講演2「教育コンテンツの提供―今日、明日、そして未来」

ベネテック/ブックシェア グローバル・リテラシー・プログラム統括責任者、アメリカ
ブラッド・ターナー

ブラッド氏

ブラッド・ターナーと申します。グローバル・リテラシーをベネテックで運営しています。私の組織で最大のプログラムがブックシェアというものです。本プレゼンテーションの中では、ブックシェアとDIAGRAMセンターについてお話ししたいと思います。

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DIAGRAMセンターというのは、テキストを超えた教材を提供するためのものです。また、我々がボーン・アクセシブル(Born Accessible)と呼んでいる、最初からアクセシビリティを確保するために何ができるかという取り組みについてもお話ししたいと思います。

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ブックシェアというのは、プリントディスアビリティのある方々のための世界最大のオンライン電子図書館です。視覚障害もしくはディスレクシア、もしくはモビリティ障害があって、本を持ったり、ページをめくることができないような方、すべてに提供しています。約50万タイトルのアクセシブルな電子書籍を提供しており、世界各国の800以上の出版社とパートナーシップを組んでいますので、Amazonと同じタイミングで我々はアクセシブルな本を提供することが可能です。

マーティンさんからお話がありましたが、プリントディスアビリティのある方がない方と同じタイミングで、同じ本を入手できるというのが、とても重要だと考えています。違いがあってはならないのです。

我々はウェブサービスを提供していますので、閲覧ツール、リーディング・ツールのパートナーがたくさんいます。iOS上、Android上、PCのブラウザベース、さまざまな閲覧用のツールがあります。ですから読者の方がそれぞれ自分に合ったツールを選択できます。また、支援テクノロジーに関してもさまざまな専門のデバイス・メーカーと協力しています。

当然、ブックシェアやデディコンのようなサービスというのは、365日24時間、本へのアクセスを可能にしています。ある学生が例えば月曜日の試験の準備をしていると考えましょう。例えば私の子どもと同じであれば、月曜日にテストがあったとしたら日曜日の夜に準備を始め、ますが、必要なマテリアルを日曜日の夜に確保できる、必要なときにいつでも手に入るということです。

我々は25言語に対応しています。また70か国に読者がいます。ありとあらゆる本がありますが、マーティンさんも言っていたように、そのうちの多くは小説や文学です。約50万の作品の中で約2万タイトルが教科書です。科学、数学、工学、化学、生物、そのような教科書が約2万タイトルあります。

ブックシェアを最初に始めた15年前、電子書籍を中心的なフォーマットにしようと決めました。電子書籍ですと、例えばオーディオ、大活字、もしくは点字に変換することが可能です。ブックシェアから点字の本が必要という場合には50万の選択肢があります。オーディオブックに関しても同様です。また、テキストと音声が同期する形での読書、これも50万作品提供しています。つまり、すべてが電子書籍からの変換だから可能なのです。これが一番重要なのです。

我々は米国教育省からの助成金で賄われています。そして、国内の資格のある学生はすべてブックシェアに無料でアクセスすることができ、現在42万人以上の学生メンバーが我々の本を活用しています。その結果、既に1,000万のダウンロードが行われています。毎年170万ほどのダウンロードがあります。

これがブックシェアです。主に米国の学生向けの、学校教育のための図書館ですが、国際的に展開していますし、多言語展開もしています。

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こちらがブックシェア・ウェブリーダーという読書用ツールのスクリーンショットです。読み上げと同時に文字がハイライトされていきます。つまり、読み上げられると、ハイライトも移動します。これはディスレクシアの学生に最適です。彼らは言葉を解釈することができませんが、言葉を見ると同時に聞くことはできます。デディコン同様、我々のメンバーの約85%がディスレクシアです。約15%はモビリティ障害もしくは視覚障害がありますので、大部分の方は、この技術を利用するのです。読み上げられた段階で単語がハイライトされ、スクロールされます。

ちなみにこちらは「ハリー・ポッター」です。画像はありません。ウェブリーダーが読み上げてくれます。これは我々にとって比較的簡単です。しかし、高校の生物もしくは大学レベルの化学となると画像、数学、ビデオ、3D印刷を使うようなインタラクティブ、ゲーム、VR仮想現実、こういったものが極めて困難になってきます。

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例えばDNA。どのようにこの画像を説明することができるでしょうか。教科書の画像が見えない方に対してです。我々のDIAGRAMセンターは科学、テクノロジー、工学、美術、そして数学をアクセシブルにしています。つまりテキスト以外のもの、これをさまざまな形で行っています。

