音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

平成20年度 DAISYを中心としたディスレクシアキャンペーン事業
~DAISY教科書提供体制の確立を目指して~

パネルディスカッション 「DAISY教科書提供体制の確立を目指して」

井上芳郎氏の写真

指定討論者:井上芳郎(NPO法人全国LD親の会)

河村●
それでは前置きが長くなりまして恐縮ですが、ここでNPO法人 全国LD親の会の井上さんよりお話しいただきます。著作権問題については、この10年近く、障害者放送協議会の著作権委員会の委員長として、大変難しい中を粘り強く折衝されて、ここにいよいよ最後の成果を見ようとしています。その状況についてご発表いただきたいと思います。

井上●
今ご紹介いただきました井上です。よろしくお願いいたします。座ってお話しさせていただきます。パワーポイントの画面を、大きく印刷していただきましたので、これをご覧いただきながらお聞きください。

教科書のバリアフリー化と著作権法改正

(資料1 説明)

ご紹介いただきましたように、障害者放送協議会の著作権委員会委員長をさせていただいています。実は私は2代目となります。初代はこちらの河村さんです。今年で足かけ10年目ということになりました。資料に、ダイジェストということで、この10年間の取り組みの経緯をまとめておきました。

「教科書バリアフリー化」の取り組み

(資料2 説明)

10年前に河村さんに呼ばれて説明を受けるまで、どうして著作権法という法律が、いわゆる学習障害、LDと関係してくるのか、実は不勉強でまったく知らなかったのです。教科書や、もちろん教科書に限らず、障害のあるなしに関わらず、すべての人が著作物を享受できる、要するに読めるようにするのに、この著作権法という法律が、実はバリア、障壁になっているという話をはじめて聞きました。今から10年前と言いますと、やっと学習障害、LDの定義であるとか、学校教育の中でどういうふうに指導していくとか、そのような方針がやっと文科省から出始めたころでした。

それでも1999年12月に著作権審議会の報告書がまとめられましたが、これに向けて要望を上げ、意見をいろいろ述べた結果、この報告書の中に「学習障害者等に対し云々」という文言だけは、この早い段階で入れていただけたのでした。ところがその後5~6年ほどは、ほとんど進展がありませんでした。その後の取り組みにより2007年5月と7月に、文化審議会の著作権分科会の法制問題小委員会などで、意見を述べる機会が与えられました。誰もが使える教科書、つまりバリアフリー化された教科書を作ろうとすると、著作権法がバリアになっていること。そういうお話をしまして、これはもう早急に対処すべきである、という要望をいたしました。

法制問題小委員会の委員の先生方も、大方ではそうだということで同意をいただき、「中間まとめ」という最終報告の前段階のものが出ました。資料の後ろのほうに、平成21年1月付けの最終報告書がありますけれど、これと基本的には大きく変わらない内容で、もう結論は出ておりました。これは去年、1年前のことですね。ところが諸般の事情で、この最終報告のとりまとめが先延ばしされてしまいましたが、やっとこの間、最終報告の形となり、結論として確定したわけであります。

この最終報告書の36ページのところを見ますと、権利制限の見直しということが書かれています。権利制限というのは、要するに著作権者の権利を一部制限するということです。例えば一定の条件が整えば、著作権者の許諾なしに教科書をDAISY方式で複製できるというようなことです。最後のところ、ちょっと読みますと、「障害者の著作物利用に関わる権利制限(第2節)のように、社会的要請の強い項目が含まれており、このような項目については早急に実施に移すべきである」と、そういうふうに書き込まれております。これは正式に決まった話ではないですが、この最終報告を受けて現在開会中の国会へ、3月はじめごろ著作権法改正案というのが出されるとも聞いています。

「教科書バリアフリー法」までの道のり

(資料3 説明)

この改正に先行して、先程来お話がありました、いわゆる「教科書バリアフリー法」が昨年9月から施行され、それにともなって、著作権法33条の2が改正されました。この改正では文科省検定教科書に限り、だれでもが著作権者の許諾なく、その児童・生徒が必要な方式により複製できるとなったわけです。もちろんDAISY方式での複製も含まれます。しかしながら、検定教科書以外の一般図書については適用されないのです。

