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国際セミナー「認知・知的障害者の社会参加と情報技術」

英国ロンドン建築大学在学中のディスレクシア当事者(日本人)

こんにちは。僕は英国のアーキテクチャー・アソーシエーション(AA)に在学中です。

まず初めに、ディスレクシアというもの、もしくは「障害」という言葉がありますけれども、僕はそれはコンディションだと思っておりまして、そのコンディションを持つことによって、ポジティブなアドバンテージ、ネガティブなディスアドバンテージがでてきて、そのディスアドバンテージなところをとって「障害」と呼んでいると僕は思うんです。そこの部分も踏まえて話していきたいと思います。ディスレクシアという言葉にはまだ聞き慣れない人がいるかもしれないので軽く説明いたしますけれども、日本語では失読症、読み書き困難と言って、ADHDとかその他のコンディションと混ざることがありますけれども、今回はその読み書き困難をとって、個人の体験、もしくは他の人から聞いたことをもとに話を進めていきます。

では、社会参加とITテクノロジーということについてなのですけれども、一人でも多くの人間が社会参加をすることは、いろいろな面でプラスになっていくと思います。仕事ができる人間が増え、生活基準が向上し、犯罪率の低下や地域環境の向上など、相乗効果は計り知れないと思います。しかし世の中には参加したくても参加できない人間や、参加する能力が足りず、思うように参加できない人が多くいます。理由はいろいろとあるでしょうが、多くの場合は、手をさしのべることによって可能性を与えることができると信じております。そのなかで、読み書き困難、ディスレクシアを持っている人たちも少なくありません。読み書き困難を持っているということは、読み書き以外に、知能は正確なのに、それをするときに困難が現れるということです。僕自身も読み書き困難を持って生まれましたが、見てのとおりまったく容姿には特異はありません。もっと詳しく説明いたしますけれども、これは一般に、脳の一部の特異な構造によって起こると言われております。英国では、発生率は人口の一割とも言われております。日本でもそれに匹敵する人数が大なり小なりいると言われております。

この独特な特異な構造の伝達回路により、伝達回路が複雑化して、以下の症状が起こると言われております。これは僕の場合も含めてなんですけれども、文字が逆さまになる。b とp、p とq、英語の場合は。文字がごっちゃになる、これはカタカナとかひらがなとかにあるんですけれども、ら、さ、ち、う、や、カタカナの場合マやヌとか、似たような形が無意識のうちにごっちゃになってしまったりということがよくあります。短期記憶、字がなかなか覚えられない。文字を読むのに時間がかかる、もしくはいくらがんばっても読めない。文字を理解するうえにおいて、似た意味を持つ文字、もしくは似た形をしているものに対して混乱をする、などなど、いろいろな問題が起こるわけです。このような症状によって、他の能力が優秀であっても、学校や社会でこれが障害になる場合が多々あります。そして社会や学校の無理解や無知により、犯罪や非行に走る場合がしばしばあります。

ここから社会参加とITテクノロジーについて話していくわけですが、一つ例を挙げます。英国にある刑務所で実際にあった話です。刑務所のなかで、ディスレクシアのスクリーニングをかけました。そうしたら囚人の約半数が読み書き困難があるということがわかりました。読むこと、書くことがままならないということで社会の場所を失った人や、社会の無理解で荒れた人など、いろいろな理由です。そこで刑務所側が、彼らを更生するために、コンピュータの使い方を教えました。なぜコンピュータかというと、文字修正や、文法の誤りを直し、キーを叩くことにより、読むときに発生する誤字を少なくすることができたり、コンピューターを使えば、インターネットやさまざまな使用用途により、その人の持っている可能性を広げることができるからです。これにより再犯率がぐんと減り、刑務所のなかでの囚人たちの行動面や生活面において大きな改善がみられ、囚人の読み書き困難を持っていた人のほとんどが二度と刑務所に戻ってくることなく、社会に復帰できてきた、ということがあります。

僕は中学を卒業するまでずっと、日本で教育を受けてきました。しかしその間、成績はそれなりに修めてきたのですが、思うような成果を修めることができず、また自分の得意な芸術科目が、上に上がるにつれてただの教養科目となってしまうことにとまどい、親の理解を得て英国に留学することができました。それからずいぶんして生活が落ち着き始めたころ、僕が在籍していた学校が、読み書き能力とその他の能力の差が大きいということに気づき、学校側が検査をした結果、自分は読み書き困難を持っている可能性がある、と判断されました。それから何回か検査を重ねた結果、読み書き困難を持っているということが正式に認められました。

英国では、幼稚園、小学校からディスレクシアのスクリーニング、審査をかけます。審査もれがある場合がそれでもあるので、何回かに分けてします。僕の場合は16歳のとき英単語の読み書きや学習するときの能力が、他の能力に比べて劣っているということでそのテストをしたわけですが、英国で僕の受けたテストというのは、英単語を見て発音するテストと、英単語を聞いて書く、2 つの簡単なテストをいたしました。その結果ディスレクシアということがわかり、長い間、自分の能力と、読み書き能力の差異に困惑していた私は、読み書き困難があるということを知り、安心することができました。

