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コンピューター・プレイセンターで遊びましょう-コンピューター・プレイセンタープロジェクトに関する図書

ルンド市

こんなに小さな子ども達がコンピューターを利用できるのでしょうか?

 『障害を持ったこんなに小さな子ども達がどんな風にコンピューターを活用するのですか?』 これはルンドのコンピューター・プレイセンターの来館者達が訊ねる最も多い質問です。
 アン・トルードソンは我慢強く、重度の機能障害を持つ子ども達にとって自分で遊ぶことができ、目の前で起こっていることに対して何か影響を与えることができるのがどれほど大きな意味を持つのかを説明をします。また来館者に、何が起こっているのか理解できるような適度な難易度、ついていける適度な速度のプログラムを使って遊ぶことにより、知的障害を持つ子ども達がどれほど自尊心を育てていけるのかを話します。彼女は来館者達に、不安で常に過剰な反応を示す子ども達にとって、15分間じっと座って一つのことに集中していられることがどれほどの進歩か理解してほしいと望んでいます。
 アンの説明や情景描写を特に必要としているのは、機能障害を持つ子ども達と関ったことのない来館者達です。最近では看護やハビリテーション注釈1注1の現場や養護学校やデイケアセンターなどで働く人々は多少なりともコンピューターに携わっており、それが子ども達の学習や発達に大きな貢献ができることを知っています。特にそれを熟知しているのはルンドの養護学校の職員達です。アンはコンピューター・プレイセンターの業務を始める一年前、この学校でコンピューターに関するコンサルタントをしていました。職員達は相変わらずコンピューターやその学習に関しては、時折アンにアドバイスを頼んでいます。

ジュリアは自分でマウスを操作することができます

 現在までに約120人の子ども達が親達と共にコンピューター・プレイセンターに来館していますが、彼らにはセンターが何を提供できるのかなど説明する必要はありません。すでに知っているのですから。例えば3歳半のジュリアは自分でマウスを操作して、王子様とお姫様の物語を画面に呼び出すことができます。ジュリアと両親は去年の夏に一台のコンピューターをセンターから何ヶ月間か借りました。ジュリアはしばらくお父さんの膝に座って使い方を見ているうちに、自分で操作できるようになりました。
 今日はジュリアが新しいプログラムと、もう慣れているプログラムで遊ぶために家族中がヘール市からやってきています。
 ジュリアは他の子ども達と同じように“ヨークスと楽しく”(Kul med Jokus)というプログラムの中の物語が大好きです。このプログラムで遊んだ後、ジュリアはお父さんと射的ゲームをやりました。かなり難しいのですが、楽しめました。画面に自動演奏のギターが出てくると、ジュリアは喜んで『めえめえ白い羊さん』を歌いました。しかし次に別のゲームを試してみると、ジュリアは自分で矢印を移動することができませんでした。そこでまた別のゲームをしたいと言いました。
 能力的にハンディを負った子ども達がいかに果敢に取り組むのかを間のあたりにする時、アンは失敗を恐れてキーボード上のボタン1つさわるのもためらう多くの大人の来館者達と比べずにはいられません。
 しかしほとんどの親達は子ども達がコンピューターで楽しんでいるのを見たり、丸一日または幾夕かコンピューターの講習会に参加したり、同じような状況にいる他の親達に会ったりしているうちに慣れていくのです。ジュリアの両親はちょうどジュリアと自分達自身の為にコンピューターを買う決意をしたところでした。87家族中の35家族がコンピューター・プレイセンターからコンピューターを借りた結果、自分でコンピューターを買ったことがアンの出した記録から判ります。他の人々は半年以上もコンピューター・プレイセンターにある13台の貸し出し用機器の1台を借りるために順番待ちをしたり、ライオンズクラブやその他の基金にコンピューターを買う為の助成金を申請したりしています。

