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Easy-to-read(読みやすいという概念)ワークショップ in リンツ

(公財)日本障害者リハビリテーション協会 情報センター 野村美佐子

 オーストリアのリンツで2012年7月11日に開催されたEasy-to-read (読みやすい)という概念についてのワークショップとネットワーク会議に参加したのでその報告をする。

 欧州を中心として「easy-to-read」ネットワークが設立されている。その目的は、読みやすい図書の情報を提供し、読みやすさという概念に関する知識を深めること、読みやすいという問題に対して世界各地の人と情報交換を行うことなどである。IFLA(国際図書館連盟)の障害サービス委員会で一緒であったブロール・トロンベック氏が所長である読みやすい図書センターがそのイニシアティブをとっている。このセンターの活動をモデルに欧州では読みやすい図書の出版を行っている。しかし残念ながら彼は参加できず、同センターのアンマリー・リンドマンさんが参加した。

 今回のワークショップは、9時から16時まで開催され、その後、ネットワーク参加者による会議が18時まで行われた。ゲストとしてW3Cのウェブアクセシビリティの専門家であるシャディ・アブ・ザーラさんも午前中参加してくれた。彼は、今後、ウェブ上での「easy-to-read」についてのオンラインのワークショップを開催しようとしているのでこのワークショップに関心を持ってくれた。

 ワークショップは、オーストリア、ドイツ、英国、フィンランド、スペイン、日本、スウェーデンからの参加者の発表で行われた。プログラムの概要等について翻訳をして以下のサイトに置いてあるので参照いただきたい。

http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/guideline/120712_ICCHP/index.html

 オーストリアの発表者であるビルギット・ペボックさんとフランツィスカ・ミッターさんは、認知障害者(知的障害者など)がいる施設について、そのサービスの質の評価について当事者が施設の当事者にインタビューを行う調査プロジェクトを紹介してくれた。プレゼンは、研究者と共に、実際にインタビューを行った当事者によって行われた。この評価プロセスの開発には、最初から当事者が関わっており、2001年から2年間をかけて行った。その際には24人の当事者により評価する1,000項目が選択され、評価の方法が確立された。研究者の支援もあって、当事者は2年ごとにサービスの質の評価を更新した。実際に実践した地域は、オーストラリアの南部地域になる。当事者がインタービューアになるためには3年間の研修があるとのことだ。当事者による当事者へのインタビューは、より身近に感じさせ、当時者の言葉で伝えられるため、信頼感が生まれている。質問を認知障害のある人に対して、できるだけわかりやすい(easy-to-read)言葉で伝え、評価について選択形式とし、写真も活用し、また相手が理解しているかをみきわめなければならないと話し、どのようにインタビューするかを話してくれた。インタビューチームは、9人のインタービューア、彼らに対する2人のアシスタント、2人の研究管理とインタビューのコーディネータ、そして一人の統括者によって構成される。一回のインタビューは30分から45分かけて行われる。その間、休みも入れる。どのようにインタビューを行うかについて、またインタビューにかかる時間なども重要である。回答者には、あまり選択肢がなく、明確に答えられるようにすることが必要である。質問のトピックは、生活や仕事の分野における自己決定、プライバシー、ノーマライゼーション、ケア、促進、安全、施設の代表(当事者が施設の代表となる。)についてである。それらの定量的な調査結果をベースにして、サービスの基本方針を決め、質を良くするための戦略を考えるそうだ。当事者の評価は大変であるが重要なことだと思った。

当事者の方からの発表の様子
(写真1.当事者の方からの発表の様子)

 英国のロブ・ウォーラーさんは、公的文書が一般の人にとっても文章もレイアウトも複雑であるため、わかりやすい形式での文書作りを行っているが、機能識字能力(functional literacy といって欧州ではよく使われる)に問題がある人にとっては理解も難しい。そのため、読みやすいテキストづくりと複雑なレイアウトをわかりやすくする取り組みについて発表した。具体的な事例についても紹介した。このような取り組みのセンターを運営しているとのことだが、日本でもこのようなセンターが必要でなないだろうか。センターのウェブサイトは以下である。

Simplification Center: http://www.simplificationcentre.org.uk/

 また、フィンランドのリーアラウラ・レスケラさんは、読みやすいという概念が書き言葉の中で検討されているが、重度の言語障害を持つ人々にとって簡単な話し言葉は必要であり、対話(interaction)においても支援が必要であると考えている。言語力に差がある人同士の対話において、わかりやすい原則(easy-to-understand principles)について研究を行っている。わかりやすく書く上では、時間をとることで明確な言葉を選べるが、会話では瞬時に選ぶ必要がある。言語力に問題がある人とそうでない人との対話を支援するためには、話し言葉のやりとり、会話のやりとり、対話の手法について考慮しなければならいないとしている。そのためには、会話の分析を行い、わかりやすい(easy-to-understand)対話のための予備的ガイドライを国際的な「easy-to-read」ネットワークの人たち、特別な言語的ニーズを持つ人たち、彼らと対話をする人たちや専門家とともに今後作成していきたいと考えている。詳細は彼女のパワーポイントを見てほしい。(http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/guideline/120712_ICCHP/Leealaura/Leealaura.html

発表の様子
(写真2 発表の様子)

 スウェーデンのアンマリー・リンドマンさんは、先に話した読みやすい図書センターのウェブでの読みやすくするために音声を使用した様々な取り組みを紹介した。 スペインのユージニア・サルヴァドールは、読みやすい図書協会(Associació Lectura Fàcil)によるスペイン語とカタロニア語による読みやすい図書の取り組みについて発表した。この団体では、グーグルの機能を使用して世界の「読みやすい図書」に関連する団体マップを作成した。同団体のウェブサイトでは、今回のワークショップについて、報告記事の掲載を行っている。(http://www.lecturafacil.net/news/item?item%5fid=62680

発表の様子
(写真3 発表の様子)

 筆者は、日本の取り組みとして、マルチメディアDAISYを活用した読みやすい図書や資料作りについて発表した。また最近、読みやすい図書のためのIFLA指針の改訂版の日本語が出版されたことを報告した。IFLAの以下のホームページにも日本語版が掲載されているが、印刷版は、日本図書館協会が実費で提供してくれる。http://www.ifla.org/files/assets/hq/publications/professional-report/120-ja.pdf

 この後のネットワーク会議では、今後も定期的に集まること、近況を順番にブログで掲載したらどうかという提案がでた。読みやすいという概念については、さらに調査研究が必要であり、その成果について意見交換を行うことはよりこの分野に貢献することであるという結論が出た。