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プロジェクトの経緯と研究方法

科学分野でのキャリアを追求している成人視覚障害者は、科学・技術・工学および数学(STEM)関係の教科書や雑誌に掲載されている視覚的情報へのアクセスを阻む障壁に直面する。それらの教科書や雑誌には、複雑な画像やグラフおよびデータ表が大量に掲載されているからである。画像や図およびグラフなどの重要なコンテンツに関する解説情報は、STEMコンテンツの専門知識が限られているボランティア朗読者や点訳者によって割愛されるか、あるいは、つじつまが合わないまま提供されることが多い。多くの場合、中等教育以降の学生と科学者は、研究分野の内容に関して、時流に取り残されないようにするために、アシスタントに画像を読んで解説してもらうサービスに頼っている。これは、コンテンツへの自立したアクセスを提供するものではなく、非効率的で高価な、そして時間のかかる解決策である。さらに、成人視覚障害者の大部分は大人になってから視力を失っている。通常、彼らは録音図書に依存しており、点字を学ばない者さえいる。

ボストン公共放送(WGBH)の全米アクセシブルメディアセンター(National Center for Accessible Media:NCAM)は、アメリカ国立科学財団(National Science Foundation:NSF)の資金援助を受け、アメリカ盲人協会(American Foundation for the Blind:AFB)と共同で、視覚障害がある中等教育以降の学生と科学者を対象とする、非テキスト科学的コンテンツの有意義な解説の提供を目的とした効果的な実践の研究と実証を行った。このプロジェクトを通じて、NCAMとAFBのスタッフが、視覚障害者とディスレクシアの人々のための録音サービス機関(Recording for the Blind an Dyslexic Inc.:RFB&D)やアメリカン・プリンティング・ハウス・フォー・ザ・ブラインド(American Printing House for the Blind:APH)の研究者および専門家、科学者で前NSFプログラムオフィサーであるローレンス・スキャッデン(Lawrence Scadden)氏、そしてDAISYコンソーシアム(DAISY Consortium)事務局長ジョージ・カーシャ(George Kerscher)氏と一致協力し、将来のデジタル録音図書(DTB)における科学的コンテンツの効果的な解説に関する規定を提供する、研究に基づくガイドラインを開発する共同の取り組みを実施した。このプロジェクトが、DTBの標準規格を開発した、図書館、出版社およびサービス提供機関の世界的ネットワークであるDAISYコンソーシアム(DAISY Consortium)の支援と参加を得ていることは重要である。すべてのプロジェクトパートナーは、DAISY/NISO規格の作成に貢献し、すべてのパートナーは、全国指導教材アクセシビリティー標準規格(NIMAS)を作成した全国ファイル・フォーマット技術委員会(National File Format Panel)の40名のメンバーの一員であった。

現在の実践方法の研究とデルファイ調査

過去4年にわたり、このプロジェクトでは、STEM関連のグラフ、図、表およびその他の非テキストコンテンツの解説方法に関する専門家間のコンセンサスを探るために、解説者や視覚障害がある学生/科学者30名を対象に、ウェブベースのデルファイ調査を2回実施した。AFBがこれら2回の調査から得られたデータの分析を行った。

エンドユーザー調査

プロジェクトの最終局面は、60名のエンドユーザーを対象とする調査で、2回のデルファイ調査の結果提案された実践方法を評価するものであった。エンドユーザー評価の目的は、同意が得られたアプローチの裏づけと、ランクが近い代替アプローチの間の選好評価、そしてデルファイ調査から浮かび上がった効果的なアプローチについて、同意が得られない部分を調査することであった。

エンドユーザーは、AFBのウェブサイト上でのお知らせや、米国盲人委員会(American Council of the Blind)、全米盲人連合(the National Federation of the Blind)、およびAFBのキャリアコネクト(CareerConnect)が管理するリストサーブを使用したメール配信に加え、AFBおよびWGBH職員からの非公式な照会を通じて採用された。