まず出版社にツールを提供しています。アクセシビリティのためのツール、それからトレーニング、また出版社の出版プロセスの改善もサポートしています。そしてリサーチとデザインを通じてアクセシビリティを高めようとしています。例えば、インターネットのページにスライダー・バーがありますよね。そのバーを使って右から左に移すとか画面をスクロールすることがあります。それを目の見えない状態でスクロールするのはとても難しいです。もしくは、例えばこの画像をパズルの中にドラッグ&ドロップする、これも目を閉じてできることではありません。こういったことをよりアクセシブルにするにはどうしたらいいか。これをDIAGRAMセンターは行っています。

また、コンテンツに関しても多様なフォーマットで展開しています。すべてのイメージを説明する必要があるのか、記述する必要があるのか、ビデオについてはどうするべきか。例えばハーバード大学は世界で最も有名な大学の1つですが、そこではビデオを8万時間分作成したけれども、それがアクセシブルでなかった。つまり字幕がついていなかったので、アクセシブルでない。その結果、彼らはその8万時間分のビデオを提供することを中止しなくてはいけませんでした。というのも、アメリカの法律では公開するものは、アクセシブルでなくてはいけないからです。このようなコンテンツの公開を取りやめないですむよう、アクセシブルにするにはどうしたらよいか。ハーバード大学が作成した8万時間分のビデオというのは当然、極めて有用なものです。多くの大学が同じようなことで苦しんでいます。

また、プリントディスアビリティ以外の障害についても考えています。先ほど聴覚障害について質問をいただきましたが、自閉症について、もしくは知的障害についてはどうでしょうか。DAISYコンソーシアムのメンバーが開発しているツールの中には、例えば聴覚障害者の方は想定していないものもあります。クローズド・キャプションを利用するのはどうだろうか。もしくは聴覚も視覚も障害がある方に対しては何ができるか。常に課題はつきまといます。DIAGRAMセンターとしてもテキストをアクセシブルにするために、非常に先進的な考えをもって活動しています。

もう1つ我々が行っていることとしては、早い段階からの学習です。米国ではディスレクシアの診断が出るのが大体6歳~7歳。もしくは8歳、場合によっては10歳、12歳、15歳となります。しかし例えば3歳、4歳でディスレクシアがあることが診断できればどうなるでしょうか。そしできれば、我々のツールを幼い頃から使ってクラスメイトと一緒に勉強することが可能になります。

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こちらはDIAGRAMセンターが現在行っている具体的な取り組みです。1つはリポジトリです。よく使われるイメージや説明をここで保管しています。例えば私が本を読んでいて、「モナ・リザ」というとても有名な絵画に、レオナルド・ダ・ビンチの絵画です、といった一文があったとしましょう。しかし、目が見えない方にとってはその絵画がどういったものか全くわかりませんので、説明が必要になります。「モナ・リザ」には、いろいろな説明の仕方があります。あるいは水素、ヘリウム、酸素、といった化学記号の周期表、これもまた100年間ずっと変わっていませんので、その説明を準備しておけばいいわけです。周期表に関しても、小学校向け、中学校向け、高校向け、大学向けと4つのタイプの説明を準備しておけば、それを自分の本に入れることが簡単にできます。そこで、よく使われるイメージのリポジトリを作っているのです。

また、マルチモダリティーにも取り組んでいます。例えば3Dのパターンとして、DNAの分子構造、二重らせんですね、これが印刷されていれば触覚で理解することが可能になります。

Math Support Finder(数学のサポート・ファインダー)というプロジェクトにも取り込んでいます。これは数学の表示を可能にするためのものです。数学は非常に難しいです。PCを使っているのか、Macを使っているのか、または携帯電話を使っているのか、何のOSを使っているのか、どのようなアプリ、ブラウザを使っているのかによって、数学をどのように表記すればいいのか。そのためのマトリックスを開発しています。

また、イメージの説明に関しては、いい方法と悪い方法がありますので、出版社に対して画像やイメージをどのように説明するか、トレーニングを行っています。先ほどスライダー・バーとか、ドラッグ&ドロップのお話をしましたが、出版社やウェブ開発者が使用できる、ウェブをよりアクセシブルにするためのコードの開発もしています。我々はDIAGRAMセンターを通して、出版社が本をよりアクセシブルにするための手助けをしているのです。

