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国際セミナー「認知・知的障害者の社会参加と情報技術」

パネル討論「情報技術を社会参加に活用する」

パネリスト

  • 阿由葉 寛社会福祉法人足利むつみ会理事長
  • 石川 准 静岡県立大学国際関係学部教授
  • 井上 芳郎 全国LD(学習障害)親の会 事務局長
  • ビルギッタ・イェツバリィ スウェーデン・ハンディキャップインスティチュート
  • ジョン・チャールズ・バーク ルイビル大学ケンタッキー自閉症支援センター所長
  • 英国ロンドンの建築大学在学中のディスレクシア当事者(日本人)

司会:河村 宏 

【河村宏】

パネルディスカッションの司会をさせていただきます河村です。

このあと、最初のプレゼンテーションがありますので準備をしていただきたいのですけれども、そのあと、日本の状況につきまして、三人の方からお話をしていただきます。

最初に、阿由葉様からお話をしていただきますが、その部分だけプロジェクタを使ったプレゼンテーションになりますので、セッティングの関係で、まず演壇から最初のプレゼンテーションをしていただきます。そのあと、井上さん、石川さんの順でそれぞれ、プレゼンテーションをしていただきます。その時点ではお話だけですので、パネリスト全員が皆さんと向かい合う形にセットをしなおします。ですから、このあと阿由葉さんのお話が終わりましたら、ちょっと休憩がございます。

本日、この後四時半までパネル討論をさせていただきますが、その趣旨は、今日、アメリカ、スウェーデン、イギリスからそれぞれ、今どのようにIT、あるいはICT を活用して、認知・知的障害者の社会参加を支援しているのか、というお話を受けまして、これから日本の状況を付け加えて、全体としてパネリストがそれぞれ、これからの情報社会の進展のなかで、今後どういうふうに進めていったらいいと思うか、その点についてご自身の経験、あるいは研究に基づいて、お話をいただく、という予定をしております。

そして一つ具体的な設問をして、それについて皆さんでぜひ、パネリストも会場の皆さんも一緒に考えて問題提起をしていきたいということを、一つ提案をします。それは、これまで「やさしい、誰にもわかる出版」ということが、本当に取り組まれてきただろうか、という問題です。それに取り組むためには、やはり技術だけではできない、ということが、これまでの話のなかでももう既に明らかだろうと思います。つまり、技術はもちろん必要ですが、その技術を支える社会の仕組み、一人一人の障害、認知・知的障害を持つ人たちの「人」を中心に置いたみんなでの取り組み、世の中をそういう方向に変えていくというふうな、やはり社会を作っていくという展望のなかで、具体的に誰もがわかる出版というものを取り上げてみたいと思います。

その際に、著作権の問題というのがどうしても出て参りますので、そのことについてもパネリスト全員からご意見をいただき、あるいは会場からもご意見をいただいて、この会場全体での、こういう方向で行ったらどうか、ということについて合意のできるものなら合意をして、その問題は今まであまり国際的にもきちんと取り上げられていません。したがいまして、先ほど最初にお話ししましたサミットのテーマのひとつに、新しい知的所有権のあり方、ということでこの会場からの問題提起というものにつなげていければと、ひとつ、提案をさせていただきたいと思っております。そんな流れで、四時半まで、パネルディスカッションをさせていただきます。

それでは、日本の状況をご説明いただきながら、パネラーのお一人としてご参加いただきます、阿由葉様をご紹介申し上げます。この後、三人の日本のプレゼンターの方には、簡単に自己紹介を含めて、プレゼンテーションをお願いしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

【阿由葉寛】

プレゼンテーションをする阿由葉寛氏の写真

みなさん、こんにちは。ただいまご紹介にあずかりました、社会福祉法人足利むつみ会、栃木県足利市というところで、特に知的障害の方たちへのサービス提供を行っております、その理事長を勤めております阿由葉と申します。どうぞよろしくお願いいたします。少し風邪気味で声が聞きづらいかと思いますけれども、よろしくお願いいたします。

今回のこの国際セミナーのテーマと言いますか、大きな目的のなかに、この4 月から始まりました障害を持つ方たちのための、自らサービスの選択をする支援費制度という制度があり、それがどのように活用されていくのかということが取り上げられています。私は多分、お話をさせていただくなかで唯一の事業者であり、サービスを提供する立場ということでありますので、その立場から少し取り組みについてのお話をさせていただきたいと思っております。

まず私どもの、社会福祉法人では、どのような仕事をしているかということを先にお話をさせていただきたいと思います。私どもの社会福祉法人足利むつみ会では、主に知的障害児(者)の方へのサービス提供、特に日中活動、その他の地域生活を支援するためのサービス提供を行っています。まず、先ほど冒頭で選択をする制度ができたとお話させていただきました。そのなかで、実際地域のなかに選択をできるサービスや支援がどれだけあるのだろうかということが大きな課題であると思っています。

私どもが今現在行っているサービスは、日中の活動支援としまして、こちらに書いてありますように、社会就労センターきたざとという、仕事を中心とする活動の場所、就労支援を行うところ。それから、主に日中活動、あまり仕事が苦手な方たちのための活動の場所としまして、デイ・アクティビティセンター銀河という活動支援の場所、それから、介護を含めた活動が必要な方たちの場所として、デイ・サービスセンターWINという、それぞれ重度の方も軽度の方も利用できる、そういう選択できる機能というものをまず準備をさせていただいて、今提供させていただいているところです。

併せまして、障害者の方だけではなくて、学齢の障害児の方たち、またあるいはその家族へのサービス提供の支援ということで、児童のデイ・サービスセンターKids WIN という受け入れの場所や、あるいは障害児のための学童保育をおこなう、ビタミンクラブという名称ですが、そういったものを同時に運営させていただいております。昼間の時間帯で言いますと、100 人くらいの障害を持った方たちが利用していただき、放課後になりますと40 人から50 人のお子さんたちが利用されるというような現在の状況です。

併せまして、地域で生活をするということが、この新障害者プランのなかでもかなり優先課題として謳われております。私どもを利用していただいている方々も、もともと地域で生活をしている方たちですが、大きな課題として「親亡き後の不安の解消ために」という課題がありました。地域のなかで、早い時期に一人の成人として自立して生活をしていただく、そういった支援ができるような場所として、グループホームを私たちは設置しました。名前が「ドナルド」と「デイジー」というグループホームです。こちらは、知的障害があるからこそ、地域のなかで安心して生活できる、そういった場が必要だということで、障害に対する配慮、あるいは生活環境への配慮というようなことに、かなり重点を置いて設置しております。そのなかで豊かに自立していただく、ということ。そのための必要なサービスを我々は事業者として提供していこうということで行っているところです。

少し「ドナルド」と「デイジー」の中の様子をみていただきたいと思います。こちらが、「ドナルド」と「デイジー」というグループホームです。生活支援スタッフ、日本の制度では世話人と呼んでおりますけれども、同居していただいております。生活の部分での安全への配慮といいますと、やはりガスとか、火を使わないということがあります。火を使えば危険があるということで、IHの電磁調理器を使わせていただいたり、あるいは、全館暖冷房を完備して、自室での予備暖房、石油ストーブ等は使わなくても快適に生活できると、そういう環境を提供しております。それぞれの個室のなかにバスやトイレ、ミニキッチン等も配置しておりますので、自分の好きなときに自分のお風呂に入り、あるいは自分の好きなものを作って食べるということも可能です。障害の重い方もおりますので、その方たちには、ホームヘルパーがきて、その方のための食事を用意するというようなこともしております。

