音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

コンピューター・プレイセンターで遊びましょう-コンピューター・プレイセンタープロジェクトに関する図書

トムテブーダ学校の視聴覚センター

喜びを計ることはできません

 トムテブーダ学校の視聴覚センターには、ストックホルムコンピューター・プレイセンターの支部があります。視覚障害を持つ未就学児が対象です。この視聴覚センターは、視覚障害を持つ子ども達や青年達がスウェーデン全国から検査のためにやってくる場所です。未就学の子ども達はこのコンピューター・プレイセンターでイェニィ・ハンマルンドに会うことになります。イェニィ・ハンマルンドは長い間視覚障害を持つ子ども達の為に働いており、現在はトムテブーダ地域のコンピューター・プレイセンターの責任者です。彼女は週の労働時間のうち、10時間はカロリンスカのコンピューター・プレイセンターでソーシャルワーカーとして働いています。
 「コンピューターで遊んだりトレーニングしたりすることは、視覚障害を持つ子ども達にとっては大きな意味があります。彼らはその為に学校に行くのを心待ちにしているのです。」
イェニィは言います。
 「子ども達は最初の数年間でイラストを解釈するような能力を発達させていくのです。実はそれによって始めて、後の生涯に必要な視覚能力を発達させることができると言えるのです。長い間待たなければならないとなると、大事な時間を失ってしまうのです。」

コンピューターか滑り台か?

 カロリーンはかなり早いうちにコンピューター・プレイセンターに来るようになりました。彼女は3歳ですが、もうすでに何度か来館しています。カロリーンは重度の視覚障害を負っていますが、ちょうど色を覚えてきたところです。画面上でブロッブ達が様々な色の中に浮かび上がり動いていくと、彼女は少しの間は集中し、嬉しそうに「赤!」「青!」など声をあげました。その後イェニィとヘルパーのアグネータがもう少し続けるように頼んだため、彼女は上の空でそのまま座って二人に協力していました。しかしまもなく高いすからすべりおりると、ぼうっとしたまま「もういいわ 」と言いました。彼女の頭はすでに隣の部屋の滑り台にいっていたのです。
 「カロリーンがコンピューターで遊んでいられるのはわずかな時間になってきました。今最も動きが激しい時期にいるのですから。これは良い傾向なのです。滑り台も視覚の訓練になるのです。」
イェニィは言います。
 未就学児年齢において最もコンピュータープレイに向いているのは、4歳から6歳です。それ以前ですと、彼らには探索するべきことが山のようにありますし、動き回る必要があるのです。
 カロリーンは何度も滑り台を繰り返しました。一番上にいると床が見えないのですが、いつのまにか怖がらなくなりました。
 始めてコンピューターに向かった時、カロリーンが興味を持ったのは音声だけでした。彼女は画面のイラストにはなかなか気がつかなかったからです。
 イェニィが音声を消すと、カロリーンは画面を見つめてイラストを探し始めました。カロリーンに見ることができるのは、画面上を動いていくはっきりとしたイラストだけです。ラステンというプログラムに出てくる犬と猫を区別することは今でもできません。
 イェニイにとって大事なのは、子ども達のレベルを推し量って正しいプログラムを選ぶことです。彼女は常に子どもがイラストを目で追っているかどうか注意していなければなりません。もし子どもの前からイラストが消えてしまうと興味も失せてしまいます。またイェニィはすぐに別のゲームに切り替えられるように、プログラムをよく熟知していなければなりません。
 「先日3歳のグスターヴがここに来ました。私達は”ブロッブといないいないばあをしよう”で遊び、グスターヴはそれを大変面白がりました。そこで私は画面のキャラクターを2体に増やしてみたのですが、これがグスターヴには難しすぎました。私は彼の興味が失せないうちに、素早く元のブロッブに切り替えました。」

イラストは概念形成を助けます

「子ども達は自分の知らない細かな部分を探したりはしません。ですから視覚障害を持つ子ども達向けプログラムの条件は、視覚障害を後天的に負った大人向けのものよりもずっと難しいのです。大人は物がどのように見えるか知っていて、そこにあるはずの細部を探そうとします。視覚障害を持つ子どもにとってはイラストの解釈を学ぶのは大変難しいことなのです。イラストを解釈することは概念形成にとって大変重要です。しかし重度の視覚障害を持つ子ども達は家がどのように見えるものなのか、どうやって学ぶのでしょうか?例えば触って学ぶわけにはいかないでしょう。彼らは様々な家の絵を見て、だんだんに家のイラストと本物の家の関係性を理解していくしかありません。」

