援専門員
尾﨑亮太(おさきりょうた)
佐用町は兵庫県西部に位置し、岡山県美作市(みまさかし)との県境に接する町です。北部にある日名倉山(ひなくらやま)など600m以上の山々がそびえ、北から南へ千種川水系が貫流しており、自然豊かな町です。推計人口約15,000人で、近年は減少傾向にあります。
昭和57年に社会福祉法人佐用福祉会として創立し、同年に知的障害者通所更生施設いちょう園を開設しました。現在は障害者支援施設いちょう園のほか、同法人内には、グループホームたんぽぽ、相談支援事業所すまいる、地域活動支援センターあさぎり作業所、就労継続支援事業B型ふれっしゅを設置し運営しています。
各地で超高齢社会が進行する中、佐用町においても高齢化とともに障害の重度化の増加もあって、地域で暮らし続けていくことが困難な方が年々増えつつあります。地域で何らかの障害や生きにくさを抱えておられる方が、“親亡き後”も地域で安心して継続的に生活していけるために、緊急時には相談ができ、必要に応じて緊急的な対応が取れるように体制を整えていくことは、今後のさらなる高齢化、重度化を迎えることが想定される我が町を見据えると、拠点事業の設置は大変重要であると考えていました。
そんな中、佐用町においての拠点事業整備については、平成29年度の障害者福祉計画策定時に、地域生活支援拠点整備に関するアンケートを基にニーズ把握を行った後、佐用町民生委員連絡会、障害者施設等連絡会、相談支援連絡会等にて、事業の周知や協力の呼びかけを行ってきました。また緊急対応可能な体制づくり、運用にかかるシステムの構築の後、平成30年度より、社会福祉法人佐用福祉会相談支援事業所すまいる(※)が、佐用町の依頼によって地域生活支援拠点事業を受け、事業をスタートする運びとなりました。
佐用町では面的整備型を軸に地域生活支援拠点事業を展開しています。それぞれの整備状況をご紹介します。
相談支援事業所すまいるが、同法人内の障害者支援施設いちょう園をバックアップ機能としてもち、夜間、休日でも相談対応(24時間対応)ができるように体制を整えています。
拠点事業は登録制で、令和5年9月現在、町内在住の22名の方が地域生活支援拠点事業に登録しています。登録者一人ひとりに対してアセスメントを実施し、その後に支援プランシートを作成します。すぐにはサービスに繋がらないケースに対しても、定期的(半年から1年ごと)な訪問や面談にて状況を把握し、関係機関ともその都度、情報共有を行っています。
拠点事業に登録後、家族と同居している生活から、家族から自立して生活する体験(施設入所、短期入所、日中一時支援、グループホーム、日中活動系)ができるように対象者へご案内し、より良い自立生活に向けたサポートを実施しています。そうすることで、緊急時にも体験利用を通じて慣れ親しんだ事業所へ、スムーズに繋がることが可能になります。
登録者には平時より定期的な面談にて、生活状況、身体状況等を把握し、関係機関とも情報共有しておくことで、緊急時(家族等、身近な支援者が不在で、自宅で一人で生活できなくなった)等、生活状況の変化に応じてスムーズに態勢が整えられるようにします。実際に、緊急的な受け入れ対応が想定される場合、予め短期入所等の受給者証を用意しておきます。事前に当事者の情報を各施設へ提供し、事業所見学も済ませておきます。緊急時には空き状況を見て各事業所に対応を依頼します。
地域の実情に応じた佐用町独自の体制の整備を目指して、地域自立支援協議会や小中学校発達児相談連絡会、介護支援専門員研修等への参加を通じて、関係機関と連携を図りながら、地域のネットワークを構築していく機能を整えています。また専門的人材の確保・育成するための研修会や意見交換会を実施しています。
図 佐用町地域生活支援拠点事業パンフレット・登録用紙
(拡大図・テキスト)
佐用町に地域生活支援拠点事業が設置されてから約5年が経過しましたが、緊急時の対応等、現段階においての実例数は少なく、登録者の経過観察や状況把握に留まっているのが現状です。また実例が少ないことで、実際の有事の際には、どのあたりまで緊急的な対応が可能なのか、また迅速に対応できるのか等、未知数な部分も多々あります。そのため、有事を想定した福祉サービス等の事前の準備がとても大切になってきます。またそこには、受け皿となる町内の各事業所の協力体制が必要不可欠になりますが、各事業所との連携体制の構築という面において、まだまだ各事業所に地域生活支援拠点事業が浸透していない部分があり、事業の周知やさらなる関係機関との連携体制の強化を急いでいく必要があります。
佐用町は小規模な町であるため、各種福祉サービスや社会資源に限りがあります。しかし、相談員の私自身が佐用町に住んでいると、地域の中で田舎ならではの人と人との繋がりの深さや、温かみのあるコミュニティを強く実感させられる場面が多々あります。日ごろより、各地区の民生委員さんの存在や近所にお住いの方々が、身体の不自由な方や一人暮らしの方に対して「元気にしているかな?」「食事には困っていないかな?」「今日は仕事にちゃんと行っているかな?」等と、温かく見守り、気にかけてくださる姿をよく目にします。“困っている人を地域で見守る”“何かの時には皆で支え合う”等、地域の中で自然とできたサポート体制こそが、地域生活支援拠点の原点ともいえると思います。地域の方々の温かみのあるコミュニティと同じように、地域生活支援拠点事業においても、困っている方がいた時には皆で助け合う心を大切にし、福祉サービスの枠組みにとらわれないサポート体制を整えていく等、障害や生きにくさを感じている人々が安心した暮らしを続けていけるように、地域の皆さんが手をつなぎ、一体となったサポート体制を整えていくことが大切であると考えます。
※相談支援事業所すまいるは、佐用町からの委託を受けて、平成24年4月に開設しました。現在、相談支援専門員3名体制で、相談支援事業を行っています。知的障害、身体障害、精神障害の種別にかかわらず、児童から大人まで、障害のある方への自立支援を目的とした相談窓口として運営し、障害のある方はもちろん、家族や関係者などからさまざまな相談を受け付けています。