また、我々の利用者だけではなくて、地元の地域で生活されている方たちのために、地域で安心して生活していただくための支援体制を作っていこうということで、生活支援センターアシストというものを設置しまして、ひとつは相談支援、いまケアマネージメントというような、たいへん重要な課題がありますけれども、そういったものを提供し、あるいはサービスですね、地元になかなか障害者のためのサービスを提供するという資源がありません。それでは私たちが自ら自分たちで障害者のためのホームヘルプサービスの事業所を立ち上げ、あるいは独自のサービスとして、もともとレスパイトケアというような名称で行っていたものを、タイムケアという名前に変えて、サービス提供をしたり、ナイトケア、あるいは送迎のサービス等も、支援費の対象にならない方たちへのサービス提供ということで、実施しているというようなことがあります。これは、私どもの生活支援センター「アシスト」で、地域のなかでのレスパイトハウスというような位置づけで活用しております。

さて、今日の課題であります情報提供という部分ですけれども、私たちが施設のなかで今までどうやって利用される方、あるいは家族の方へ情報提供をしてきたかといいますと、一般的にはまず最初にパンフレットという形で、施設のパンフレットを作りまして、それを説明させていただく。あるいは見学というようなことで、情報提供させていただいています。見学者の方へですとか、そういった方にはパンフレットを中心とした説明ということをしています。具体的にパンフレットの内容ですが、私ども本当に簡単なパンフレットを作っておるのですが、ちょっと薄くて見づらいかと思いますが、施設全体の沿革ですとか事業、それから施設の状況、サービス内容を簡単に書いたパンフレット、このようなものを説明の資料として使わせていただいております。

それから、そういったものだけでは実際に利用する方たちへのサービスの内容が非常にわかりづらいということがありました。どうやってそれを的確に、あるいはわかりやすく伝えようかということで、サービスガイドというものを作りまして、それで具体的な説明をさせていただいています。これは、今までのパンフレットをさらにビジュアル化して、それぞれのサービス内容を細かくしたものです。いまお手元のほうに2 冊ほど、印刷したものをまわしていただいておりますので、あとでご覧いただきたいというふうに思います。特に内容としましては、契約書と一緒に説明している重要事項説明書の内容を具体的にビジュアル化して説明できるようにしたというのが、このサービスガイドです。法人の概要ですとか、社会就労センター「きたざと」での内容、職員の配置の問題ですとかスケジュール、施設の建物のなかの様子等を詳しく説明させていただいています。

そして、私どもは、今年の7 月にDAISY の研修会をさせていただいて、その成果といいますか、今までサービスガイドではビジュアル化して、見るだけ、説明をするという形でやってきましたが、利用者の方が自ら、自分たちで自分の使えるサービスは何かと。あるいはそういったものを確認することができるということで、DAISYによるサービスガイドを作らせていただきました。少し見ていただきたいと思います。

(足利むつみ会、社会就労センターきたざと)※機械音声です。
(2、きたざとの活動、社会就労センターとは、就労と生活、社会参加を支援するセンターのことです)
(3、施設の設備、きたざとでは以下のような設備をご利用いただくことができます。本館、(1)第一作業室、
第一作業室には利用者の...)
(本部と2 階。(1)デイ・アクティビティセンター銀河、いろいろな作業や活動を行うための通所施設です。
(2)デイ・サービスセンターWIN、いろいろな活動や訓練を行っています。
(3)スヌーズレン(ホワイトルーム)、ウォーターベッドやバブルユニット、ボールプールなどがあり、ゆったりとした静かな時間を過ごす部屋です)

このような形でサービスの内容を、もう少し詳しく、これは全部で54ページ分のサービスガイドをそのまますべてDAISYで作ったというものです。かなり詳しくサービス内容の説明をさせていただいています。それから、具体的には社会参加をするための活用ということになります。私どもではまず、IT による情報を得る機会というのが大切であるということで、パソコンの講習会を内部で開いて、利用者の方に参加していただいています。

これは利用者の方へのパソコンの講習会の様子です。希望者という形ですので、全員がということではありませんけれども、希望される方に、パソコンの技術習得をしていただくということで提供しています。それから、それを使って情報を得る機会ですが、個人の家ではなかなかパソコンを使って情報検索できないということもあります。

二年ほど前ですか、IT のいろいろ補助金がでました。そのときに補助金等をいただきまして、内部で情報検索ができるパソコンをホールに設置しまして、休み時間や必要なときに自ら必要な情報を得るということをしていただいています。必要があればスタッフがお手伝いをするというようなことで、利用していただくという機会も作っております。

私どもの法人での活用というとそういった内容になりますが、今現在、私どもの利用者の方でも、かなり携帯電話を持って活用されている方がたくさんいます。特に、今回新しく、iモードのサイトを音声で読み上げをする機能がついた携帯電話が発売されています。そういった機能がついたことで、なかなか見るだけではわかりづらかったのですが、音声でサイトを読み上げてくれるということで非常に活用しやすくなり、かなり機能的に広がってきたなあというふうに思います。また、障害を持った方たちへ、ハーティ割引というようなことが始まりまして、基本料金が半額で、使える時間帯はそのまま使えるというような、これも障害を持つ方たちにとっては非常に利用しやすく、情報というものを利用しやすくなったというふうに思っています。

私の発表は以上です。どうもありがとうございました。

【河村宏】

ありがとうございました。それでは、簡単に、質問だけ、お一人お受けしたいと思うのですが、質問あり
ましたらどうぞ。
どうぞ。今、マイクが行きます。

【会場:二峰】

札幌からまいりました二峰です。先ほどのお話のなかの、キッズWIN、それからビタミンクラブでの活動の内容を少し、教えていただけますか?

【阿由葉寛】

時間的には、放課後ということであまり長い時間ではないんです。ただ、養護学校さんは早いときには1時20分に終わって、お迎えにいきますのでけっこう長い時間いらっしゃいます。私どもは最後は、いちばん遅い方は7 時までお受けしておりますので、その間に子どもたちが遊べる部屋、特にさきほどお話ししました、スヌーズレンという知的障害の方とか、活動ということがあります。そういう部屋を作ったり、スタッフと一緒に絵本を読んだり、ビデオを観たり、テレビを観たり、あるいはおやつを食べたり、できるだけ小さなグループに分かれて、本人たち、その方たちに合ったものを提供したり、あるいは、集団で体操を一緒に行ったり、それはいろんな活動の中身があります。

【河村宏】

どうもありがとうございました。
それでは、ここでひと区切りさせていただきまして、設定を変えます。パネリスト全員が並んで、みなさんと向かい合いますので、ちょっとお時間をいただきます。
用意ができましたので、パネルディスカッション、まずショートプレゼンテーションの続きを行いたいと思います。
次のショートプレゼンテーションのスピーカーは、井上さんでいらっしゃいます。先ほどと同様に自己紹介から始めていただきたいと存じます。井上さん、よろしくお願いします。

【井上芳郎】

皆さん、こんにちは。全国学習障害、LD と言っておりますけれども、親の会の井上と申します。よろしくお願いいたします。座って失礼いたします。

自己紹介と言うことなのですが、会の簡単な紹介です。1990 年に、全国的な組織ということで発足いたしました。それ以前、日本の各地にいくつか会があったのですが、呼び掛けをいたしまして、設立いたしました。現在、日本全国で56 団体、会員数は3,000 名ということになっております。まず、入口でこういうパンフレット、冊子を用意したのですが、実はこれはもう在庫がなくなってしまいまして、足りなくなってしまい申し訳ありません。必要な方は、私どものウェブサイトがありますので、そこでダウンロードして読むことができます。ただし、PDFの画像の非常にアクセシブルでないものでたいへん申し訳ないのですが、現在、DAISY のマルチメディアDAISY のバージョンを作っていただいているところです。もうすぐできるのではないかと思います。

本題に入っていきますが、どうしても最初に、学習障害、LD と言っておりますが、中身はなんですか、という話になってしまいます。今日おいでの方のなかには、もうそんな話は知っているという方もあるかもしれませんが、そういう方には申し訳ないのですが、ちょっと説明いたします。

日本では、1999 年に当時の文部省、現在の文部科学省ですが、定義を公表いたしました。私ども親の会が長年お願いして、早くやって下さいということでやっていたのですが、読みますと、次のような定義なんです。