そして、ここでボーン・アクセシブルのお話に移ります。

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我々の図書館は巨大です。50万の作品がありますが、出版社からこれらの本をすべて入手しています。1か月当たり1万作品ほど新しく提供を受けています。先ほどデディコンのマーティンさんのお話と同様に、我々は1つ1つ確認して、それをアクセシブルな形に変換しなくてはいけません。どうしてそのようなことをしなければならないのでしょう。なぜ出版社から提供された本を変換しなければならないのでしょうか。本をデジタルな形で作れるのであれば、なぜアクセシブルな形で作れないのでしょうか。つまりデジタルで製作されたマテリアルはすべて最初からアクセシブルであるべきだと考えています。これがボーン・アクセシブルのプロジェクトです。出版社が最初からアクセシブルな形で出版することを促進するのが我々の取り組みです。

ボーン・アクセシブルの取り組みの中でやっていることが2つあります。

まず1つは、DAISYコンソーシアムと協力し、アクセシビリティのための基準を作成しています。例えば出版社に対して「あなたの本はアクセシブルですか?」と言った場合、どう答えるでしょうか。「もちろんそうだ」と言うでしょう。しかしながら「それには代替テキストはついていますか?」と言うと「ノー」と言われます。「それではアクセシブルではありませんね」と言います。またほかの出版社にいって「あなたの本はアクセシブルですか?」と尋ねます。「もちろんそうです」とその出版社は答えます。「それでは代替テキストはありますか?」「はい、ありますよ」「それはすばらしいですね。それではその中に適切なナビゲーションは整っていますか?」と聞くと「それは一体何ですか?」と聞かれます。「それではあなたの本はアクセシブルではありませんね」ということになるわけです。

現在はこのアクセシビリティの定義というものがまだはっきりしていません。しかしながらこれからははっきりさせます。

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それでは、基本的なアクセシビリティのレベルというものはどういうものなのでしょうか。適切なナビゲーションがあるかどうか。適切なフォーマット化がされているか。そしてテキストはさまざまな大きさのスクリーンに示した場合、ちゃんと変わるかどうか。すなわちそのページの中の流れがちゃんとしているかどうかということです。また、必要としているすべての画像に代替テキストがあるかどうか。アクセシブルにするための条件がいろいろありますので、そのための基盤を整えようとしています。

しかしながら、これについて誰も知らないということであるならば、我々がやらなければいけないのは、それを認定していくということです。出版社が我々に本を送る。我々はその本を見てイエスかノーという判断する。そして我々がノーと言った場合には、その理由も出版社に伝えます。出版社はそれを直すか、あるいはほかの人に依頼して直してもらうか。そして我々の方にまた再び本を送る。そうすることで、最終的にはその本は認定されます。彼らは誇りに思うでしょうか? もちろんそう思います。なぜなら彼らはその本をより多くの場所で売ることができるようになり、より利潤を上げることができるからです。

このような認証を与えますとグローバルな規格ということになります。そしてこれを本のメタデータを通してプロモーションをすることができます。この認証は現在、準備中でありまして、今後数か月の間に立ち上げられることになります。

なぜこれがいかに重要なのかということをお話ししたいと思います。

大量に教科書を購入する人が、あるコンテンツを気に入りました。「これはアクセシブルですか?」と聞きますと出版社は「イエス」と答えます。出版社の最高経営責任者はその出版社のために利益を上げるというのが彼の責任です。アクセシビリティのために追加的な支出をするということになれば、今までより利益は減ります。その部分はわかります。しかし、この教科書の購入者が、「この本はアクセシブルであるとして認証されていますか?」と聞いて、それに対して出版社が「ノー」ということになると、ほかの出版社にいってしまうわけです。そうするとその出版社の部長はお金を失うことになる。それではこの人はどうすればいいでしょうか。アクセシブルな本を作ればいいのです。

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この試みのことを何と言うでしょうか。ボーン・アクセシブルです。これがまさに我々がやろうとしていることなのです。本を出版社レベルでアクセシブルにする、ということです。そうすると、デディコンやブックシェア、日本のDAISYコンソーシアムなどが、その本を作り直さなくていいということになります。最初の段階からアクセシブルな本ができているわけです。

ボーン・アクセシブルの2番目の点は、基準と認証の話をしましたが、実際に購入者に対してこのようなアクセシブルな本を買うように仕向けていくということです。

まず最初に購入者に言うことは、認証を求めるように、ということです。2番目に言うことは、契約書の中にアクセシビリティを条件として入れる、ということです。我々は、「電子書籍に何を求めるか」という文書を公表しています。詳しいことは申し上げませんが、このようなことを、教科書を評価する際に必ず確かめなさい、ということをまとめています。本を購入するときは、アクセシブルなものを購入しましょうと。