ダーイム、デュムレ、コンピューター・プレイセンター

 コンピューター・プレイセンターへの来館を望む人々は何ヶ月も待たなくてはなりません。ハビリテーション医師でコンピューター・プレイセンタープロジェクトリーダーのレイフ・クヌードセンは、さらに多くの子ども達を受け入れられるように職員を増やす為の経費を要請しています。しかし今のところ職員は専任の特殊教諭アン・トルードソンと、パートタイムで働く作業療法士レーナ・ホルマン-フェルトのみです。レーナはこの他の時間は視聴覚センター『ダーイム(DAHJM)』で働いています。ダーイムの意味は“コンピューターベースの補助器具”です。
 「地方自治体の社会福祉委員会はちょうど今、将来について話し合っています。私達はまだどの程度の資金が出るのか判りません。しかしこのコンピューター・プレイセンターがランスティング注釈2注2において存続をすることは知っています。これは私達がプロジェクトへの援助を受ける為に、ハンディキャップインスティテュートがつけた条件です。他のランスティングに住む親達も継続としてここに来ることができます。しかし私達は家族達がそんなに遠くまで来なくてもすむように、南スウェーデンにもっと多くのコンピューター・プレイセンターができることを望んでいます。私達が知る限りでは、ヴェクシェー、ハッセルホルム、シムリスハムンのハビリテーションセンターが独自のコンピューター・プレイセンターを立ち上げることを検討しています。」
 ルンドのコンピューター視聴覚センターは、国内で唯一児童と20歳以下の青少年を対象にしている機関です。コンピューター・プレイセンターが設立される2年前にはもう既に、来館する家族達にわずかながら遊びのプログラムを貸し出していました。それよりもさらに以前から彼らが利用してきた施設にデュムレがあります。デュムレ(DUMLE)とは『あなたは遊びによって発達します』の意味であり、そこでは科学技術とエレクトロニクスによってコミュニケーションと遊びとを一体化させることができます。デュムレではコミュニケーション障害を持つ子ども達が適した遊具を見つける助けが得られ、適切なコントローラーにその遊具を合わせて調整します。親達や教師たちはデュムレに来てクリックスイッチを作り、電池式の遊具にそれを合わせて調整する方法を学びます。
 コンピューター・プレイセンターはコンピューター視聴覚センターに属し、ダーイム及びデュムレと協力しあっています。その協力とは例えばダーイムがコンピューター・プレイセンターに来る重度の肢体不自由を持つ子どもの為に、その子に合わせたコントローラーを作成していることなどを意味します。
 まもなくコンピューター・プレイセンターはアンネトルプス地域にある再復興地域にダーイム、デュムレと共に移転します。アンネトルプにもハビリテーションセンター、児童向け補助器具センター、遊戯療法センター(Lekotek)があります。“ヴィッラン”(別荘の意味)はハビリテーションセンターの一部であり、ここに子ども達が来館して検査を受け、トレーニングを行います。毎週月曜日の午後は、ヴィッランにやってきた子ども達の為だけにコンピューター・プレイセンターが開館しています。 彼らのうち、プログラムを借りていきたい子ども達が来るのです。

新しいプログラムは常に必要です

 アン・トルードソンはルンドのコンピューター・プレイセンターの主任である他、コンピューターのプログラムを作成しています。彼女はあるレベルや目的に合ったプログラムがないと見てとるや(それはいつものことなのですが)、すぐに紙とペンを取り出し、アミーガやIBMに新しいプログラムを依頼するためにその概要を描き始めるのです。 『新しいプログラムは常に必要です。子ども達の必要性はそれぞれまったく違うのですから。それでなくともプログラムを借りていく子ども達は、多くの場合すでにあるものに飽きてしまっています。』
 アンはハンディキャップインスティテュートから資金援助を受けて9つのプログラムを作成しました。またコンピューター・プレイセンターで最もよく利用されている『ホークスポークス』プログラムと『もっと知ることができます』プログラムを作成したのも彼女です。アンは全ての絵を描き、そのサイズや色を指定した後、彼女が近年提携しているアマチュアプログラマーにその概要を渡すのです。  「私は若いコンピューターマニア達を頼りにしています。彼らは有能なアマチュアプログラマーです。私の協力者達の中で一番の若手は、この仕事を始めた時まだ16歳でした。彼は娘の友達で、家に来た時に私の仕事を見て、手伝いたいと申し出てくれたのです。何人かは子どもと一緒にここに来ているお母さん達を通して知り合いました。彼女達は、コンピューターに精通した10代の息子がいると話してくれたのです。
プログラマー達の何人かはここへ来て、子ども達がどのようにコンピューターを利用するのかを見学しています。少し前には一人の少年がきて、重度の肢体不自由児がコンピューターで作業をしている間、そばにいました。私は彼が興奮しているのが判りました。彼は後でこう言ったのです。『これはすごく不公平だよ。本当に』」
 アマチュアプログラマー達がここに来るのは良いことです。彼らが普段、最も興味を持つのはスピードのある暴力的なプログラムです。しかし子ども達が遊んでいるのを見るとアマチュアプログラマー達は優しい気持ちになり、ボールや、こんにちはと言うかわいいあひるやキリン達のプログラムを作成するのです。
 アンはプログラム中の教育的な構成は自分で決めますが、プログラマーが自分で思いついたことを提供する時もあります。『もっと知ることができます』プログラムの中で、隅にいて短い励ましのセリフを述べる小さな少年は、そのようにして加えられました。アンはこの小さなキャラクターが特に教育に良いとは思わず、最初は懐疑的でした。でも子ども達はこれが大好きなのです。

