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参考資料7

教育の情報化に関する手引(平成22年10月29日)(関連部分抜粋)

第9章 特別支援教育における教育の情報化

第1節 特別な支援を必要とする児童生徒に対応した情報化と支援

1. 一人一人の教育的ニーズに応じた教育の在り方

(2) 特別な支援を必要とする児童生徒に対する情報教育の意義と課題

 情報化の推進は,特別な支援を必要とする児童生徒の移動上の困難や,社会生活の範囲が限定されがちなことを補い,学校や自宅等にいながらにして様々な情報を収集・共有できるという,大きな社会的意義をもっている。また,インターネットをはじめとするネットワークの世界は,国籍,性別,障害の有無を問わない開かれた世界であり,そこに参加していくことは,障害のある人の積極的な社会参加の新たな形態の一つということもできる。
 そのため,社会の情報化が進展していく中で,児童生徒が情報を主体的に活用できるようにしたり,情報モラルを身に付けたりすることが一層重要になっている。このような情報活用能力を育成するため,特別支援学校小学部・中学部学習指導要領においては,「各教科等の指導に当たっては,児童又は生徒がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ,その基本的な操作や情報モラルを身に付け,適切かつ主体的,積極的に活用できるようにするための学習活動を充実する」と規定されている。これは,小・中学校における指導と同様のものであり,障害の有無に左右されるものではないため,他の章で示している活用例を参考に指導の工夫を行うことも必要である。
 一方,支援を必要としている人々は,その障害の状態等により情報の収集,処理,表現及び発信などに困難を伴うことが多く,前述の情報社会の恩恵を十分に享受するためには,個々の実態に応じた情報活用能力の習得が特に求められる。こうした意味では,個々の障害の種類や程度に対応した情報機器は,特別な支援を必要としている児童生徒の大きな助けになる。しかしながら,コンピュータをはじめとする現在の情報機器が必ずしもすべての人々に使いやすい仕様になっているわけではない。そこで,個々の身体機能や認知理解度に応じて,きめ細かな技術的支援方策(アシスティブ・テクノロジー:Assistive Technology)を講じなければならず,そのための研究開発や,様々な事例をもとにした教育課程の研究が期待される。

2. 教育におけるアシスティブ・テクノロジーの意味

 障害による物理的な操作上の困難や障壁(バリア)を,機器を工夫することによって支援しようという考え方が,アクセシビリティあるいはアシスティブ・テクノロジーである。これは障害のために実現できなかったこと(Disability)をできるように支援する(Assist)ということであり,そのための技術(Technology)を指している。そして,これらの技術的支援方策を充実することによって,結果的にバリアフリーの状態を実現しようということでもある。
 リハビリテーション分野における支援機器の活用は,少しでも利用上の利便性を高めることを目指すものとなるが,学校教育では,個々の児童生徒の成長や発達をも視野に入れて,少し高度な目標を学習課題とすることもあり得る。学校教育におけるアシスティブ・テクノロジーは,個々の児童生徒の指導目標や指導内容を記した個別の指導計画に沿って行われることが大切である。それは,単なる機能の代替にとどまらず,教科指導なども含めた様々な学習活動を行う上での技術的支援方策ということになる。よって,より個別性が高く,また児童生徒の成長や発達に応じて絶えずきめ細かな調整(フィッティング)が必要になる。具体的な例を挙げれば,聴覚障害教育における補聴器のフィッティングなどがある。すなわち,補聴器は単に聴力の障害を補うためにとどまらず,学習における聴覚からの情報入力の確保に用いられ,また聞き取りや発音・発語の指導の手立てとしても用いられる。
 このように,障害のある児童生徒の教育においては,必要に応じてこのような支援機器と技術を活用することが大切である。最近は,情報機器の発達により,多様なニーズに応じた機器が開発され,また利用されつつある。今後はますますこうした機器による支援方策に期待が集まり,利用も進むと考えられるが,そのためには更なる研究開発と,第7 節で述べるサポート体制の整備が望まれる。そのためにも,メーカーとリハビリテーション工学の専門家,地域の特別支援教育センター等の関係機関と学校,そして保護者との連携・協力が求められる。