「学習障害、LD とは、基本的には、全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する、または推論する能力のうち、特定のものの習得と使用に著しい困難を示すさまざまな状態」、ちょっとわかりませんね、これだけでは。要するに、読んだり、聞いたり、あるいは書いたり話したり、そういうコミュニケーションする力の一部がちょっと困難だ、ということなんです。原因についてはいろいろありますが、正直のところ、多くはわかっていないそうです。

それで、こういうお子さん、成人の方ももちろんいるのですが、つい最近なんですが、文部科学省で全国調査をいたしました。日本全国の小中学校のうち4 万人を抽出して調査をしました。そのなかの6%程度、こういうお子さんがいる、ということがわかりました。アメリカ、ヨーロッパでもこんな数字なのかなと思いますが、非常に多いと思います。

こういう人たちに対して、今日のテーマである情報技術、ITがどういうふうに活用できるのかということなのですが、先ほどの定義にもありましたけれども、情報を処理する、外から読んだり聞いたりした情報を処理することが苦手な方たちなので、そういう情報技術、たとえばコンピュータ、今日もすでにここに要約筆記の方にやっていただいていますが、こういう技術というのが非常に役に立つということです。たとえば、耳で聞き取りにくいLD の人が、こういう筆記の方が字幕で出していただきますと、非常にわかりやすいです。それから、ここに音声ガイドがありますが、耳、聴力は正常なのですが聞き取りにくいLD の方がいます。そういう人にはこういうものが便利でしょう。そういうふうに、IT は使い方によっては非常に大きな手助けになるだろうと思います。

実は、私個人のことになりますが、だいぶ年をとってまいりまして、細かい文字は苦手になってきました。テレビのアナウンサーの声も、早口のアナウンサー、スポーツ中継なんかは非常に、何を言ったんだと、聞こえにくいときもあります。そういうときにたとえば字幕があると、いま何があったんだ、ということがわかる。文字も、たとえば拡大して読むことができたりすると、非常に助かります。要するに、学習障害、LDの人たちだけの問題ではないでしょう、という気がしております。たとえば高齢者の方ですね。皆さん必ず年をとっていくわけですけれども、こういう人たちの情報のサポート、支援が進んでいけば、社会全体がよりバリアが小さな、住みやすい社会になっていく。

さて、午前中の話と少し関連させなければいけないのですが、二つのお話があったと思うのですが、ひとつは社会参加していく準備と言っていいと思うのですが、教育の問題。もう一つは、学校から社会へ実際に出ていく、そして出で行った後の支援。

二つあると思うのですが、学校教育については、日本も欧米に遅れること20 年、あるいは30 年という人もいますが、やっと文部科学省などを中心に指針、ガイドラインですね。教育のガイドラインがもうすぐできあがります。私たち親の会も協力をさせていただいておりますが、もうすぐできると思います。今後ますます進んでいくことを希望しておりますけれども、実は問題は、社会へ出ていくときに、まだ充分な支援がない。さっきフロアの方で、イギリスではどういうサポートがありますか、という質問がありましたが、日本ではまだ学習障害などの人には、そういう支援はありません。たとえば、私の知り合いのお子さんで、すでに就職をしている人がいますが、会社で上司、上役から、口頭で説明、今日はこういう仕事があるからこうしなさい、ということが、なかなか聞き取れない。いっぺんにたくさんのことを指示されますと、こんがらがってしまうのです。そういうときに、メモなどを渡してくれるだけでも、ぜんぜん違います。ほんとうは、そういう作業マニュアルのようなものがDAISYのようなもので提供されているといちばんよいのですけれども。

そういうことで、私たち親の会の最近の関心は、学校から社会へつないでいく。実際に社会のなかで生活していく、参加していくというときにどういうふうにサポートできるか。そういうところへ、関心が移ってきています。

さて、その社会参加するときにITがどういうふうに使えるかということなのですが、たとえば役所へ行きまして、LDのご本人の方がいろいろな、たとえば健康保険であるとか、いろいろ手続きをします。そのときに、説明書類があるので読んでください、と言われます。なかなか読みにくい、私なんかが読もうと思っても、すごく細かい字で難しく書いてあって、一回読んだだけではわからないのもありますけれども、少なくとも公的な機関が提供するそういう情報は、どのような人がアクセスしてもきちんと読めるようにしてほしい。LDの人のなかには、読むことは苦手ですが、ディスレクシアのタイプの人は耳からの情報が入りやすいとしています。逆に、窓口で説明をされるときには、ちゃんとした、たとえばシートにわかりやすい図やイラストなどで説明したものを一緒に見せてもらいながらやってもらうだけでも違います。

このように、そういうときにいちいち紙に書いてコピーして渡すのではなくて、あらかじめそういうものは行政がサービスを提供する段階で、今はコンピュータ、ワードプロセッサーで作るわけですから、そのデータを活用して、DAISY フォーマットでもつくっておけば、全国の役所で、住基ネットですか、 ネットワーク化されていますので、同じものが資源を無駄遣いすることなく使えると思うのです。

河村さんの方からも指摘があったと思うのですけれども、いまこの時期に、そういうインフラの整備ですね、きちんとお金をかけて、しかも各部門でばらばらにやるのではなくて、どうせやるのであれば、もちろん当事者の方たちの使いやすいように意見を採り入れながら、全国で同じように統一して整備していけば、今はまあお金が多少かかるかもしれませんが、長い時間で考えればこれは安上がりになるし、それから、多くの人たち、障害者の方はもちろん、一般の方にとっても非常に使いやすい、そういうシステムになってくると思います。そういう意味で、別に自慢するつもりはありませんが、このLD、学習障害の人たちは、数はとにかく多いです。日本に小中学生は1 千万人くらいだと思うのですが、かける6%、60 万人くらい。それから高校生、それ以上の方もいますので、100 万人規模以上の方がいるはずです。

もしこのなかに、そういう企業の方がいるとすれば、これは巨大なマーケットなのではないでしょうか。そういうことも含めて、今後、私たち親の会ができることはほんの僅かなのですが、ご協力をいろいろな方面からいただきまして、やっていきたいと思っております。時間が15 分以内ということなので、以上で終わらせていただきます。

【河村宏】

井上さん、どうもありがとうございました。
それでは、次のプレゼンテーションに移らせていただきます。
次は、石川さんです。たくさんの肩書を持っていらっしゃるので、ご自分で自己紹介のなかで整理をしてご紹介いただければと思います。
石川さん、よろしくお願いします。

【石川准】

ただいまご紹介いただきました石川です。肩書はほとんど持っておりません。まず自分についての紹介と、障害学会というものを最近立ち上げましたので、その障害学会の会長を引き受けておりますので、その関係で障害学会の紹介と宣伝をさせていただきたいと思います。私はいま静岡県立大学の国際関係学部というところで社会学の研究者として教育と研究をやっております。ちなみに私は30 年前、16 歳のときから全盲です。

私の社会学のテーマは、障害学であるとか、アイデンティティとか、感情労働、接客から看護にいたるまで人が感情を適切に表現したり感じたりしながら働くという、そういったテーマ。あるいはホスピタリティとかアシストとか、そうしたテーマを最近は考えております。それからもう一つ仕事をしておりまして、それは支援技術系の仕事です。主として視覚障害者のための支援技術、ソフトウェアの開発というのをやっております。

障害学会についてですが、ちょうど2週間前、10月11 日に発足しました。障害学というのは英米でディスアビリティ・スタディーズと呼ばれているものとほぼ対応すると考えてくださって結構なんですが、5 年くらい前からそういったことを意識しながら仕事をする人たちが出てきました。私も、いわば第一世代に当たります。日本における障害学の第一世代ということで何冊か皆で本を作っています。5 年ほど研究会などの活動をやってまいりまして、そろそろ学会を立ち上げて私たちができることをしていくべきではないかと考えて、設立に踏み切りました。まだ生後2週間の赤ちゃん学会で、会員数は160名で先ほどのLD 親の会の20 分の1 ですが。小さくとも自分たちにできることを精一杯やっていきたいと考えております。