教育上よろしくないうさぎ

 「何が教育的であるにしろ、大事なのはバランスです。教育学的であることに偏って、退屈なものにしてはなりません。ある教師が、プログラム中で頭を岩の後ろから突き出して『ヤッホー』と叫ぶうさぎが教育上良くないと、電話してきたことがあります。うさぎはそんなことしません!と。でも私は青少年達がそのうさぎを見るために、しょっちゅうポインターを走らせるのを知っています。そこで私はこのプログラムを作成した少年に電話して、ヨーデルを歌うくまも登場させてくれるように言いました。  もしあるプログラムがただ教育的であるだけならば、それは非教育的ということになります。だって退屈ですからね。教育学はちょっとしたお楽しみと共にかわいらしい小袋に入れて、そっとしのばせておきましょう。」
 アンにはプログラムを作るときの、大まかな指針があります。その1つは、画面上に子ども達が理解できないものは現れないという指針です。  「『逃げるのをやめて、リターンして再び始めよう』という幼児向けプログラムがあるのですが、しかし子ども達には意味が理解できませんでした。そこで私は、ポインターを持っていけばプログラムから脱出できる停止マークを置きました。これなら大丈夫でした。このシンボルは子ども達もすぐに覚えることができました。」
 対象となる子ども達が視覚障害、発達障害、知覚障害、または注意欠陥症候群のどれであっても、良いプラグラムに必要な条件はほとんど同じです。それに加えて多くの子ども達は、これらの障害を複数持っているのです。彼らは強調した輪郭と背景色がはっきりしている絵を必要としています。たとえば黒い背景の中にある赤い絵はふさわしくありません。またこれらの絵にちぐはぐな部分があってはなりません。視覚障害を持つ子どもがこれらの絵をどのように理解するのかを、薄いプラスティックのケースを通して眺めてみることで把握することができます。
 子ども達が何かするとすぐに何らかの反応が起こります。たとえばクリックスウィッチを押すと、それによって何かが起こるんだと判るように、すぐに音が鳴るなどです。
 アンは常に新しいプログラムのアイデアを持っています。彼女は子ども達が好むのは何か、また足りないものは何なのかを見ているのです。アンは諸外国のプログラムを見てこれをどうやってスウェーデン語に直し、さらに改善できるか考えています。彼女はアメリカのプログラムには不明瞭な絵が頻繁に出てくると考えています。現在彼女は赤い小さな雌鳥の物語をベースにしたプログラムの作成を考え始めています。古くからある物語をベースにして作られたプログラムはまだそれほど多くありません。『3匹のくま』などは例外といえます。
 「物語はもっと必要です。子ども達は誰でも『ヨークスと楽しく』に出てくる物語が大好きです。このプログラムではこれから何が起こるのかを自分で決めることができるのです。私の物語にはもっと多くの選択肢とセリフを入れたいと思っています。そのためには大きなプログラム容量が必要なので、難しいのですが。」

若い女の子用の何か

 「私は個々の子ども達の必要性からインスピレーションを受けます。少し前、15歳位の少女が来館しました。彼女は重度の機能障害とLDを負っていました。彼女は簡単なコントローラーを必要としていました。しかし幼児向けのテディベアや人形がでてくるのではなく、音楽や少しクールなイラストが出てくるプログラムを望んでいました。車が出てくる大きな少年向けのプログラムはありますが、今のところ少女達向けのものはありません。しかし現在準備しています。」
 「音楽に関しては著作権侵害をしないように、充分に注意を払わなくてはなりません。私は常にトラッド注釈3注3なものだけを選ぶようにしています。」
 「またプログラムを作成する少年達に自分で作曲してもらうのも1つの方法です。一部の少年たちはそのようなことにも長けています。」
 ルンドのコンピューター・プレイセンターに来館する子ども達は、スコーネ県、ブレーキング県、ハッランド県の南部やスモーランド県などから来ています。約半数の子ども達がハビリテーションの職員が親達にコンピューター・プレイセンターの話をしたことから来館しています。スコーネ県とブレーキンゲ県の視覚障害者専門ソーシャルワーカーは弱視を負う子どもを持つ親達に広報しています。その他の人々はソールナ市のトムテブーダ盲学校や全国の弱視や全盲の人々の為の視聴覚センターを訪ねた時に、コンピューター・プレイセンターについて聞いています。
 「コンピューターを使った遊びは弱視の子ども達には役に立ちます。しかし全盲の子ども達にはそれほど意味がありません。何人かの親達には、コンピューターを用いた遊びは少なくとも当面はあなたのお子さんには向いていませんと言わなければならないようなこともありました。私もつらい気持ちになりました。これは何も見えない子ども達や原因と結果の関係をまだ判っていない子ども達に関していえることです。しかしこのような時には幸いにもデュムレを紹介することができます。デュムレなら自分で何かをすることができない子ども達にも、経験できるものがあります。」