他の人々に会うことはアイデンティティを強めます

 視覚障害を持つ子ども達にとってコンピューター・プレイセンターは、社会としての機能も果たしています。例えば視覚障害を持つ6歳児達のあるグループは、自分達のヘルパーや視覚障害者専門ソーシャルワーカーも含めて定期的に会っています。彼らはただコンピューターの前に座っているばかりでなく、一緒に遊んだり運動したり、その他の様々な活動を行っています。
「弱視の子ども達は往々にして自分のアイデンティティを発見することが困難です。彼らは晴眼の人々の中でも視覚障害者の中にいても、仲間という意識を持つことができないからです。ですから彼らにとっては出会うということが大変重要なのです。
 多くの子ども達はティーンエイジャーになった時に困難を抱えます。そのような時に彼らは1人ではないと知っていることが大きな助けになるのです。」
子ども達はみんなで会う時に支援器具を試してみることができます。往々にして弱視の子ども達は支援器具を使うことに大変神経質です。彼らは恐らく大人達が「かわいそうに。拡大鏡を使わなければならないなんて!」と言うのを聞いているのでしょう。そして支援器具と名のつくものは全てマイナスのイメージになってしまっているのです。しかしコンピューターに関するものは全てプラスのイメージです!コンピューターを使うことはステータスなのです。それに加えてコンピューターは父親達をも惹きつけます。これは子ども達にとって大変良いことです。

最も惹きつけるのは音と動きです

 イェニィがよく気がつくのは、子どもの為にあるコンピューター・プレイセンターが、子ども達と親達双方にとって大きな意味を持つということです。親達は自分の4歳か5歳の子ども達が座ってマウスを動かし、自分でプログラムをコントロールしているのを見ると感心し、誇らしく思います。それによって子ども達も自尊心を持つことができるのです。
 今日では視覚障害のある子ども達はほとんど、中学校に行くとコンピューターの支給を受けることができます。しかしそれよりも前の年齢においても、コンピューターは大きな利用価値があります。イェニィはトムテブーダ地域にコンピューター・プレイセンター支部ができるよりも前に、すでにコンピューターを用いて働いていました。彼女は1年間、視覚障害を持つ子ども達にコンピューターの支援を与えるというプロジェクトに加わっていました。2歳から6歳までの子ども達、全部で32人がマッキントッシュ用に作成された新しいプログラムを試してみました。ウプサラにあるフォルケベルナドッテヘンメットの肢体不自由児達と、ウーメオにある訓練学校の発達障害の子ども達も、同時にこのプログラムを試しました。
 「視覚障害を持つ子ども達はみんなこの遊びを楽しみ、終わった時にはもっと続けたがりました。子ども達を最も惹きつけたのは画面上の音声と動きでした。私達は画面上にある顔が大きくアップされるプログラムを持っているのですが、子ども達はそれに魅了されてしまいます。彼らは長い間口や目の動きを眺め、怒った人の口はどのように見えるのか覚えたり、涙が頬の下のほうへ流れていくのを面白がったりするのです。その後多くの視覚障害を持つ子どもにとっては通常はぼんやりとしか把握できないような、手振り身振りについてさかんに話し合うのです。」
 ほとんどの場合最年少の子ども達はプログラムの中で起こる出来事の経過は判りませんが、それでも興味を持って見ていました。4歳になると、子ども達は全て理解しコンピューターの扱い方をすばやく身につけます。
 視覚障害を持つ子ども達に適合するプログラム構成については、イェニィは豊かな経験をつんでいます。最も重要なのは色彩、形状、コントラストがはっきりしていることです。彼女は多くのプログラムの作成に関わり、現在は他国の視覚障害を持つ子ども達が自分とアニータ・ヒルデンのプログラム”ラステン”を使えるように、マニュアルを英語に翻訳しているところです。イェニィは国内のコンピューター・プレイセンターを全て訪ねて視覚障害を持つ子ども達に携わる職員の指導をし、また国内の30人の視覚障害者専門ソーシャルワーカーにコンピューター・プレイセンターが視覚障害を持つ子ども達にとってどんな意味を持つのかを話しています。

喜びをはかることなどできません

「以前のプロジェクトにおいても現在のコンピューター・プレイセンターにおいても私は大喜びでコンピュータープレイをする子ども達を毎日見ています。私は子ども達にどのような利点があるかということは言えません。調査グループがあるわけではないのですから。それに喜びを計ることなどできません。しかし子ども達が楽しみながら人間として成長していき、その友人達が彼(彼女)に感心し、親達が嬉しそうにしているのを見ると、統計などどうでもよくなります!」