学会としてのポリシーとかそういうものがまだあるわけではないし、また作る気も必ずしもないのですが、大雑把にどういったセンス、どういった考え方で障害学をやっているのかということを少し説明させていただきたいと思います。

私はこういう言葉を最近作りまして説明しているんですが、「配慮の平等」という言葉です。「配慮の平等」。これはどういうことかと申しますと、従来の考え方は、配慮を必要としない多くの人たちと、特別な配慮や支援を必要とする少数の人たちがいるという、そういう枠組みでした。だから、配慮や支援を必要とする人たちにそれを提供することが、社会の優しさであったり、あるいは一定程度は責任である、と考えていました。けれども、そうではないということを言いたいわけです。それは、既に配慮を受けている人たちと、いまだ十分な配慮を受けていない人たちがいるというふうに考えるべきではないかという、いわば視座の転換と言いますか、発想の転換を提案しているわけです。

たとえば、よく私が持ち出す例ですが、階段とスロープがあります。階段は配慮でなくスロープは配慮であると、多くの人たちは思うわけですが、それはおかしい。なぜならば階段を外してしまうと2 階に上がれる人は、ロッククライマーとか棒高跳びの選手とかくらいしかいなくなってしまいます。配慮なしに生きられる人間なんてどこにもいやしないということ。当たり前のことなんです。ただし、多くの人たちが共通に求めているニーズ、都合というのは、何も言わなくても提供されがちである。あるいはマーケット・メカニズムを通してそれは提供される。けれども、少数の人たちの都合というのは、たとえばマーケット・メカニズムだけではなかなか提供されないということがあります。あるいはこういった講演などでも、今日は私はスライドを使っておりませんけど、情報系の講演では必ずパワーポイントを使って講演をしております。レジュメも出します。そういったことをしないと、講演者はサボっているとか手を抜いているというふうに、皆思うんです。けれども、一方、要約筆記とか手話通訳、点字レジュメというのは特別な配慮をしているセミナーだなと、多くの健常者は感心したりもするわけです。

つまり自分たちに提供される便益というのは当たり前のことであり、自分たちが必要としていない便益というのは特別な配慮なんだというふうに、私たちはどうも感じてしまう傾向があるような気がするわけです。しかし、それは多いか少ないかだけの問題であって、社会全体としては、配慮の平等という原則について合意し合って、その実現のために必要とあればマーケット・メカニズムだけで実現できない部分については、それ以外の社会的な方法を用いて平等化を目指す。資源は有限ですので、できないこともあります。が、それをやっていこうというふうに、賛同していただきたいなと思っているわけです。

それから、最近の日本の事情についてもう少しお話ししたいと思いますが、交通であるとか、建築であるとかの分野で、バリアフリー化のための法律が作られてきております。それから情報分野、IT 分野ではガイドラインの策定作業が進んでいまして、JISという工業規格の策定のための作業をいまいくつかの分野で行っています。たとえばウェブのアクセシビリティ・ガイドラインのJIS化のための作業を行っています。ちょうどいまパブリックコメントが求められている段階になっています。

情報分野では法律という枠組みではなくてJISという手法によって、つまりインダストリアル・スタンダードを作って、それを公共調達の際の発注条件にすることによって、企業にアクセシビリティについての関心を向けてもらうという、そういう手法をとろうとしているというのが現状です。

それから障害者運動、いくつかテーマを持っているわけですけれども、一つは障害者差別禁止法制定を目指す運動というのがあります。それから障害というのを理由にして、これこれの障害を持っている人はこれこれの仕事に就けないというような規定を持った法律が、古いものから比較的新しいものまでいっぱいあるんですが、そういう障害欠格条項をなくすという運動も行われております。

障害学会のポリシーというのはないんだという話をしたんですが、あえて最大公約数的なことを言うと、障害というのは障壁なんだ。社会的な障壁なんだというふうに考えるという考え方だと思います。ですから、従来障害というのは、それはいろんな理由によってその人が障害を負ったのだろうけど、負ってしまったのはいわばその人に与えられた初期値のようなものであって、その人が自分でどうにか、基本的にはすべきこと。克服できるなら克服してほしいし、できないならばそれを受け入れるしかないだろう。あるいは家族に対してもその障害を負った家族メンバーを支えることを期待する。社会は、どうしてもそれでやっていけない人たちに対しては救済の手を差し伸べるけれども、最後の手段であるという枠組みだったわけですが、そうではなくて、障害というのは障壁であって、社会全体で、皆で、シェアして責任を皆で引き受けていこうという考え方を、最大公約数としていいと思います。

ちょっと抽象的な言い方なので、もっとわかりやすく言うと、障害があろうとなかろうと、誰もがそこそこで、元気につつがなく自由に暮らせる社会が良い社会だというふうに考えているわけです。言い換えると、中には人生において危険を賭けることが醍醐味だというふうに考える人もいます。それはまったくけっこうなんですけれども、安全に暮らす社会でも人は危険な選択をすることは可能なんですが、危険な社会で安全に暮らすことはできないですね。ですので、どう考えても安全に暮らせる社会が良い社会だというふうに考えているということです。

以上、とりあえずのショートプレゼンテーションでした。失礼しました。

【河村宏】

石川さん、ありがとうございました。
それではご質問がありましたらこの時点で一つだけお受けしたいと思います。いかがでしょうか。いいようですね。それでは、とても論旨明快なプレゼンテーションが二つ続きましたので、これからいよいよパネルディスカッションに移りたいと思います。

日本の状況をかなり具体的にいまご紹介したわけです。ここで、まずジョン・バークさんのほうからコメントをいただきたいと思います。この情報社会をこれから作っていくのにあたって、どのようにこれから抱負を持っておられるのか。お話をいただいた中で語り足りないところもあったかと思いますし、これまでの日本のプレゼンテーション、あるいはスウェーデン等のプレゼンテーション、あとイギリスについての状況を聞いてさらにこのようなことをご自身の抱負としてこれからやっていきたいというようなあたりからまずお話をいただきたいと思います。だいたい一人一回5分くらいのペースで、短くたくさん発言をしていただくというふうにしたいと思います。それではジョンさん、お願いします。

【ジョン・バーク】
今日はたくさんのことを皆さんから学び、アイデアも得ました。
将来の計画ですが、ぜひやりたいと思っていることは、簡単に話をしましたけれども、大学の教授たちがもっといろんな種類の障害を持った人のニーズに対応してくれるようにすることです。もちろんたくさんの教授の中には、そういうことをあまり考えていない人もいます。ですから、一緒に集まってガイドラインを作ったり、提案を出したり、標準を設けたりすればいいのではないでしょうか。

大学を、障害を持つ生徒たちがきちんと修了することができるようお手伝いするためには、教授たちが自らそういうことをする必要があると思います。教授間の協調が重要になるかと思います。自閉症の児童、生徒が私の専門なのですが、明確にそれ以上の生徒たちも助けていきたいと思っています。明らかにカリキュラムを変えたり、本を変えたりして調整して読みやすくしたものが出されています。私が知っている本で92年に出された薄い本があるのですが、友達は本ではなくてパンフレットと呼んでいますが、二つのルールを元に書かれています。一つは、使う専門用語数を少なくするということ。そして手短に書いてあるということです。ですから先生たちもさっと読んで簡単に理解できる内容にするということです。私も、それはウェブ上に載せたいと思いますので、読みたい方はウェブにアクセスしてお読みください。

著作権を持っている人たちは、内容を少し変えればオープンにしていいという態度ではないでしょうか。私も教授の一人、そして作者の一人なんですけれども、私たちのような人たちが協力して、本の製作について協力していきたいと思います。もちろんDAISY を使ったりしていきたいと思います。しかしその前に、原則的な部分で協力をして、著作権のある著書であっても、基本的には所有しているものとして、協調してよりオープンにしていくようにしていきたいと思います。親御さんもより参加していただいて、プロフェッショナルもそうですけれども、IT世界の中で親御さんも協力することでより大きな影響を与えることができると思います。

