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国際セミナー「認知・知的障害者の社会参加と情報技術」

基調講演
「日本における認知・知的障害者の社会参加と情報技術」

国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所障害福祉研究部長
河村 宏

講演をする河村宏氏の写真

皆さん、おはようございます。いまご紹介いただきました河村です。

これから、約30 分間、表題では「日本における」というふうになっておりますが、日本におけることももちろん触れたいと思いますけれども、もう一つ、せっかく今回、スウェーデン、アメリカ、そしてイギリスの状況がこのあと紹介されますし、さらに午後にはディスカッションを行う場がありますので、少し視点を広げて、今世界でどういうふうになっているのか、そのなかで日本ではどのような状況になっているのか、という視点で「日本における」という問題も触れていきたいというふうに思います。

まず最初に、既にお聞き及びの方もいるかと思いますが、なかなか日本でまだ知られておりません、12月に行われる予定のサミットのことについて、近況報告をしたいと思います。世界情報社会サミットと呼ばれているサミットが、12月にジュネーブで開催される予定です。英語名で言いますと、World Summit on the Information Society というサミットであります。

このサミットは、何をするのか、ということがずっと話題になってきています。情報技術を論ずるのか、あるいは社会を論ずるのか。そして、その両方を論じるなかで、これからの国際的な社会のあり方の行方を皆で決めていこうと、そういうテーマで議論するのか。それぞれ、立場によって見方が違っております。ある人々は、インターネットの管理が、いまアメリカがほとんど独占している状況、これをなんとか、国際的な管理にしたいんだという、その一点でサミットに期待をしている人たちももちろんいます。あるいは、いわゆる南の諸国、インターネットのアクセスポイントがどこにもないじゃないか、そういうインフラが何もないところで、どのように情報社会に対応していくのか。その根本的な問題から議論してもらいたい、ということが南の諸国の基本的な要求になっています。また、南の諸国のなかでも、非常に意気盛んなのは電話会社の人たちです。特に携帯電話は非常に有望なビジネスということで、いわゆる発展途上国でも、携帯電話会社は大きな投資先として非常に注目を集めております。

その一方で、南アフリカでは、人口の全体の平均寿命が今減少しております。低くなっております。主たる理由は、エイズです。同じ状況は、エチオピアでもある、と聞いております。特にエチオピアの視覚障害者団体の役員は、ユネスコで行われました会議の際に、公式に、障害者の間でエイズが非常に猛威をふるっている、これを早くなんとかしてほしいと、障害とエイズの問題を結びつけて、初めて私が両方を結びつけて聞いた要求でしたけれども、それまで私は、エイズはエイズ、障害の問題は障害の問題というふうに考えがちだったのですが、特に障害者の間でエイズに対する対策を急いでやってほしいという公式の発言を聞いたのは、その時が初めてです。今年の7 月でした。そのようなさまざまな視点で、この情報社会サミットにいろいろな立場からの参加、参画というものが進んでおります。

今、サミットの準備で何が一番問題になっているのか。特に障害にかかわる分野で、どういうことが重要なのか。その点をまず申し上げておきたいと思います。サミットは、基本的には元首、大統領や首相が集まって、グローバルに世界中で共通の問題を認識し、それに対する基本的な政策を議論し、行動計画を立て、それを実践していくためのモニタリングのシステムを作り、そしてだいたい5 年後くらいに評価をし、これから先どうしようかという新しいサイクルに繋げる。それがこれまでのサミットです。

今度のサミットの最大の特徴は、これまで国だけが主体でやってきた国連のサミットに、市民社会、英語名ではCivil Society というふうに言っておりますが、市民社会を積極的に参加してほしい、また市民社会と国、産業が提携して初めて今度のサミットは成功するんだということが準備段階から非常に声高く言われ、それを模索しているということだと思います。その一つの現れが、12 月10 日にジュネーブで行われます開会式、この際に国連のアナン事務総長がまずスピーチを行います。基調報告を行います。その時に、すぐ事務総長の次に市民社会の代表が一人、同じようにサミットに向けて市民社会として何を期待するか、スピーチをする。そういうプログラムになっています。これはかつてないことです。