アメリカには大きな団体がありまして、テキサス州では、すべての学校の教科書を1つの会社から買っています。テネシー州でもすべての学校の教科書を1か所から買っていますし、カリフォルニア州のコミュニティ・カレッジのシステムでも、教科書の購入者は1つの会社からしかしません。どちらもアクセシビリティを条件としています。ニューヨーク市の教育局では、1つの学区に100万人の生徒がいるのですが、そこでもアクセシブルな教科書でなければならないという決まりになっていますので、もうこれがスタートしているわけです。ということで、このような認定を提供すると、より容易になるわけです。

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アクセシブルなものを買いましょう。では、実際に教室で教材を作る教員はどうでしょうか。例えばこのようなプレゼンテーションであるとか、テストであるとか、あるいは文章を作成する場合。そのために、我々はアクセシブルなものを作りましょうというガイドラインを作成しています。教員に対して、教材をちゃんとアクセシブルにするための短時間でわかるガイドブックです。

もう1点、実際にGoogleドキュメントやマイクロソフト・ワード、あるいはマイクロソフトのパワーポイントには、アクセシビリティをチェックする機能がついているので、アクセシビリティがあるものを作ることができます。わずか2分の時間を費やしてアクセシビリティをチェックすれば、自分の文章がアクセシブルであるかどうかわかるのです。

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ということで、教員のためのガイドがあります。コースウェアを作るとき、このように作れますよ、と。ユニバーサルデザインとか意味のあるハイパーリンクを使う。そして例えばリンクにカーソルを置いた場合、そこには「写真」と書いてあるのか、それとも「東京への旅行」と書いてあるのか、これは何か意味を持つものなのか、それともただ単なる言葉なのかを明確にします。

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これが最後のスライドとなります。

オーディオライブラリー、オーディオブック、電子書籍は本当に重要になってきました。出版社はアクセシブルな本をまだ作っていないところが多いです。河村宏さんの話にもあったように、何百もの世界中の組織が本をアクセシブルにしようと努力しています。科学、技術、工学、数学や芸術、というのは難しいのですが、かなり進歩が見られます。このような問題を解決すれば、またもう少し難しい問題が控えていますけれども、我々は進歩を続けています。

本を改造するのは非常にコストがかかります。出版社は最初の段階からアクセシブルな本を制作しなければなりません。人々がアクセシブルでない本を買わなくなれば、出版社も動きます。アクセシブルな本しか買わないようにすれば、出版社はアクセシブルな本を制作します。基準はできつつありますし、この本は認証されている、またはされていないが、されるようになる、といった認証プログラムも開発中です。

そして最後の点ですけれども、教室の中で使われる教材やパンフレットといったものもすべてアクセシブルでなければなりません。なぜかと言いますと、何百万人の人たちがこのアクセシビリティを必要としているからです。情報を求める権利というのは基本的な人権です。情報へのアクセスは基本的な人権なのです。誰かにそのような権利を認めないということがあってはなりません。

ありがとうございました。

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【質疑応答】

会場●
どうもありがとうございます。プレゼンテーションの中でナビゲーションについての話がありましたが、アクセシブルかどうかという判断で、適切なナビゲーションがあるかどうかという話があったと思います。アクセシブルな電子書籍というものが、マテリアルを表している話なのか、それともアプリケーションを含めたトータルな電子書籍としての話なのか、ちょっと混乱しているのですが。マテリアルだとしたら、ナビゲーションというのはアプリケーションのエリアの話であってコンテンツの話ではないと思うので、何に対してアクセシブルかどうかを判断するかという辺りをお伺いしたいのですが。
 
ブラッド・ターナー●
大変すばらしい質問です。ご質問いただきありがとうございます。アクセシビリティというのはコンテンツ、プラットフォーム、そしてアプリケーション、すべてを指します。
コンテンツがアクセシブルでなければアプリケーションはどうでもいいわけです。アプリケーションがアクセシブルでなければコンテンツがどうであっても意味がありません。ですので、一連の流れすべてがアクセシブルである必要があります。先ほど話しました数学のサポート・ファインダー、これはこの問題を数学に関して解決しようとしています。また、DAISYの中ではアプリケーションのスコアづけをする取り組みがあります。テキストをアクセシブルな形で提供できているか、点数をつける。すばらしいものもあれば、あまりよくないものもあります。しかし、こういったスコアを発表すれば、読者の方もどれを使うか選べますし、また、アプリケーションを作っている側もどうやって改良するべきかを把握できます。 私のアプリが100%のスコアであっても、本にナビゲーションがなかったとしたら、ナビゲートできません。本の側にナビゲーションがあるけれど、アプリケーションが対応していなかったらナビゲートできません。ですので、すべてがアクセシブルでなければなりません。アプリケーションにも点数をつける。そして本に関しては少なくとも最低限は満たす。もしくはそれ以上。それを要求していきたいと思います。
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