私も個人的に必ず自分の仕事の中に今日学んだことを反映したいと思います。2週間後にはワシントンDCでのサミットに参加します。いくつかの課題を持っていきたいと思います。ですから今回いろいろなことを教えていただいた皆さんに感謝いたします。今回参加したことによって、アメリカに持ち帰る情報が増えました。これからももっと協力していきましょう。

【河村宏】

どうもありがとうございました。

それでは続きまして、ビルギッタさんにコメントをいただきたいと思います。同じようなテーマでまずコメントをいただきたいと思います。

【ビルギッタ・イェツバリィ】

先ほどのプレゼンテーションでは十分に時間がなかったので、スウェーデンで何をしているかもう少し話をしたいと思います。社会へのアクセシビリティという話をしたいと思います。

2002 年にアクセシビリティ・センターというものが設立されました。これは建物だけでなく、交通手段、文化、ウェブサイト、資料、情報など、障害者のためのそのような側面をすべてカバーしています。障害者のための国家政策の一環でした。優先順位が非常に高いプロジェクトでした。もう一つ、障害者に対して十分に敬意を表していこうという態度で臨まれました。いま、ガイドラインを使っていますが、2010年までにスウェーデンは、障害を持っている人々でも100%完全にアクセシビリティを得られるようにしなければならないという目標を掲げています。そのために努力しています。

認知障害を持つ人々のために、スウェーデンで新聞を作っています。最もよく知られているダーゲンス・ミューヘイターという日刊紙があります。DAISYのフォーマットでその新聞は提供されています。これとは別に、ディスレクシアを持つ人々のためのICT コミッションという委員会があります。これは政府に対する諮問委員会で、ICT で何をやるか、障害を持つ人々だけでなくICT に関してどういうことをしていくかについての諮問機関です。私たちはその委員会とともに作業をしていますが、ディスレクシアの人々のための計画、ICT に関して何をするのかということを話しています。やることはたくさんあります。

ジョンさんのほうからも著作権の話がありましたが、司法省が著作権により対応しやすいように法律を変えようという努力がなされています。そうすることによって障害者の方々もより多くの情報を得られるようにするためです。私たちはそれぞれたくさんのアイデアを持っていると思いますので、協力すれば経験を変えて、そして障害を持つ人々のためにより良いことができていくのではないでしょうか。

【河村宏】

ありがとうございました。

これからはまずパネリストの方が一巡するまで自由に手を挙げてご発言いただきたいと思います。手を挙げた後、発言するときには要約筆記の方にどなたかわかるように、まずお名前を名乗ってからおっしゃってください。それではどなたからでもどうぞ。

【井上芳郎】

井上です。いまお二人から著作権という話が出てきましたので、ちょっと付け足しを。日本の話ということで付け足しになるかと思いますが。

実は障害者放送協議会という、これは約20の団体が集まって、著作権だけではないのですが、取り組んでいる団体です。
日本の著作権法、私も何回か読んだのですが、まず非常にわかりにくいのです。その著作権法の中で想定している、いわゆる障害者。これは視覚、聴覚の障害の方だけです。もちろん視覚、聴覚の障害者に対する配慮も不十分なんですけれども。たとえば点字。いまは昔のように手でやるのではなく、コンピュータのソフトウェアを使って点字のデータを作るというのがあるんですけれども。著作権法では一般の出版物を点字に直すのは著者に許可なくできる。無許諾でできるのですけれども、それを電子データ、点字の電子データの形でたとえばインターネットを通じて配信しようとすると、公衆送信権に引っかかってダメ。けれどもそれも改正、私どもの放送協議会の働きかけで、オーケーになりました。

あと、聴覚障害の方のために、たとえばテレビの番組などの字幕を作るんですけれども、たとえばテレビであるドラマをやっています。それと同時にパソコンの画面にボランティアの方などが字幕を付ける。画面は別なんですよ。テレビとは別のパソコンの画面に出るんですけれども、それもそのドラマの脚本家にいちいちお伺いを立ててやらなければならなかったんですが、これも一応できるようになりました。ただ、当然セリフをすべて100%字幕に直しますとね、逆に読めなくなってしまう。量が多すぎて。ですから適切な要約ですね、いま実際にそこに出ておりますけれども、私がしゃべったことを100%字幕にするんじゃなくて、要点を要約して出すわけです。そうすると脚本家の方は自分の意図と違ってくると、大分難色があったんですが、今はできるようになりました。

実は学習障害の人たちの中でも、本当はこれを使いたいんです。特にインターネットというのは非常に便利ですので。ところがこれを使おうとしても、視覚、聴覚の障害の方以外には基本的には使えない。たとえば点字図書館にディスレクシア、読みの障害の人が音訳の図書を借りに行っても、現在の日本の法律では借りることができません。ですからいろいろなITの技術はどんどん進んでいるんですけれども、肝心の人間が使うための法律、制度が逆に邪魔をしている。非常におかしな話なんですが、そういう問題があります。私が聞いた話では、欧米では広く視覚、聴覚の障害の方以外にもそういう利用がされているとうかがっています。ですから今後の課題としては、もちろん技術を開発していくことも大切ですが、法律を含めた制度、実際に生きた制度にするということが必要なのではないかということです。日本では残念ながらまだ非常に遅れた状態である。そういうお話です。

【石川准】

別の論点についてお話ししたいんですが。今のはまったく私も同感です。

今日、認知知的障害の方の情報保障というのが重要なテーマだと思うので、先ほど河村さんから提起があったリライト、翻案の件について考えてみたんですけど。私自身が本を書いたりしている立場でもあるので、もしかしたら私の意見はやや著者寄りだと思われるかもしれないのですが、その場合は違うと言っていただいて。議論のいわば出発点になるような話をしたいなと思います。

著者は、精一杯こだわりにこだわって、たとえば本などの作品を書くわけですけれども、翻案に関しては、翻案権というものを同時に、社会に対して自分の表現、言いたいこと、書きたいことを提出するわけですから、翻案する一定の責任、リライトする責任もあるというふうに感じています。ただ自分でそれをやれと言われると、たぶんたいていの人は厳しいので、誰かやってくれる人がいると助かるというのが正直な気持ちだと思うんです。ただ翻案というのは非常に難しい。高度な知識や技術を必要とする作業で、熟練した信頼できる翻案者、リライターが作業してくれることを著者は期待するし、そういう社会的な信用というか評価の仕組みと言いますか、質の高い依頼とか提供される仕組みを望むと思います。

また、そういうものであっても、自分ではわからない外国語への翻訳ですとどうにも手が出せないので、ただ信じるしかないんですけれども。自国語での翻案だとわかるので、わかるだけに気になって、どうしても自分もそれに参加して翻案作業に自分の意見を述べたくなるに決まっているんです。ところが忙しいので、自分のところに送られてきたリライトの初校のドラフトを見て、たとえばこれはぜんぜん違うとか、これはこんなのじゃ嫌だと思う人がけっこう多くて、自分でなんとかしようと思って、でも忙しいので後回しにしてほったらかしてしまうという人もけっこう多くなるに違いないと思うんです。そうすると、それを待っている人からするととても耐えがたいことです。理想を言えば出版と同時にリライト版も読みたいはずなんです。それは私が視覚障害者の立場だからとてもよくわかるわけですけれど。

そうするとやはりどこかで時間を区切って、一か月とか二か月、著者がサボっていたらもう知らないというので出していいとか、なんと言いますか、お互いの都合、お互いの立場を尊重し合いながら、ある落としどころを考えていく。そういう著者とリライターとユーザーとの民主的な話し合いと言いますか。その話し合いのなかでルールを決めていくということが大事なのじゃないかなと思っています。