語学学校にいる間は、一般教養としてコンピュータの使用を推奨し、基本ツールの使い方やメールのやりとりなどを教えてくれ、これは普通の生徒にも教えることなのですけれども、さらに読み書きの遅かった僕には、特別にコンピュータのブラインドタッチができるような授業をしてくれました。ちょっと面白い授業で、トランクスをキーボードの上に、キーボードをトランクスで隠して、トランクスの足を入れるところから手を入れてブラインドタッチの練習をするっていう、変な授業だったんですけれども、おかげでタイプがずいぶん速くできるようになりました。

聞いた話なんですけれども、英国の学校では、一つの学校に最低一人はディスレクシアのサポートをできる教員が必要であるらしいです。僕も特別のサポートクラスを受けていました。いろんなサポートがあったのですが、今回の題材と関わりの深いものをいくつか挙げますと、書き取りの練習で、コンピュータにあらかじめ録音された音を聞いてそれを書き取るわけなのですが、そのときに「声の設定」というものができまして、たとえば若い女性の声であり、高齢の男性の声など、いろいろな声を指定して、自分にとって最もいい環境づくりのためにIT技術が使われております。

それ以外に、読み書き困難を持っている生徒に対して、英国ではテストのときに、いろいろな形でサポートを生徒にします。配慮としては、テスト時間の25%の延長、色のついたプラスチックの、板を文字の上に置いて、人によって、色を文章のうえに置くことによって読みやすくなったり、読みにくくなったりするので、個人にとって最適な色の透明なプラスチックの板を置いて文章を読むというサポートや、コンピューターによるタイピングの使用を許可し、読み書き困難とその他の生徒の差異が少なくなるように工夫をしております。

さらに、どうしても読みができないという生徒のためには、口頭試問のテストも用意されております。さらに学校は、読み書き困難児がいるということがわかった時点で、政府のほうからお金が支給されるということを聞いております。日本円にして約30万円、ポンドにして1,200ポンド。政府からもらったお金は、学校のほうはその生徒のためにサポートをいろいろと考え、先生を雇うなり、コンピューターの購入なり、いろいろな方法で有効に使われております。以上のような英国の学校におけるコンピューターサポートにより、僕を含め多くの読み書き困難を持った生徒、人間が世に出ていけるようになりました。

読み書き困難を持った人間のなかには、数多くの優秀な、また特殊な才能を持った人間が多くいます。古くはアインシュタイン、モーツァルト、最近ではトム・クルーズ、キアヌ・リーブス、ヴァージン社の社長のリチャード・ブラソンなどが有名です。また、建築家ではミース バン ダー ローヘという人もディスレクシア、読み書き困難を持っていたと言われ、彼は製図を書くことができなかったので奥さんに書いてもらっていたという逸話もあります。より多くの読み書き困難を含む人間が平等な土俵に出て社会参加をするために、IT技術によるサポートを受け、社会にでられるようになれば、と思います。

以上が、僕の話となります。どうもありがとうございました。

いくつか補足があるのですけれども。僕は建築学校、AAスクールに行っているときに作った作品なのですけれども、コンピューターを使用することによって、このようにフォームジー、オートCADというソフトウェアを使い、このような作品を作ることも可能になりました。

僕の知り合いの日本人で、英国でずっと教育を受けていた人がいて、その人はディスレクシアを持っているのですけれども、日本語はあまりよく話せなくて。彼が日本語を覚えた方法というのが、コンピューターゲームをすることによって、日本語を覚えたと言っています。ロールプレイゲームなんですけれども、スクリプトを読まないと先にどうしても進めないということなので、日本語をそうやって覚えた、と言っております。では何か、質問はありますか。

――質疑応答――

【河村】

アメリカですと、Recording For The Blind & Dyslexic という団体が、録音テープやテキストを貸し出して、ディスレクシアの学生さんもそういう視覚障害者向けのサービスを受けているのですが、イギリスの場合には、たとえばそういう、テキストをシンセサイザーで読むために貸し出すサービスとか、あるいは録音テープにしてテキストを提供するサービス、というようなものをディスレクシアの学生さんが使っているというようなことは、ないでしょうか。

【当時者】

あまり詳しくはわからないのですけれども、テスト時に、スクリプトを読むかわりに、録音されたテキストを聞くことをしている生徒も何人かいるようなので、そういうサポートはあると思います。

【会場:宮腰】

言語聴覚士の宮腰と申します。当事者の方からのお話はいつもすごく迫力があって、今日もいっぱいメモをしてしまったのですが。今日のお話の中心は、学校でどのようなサポートを受けてこられたかということだったのですが、たとえばイギリスにいらっしゃったときに、言語聴覚士のような人間からの何かサポートですとか、そういう人とたとえば学校側の先生が連携をとっていたとか、そういうことはありませんでしたでしょうか。

【当事者】

言語聴覚士という人は、よくわからないのですけれども。

【会場:宮腰】

スピーチ・セラピストとかスピーチ・パソロジストとか言われるものです。

【当事者】

それも含めて、一人の人が、僕に徹底してサポートをしてくださっていました。

【会場:宮腰】

ということは、そのような専門知識を持った方が、学校にいらっしゃって、検査から何から、あとはテストのときにもどんなサポートをしたら適切だとか、そういうようなことが、サービスとして結果的に受けられたということですか。