またサミットと並行して、これまでは国の代表が行うサミットの会場の周りを、いわゆるNGO が取り巻いて、外でデモをしたり集会をして、そして要求を精一杯届くように活動するというパターンがこれまでのサミットの基本パターンだったわけですが、今回は違います。サミットそのものの中に、サミットの公式のイベントとして、市民社会が主催するイベントが盛り込まれます。並行して、すべてのイベントがサミットのイベントであるというふうに位置づけられます。

具体的にどういうことかと言いますと、政府が集まって議論して決定をする会議は、確かにあります。そこにオブザーバーとしてさまざまな団体が出席することもできます。ただし、投票権は政府代表だけです。でもそれと並行して、さまざまな市民社会のグループが、たとえば障害にかかわるグループならグループだけで、正式にサミットのイベントとして行われる集会が持てる、ということです。障害にかかわるグローバル・フォーラムと呼ばれる世界障害者フォーラムは、12 月の12 日、サミットの最終日に、約400 人が入る会場で、いわゆるセキュリティ・ゾーンですね、元首たちがいる警戒厳重なゾーンの内側で行われます。つまり世界の政治家たちが興味を持てば、そこに参加しようと思えば、すぐに入ってこられる、その場所で行われるということです。空間的にも同じ場所で行われるわけです。そこで丸一日、障害者にかかわる情報社会のあり方ということを議論する、そういうイベントが開催されます。

そして最後に行動計画を採択することができます。そこで皆で合意したことは、国連の公式文書に報告として盛り込まれます。サミットの世界障害者フォーラムで、このように皆で合意した、と。今後こういう活動があるべきだ、ということを採択すれば、それを公式にサミットの事務局にレポートし、あるいは時間があれば政府間の行われているいわゆる国の会議に報告をするチャンスもあります。そして、文書として最後に記録の中に残されます。そのような市民社会がそれぞれの関心を持ち採択したことも含めて、そのジュネーブで行われたサミットの成果として、そのあと引き継がれていくということになっております。

そしてその中で、障害者フォーラムのプログラムについて、私は意見を求められまして協力をしているわけですが、今考えられておりますのは、IT、あるいはICT、「Communication」を入れてICT と呼ばれるのが国連の中での普通の言い方ですが、このICT を活用し、障害者の支援に成功した取り組みを、15 分ずつ八つ取り上げて、世界中でその経験を共有しようというセッションが一つあります。

それから、もう一つのメインのセッションは、障害を持つ人のニーズに合わせて要求を満たすようにデザインをしていって、さらに、すべてのコミュニティの人にとってより良いものになる、そういうすべての人のためのITの開発と、まず最初にデザインがあるんですが、デザインと開発というテーマでのセッションがあります。

このセッションは、教育・雇用を一つにして、そういう皆のためのITの活用のデザインというものはどういうものか、が一つ。それから、いわゆる広報とか公共交通機関を活用する際のIT のデザイン、障害にかかわるIT のデザインで、すべての人がそれによって便利になるというものはどういうものなのか。

そして最後に、先ほどHIV、エイズの話をしましたが、HIV の予防あるいは治療、それから災害の度に障害を持つ人たちが取り残されて大勢命を落としております。特に途上国では悲惨な状況があります。そういう災害の被害の軽減と防止、それらをひとまとめにして、それが一人ひとりの障害者のニーズに合わせていったときに、どのように社会全体に貢献をし、皆の命が守られるのか。

そういう三つの大きく分けたテーマで、ITの活用と発展を、すべての人が取り残されることのない社会づくりの中にどう位置づけられるのか、という議論をする予定です。そして最後に約30分ほどですが、行動計画、決議をしようと。一日のイベントですので、長い文章で採択をするのは無理です。だいたいポイントで10 くらいに絞ろうと。ものすごく短い、これをやろう、あるいはこれを皆で確認しよう、というものを10くらいに絞って、それを皆で確認をして、ジュネーブのあとに2005年に北アフリカのチュニジアのチュニスで開かれるもう一つのサミットがあります。その時に、その二年間にこういう成果をあげた、ということを持ち寄って、さらにどのように展開するか、というふうな取り組みをするためのポイントを絞りましょう、という議論を今しております。

これは、企画には、世界障害者同盟というふうに日本では訳されていると思いますが、InternationalDisability Alliance、IDA、あるいはアイダと呼ばれている、主要な世界の障害者団体の構成する、傘になる、全体をカバーする団体が一緒に取り組んでおります。IDA といま申し上げたんですが、IDA には認知・知的障害にかかわる団体として、II、Inclusion International が含まれております。

