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教科書提供の成果と課題

野村 美佐子(公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会 情報センター長)

スライド1
(スライド1の内容)

こんにちは。情報センターの野村と申します。よろしくお願いします。この時間が始まる前に、10時からDAISY製作団体のネットワーク会議がございまして、その後すぐにという形でこのシンポジウムを始めさせていただいています。うまくお話ができるかどうかわかりませんが、このDAISY教科書提供事業について、成果と課題についてある程度まとめた話ができればいいなと思っております。

DAISYというのは、皆さん、初めてですか?そういう方がいらしたら、お手を挙げていただきたいんですけれども。ここではどういうものかという話はほとんどなしでいってしまうんですが、よろしいでしょうか?私どもリハビリテーション協会のスタッフが簡単なデモ等をしておりますので、後でそちらで見ていただければと思います。

DAISY教科書と言いますと、どうしても著作権法に関わってしまうというところがございます。すでに何回かセミナー、シンポジウム等でお話ししておりますけれども、2008年9月に「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書の普及の促進等に関する法律」と、著作権法33条2の改正の中でDAISY教科書の提供が始まった経緯がございます。そしてその施行規定の中にありますように、教科書出版会社からのデータ提供が始まりました。2010年1月には、著作権法第37条改正の施行により、マルチメディアDAISY教科書等を発達障害等のニーズに合わせた形式での、複製・自動公衆送信が可能となったわけです。しかし、第37条3項の、私どもは最初は政令指定を受けていませんでしたが、その後、政令指定を受けて、2010年10月、DAISY教科書のダウンロードが始まっております。

スライド2
(スライド2の内容)

そして提供方法についてはいつも問題になっているところですが、対象が通常の教科書が読めない児童生徒のみでしたが、2010年5月には多少変わってきたことがあります。提供者の在籍学年よりも下の学年のDAISY教科書の利用することが可能であるとか、担当する先生も利用が可能となったことです。また通常の教科書の読めない児童・生徒がパソコンを使用してDAISY教科書を使う場合、必要に応じて一斉授業でも利用可能になったことです。

スライド3
(スライド3の内容)

そしてネット配信の許可も、先ほど申し上げましたように2010年10月から許可を受けることができたわけです。そして最近では、公共図書館や学校図書館が自分たちでDAISY教科書を貸し出しができないかとか、教育委員会がDAISY教科書を先生に閲覧させられないかとか、提供できないかという問い合わせがきたことをきっかけに、文科省や著作権課等とその可能性について話し合いを進めておりました。その結果、教育委員会、学校図書館、公共図書館においてもその先生の先にある利用者がいる場合、私どもから提供を受けて、利用者がいる先生に閲覧をしてもらうこと、あるいはそのまま提供できるということが確認できました。このことは、公共図書館、学校図書館、教育委員会、教育サポートセンターなどでDAISY教科書の普及の一環をなしていただけるのではないかと嬉しく思っております。

次に、DAISY教科書提供事業の現況についてお話します。2012年2月で1,109名の利用者がおります。ただし昨年の4月に申請した方は200名程度でした。それからかなり注目されてきて、新しい利用申請者が多くなっていったのではないかと思います。利用者の障害と在籍学級については、後で配布しました資料を見ていただければと思います。さまざまな障害の方がいます。特別支援学級、特別支援学校普通学級、普通学級に在籍する特別支援教育の範囲の中にいる児童・生徒がおります。

スライド4
(スライド4の内容)

DAISY教科書がどのように使用されているかというと、通級における個別学習、家庭学習、通常の学級、そしてテストの準備等で利用されております。

DAISY教科書製作を行っているのがDAISY製作団体ネットワークの方々で、その団体数は少しずつ増えております。ただ、まだまだボランティアが足りないということがありまして、ぜひ、ITが得意であるという方々はネットワークに参加いただければと思います。今のところは団体としての参加をいただいています。

スライド5
(スライド5の内容)

2012年1月に、せっかく利用者が1,109名になりましたので、利用者の保護者や先生に対してアンケートをさせていただきました。皆さんのお手元に「平成23年度マルチメディアDAISY教科書アンケート」という資料がございますので見ていただければと思います。