ちなみに、翻案などは私の書いたものは絶対に要約不能であるという人も出てくると思うんですが、それは社会的には許容すべきではないと思います。翻案できないものは原則としてない。テキストであればもっと易しく、どんなに複雑な思想であっても翻案可能ではないか。ただ、量子力学の高度な専門書をリライトできるのかと言われると、厳しいところはあるかもしれませんけれど、たいていのものは翻案できるという前提に立ってトライしていくということで、著者にも応分の作業を負担していただくという枠組みが良いのではないかと、とりあえず、今日河村さんから提起があって、いま考えたばかりで荒っぽいんですが、そう思います。

【河村宏】

司会者ではなくパネリストとして発言させていただきたいと思います。

今日、急に提案した意味はいくつかあります。一つは、やはりどこかで誰かが、あるいはできれば皆で、この議論を大々的に始めないと、いつまでたっても始まらないんじゃないかという思いがあります。そして今日、ジョンさんの具体的ないくつかのビデオを見せてもらって、いろんなことがあるんだと、本当に今まで知らなかったことをいっぱい教えてもらいました。その知的な刺激を受け、本当にやらなきゃいけないんだなという気持ちがあるときに、この難しい問題に取り組んだ方がいいんじゃないかと、私は強く思ったわけです。と言いますのは、これはとても難しい問題だと思います。でも石川さんのいまの議論で、私も非常に力を強くしました。意を強く持った理由は、日本では土地の所有権、これはもう日本は土地が高いですから、絶対的なものだと皆が思うわけですけれども、その土地であっても、何年も放置してそれが誰かが普通に使っていて立ち退きを迫らなければ、その人のものになってしまうという年限が設定されていたかと思います。30年かそのへんだったんじゃないでしょうか。つまり土地ですら、そういう権利について一定の制限がある。つまりきちんと使っていなければ、権利というのはいくら権利を持っているんだと言っても、きちんと責任を持って行使して管理して初めて権利なんだというのが、本来の社会的なルールであろうかと思います。

そういう意味で、読みたい、知りたい、理解したいという権利、これはもう日常的に毎日使わざるを得ないわけです。それが壁に出会っているからなんとかしてくれというのが、いま私たちが議論している一方の「情報にアクセスしたい」という権利だと思います。それに対して、著者の方は当然自分が苦労して作った著作についてのさまざまな権利を持つ。これは尊重されて当然ですけれども、でも一定の範囲内でそれは限界があって当然である。つまり、一定の期間それを行使しない、行使することを具体化しない場合に、誰か第三者が、たとえば非営利であればそれを翻案して、あるいは録音にして、あるいはDAISYにして提供しても、そのことについては権利が及ばないというようなルール。最小限の、どういう場合に制限がされるのかというルールはあって当然ではないかというふうに、私は思います。そういうことをテーブルに置いて、具体的に議論しましょうと言わないかぎり、この問題は誰も取り上げません。出版社のために弁護士料をもらって法律的な活動をする人たち、法律の専門家がいっぱいいるかと思います。でもこれまで残念ながら、障害を持つ、あるフォーマットでなければアクセスできない人たちの要求を擁護して法律的にがんばって闘っていくという法律家は、自然には現れてこなかったと思います。やはり障害を持つ当事者と連帯して支援する、あるいは仕事の上でそれを支援する人たちが一緒になって取り組まないと、何も前へ進まないということが言えると思います。

そういう意味で、あ、そういうことなのか、とてもよくわかったというときの、一種の気持ちの昂りと言いますか、何かできることはやらなければというときが、行動を起こす一番いいときではないかと思って、今日、とても困難であることは明らかなんですけれども、何か皆で知恵を絞る。この問題についてはグローバルに、著作権の問題は国際的な課題なんです。グローバルに問題提起をしなければ絶対に勝ち目はありません。せっかくアメリカ、スウェーデン、イギリスの経験をこの日本でいただいて議論しているので、この問題を積極的に提案していく。ということで、私は、石川さんの今出された一定の期間のなかに、一定のガイドラインを設けて、それで著者が権利を行使しなければ、第三者がそれを提供してもいいということは、なんとか前に進めてみたいなと思います。

【ディスレクシア当事者】

いろいろと考えてみたんですけれども、やはりこの問題を進めるに関しては、深い理解が必要になってくると思います。その理解とは、情報に対する深い理解であり、また、障害または困難に対する理解の、相互の理解を深めることによって、この問題はどんどん良くなっていくのではないかと思っています。

情報自体の理解ということですけれど。文章についての深い理解をすることにより、その文章を要約して絵に変換すること、もしくは他の媒体に変換することというのが非常にやりやすくなってくると思えるし、障害に対する理解、もしくは困難に対する理解ということに関しては、たとえばディスレクシアというものがありますが、ディスレクシアというコンディションのなかで読み書きの困難、もしくは運動面の困難などいろんな困難が出てくるわけですけれども、それは個人差でいろいろと出方が違って。障害というものを分けるときにも、木に付いた寄生樹のように、二つで一つ、分離して考えることはできない、非常に難しい問題であると思います。

社会参加ということに関してですが、英国では法的に障害者差別禁止法というものがしっかりとあって、社会でディスレクシア、読み書き困難というものは非常に深く認められており、評価されております。僕の友だちにもたくさんの読み書き困難の人がいて、友だちとして話し合ったりとか、また普通の人も、僕は読み書き困難を持っているということで差別とかは全くなく、むしろ一つの個性として考えています。むしろ読み書き困難になりたいって言う人もいるくらいで。変な話ですけれども。というのはコンピュータをサポートで手に入ったりとか。そういうサポートの面で非常に多くの特典があったりだとか。物理的な面で言うと。日本でこれを進めていく上で、やはり障害という考えよりも、むしろ一つの個性として個人を認める。もしくは社会の一人であるという考えをどんどん深めていってもらえればと思います。

先ほど、教授や先生方の理解に関してという話が出たのですけれど。外務省の方で現在ガイドラインを作成しています。あ、文部省です。すみません、間違えました。文部省の方でガイドラインを作成しています。ガイドラインによってできあがって、どういうものかというのが個人または先生、親などの理解が深まるとは思うけれどもまだまだやはり問題は多い。理解を深めなければいけないことがいろいろとあると思います。

また、日本のことなんですけれども、まだ理解が浅いために、多くの優秀な人材が海外に流出しているということがあります。それはサポートのシステムがまだ完璧ではないということにより起こっていることが多いと思います。やはり一人ひとり個人の幸せのためにも、国として、人として、障害または困難を持つ人が幸せに、また困難、障害を持っている人と平等に住んでいける社会を作れたらと思います。以上で僕の言葉とさせていただきます。

【阿由葉寛】

著作権の関係で流れてきますので、私もそのことで少し自分の意見を話したいと思います。

まずビルギッタさんのお話で、新聞をDAISYを使って早い時期に、同時に提供できるというスウェーデンの状態というのは非常に素晴らしいと思います。日本でも、考えてみれば情報が誰にでも同時に提供されるということはごく当たり前でなければならないというのは、皆さん同じですね。いまお話を聞いていて同じ考えであると思います。ただ、それがどうしてならないのか、著作権のいろいろな問題。新聞だけでなくていろいろな出版物、同時にできないというのは、一つは法的な根拠が必要になると思います。

石川さんもお話をされていました、障害者差別禁止法ですとか、そういったなかでどう盛り込んでいくのか。たとえばアメリカの場合にはADA 法やリハビリテーション法で、たぶん差別禁止というなかで大きく関わってきているのではないかと思います。日本では障害者基本法、残念ながら廃案になってしまいましたけれども、また再審議という形で行われると思います。そういった流れのなかで、障害者差別禁止法等の制定、あるいはそのなかできちんと議論して盛り込んでいくということも、大きな流れとして作っていかなければ、なかなかこの問題は解決できないのではないかと思っています。ぜひ、そういったところも含めて、大きな国民の声として議論すべきだと思います。以上です。