認知・知的障害がきわめて多様なものであるということは、今日この後ご紹介がありますが、それらを考えますと、もう少し、IDA だけではないディスレクシアの、特に当事者の意見を代表するような団体及び精神障害者の団体はIDA に入っておりますけれども、今回、なかなか情報社会とどう関わるのか、あまりよくわからないという意見が出されておりまして、精神障害者の団体も含めて、活発に参加をしていただいて、その中で、皆で作るこれからの情報社会のあり方という議論をしていきたい。そのため、IDA だけではなくて、もっと広く、さまざまな団体あるいは個人の方も参加できるようなものにしていきたい、というふうに、今組織の努力を進めているところです。

同時に、南北の問題という視点が欠かせません。世界の障害者の8 割以上が、いわゆる発展途上国に暮らしている、というふうに信じられております。9 割以上かもしれません。その人たちが本当に取り残されることがないようにしなければ、グローバルな取り組みというものが実際には虚ろに響いてくるわけです。

従いまして、この世界障害フォーラムの主催者、組織委員会はスイスの人たちが地元ですので中心になって今がんばって組織しておりますが、50人の障害がある参加者が発展途上国から来られるように、募金をしようという、非常に短い期間で、たいへんな募金活動に今取り組んでおります。50人の障害のある方たちが発展途上国から来て、そしてこれからの情報社会のあり方について貴重な発言をして、一緒に取り組みを進める、そういうことを展望して、主催者のほうはいま努力をしているところです。

このサミットの取り組みの、もう一つ、実質的にサミットが皆が参加できるようにするための取り組みも同時に進められております。国際会議というのは、たいへん分量の多い資料を配布いたします。国連の会議ですから、6 か国語で配られます。公用語です。残念ながら日本語は入っておりません。その6 か国語の中に、中国語、アラビア語、というふうに、いわゆる英語とはぜんぜん違う書き方をする言語が入っております。たとえば縦に書く、あるいはアラビア語ですと、右から左に書くということになります。これを、すべてアクセシブルな形で、障害を持つ人が参加しても読めるように提供する、というためのチャレンジが今始まっております。

これには日本も非常に貢献しています。具体的には、今日の配布資料の中にありますので詳しくは申し上げませんが、DAISY、Digital Accessible Information Systemがその中心になっております。技術的にはDAISYのマルチメディアの技術を使って、それぞれの文章を音で聞くこともできる、点字で読むこともできる、そして目で見ながら字を拡大したり、自分の好きなレイアウトにして、あるいはカラーコントラストにして、そして同時に耳でも聞く、というふうなさまざまなアクセスを可能にする、そういう形で文章を提供しようという試みが、やはりこれも、先ほどのスイスのDAISYを推進している団体が中心になって行う予定です。

その際に、まずそれを作るソフトですけれども、製作するためのソフトは、日本障害者リハビリテーション協会が世界中に、日本国内を含めて世界中に無償で提供している製作ソフトが使われます。それから再生するソフトですが、たとえば両手の動きが不自由であるという方の場合には、何か呼吸でスイッチを使うとか、いろいろな工夫をしなければなりません。そういうものにも対応でき、さらに先ほど申し上げましたように、聞く、見る、字を大きくする、あるいはゲームコントローラーが使いやすいんだという場合にはゲームコントローラーを使う、タッチパネルがいいんだという場合にはタッチパネルを使う。そういう非常にフレキシブルに、一人ひとりのニーズに合わせて再生ができる再生ソフトウェア、日本語読みではアミというものを、同じく日本障害者リハビリテーション協会が作って、これも無償で世界中に配布しているものですが、これが再生ソフトとして使われる予定です。

その際に、言語はどうするんだということになります。ウルドゥー語というインドの一つの公用語はアラビア語と同じように、右から左に書く言語です。そのウルドゥー語に通じている人たちが、アラビア語をサポートする、先ほどのAMIS のアプリケーションを作る、プログラマーが今一生懸命活躍をして、なんとか間に合うように、アラビア語版のAMIS を作ろうとしています。中国語はどうするんだ、と。これは、たまたま日本障害者リハビリテーション協会に研修生として一年間来日をして研修を受けていた中国語がわかる研修生、障害を持つ研修生ですが、その研修生がスイスまで行って、一緒に中国語版のAMIS を作る、テキストの編集もする、という計画になっております。