通級指導教室の先生がひとりの生徒だけではなく、例えば1年から6年の特別支援教育が必要な児童生徒を抱えている先生もいるので、実際のアンケートの送付数は、約600通ですが、回収した数は214通でした。その結果の詳細は資料を見ていただければと思います。例えば都道府県でどの県が特に多いかが、また学年別ではどうなっているかの詳細を見ることができます。

また学年別で多いのは小学校3年生、4年生、5年生に多いことがわかるかと思いますが、このことはこの時期に読みに困難であるとか、なかなかついていけないとか、そういったことがわかる時期であることを示唆しているように思います。

中学生も利用者にいるのですが、彼らが「じゃあDAISY教科書をやります。」という結果になったかどうかについては、資料の後ろに逆に使用されなかった児童生徒の人数がありますので見ていただければと思います。使用しなかったという児童生徒が、実は43名もおります。例えばどういったことが原因なのかというと、本人が全く興味を示さないとか、無料の再生ソフトのインストールができなかったとか、本人が使用方法がわからなかったとか。もちろん障害の特性とか通級の時間が少なく使用できなかったとか、いろいろ見ていただければわかると思います。このことは、DAISY教科書の使用した期間が少ないということにも関係してくると思います。どのくらい使用していますかというアンケートで一番多いのは実は「半年未満」の方なんですね。半年未満で結果が出ることは難しいのではないかと思われます。

さっき申し上げた利用しなかった43名の中には、「来年もDAISY教科書を希望されますか?」という質問に対して希望する者が29名いまして、今回活用できなかったがまだまだその可能性はあると考えているのではないかと思います。

次に、どのような効果があったかということについてお話します。結果について、「大いにそう思う」、「ややそう思う」という割合を調べました。去年も同じようなアンケートをさせてもらいましたが、「読みがスムーズになった」、「読むスピードが適度なスピードになった」とか、「文節の区切りが上手になった」、「読むことに関心・興味が出てきた」、「読むことへの抵抗感、苦手感、心理的負担が減った」、「授業での発表の機会が増えた」、「授業に自信を持って取り組むようになった」、「文章の理解度がよくなった」、という内容について50パーセント以上の方が「大いにそう思う。」と「ややそう思う。」と回答されたわけです。詳細については、皆さまゆっくりと見ていただいて質問などあれば後でお受けしたいと思います。

スライド6
(スライド6の内容)

2011年4月28日に「教育の情報化ビジョン」という文書が文科省から出されております。その中に特別支援教育における情報通信技術の活用について記述があります。その中に、「デジタル教科書教材については、障害の状態や特性等に応じたさまざまな機能のアプリケーションの開発が必要である」、また、「情報端末等については特別な支援を必要とする子どもたちにとっての基本的アクセシビリティを保障できることが必要である」、「今後デジタル教科書や情報端末等を活用した実証研究を行い、その整備を図る際には障害の状態や特性に応じて、例えば、次の図表のような配慮や付与を行うことが期待される」と記述されております。ここの注のところには、私ども日本障害者リハビリテーション協会が関連する研究をしているということも書かれております。障害の状態や特性に応じた有効な機能というのは、ここを読み進めていくと、DAISYの機能とダブってくるのではないかと思います。例えば、背景色・文字色を調整する機能とか、文字の拡大、フォントの変更及びそれに伴い行間を拡大する機能、文字にふりがな、それから文節や単語を区切る機能、文字に動画や静止画・音声を関連づけられる機能です。動画についてまだこれからサポートしていくという状況にございますけれども、DAISYの機能にかぶっていると思いました。

スライド7
(スライド7の内容)

スライド8
(スライド8の内容)

次に文部科学省からの「デジタル教科書の在り方」に関する研究委託事業についてお話をしたいと思います。この事業についてはすでに最終報告書が文科省のウェブサイトに掲載されております。委託内容は、教科用特定図書等の機能とコストについて、教科用特定図書等の効果的な指導方法と教育効果について、通常の学級で使用する際の活用方法と配慮事項について平成21年度と22年度の2年間、実証研究を行いました。その結果として、次のような成果がでました。「家庭学習・通級の適切な支援があれば学習意欲の向上や、進路希望を持つなど自尊意識の回復、読書を楽しむ効果があった。」ということです。通級指導と通常学級の先生の連携による一斉授業でのDAISY教科書の使用により、対象児童のクラス参加が自信を持って可能になったということもありました。その児童に対して試験問題もDAISY化をしまして、その結果を見ましたところ、通常では全くできない子が自力で回答できました。この詳細については、担当した先生が事例研究発表のなかで説明があります。また、DAISYと連携するEPUB化によるコストの削減の可能性については、河村宏さんの方からお話をいただけると思います。