障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律

(資料4 説明)

著作権法第33条の2

(資料5 説明)

著作権法の一部を改正する法律案とありますが、今回は非常に大幅な改正になりそうです。著作権法の歴史の中でも、とても大きな改正だろうと思います。ただ残念ながら、従来の著作権法の枠内での改正ですので、どうしても障害者種別的なにおいがまだ残っております。予想される改正内容ということすが、これは著作権課のほうから具体的に示されたものではなく、私どもの委員会のほうで、報告書の内容を著作権課とのやり取りを通して解釈したものですので、そのへんはご注意いただきたいのです。

障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律案に対する附帯決議

(資料6 説明)

著作権法の一部を改正する法律案

(資料7 説明)

著作権法第37条では、点字図書館その他で、専ら視覚障害の方ですね、「専ら」とついていますが、その方たちのために録音図書を作成しこれを貸し出せる。あるいはインターネットを使って送信できる。これも私ども障害者放送協議会などでずっと要望してきたことで、すでに解決済みのことですが、例えばここの「専ら視覚障害者」というのを範囲拡大してほしいということ。それから「貸出し」だけではなくて、例えば自分が買った本なのに、それを音訳してもらって、音訳したものは「貸出し」というのはおかしいですから、一部譲渡もできないかということを要望しています。

著作権法 第37条3項(現行)

(資料8 説明)

それから「びぶりおネット」という名前で、ご存じの方も多いと思いますが、現在は視覚障害の方専用のサービスで、いわゆる録音図書の音声データをインターネットで配信するサービスがあります。例えば携帯電話などからそのサイトに入っていただき利用できるものです。ただしID登録とパスワードは必要です。法改正により例えばディスレクシアの方にも、このサービスが使えるようになる。これ以外にも細かいところでいろいろ改善される見通しですけれども、著作権課などと折衝しているところです。

つい最近の1月中旬ごろの折衝で、著作権課の担当者と話をしていると、やはりディスレクシアについては、すっきりご理解していただけない部分がどうもあるようでした。著作権法で「ディスレクシアとは云々」とされると、対象者を狭く限定されるおそれがあります。そういう定義を書くのではなく、先ほどの33条の2にありますように、例えば「通常の教科書で学習ができない児童生徒のために必要な方式で複製できる」、というふうな書きぶりでやってほしいと要望しているところです。

それから、法律が改正された後、実際に運用していく際に、著作権法というのは施行令というのがありまして、非常に細かいところまで定めていくので、またいろいろ折衝していく必要があると思っています。

いろいろ紆余曲折ありましたが、著作権法などの法律的な問題については、おかげさまで光が見えてきました。解決の見通しが見えてきたと思います。これからの課題は、DAISY図書、もちろん教科書を含めたものを普及させるための、条件整備だろうと思います。限られた財源や人的資源の中でやっていくということになるのでしょうが、やはりデジタル化されているというメリットを最大限生かす必要があると思います。

DAISY図書提供のための条件整備

(資料9 説明)

米国では既に、資料にありますようにNIMAC(ナイマック)という組織がやっているようなことです。まさにデジタル化技術やネットワーク技術を活用していくことで、人的なもの、財源的なものを節約していけるのではないかと思っています。そしてデジタルデータで提供された教材等を一人一人の児童生徒、あるいは学校卒業後の方にも、それぞれ個別に一番フィットした形式でのDAISY図書が提供できると良いと思います。

NIMAC

Sample NIMAS Workflow

本来は、すべての著作物がはじめからバリアフリーな形で提供されているのが理想ですが、なかなかそうもいきません。著作権法が改正されていけば、少なくとも法律が邪魔することはなくなってくると思いますし、そうならねばならないと思います。

ちょっと時間を超過いたしました。以上であります。

社団法人 教科書協会 各種届出・申請書のウェブページ

河村●
井上さん、ありがとうございました。