【ビルギッタ・イェツバリィ】

デイリー・ニュースがどういうアレンジをされているのかはわからないんですけれども、新聞社のオーナーがそれをやると決めたわけです。非常に良い例を私たちは作っていかなければならないと思います。そういう意味でも。

【河村宏】

ちょっと補足します。いま、特にスウェーデンとデンマークでは、DAISY の規格で新聞を提供するというのが非常に有望なビジネスと見られています。特にデンマークでは、ボイスシンセサイザーを使ってあっという間にテキストファイルをDAISY規格の録音図書にしています。新聞というのは、頭から最後まで読む人はそんなに多くいなくて、やはり探したいんですね。自分の読みたいところを探してそこだけ読むというふうにしたいので、どうしても、毎朝新聞全部をカセットで提供されたら、持って歩くこともできない。でもDAISY で、できれば電子媒体でダウンロードしてMP3 プレーヤーというポケットに入るようなプレーヤーがありますね。DAISYのプレーヤーは最終的にはそんなものにもなりますので、つまりそういうものにすれば、いまはCD で出していると思いますが、最終的に検討されているのは、ダウンロードして胸のポケットにその日一日の新聞を朝収めて、ドライブをするときに新聞を読めませんから、ドライブをしながら聞いたり、あるいは電車のなかで、あるいは歩きながら聞いたり。というマーケットというのがあるんですね。そういう出版が同時に行われて、紙でも買えるし、DAISY フォーマットでも買える。あるいはもともとスウェーデンではテキストデータをFM電波を使って夜のうちに配信をして朝点字で読むというサービスがありましたから、そのようにして、どんなフォーマットでも読めるという形で、社会全体が自分の好きなフォーマットで、同じものを誰もが読めるという形で、仕事にもなるというあり方を、実現しつつあるのがいまの新聞の話なんです。

つまりこれは、利用者のニーズも満たせるし、出版社も仕事になるし、そこで働く人の雇用も生まれるというものなんです。やはり、アイデアと理解と協力とがあれば、そういうものも実現できるんだというのが、情報社会の一つの魅力なのではないかと思います。

【石川准】

二つほどコメントしたいと思います。一つは、アクセシビリティというのはユニバーサルデザインと支援技術の共同作業で実現すべきものなんだと考えているということです。ユニバーサルデザイン、Design for All と言っても、私の場合はほぼ同義語なんですけれど、つまり、支援技術だけでがんばれって言っても限界があるんですね。私は視覚障害者用の音声ブラウザだとかメーラーだとか、スクリーンリーダーという、コンピュータを視覚障害者が使うための基本ソフトがあるんですが、そういったものを作ってきましたし、最近はドコモの携帯電話を盲ろう者が使ってメールのやりとりができるようなソフトの開発もやりました。今年はクローズド・キャプション、テキストを抽出して、やはり視覚障害者や盲ろう者がクローズド字幕を読めるようにするとか、日本の文字放送をやはりテキスト抽出するというようなことをやっているんですが。ユニバーサルデザイン的な考え方が、電子情報通信分野ではまだ十分進んでいないために、常にいろいろな制約に阻まれたり、余計な作業負担を強いられてきているという、そういう経験を持っていまして。やはりユニバーサルデザインを進めていくというのが結局、先ほど私が言いました電子情報市民社会における配慮の平等を実現するための必要条件だというふうに考えています。それで、支援技術もがんばらなければいけなくて、両方合わさって必要十分になるというふうに私は考えております。時間があまりないので、もう一点、後でもう一回チャンスがあったら言わせていただきます。

【河村宏】

それではジョンさん。

【ジョン・バーク】

ありがとうございます。いくつかの点をお話ししますけれども、新聞の話ですけれど、誰でも新聞を見たい、読みたい、聞きたいということがあると思います。同じようにして私は学校におりますので、学校に入りますといろいろな教材とか手順とかテクニックを修正していきたいと思うんですね。認知障害を抱える子どもたち向けに。そういった配慮を今後も続けていかないといけない。もっともっとたくさんの子どもたちを対象にしていかなければいけないと思うんです。サポートできるような形で。同じようにして教材、資料は、認知障害を抱えた子どもたちにとっては挑戦課題が多いわけですから、いま我々がやっていること、さらにそのシステムを改善していくことが必要になってくると思います。

特に学校、大学といった場合は、システムがあって本当に少ない自閉症の子ども向けのものということになっていますけれども、あまり多くのリソースを少ない子どもたちのために、現実問題として費やしたくないという考えがあるわけです。しかし自分たちがやっていることがもっともっと広いベースに影響を与えるんだということをわかっていただくことが必要だと思います。ですからこの考え方はやはり常に持っていないといけないのではないかと思います。

【ディスレクシア当事者】

一つのアイデアなんですけれども、先ほどスウェーデンの話などいろいろとうかがって思ったのですけれども。最近世界中の建物とかをよく見てみますと、メディアテックというものが非常に多くできあがっています。図書館としての役割以外にも、電子情報のセンターとして役割を果たしております。日本にも仙台メディアテックというすごく有名な建物ができたのですけれども。やはりこれからの社会で、どんどんメディアテックというものが増えていくと思うんですけれども。それが地域の学校なり家庭との連携がどんどん深まり、そして障害、困難を持っている人のサポートをするための、媒体として、そのメディアテックが中心になって地域がどんどん良くなっていけばいいなと、ふと思いました。

あと、文章などを要約して絵にしたり、また他の媒体に変えるというときに、やはりどうしてもどんどん広がっていくうちに、地域などによってものに対する理解というものが変わっていくということがあるので、やはり地域性の理解ということもこれからどんどん必要になってくるんじゃないかと思いました。以上です。

【河村宏】

それではこれから、まとめモードに入ります。これからは一人二分で皆さん、一言ずつ発言していただきます。井上さん、どうぞ。

【井上芳郎】

まとめになるかどうか心配なんですが。先ほどはかなり漠然とした話だったので、具体的なことを、提案というほどではないですが。

一つは、学習障害、LD の場合は、学校教育との関係が強いです。最低限学校で使用する教科書、それから基本的な図書ですね。それをすべての学校で教育を受けている障害の種類などに関わらず読めるような、そういう教科書を作っていただく。もちろん出版社だけに負担を負わせるわけにはいきませんので、当然、義務教育であればなおさら、国の責任、施策ということでやっていただきたい。そのときに、これもやはりばらばらにやったのでは能率が悪いですので、DAISY のような非常に優れたフォーマットで統一してやっていくと。

それからもう一つは、それを待っていられない。ボランタリーの方たちが、既存の教科書を、許諾を得ながら作っていく。ただ、ライブラリー化して勝手に保存したり蒔いたりできない。現行の著作権法ではね。少なくともそういう非営利の、義務教育に使うもの、本当は高校、大学もですけれどね。便宜を図る。少なくともそういうものについては最低限保障すべきである。

もう一つは、社会に出て必要なもの。少なくも公的な、たとえば役所であるとか、それに準ずるようなところは、使う資料についてはもちろん無許諾でDAISYなどのフォーマットにしていくのは当たり前なんですが、公表する段階ですでに用意をしていく。これは今の著作権法がどうこう、あまり大幅なことをやらなくても、やる気さえあればできるようなことだと私は思っているのです。まとめになったかどうかわかりませんが、以上です。

【石川准】

先ほど残したもう一点をここで申し上げたいと思いますが。

最近、ユビキタス・コンピューティングとか、ユビキタス・ネットワークという言葉がかなり先行していますけれども、よく語られています。いつでもどこでもコンピュータによる支援が受けられるということなんですけれども、そこにやはりユニバーサル、誰でもということが入ってこないといけないと思うんです。

いつでもどこでも誰でもっていうふうに、常にワンセットで言ってもらわないかぎりは、ユビキタスだけのことに特化して、先に仕組みを考えていくというのはおかしいんだということを、まだ誰も言っていないような気がするので、それは言っていかなければいけないのではないかと思います。ユニバーサルとユビキタス。セットで言っていくということです。