第3節 小・中・高等学校等における特別支援教育での情報教育とICT活用

1. 発達障害のある児童生徒に対する情報教育の意義と支援の在り方

(1) 発達障害のある児童生徒に対する情報教育

 発達障害のある児童生徒の中には,コンピュータなどの情報機器に強く興味・関心を示す者もいる。そのような児童生徒には学習意欲を引き出したり,注意集中を高めたりするために情報機器を活用することが想定できる。また,発達障害のある児童生徒の中には認知処理に偏りをもつ者も見られ,情報機器によってその偏りや苦手さを補ったり,得意な処理をより伸ばしたりするなどの活用も想定できる。
 通常の学級での一斉指導の場合,発達障害のある児童生徒の学びを支援する情報機器は,クラス全体の学習の目標や指導の流れに即して,自然かつ柔軟に使える道具であることが求められる。例えば,教材をコンピュータとプロジェクタで投影し,クラス全員の興味を引き付けながら,視覚的に思考を促したり理解を深めたりするような提示は,クラス全員の理解を促すとともに,発達障害のある児童生徒への支援にもつながるなど,機器の効果的な活用といえる。しかし,同じ一斉指導の時間であっても,例えば,支援の必要な児童生徒一人だけの机上にコンピュータを置き,その時間のクラスの学習の流れとはつながらないような場面で機器を使用しているとすれば,効果的な活用とはいえない。
 つまり,一斉指導の中で,発達障害のある児童生徒に情報機器を活用する際には,同時に,クラスの多くの児童生徒にも効果のある活用方法が求められる一方で,発達障害のある児童生徒への指導は他の児童生徒にも効果的な指導である場合が多いことを併せて考えておくことが大切である。
 また,通級による指導の場合は,学習環境を個別のニーズに応じて設定することができる。その場合は,必要な情報機器を該当の児童生徒のために準備し,活用することが効果的と考えられる。
 なお,発達障害のある児童生徒への指導を行うに当たっては,国立特別支援教育総合研究所内にある発達障害教育情報センターのホームページに様々な支援機器や教材・教具の情報が掲載されているので,適宜参考にされたい。

(2) ICT 活用による支援方策

 発達障害のある児童生徒への具体的な支援方策について,課題場面別に整理して情報機器の活用例を以下に示す。

1) 読み書きに関する場面

 読字や書字に困難さがある児童生徒の場合,読み書きはすべての学習に必要な要素であることから,学習上,支障を来している可能性がある。さらに,学習意欲や自己評価にも影響を及ぼしていることが予想される。このような場合,読み書きについての意欲を引き出す活用と,読字や書字の作業自体の過程を支援することが重要である。

ア 読字や意味把握に困難さがある場合

 学習意欲を引き出すためには,本人の語彙や理解のペースに合わせることができ,かつ視覚的にわかりやすく理解しやすい情報機器の活用が考えられる。例えば,教科書準拠デジタルコンテンツは,教科書と同じ内容について,任意箇所の拡大機能,任意の文章の朗読機能,絵や写真についての追加説明,動画やアニメーション機能などデジタル処理ならではの機能をもち,マルチメディア性とインタラクティブ性などの特性を併せもつコンピュータの特徴を活かした教材として製作されている。したがって,国語科の単元での文章理解,新出漢字の学習など,一斉指導の場面で活用できることが大きな特徴である。
 また,読字の支援としては,コンピュータでの使用を想定して製作された教科書の録音教材がある。機能としては,文章を音声朗読しているところが自動的に反転表示されるため,読み手は視覚的にわかりやすい。反転表示は,一文ごとや文節ごとなどの設定ができる。また,朗読箇所に対応して挿絵や写真を表示することができるため,言葉のイメージをつかみやすいという特徴がある。
 なお,情報機器とはいえないが,支援のための教材として視覚に困難さのある児童生徒のために製作されている拡大教科書がある。通常の教科書と同等の内容を,文字を大きくし,文章や資料を適宜レイアウト変更するなどして拡大提示しているところが特徴であり,読みの困難さの大きい児童生徒にも活用することができる。こうした手法により,読みの困難による学習内容の理解のつまずきを軽減することができる。

イ 書字の困難さがある場合

 学習意欲を引き出すためには,文章を書くことへの抵抗感を減らし,楽しんで記録したり大切なことをメモしたりできる情報機器の活用が考えられる。例えば,小型で携帯でき,スイッチを入れると同時に起動するキーボード型の文章入力装置がある。この機器は,スイッチを切っても文章が保存されており,軽くてバッテリー駆動時間も相当長いため,文章を手軽に入力できるキーボードとしてどこでも手軽に使うことができる。最近のノート型のコンピュータにも様々な機能が付加されており,同様のことができるようになっている。
 また,書字のトレーニングに使用できる機器としては,ペン入力のできるコンピュータ(タブレット型コンピュータ)やゲーム機などがある。これらは,通級による指導の時間の書字トレーニング用の機器としての活用が想定できる。書字のトレーニングソフトなどを活用することで,興味や注意を持続させながら,通常の書字とは違うインタラクティブな反応を得たり,書字のスピードや形状,書き順の記録を取ったりすることでトレーニング効果を自己評価することもできる。さらに,指先の微細なコントロールのトレーニングや,漢字や英単語等の記憶のトレーニングとしても活用することができる。
 書字の困難さがある児童生徒は,教員の板書にノート筆記のスピードがついていけないことが多いため,書くことが苦痛であったりやめてしまったりする場合もある。そのような場合,例えば,デジタルカメラで撮影して板書の記録を残しておくことで,ノート筆記の補完をすることも考えられる。さらに,校外学習でのインタビューなど,大切な話を聞いてノートに書き留める場合には,小型軽量のIC レコーダーを活用すれば何度も再生できるため,メモ代わりにすることも可能である。