参加者は、障害の程度、現在の年齢、研究分野、その分野の研究期間、現在のアクセス方法と好ましいアクセス方法、およびDAISY録音図書の使用頻度など、デルファイ調査によって提案された、データ分析に重要な人口学的情報を提供した。2回目のデルファイ調査では、印刷物に代わる手段を最初に利用した時期により回答に違いが見られたため、これに関する質問と、その当時参加者が印刷物に代わるどの手段を使用したかという質問が盛り込まれた。

調査では16の画像が使用された。画像は、さまざまなテーマを扱ったバランスがとれた内容で、順序効果のいかなる可能性をも排除するため、ランダムに提示された。参加者は、それぞれの画像について、少なくとも解説の明瞭性と効率性について、4段階評価によりランクづけすることが求められた。

  1. 非常に不明瞭あるいは非効率的
  2. やや不明瞭あるいは非効率的
  3. やや明瞭あるいは効率的
  4. 非常に明瞭あるいは効率的

参加者はまた、解説を改善する方法と「同様な画像にアクセスするために使用したことがあるその他の技術」について具体的なコメントを追加することを求められた。

エンドユーザー調査のサンプルを見る(英語)
http://ncam.wgbh.org/publications/stemdx/surveyexample.html

触れて読む補足資料

NCAMでは、STEM関連画像の電子的記述は比較的珍しいので、解説の明瞭性と効率性に関する参加者のランクづけに影響を与える可能性があるという仮説を立てた。そこで、無作為に選んだ参加者に、調査の中から選んだ3つの画像について、触れて読む補足資料を提供することを決定した。APHによって、それぞれ異なる3つの画像を組み合わせた資料が2セット用意され、無作為に選ばれた30人の参加者に配布するためにAFBへと郵送された。触れて読む補足資料を受け取った参加者の2分の1(15名、50.0%)が、最終的にすべての調査項目に記入をしてくれた。

結果

概して、解説の明瞭性と効率性に関しては十分な合意が得られ、デルファイ調査の結果を裏づけた。触れて読む補足資料を受け取った参加者の回答が、オンラインの説明を聞いただけの参加者の回答と比べて、大きく異なるということはなかった。この調査の具体的な結果をもとに、このウェブサイトの大部分、特にガイドラインとそれに続く事例が作成された。

エンドユーザー調査参加者の人口学的情報

54名がエンドユーザー調査に参加したが、そのうち2名は、ところどころ未回答の項目があった。しかしながら、これらもデータ分析に含められた。参加者の研究分野は、31確認され、科学・技術・工学・数学・その他の分野に再分類された。分析からは、研究分野による大きな差異は何ら認められなかった。

専門家に対するデルファイ調査とは異なり、エンドユーザー調査の参加者年齢は若く、66.1%が25歳から54歳の間であった。参加者の半数以上(60.4%)が学士号を取得していた。約半数(49.0%)は、研究分野における10年以上の経験があった。参加者の過半数(52.8%)は、デジタル録音図書を5回以上使用したことがあった。参加者の中で最も人数が多かったのは(45.1%)、一般の印刷物の代替手段を、小学校かそれ以前に使用し始めたグループであったが、科学者(60.0%)と技術者(66.7%)は、大学時代あるいはそれ以降まで、代替手段の使用を始めていない者の方が多かった。

読みに関する好み

参加者は、読む方法については何も明確な好みを示さなかった。STEM関連資料を読む手段について好ましい手段を尋ねたところ、どれも差はないことが明らかになったが、点字を好む者の割合が多いように思われた(26.4%)。聴覚的な手段(オーディオブック、テキストの読み上げ、デジタル録音図書)は、73.1%の参加者によって読むために利用されており、51.1%の参加者によりSTEM関連資料へのアクセスのために利用されていた。数式にアクセスする方法の好みも、NemethコードからLaTexまで、またさまざまなフォームによるテキストの読み上げから朗読者による朗読にいたるまで、参加者によって異なっていた。

報酬

各デルファイ調査とエンドユーザー調査の終了時に、個人宛の感謝状とともに75ドルの謝礼が参加者に送付された。