それからまとめなんですが、そういうアクセシビリティとか、電子情報市民社会における配慮の平等というのは、高い技術と正しい思想により実現するというふうに考えています。私は自分のメールのサインにいつも、最近は、「アクセシビリティは高い技術と高い思想により実現する」というメッセージを入れています。どんなメールでもそのサインが入ってしまうので、「明日飲みに行こうぜ」というメールにもこれが入ってしまったりなんかして(笑)。プライベートと仕事のメールを分ければいいんですが、分けずに全部片っ端からこれが入っているという状態になっています。この言葉で人々を動かそうというふうに、目論んでおります。以上です。

【ビルギッタ・イェツバリィ】

子どものことを忘れてはなりません。まず早いうちから始めましょう。子どもたちは恐れません。新しい技術を使うことには臆しません。すぐに使い始めます。私たちは、スウェーデンでいい経験を重ねてきたと思います。早い段階から子どもたちを刺激しています。そして、読んだり書いたりできるように、若いころからそれができるようにしています。ですから、私は日本で皆さん方がそれができるようにご協力したいと思います。非常に若い子どもたちからその活動を始めていただければと思います。

【ジョン・バーク】

私は何点かに焦点を当てて話したいと思います。プレゼンのなかで言いませんでしたので。

一つは、個人個人に焦点を当てるということ。私は主に自閉症を扱っていますが、自閉症を持った一人ひとりの子どもたちを扱っていると考えています。

二点目は、協力です。親、そして文化、専門分野、国との協調です。それは非常に重要です。協力することによって、ゼロから始めるのではなく、より大きな成果を得ることができます。IT、ICT を利用するということは私たちの仕事の一貫になっています。遠隔教育の一部でもあります。遠隔教育で国際的に行っているプログラムもあります。世界の学生がそのプログラムに何百名も参加しています。我々の大学院のプログラムにもそのような形で参加していて、日本からの参加者もいます。たしか二人です。遠隔教育のプログラムについてですが、国に戻ったらもう一度それを見直したいと思います。他の個々人のニーズを満たしているかどうか、考えてみたいと思います。大学生で障害を持っている学生もいます。その人たちのニーズを本当に満たしているかどうか、見直してみたいと思います。今回、本当にお招きをありがとうございました。

【ディスレクシア当事者】

いま僕がここで話すことで、少しでも読み書き困難ということに関しての認知が広まってくれればと思います。それに関するサポートシステムというものが、もっともっと着実に日本にも根付けばと思います。そのうえで、やはり携帯だとかITだとか、身近にある機器が個人を助け、社会参加をしやすいような環境を作っていけるようになればと思います。以上です。ありがとうございました。

【阿由葉寛】

私たちがサービス提供している知的障害者は、情報があってもそれをどういうふうに得るかということ自体がなかなかわからない。そういった現状があります。私たちはそのご本人や家族へ、必要な情報をわかりやすく的確に提供していかなければならないというふうに思っています。

今私どもはいろいろなサービス提供をしていますが、たとえば銀行のATMを使うといったことでも、ATMの機械は我々が使えばそれほど難しくなく、音声で説明してくれます。ところが知的障害者の方がそれを使おうとすると、そのボタンがどこにあるかわからない。パネルのタッチをどこにすればいいかわからない。そういったものをもっとわかりやすくならなければいけない。そういう情報を上手に使うこともたいへん必要なことだと思っていますし、そういう支援を的確にしていこうと思っています。

そして、情報を得るということだけではなくて、ぜひ、彼らが自ら自分の情報への思い、本人の思いを情報発信していくということができるように、我々、エンパワーメントという支援を重点に置いて、これから進めていかなければならない。私たちがいくらここで討論しても、当事者ご本人の方がその力を付けなければ利用はできない。それを、本当に、現場でやっていきたいというふうに思っています。

【河村宏】
このパネルディスカッションのまとめとして、次のようなことを述べたいと思います。

まず支援技術というふうに石川さんが整理されましたが、一つひとつの障害に対応して、そのニーズ、要求に応える技術。それが支援技術ということだと思います。それがもう一つ、すべての人ためのデザイン、あるいはユニバーサルデザインというものに結びついていかなければいけないんじゃないかという問題提起があったと思います。ここで私たちは、「障害」ということから、「すべての人に」というふうに一歩飛躍するわけですが、「すべての人」というのをもう少しよく考えてみると、今日は出てきませんでしたが、これから日本は世界で体験したことのない高齢化社会を迎えるわけです。長生きをするということは、一つの障害どころか、それが全部いっぺんにでてくる。長く社会で活躍してこられ、それはある意味でご褒美なんですけれども。でも、長生きをする、その先が暗いものであっては何の楽しみもないわけです。長生きをするとこんなに楽しい、本当にそう思えるような社会を作るということ。もう一つ、「すべての人に」という技術の目標、あるいは社会のシステムが支えるべき対象として高齢者が当然入ってくると思います。

スウェーデンのビルギッタさんが言ったように、子ども、これも大事な要素です。もう一つ、国際化ということを考えますと、今日会場には大勢の発展途上国から参加していらっしゃるJICA の障害者リーダーコースの研修生の方々がいます。やはり南北のギャップ、これをどういうふうに埋めて連帯していくのかということも、皆のためのデザインというときには欠かせないことだと思います。

そして次に、言葉の問題、文化の問題があると思います。日本でも、アイヌの言語文化は書く言葉を持っていないわけです。でもそこには非常に豊かな文化があるわけです。同じように、アメリカにも先住アメリカ人が南北アメリカにおりますし、世界中で見ると言語の数で言ったら文字を持っている言語の方が少ないのではないでしょうか。そういう人たちも非常に豊かな文化を、自分たちの言葉で持っているはずです。その言葉で持っている文化、あるいは手話を自分たちの母語として使っておられる聴覚障害の方たちもいます。手話は動くビデオ、動画でなければ再現できませんので、その方たちの文化的なニーズにもきちんと応える。そういう、皆のための技術というものが必要になってきます。そのように、マイノリティを一つひとつたどっていき、そしてそのすべての人のニーズを解決していく。そして、その上に立ったすべての人のためのデザイン、あるいはユニバーサルデザインというものを考えていくと、ほぼ誰でも、うんと歳をとっても、社会参加をやっていける。そういう夢を持った将来というのが描けるかと思います。

それから、どこへ行ってもそういう配慮がされた緊急避難設備であるとか、交通案内であるとか、あるいは台風が来たり地震が来たときの情報支援、あるいは緊急脱出の支援のなかにも、誰のニーズにも対応できるものというものがきちんと組み込まれていれば、皆が安心して、石川さんの言葉で言えば「そこそこ」安心して楽しく暮らせる社会というのが実現していくかと思います。

私たちは、個別のニーズを大事にしながら、最終的にはそういった社会を実現するのがこれからの情報社会づくりであり、それをグローバルに取り組んでいくんだということを、今日のこの議論のなかから、私はつかみ取れたような気がします。

この後、実は会場には、ぜひお話をうかがいたいという方がいっぱいいらっしゃるんですね。時間がなくてたいへん申し訳ないんですけれども、このパネリストたちは少なくとも5時半まではこの会場におります。拘束するようで悪いんですけれども。ですから、この機会を生かしてぜひ交流を。なかなか秩序だった交流ができなくて申し訳ないんですが、これをぜひ話したいという方は、撤収が5時半だそうですから、5時半にはこの部屋を出ていなければいけないんですけれども、少なくともこの界隈にはおりますので、ぜひこの機会を生かして、一言声を交わしたい、握手をしたい、何でもいいですから、このチャンスを生かして、さらにこの後交流を深めていただければ、パネルディスカッションが中途半端で終わった責任を、私としてはしのげるのではないかと思います。それでは、パネルディスカッションの司会という大役をこれで終わらせていただきます。

どうもありがとうございました。

パネルディスカッションの写真