2) 一斉指導での教材提示に関する場面

 一斉指導の中では,注意集中が続きにくい児童生徒や,聞き取りが苦手な児童生徒の場合,長い話し言葉での指示よりも,短い言葉による指示と併せて,視覚的な指示と教材提示が効果的なことがある。そこで,児童生徒の興味を引き付ける視覚支援の情報機器の活用が考えられる。
 例えば,電子黒板は,黒板とチョークによる提示に比べて,板書を記録したり,その場でプリントアウトしたり,動きを提示したり,大切なところを強調したりするなど,より効果的な活用ができる。前述の教科書準拠デジタルコンテンツはプロジェクタと併せて使うことで,教科書の内容を拡大して一斉提示することが可能である。拡大投影装置として必須のプロジェクタの機能も向上しており,明るい教室でも見やすく提示することが可能となっている。さらに,デジタルカメラがあれば,体験したことや観察したものを映像として記録し,プロジェクタと併せて使うことで,一斉に提示することができる。

3) クラスのルールや役割分担などの確認に関する場面

 高機能自閉症等の傾向のある児童生徒の場合,自分なりの手順や方法にこだわったり,興味のあることに引きずられてしまったり,逆にルールを守ることにこだわりすぎて対人関係でのトラブルを起こしたりする場合がある。そのような場合には,行動の見通しがもてるよう情報機器を活用することが考えられる。
 例えば,朝の会の場面で,その日に必要なクラスでのルール,準備物,手順,役割分担などについて教室に視覚的に提示し確認できるようにすることが効果的である。提示方法は,紙に手書きするという情報機器を使わない方法や,事前に入力したスケジュールが自動的に表示される情報機器を活用する方法も考えられる。
 また,時間の見通しをもたせるために,残り時間を円グラフや棒グラフのように示したりして量的に把握しやすく表示するタイマーを活用することも考えられる。そうすることで,集中力を持続させたり,気持ちの切り替えをすることにもつながる。
 さらに,本人が目標に向けて努力したり達成したりしたときに,ほめられた記録やポイントが残るシステムにより,望ましい行動の獲得を目指したり,その結果を以前の状態と比べて評価したりすることにも情報機器の活用が考えられる。

4) 気持ちや出来事の整理と自己コントロールや表現に関する場面

 客観的な状況把握や場面認識が苦手なため,トラブルの原因が理解できなかったり,原因と結果が一見してつながっていなかったりする場合には,アウトラインプロセッサの活用やフローチャートの作成により,自分や他人の言動を振り返ったり,予測したりする活動にコンピュータを活用することが考えられる。
 また,通級による指導の担当教員と連携することで,通級による指導の時間を使って,トラブルとなった出来事や日常の自己の行動や生活を振り返り,望ましい行動を促したり意識付けたりすることや,ソーシャルスキルトレーニングに活用することが考えられる。