つまり、さまざまな言語もそこでサポートできるんだというフレキシブルな、私どもの専門用語ではユーザー・インターフェースと呼んでおりますが、そういう、「これが可能なんだ」ということを皆に示して、アフリカやラテンアメリカや、あるいは太平洋の島々の、本当に少数の住民しかそれを使っている人たちがいない言語も、自分たちの言葉でそういうプレイヤーが作れますよ、ということを示す。それをこの資料の配布と同時にやろう、という取り組みが進んでおります。

実際には、「アジア太平洋障害者の十年」の最終年の集会が、琵琶湖の湖畔で昨年行われました。そのとき既に、国連のESCAP は、そのようなCD を配っております。ですから、世界で初めてというわけではありませんので、もう確立した技術ではあるのですが、6か国語でそれをやってみようというのは、新しいチャレンジであります。

このように、日本で開発した技術、また世界よりも一足先に日本で普及してきている技術としてのDAISYが、日本が一つ貢献していけるものであろうか、というふうに思います。

今、このDAISY を、これまで視覚障害者を中心に日本では活用してきておりますが、視覚障害者も含めて、もっと広く、さまざまな障害を持つ人たち、認知・知的障害の方々、あるいは、重度の身体障害の皆さんも一緒に一つのコンテンツを使えるような、出版というものがもっともっと普及してほしいということで、さまざまな活動が今国内で、模索も含めながら展開されているところであります。このように、最も進んだITの活用がニーズと結びつくときに、何が生まれていくのかということが、実はこれからの情報社会のあり方の基本的な問題にかかわってくると私は思います。

最初に申し上げましたように、サミットが市民社会というものを不可欠のパートナーとして非常に重視しているということを申し上げました。ニーズはどこからくるのか、要求はどこからくるかと考えた場合に、一人ひとり、そのニーズを持つ人たちであります。技術はそのニーズにきちんと応えて、その一人ひとりの人がそれができなければ社会参加できないという課題を解決していく。それが技術の本来の一つの展開の方法であろうと思います。

もう一つ別の技術の発達の方向性としては、利潤であります。企業の場合には、利益を上げなければやっていけません。したがって、利益を上げるために生産を行う、開発を行う。私はこれが悪いとは思いません。産業が製品を提供する、サービスを提供する、そういうことがなければ私どもの生活はできないからです。したがって方向づけのところで、こういうニーズがあるんだという声を、製品のデザインをする段階できちんと届くようにしていく。その届くようにする方法というのは、やはりニーズを持つ人たちが声を上げなければ届けようがありません。声を上げるためには、同じ要求を持っている人たちがそれを確認し合うということが必要だろうと思います。それはとりもなおさず、国の運動ではありません。

一人ひとりのニーズを持つ人たちが、そのニーズを共有し合い、一つの声にし、具体的な要求にして声を出していく。これはまさに市民社会の運動だろうと思います。そしてまたそれを支援する人々の輪が必要です。自ら声を出し、それを支援していく人たちがいて、一つの要求が具体的に技術者たちにデザインの段階で届けられると思います。デザインの段階で届けば、しめたものです。まちづくりを考えてみてください。町をつくるときに、最初にどういう人たちがそこに暮らしているのか、それを考えないで町をつくることはできません。つまり、ここには車椅子の人もいる、子どもを育てて乳母車をひいている人もいる。だったら、歩道にはカーブをつけておこう。でもその歩道を、車道と歩道の区別がつかないで、いつの間にか車道に出たら困るという視覚障害の人がいる。そうしたらそのカーブのつけ方、最後の段差の差を何センチにするのか、あるいは車椅子は通れるけれども、視覚障害者は高さの差はわかるようにデザインしてみよう、ということができるわけです。最初からニーズがわかっていれば、計画の段階でそれを織り込む、話し合う、皆で理解し合っていく。そしてその結果として、その町に住む人たちが、お互いに誰がどういうニーズを持っているのか、それを理解し合い、配慮し合い、協力し合える。そういうまちづくりが可能になるのです。