いつも料金を取るわけではありません

 家族達がハビリテーションセンターに来館すると同時にコンピューター・プレイセンターに来る場合は、アンは入館料を取りません。ハビリテーション目的の来館は無料なのです。
 「彼らにプログラムやコンピューターを貸し出すときには料金を取らなくてはなりません。時には見ないふりをしたくなるのですが。しかしそれはある意味大変安い金額といえます。当館の一ヶ月のレンタル料金である150クローナは、一般企業が請求する料金一日分のほんの一部にすぎません。
それに私達は今まで親達に、破損時の修理料金やプログラム紛失時の弁償金を請求したことはありません。実際にはこれはかなりの金額に上るのですが。ですから弁償金の請求を始めたほうがいいのかもしれません。そうはいっても家族にMBD/DAMP注釈4注4の子どもがいる場合などは、コンピューターに責任を持つのは容易ではありません。異常に活発な6歳児が一人いたら、あたりのものは簡単に壊れてしまうでしょう。当館では一度、キーボードの底部が分解されて、プラスチックケースに入って返却されてきたことがあります。また一度などはある母親が、私達が貸し出したあるプログラムが彼女の家に隣接する森で見つかったと話してくれたことがあります。

幾つかの枠内にいるロビンフッド

 南スウェーデンに住む親達はライオンズクラブやその他の基金にコンピューターを買うための助成金を申請し、上手くいきました。少なくとも15家族が代金の全額か一部に値する助成金を受け取っています。これにはアンが一役買っています。彼女には親達が申請書を書くのを手伝う時間はありませんが、助成金を授与する団体から来る質問には喜んで返答し、コンピューター・プレイセンターや、いかにコンピューターを用いた遊びが子ども達にとって意味を持つかについて説明します。
 アンは幼稚園にコンピューターを贈るライオンズクラブのアドバイザーをしています。また外部でコンピューター・プレイセンターの業務について説明したり、どのように助成金を授与するべきか考えるライオンズクラブやその他の基金の責任者達の見学を受け入れたりしています。
 「コンピューターを支援器具として子ども達が受け取ることが困難になってしまった現在、ライオンズクラブやその他の基金の存在はありがたいですね。多くの親達が経済的に問題を抱えています。ですから私は自分の枠内においては、時折ロビンフッドを演じるのです。私は子ども達がコンピューターを利用して大喜びをしているのに、親達はコンピューターを買うことはできないような状況を見る度に助成金を申請するようにアドバイスするのです。またもし基金のマネージャーが電話で質問をしてきたら、私は経費全額をまかなう助成金を各家族に授与するようにアドバイスをするのです。

古いコンピューターはどうなるのでしょう?

 「時折私達の職場で、ウィンドウズが入っていない、または中古としての価値さえない等の理由で片隅に放り出されているようなコンピューターを見ると、これはどうなるのだろうと考えます。そのようなコンピューターは、機能障害を負っている為にコンピューターを必要としている子ども達にあげてください。彼らはウィンドウズプログラムによるスピードの速い機器はいらないのです。彼らが必要としているのはカラーモニターなのです!」


  • 注1: ハビリテーション
    病気や障害を受けた人に、機能を最大限に回復させるための医療的、心理的、社会的、職業的な処置をリハビリテーションと呼ぶのに対し、ハビリテーションとは生まれつきあるいは早期に障害を受け、機能の低下や損失のある人の、最大限の機能の働きと快適な精神的及び身体的状況の発達を全面的に促進させる事である。
  • 注2: ランスティング(landsting)
    とは日本の県に相当するスウェーデンの地方自治体の一つで、保健・医療サービスの供給を主な任務としている。その数は20。
  • 注3:トラッド
    伝統的。つまり著作権者や著作権を持つような遺族がいない作品を指す。
  • 注4:MBD/DAMP
      MBD(Minimal Brain Dysfnction) は微細脳機能障害、DAMP(Deficit in Attention, Motor control and Perception)は注意力、運動・認知障害。