5) 大切な話を聞く場面

 大事な用件を聞く場合,話し手に了承を得た上でIC レコーダーで録音し,後で聞き漏らしがあっても確認できるようにしておくという活用が考えられる。

第4節 特別支援学校における情報教育とICT 活用

1. 視覚障害者である児童生徒に対する情報教育の意義と支援の在り方

(1) 視覚障害者である児童生徒に対する情報教育

 現在のコンピュータ操作は,グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)が主流となっている。視認性,操作性に優れ,直感的な操作が可能なため幅広く普及してきた。しかしながら,視認性を重視する設計のため,視覚障害者である児童生徒にとっては,逆に扱いにくいインターフェースであり,そこに情報格差(デジタルデバイド)も生じている。
 そのため,視覚障害者である児童生徒の情報活用能力を育成するためには,読み取りにくい画面の情報を,画面の拡大や色調の調節などで補い,視覚から得られない情報は,聴覚(音声読み上げ)や触覚(ピンディスプレイ等)などの代替手段を使って補うなど,個々の障害の状態等に応じた工夫の仕方を身に付けさせることが必要である。
 これらは,特別支援学校の学習指導要領において「触覚教材,拡大教材,音声教材等の活用を図るとともに,児童生徒が視覚補助具やコンピュータの情報機器などの活用を通して,容易に情報の収集や処理ができるようにするなど,児童生徒の視覚障害の状態等を考慮した指導方法を工夫すること。」と規定されている。
 具体的な支援方策としては,全盲で視覚的な画面情報が全く入手できない場合には,OS やアプリケーションの情報を,音声リーダーで読み上げさせて聴覚情報として入手したり,ピンディスプレイなどに出力して触覚情報として入手したりする方法がある。また,文字データをデジタル化することで点字と普通の文字との相互変換を行うことができ,点字利用者でも漢字仮名混じりの文章を書き,印刷することができる。一方,弱視で画面 が読み取りにくい場合には,その視覚特性に合わせて,画面の拡大・白黒反転・色の調節・音声化などを行う。どちらにおいても,マウス操作をキーボードで行うためのキーの割り当て(ショートカット)を覚えることで,マウスやキーボードの操作が困難な場合に対応することが可能となる。
 また,情報化の進展が視覚障害者の生活に新しい可能性を切り開いてくれる反面,情報社会が自己の生活環境に与える影響を適切に把握・理解させることが重要である。携帯電話の所持率も高くなっている中,携帯電話やコンピュータにまつわる様々な犯罪を知り,こうした犯罪から自分の身を守る工夫を主体的に行う姿勢を身に付けさせることも大切である。
 これらにより,教室で学ぶことだけでは得られない多くの情報に,より能動的にリアルタイムに接することができるようになる。このように,視覚障害教育においては,適切な支援機器の工夫と情報教育により情報活用能力を育成することが,情報格差の幅を狭め,情報社会へ参画する態度を育てることにつながる。

(2) ICT 活用による支援方策

 特別支援学校(視覚障害)においては,視覚からの情報入手の困難を補う手段として,音声リーダーやピンディスプレイなどの支援機器の活用によって,画面やマウス操作に頼らなくともコンピュータの操作ができるよう工夫して指導を行ってきた。近年,それらの機器の発達により,得られる情報量が一層増加している。
 また,画面が見にくい弱視の場合には,音声読み上げの技術に加えて,OS 側で用意された画面情報のカスタマイズ機能(拡大表示,白黒反転機能など)を補助的に利用したり,弱視者用の多機能な専用ソフトウェアを活用したりすることにより操作性が向上し,情報機器の活用の幅を広げてきた。
 文字処理においては,コンピュータによる点訳の技術が進歩し,文字をデジタル化することで飛躍的に点訳の労力を省くことができるようになった。また,音声リーダーの辞書機能の向上により,点字利用者が普通の文字の文章を,同音異句を使い分けながら手軽に書くことができるようになった。さらに,紙に印刷された普通文字をスキャナーで取り込みOCR ソフト(文字認識ソフト)によってデジタル化することで,音声化したり点字化したりと出力形態を容易に変化させることができるなど,文字のデジタル化により,取り扱える情報量が格段に増加した。

第7節 特別支援教育における教員のICT 活用指導力

2.支援機器等の活用技術の向上のために

(1) 研修の内容や支援体制

 支援機器についての知識や情報は,リハビリテーション工学分野では流通していても,なかなか教育分野では流通していない。そこで,こうした事例や技術について研修を行うに当たっては,教育関係機関だけでなく企業や他分野も含めて広い観点から情報を集める必要がある。そして,そうした情報を統括するためにも,特別支援学校のセンター的機能を発揮した地域の連携や,各都道府県の教育センター等が窓口となるなどの支援体制の整備が求められる。
 また,支援機器の活用については,個別的かつ具体的で情報も少ないことから,地域レベルだけでなく,学校や教育センターが全国レベルで情報交換するためのシステムが求められる。

(2) 支援機器の適切な活用のための教員のスキル向上について

 支援機器の活用については,専門的な知識が必要なものもあり,個々の教員がその活用を担うのは難しい場合が多い。これらの機器を活用するためには,研修も重要であるが,支援機器の適用のための会議を開くなど,組織的に行う体制を整備することが望まれる。
 また,そうした教員の活用スキルを向上させ,授業等において積極的に情報機器を活用することを促すためにも,専任の情報担当教員の配置や,情報インストラクター等によるOJT(On the Job Training:仕事の遂行を通して訓練をすること) などの研修ができる体制を整えることも重要である。