情報社会も同じことだと思います。情報社会をデザインの段階で作業をしておかなければ、一回できあがってしまったアクセスできない社会を、どこかを壊して作り直すのはたいへんなことです。ビルの入り口を壊して、スロープをつける、ということをこれからの情報社会の構築、建設のなかで繰り返してしまっては、結局私たちは何も学ばなかったということになってしまいます。したがいまして、この世界情報社会サミットというのは、その場に参加し、参画する人はもちろん、まったくその場には参加しないけれども、でも自分のニーズを明らかにしていって、デザイナーたち、あるいは開発をする人たちにきちんと届ける、そういう活動をする人たち皆で取り組むべき課題であるし、今の情報通信技術はグローバルにそれを可能にするインフラを作ってきたと言えると思います。

最後は、ユーザー・インターフェイスと先ほど申し上げましたが、具体的に一人ひとりがそれにどのように参加し、そして計画を立て、それを見守り、実現のプロセスに参加していくのか。それを保証することだろうと思います。

先ほどDAISYとAMISということを申し上げました。実際のサンプルは皆さんの今日の配布資料、お手元の資料のなかにCD-ROM で入っております。また、たくさんの情報が既にWeb のほうにあります。それらを今後ご覧いただきながら、具体的にどういう技術なのか、どこで活用できそうなのか、ということを一緒に考えてみていただければ、今の日本から、このグローバルな情報社会づくりにどのように貢献できるのか。また国内でもそれをどのように活用できるのか、ということについて、さらに皆さんと一緒に深めていくことが可能だというふうに思います。

最後に、これからわが国ではデジタルテレビ、デジタル放送が本格化いたします。デジタル放送のアクセシビリティはいまだになんの保障もありません。また出版物が、今まで通りずっと紙で出版されていくのか。日本のような出版大国がアクセシブルなマルチメディアの出版をほとんど今やっておりませんが、それでいいのだろうか。そして特に教科書、教材。これはアメリカでは法制化をしてアクセシブルなものを提供することを義務付けようという活動を今盛んに行っております。そのときも、中心になる技術は、DAISY が注目されています。点字、録音、大活字、あるいは、今日配布資料の中にありますこの赤いパンフレット、これはわかりやすいコンテンツの書き方そのものがわかりやすいという、非常によいサンプルだと思います。

つまり、既存の著作物の難しい出版物を、やさしく書き直す、リライトというふうに呼ばれますが、それも含めて、情報を本当にわかるようにしていく、そういうふうな出版、あるいは支援というものが必要だろうと思います。そして教科書には、そのような技術と支援策というものがきちんと織り込まれて、初めて特別の支援を要する生徒を支援することが可能になるだろうと思います。

また先ほど申し上げましたように、広報、あるいは交通や一般の公共的な情報提供、そして特に災害時の情報提供というのは、命にも関わるものであります。それらのアクセシビリティというのは、待ったなしのものだろうと思います。そういったニーズを一つひとつ取り上げていったときに、実は、誰もが同じアクセシビリティをきちんと盛り込んだ技術に支えられるということが発見できると思います。

一例をあげますと、地下道で突然電気が切れて、ぐらぐらと地震に見舞われたとき、どうやって脱出するのかという問題があります。十分に開発された視覚障害者にも聴覚障害者にも、視聴覚両方の障害のある人にもわかる脱出口への指導の仕方が盛り込まれた設備であれば、壁に触るとか、何らかの方法で脱出口の方角がわかるという工夫がされているはずです。

また、皆が走って、急いで避難しなければいけないときに、段差がある、というのは、真っ暗いときは本当に危険です。それだけで皆、圧死します。段差がない、できるだけスムーズに通れる、そういう設計になっているというのは、誰にとっても安全に脱出するための基本的な配慮であろうかと思います。

つまり、そのような、想像力を豊かにして、お互いに皆が支え合える、そして一人ひとりの個別のニーズもきちんと対応していく、それをICT、あるいはIT を活用して実現していく社会が情報社会であるというふうに、私たちのほうから積極的に定義づけて、そのなかで、著作権や知的所有権のあり方も改めて問い直してみる、ということが必要なのではないかと思います。

以上駆け足になりましたけれども、今のサミットの動向、そして日本がそれにこれまでどのような意味で貢献できているのか、また国内での課題は何なのかについて、雑駁ですが触れさせていただきました。

これをもちまして、本日の基調とさせていただきたいと思います。ご清聴ありがとうございました。