スライド9
(スライド9の内容)

スライド10
(スライド10の内容)

ここからは、DAISY教科書提供事業の課題についてお話を進めたいと思います。

実は先ほどのデジタル教科書についての実証研究後、何らかの文科省のアクションが起きたということではございませんから、さらにデジタル教科書というものについて研究していくという方向に文科省はあるのかなと思っております。

デジタル教科書については、いろんな議論が出ております。「フューチャー・スクール・プロジェクト」というのもございますが、2015年までには教科書を全部デジタル教科書にしようという、日本としての展望はあるわけで、その展望を持ってプロジェクトが進められていると思います。

そういう状況の中で、このDAISY教科書提供事業は、国の財政的な支援がなく、ボランティアベースで行われております。このままボランティアでやっていていいのかなというふうに思うんですね。先ほど、ボランティアの方が欲しいんですと申し上げましたが、その一方では、やはりこういうことは国がすべきことではないかと思っております。

来年度においては、中学校の教科書の改訂があり、ボランティアの力では限界もあります。こういったところの支援がいただきたいこと。それから、マルチメディアDAISYの提供システムが確立していないことについても問題があります。拡大教科書は既にあります。しかしDAISY教科書については、法律では認められましたけれども、それに後押しをする予算がない状況がございます。

それから、まだまだ多くの人にDAISY教科書が認知されていないという課題があります。実際、教育委員会や特別支援学校等で研修会を何回もしておりますが、研修会の最初に、皆さん、DAISYを知ってますかと聞くと、「いいえ知りません」と答える方が多いです。

また必要なツールの開発に関する課題がございます。例えばこれからDAISY4とかEPUB3が世の中に出回ってきますが、それに関連するツールの開発が必要になってきています。

DAISYを使用する環境の問題もあります。先ほどのアンケートにもありましたが、利用者が使用しているパソコンは、自分のパソコンではなく、共有ですね。このパソコンの問題であるとか、iPadやiPhoneでもDAISYが再生できますが、誰が買ってくれるのかなどの問題があるかと思います。

さらに再生ソフトのインストールに制限がかかっていまして、この管理は教育委員会が行っているという問題があります。このような点については、学校がDAISY教科書の利用について教育委員会とどのような連携を取っていくかについて考えてもらわなければ解決ができないと思います。また先生に対する研修の必要性もあるかと思います。

外国でのDAISY教科書の提供に関する事例を見ていきますと米国のNIMASのシステムが非常に利用できるシステムではないかなと思っております。またブラジルでも北欧でも、教科書のDAISY化について国の支援があることを申し上げておきます。

最後にDAISY教科書提供事業の展望について申し上げたいとおもいます。国はデジタル教科書のアクセスビリティの保障として、DAISY教科書の普及に支援をいただきたいと思っております。また地方自治体に対する展望があります。たぶん、井上さんが後でお話しされると思いますが、マルチメディアDAISY教科書の普及の採択をしている地方自治体をGoogleのマップを使用してマッピングしていただいた井上さんの資料があります。この資料を使ってさらに採択する地方自治体が増えればと思っております。また教育委員会、学校図書館、公共図書館等も、必要な児童生徒に届くためにDAISY教科書の存在をぜひ広めていただきたいと思います。

それから教師に関する展望ですが。DAISY教科書を対象児童生徒に使うことにおいて重要な存在です。活用する工夫をしていただきたいと思います。

それから企業に対する展望は、きっと後で、一太郎、もしかしたらEPUBで使えるかもしれないという、楽しいお話を河村さんから聞くことができると思います。

それから何よりもDAISY教科書の利用者のニーズを大切にしていきたいという展望があります。そのためにも利用者の人たちが権利として大いに声を出してほしいという思いがあり、次に利用者の親の代表として山中香奈さんにお話をお願いしております。

ご清聴ありがとうございました。