【当事者】

はい。分業しているらしく、審査するときは別の人、サポートによって違う人を雇ったりとか、そういうふうな柔軟性もあるみたいです。

【会場:宮腰】

どうもありがとうございました。

【会場:寺島】

日本からイギリスに行かれた理由といいますか、どうして行かれたのかというのを、もうちょっと詳しく教えていただけますか。どういうことがやりにくくて行かれたのかな、というのをもう少し、言っていただけるとありがたいのですけれども。

【当事者】

すみません、そこの部分がちょっと抜けていたのですけれども。あまり僕自身記憶力がよくないので、母から聞いたことをもとに話しているのですけれども。小学校のころは読みは遅かった。今でも遅くて、昔からずっと遅かったのですけれども、それよりも書きのほうに問題が多く現れて、漢字を覚えるときとかは、いくら書いてもまったく覚えられず。そうですね、途中で、自分で独自の方法で漢字を覚えることを覚えてからはずいぶんとよく覚えられるようになったのですけれども。たとえば、漢字を自分の頭のなかで、ビジュアライズして覚えていくという方法を自分のなかで考えて、覚えていったのですけれども、でもずっと日本にいることは、書きが非常に困難であったということと、たとえば数学ならば、方法論だとか数式とかはわかるけれども、それを書くときにどうしてもうまく表現することができないなど、小さなテクニカルな面でいろいろと困難があり、僕自身すごく詰まったという面があって。

あと、周りの人とのコミュニケートがうまくできず、行き詰まった状態に一時なってしまいました。そのとき、もともと僕の家が英国での教育というものに興味を持っていて、そのころはまったく読み書き困難とかいうものはわからなかったのですけれども、英国に行って挑戦をしてみたいということで、父と母の了解を得、行くことができ、そして着いてから一年ほどして、僕が読み書き困難があることがわかったのです。

【会場:寺島】

ありがとうございました。

【会場:イワタ】

イギリスの方でも、大学から就職をするときの進路、就職するときのディスレクシアの人に対する支援というものとか、あるいは就職してからとかは、ディスレクシアの人に対するどういうサポートがあるのかという部分ができれば知りたいのですけど。

【当事者】

はい、わかりました。面白い質問なんですけれども、実は、建築家のなかにずいぶんとディスレクシア、読み書き困難を持っている人が多くいて、読み書き困難を持っている人の多くは、空間認知能力が非常によいと言われていて、建築をするうえで非常に有利と言われております。聞いた話なんですけれども、アメリカのある会社は、読み書き困難の人しか受け入れないというところもあるくらいで、普通の非ディスレクシアの人よりも待遇はいいと思います。サポートに関することなんですけれども、ほとんどの人がコンピューターを使用していて、僕の今いる大学も、実を言うとサポートはほとんどない状況で、といいますのも生徒のほとんどが読み書き困難を持っているために、学校の体制自体がむしろサポート、という、へんな言い方なんですけれども、形で。実際に、建築をやるうえで比較的、読み書き困難の困難は少ないほうと思われます。答えになっていますか、すみません。

【会場:マルコ】

コロンビアから参りました、マルコと申します。これまでに、目が不自由でなおかつディスレクシアを持っている人、という人には会ったことがありますか? 通常はものを読むときに、当然、本でもなんでもページをめくっていかなければいけないわけですよね。目が不自由な方の場合、それが非常にたいへんになってくるのですが、そういう人とは会ったことがありますか?

【当事者】

私は会ったことがありません。とても大変なことでしょうね。(英語で発言)拍子で英語でしゃべってしまいました。僕自身、目が見えずにディスレクシアを同時に持っているという人には会ったことがなく、個人の経験からは、どれだけそれが難しいこともわかりづらいという状況で。英国でのそういうサポートについても、目が見えないということとディスレクシアを同時に持っているという人に対してのサポートの状況については、個人としてはまだ、研究が少ないせいか、わからない状況です。

【会場:中村】

リハビリテーション協会さんに委託されてスウェーデン語の文章を日本語に訳している中村と申します。高校ではディスレクシアのためのサポートを受け、また大学では多くの方がディスレクシアという状況で学ばれていると話してくださったんですけれども、高校で使われた教科書は、ディスレクシアの方のために新しく書かれた教科書だったのでしょうか。大学でも、ディスレクシアの方のために書かれたやさしい文章を使った教科書を用いていらっしゃるのでしょうか。

【当事者】

読解困難で難しいものばかりで、ディスレクシアのために書かれているものというのは、使用いたしませんでした。もしくは僕が知っている限りでは、なかったと思います。そのかわり、ディスレクシアのサポートを毎週二~三時間ほど、特別のクラスを受けていて、そのときに文章読解だとか、教科書の内容だとかを、もう一度おさらいしたりして文章を理解して勉強を進めておりました。ということで、たぶんそういうものもあるのでしょうけれども、僕の場合、困難がそんなに重くないため、そこまでのサポートは受けられなかったものと思います。