国際シンポジウム
ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携
報告書
報告2 ソーシャル・フランチャイズ方式による社会的協同組合の普及
ダニエル・リンドグレーン(スウェーデン)
ウェイアウト協同組合(Vagen ut! kooperativen)創設メンバー、開発マネージャー
ル・マット・スウェーデン マネージャー
パービス:それでは、ダニエル・リンドグレーンさんにスウェーデンの経験をご紹介いただきます。
ダニエルさんが創設メンバーであるウェイアウト協同組合は、新しい雇用を提供するソーシャル・エンタープライズの一つとされています。また、ダニエルさんは、スウェーデンにてEUの中でも初めてのフランチャイズ方式を導入しようとしています。障害を持っている人たちで、「ル・マット・スウェーデン」というホテルチェーンをスタートするということで活動しておられます。
ダニエル・リンドグレーン:皆さん、ようこそおいでくださいました。そして、日本に来るチャンスをいただいきまして大変嬉しく存じます。
先週、日本のソーシャル・ファームをいくつか見せていただき、それほど私たちと違いはないかなと思いました。訪問させていただいたソーシャル・ファームは、ビジネスとしては様々な方向、そして異なるレベルにあるんですけれども、いろいろと参考になりました。
今日は私たちがやってきたことについてご紹介します。どのように始まったのか、今後、何をなすべきかについてもお話しさせていただきます。
ウェイアウト協同組合は、2003年に始まりました。その頃私は男性の受刑者に対し、親になることの意味を教えていました。彼らは、ある意味、忘れられた人々でした。つまり、受刑中に子どもができたような人たちだったんです。子どもたちのための「ブリッジ」という小さな組織を作りました。受刑中の親がいる子どもたちのために、サマーキャンプ、ウィンターキャンプもおこないました。同じようなバックグラウンド、つまり受刑中の親を持つ子どもたちが会えるようなチャンスも作りました。同じ経験を持つ子どもたちは、お互いに理解することができるからです。
親にとっては、社会に再統合されることが重要ですが、なかなかそれがうまくいきませんでした。スウェーデンにおいては、元受刑者であれば仕事を得るのが大変難しい状況でした。
EQUAL(Equal a European Program)をとおして、元受刑者を具体的に支援することにしました。その中で、非常に広い意味でのパートナーシップが必要だということに気がつきました。
ブリーガン協会(Bryggan Association)というものをつくりました。現在は10都市にあり、とても誇りに思っています。元受刑者の生活を支援するための自助組織KRISもつくりました。現在スウェーデンで15都市に存在しています。それから障害をもつ女性、あるいはかつて薬物中毒であった女性たちを支援する組織であるヴェストガン(Vavstugan)もあります。大変有名になりましたが、シルクに絵を描くというような工芸品を製作して販売する活動もしています。
またコンパニオン(Coompanion)という組織もあります。これは、地域の協同組合なんですけれども、スウェーデン政府が支援をしています。現在、全国に12の協同組合があり、地域の自治体からも支援を受けています。
社会統合を進めるにあたって労働当局の支援もありますし、刑務所や保護観察所、地域社会保障担当部門、市社会福祉事業リソースセンター、地域協同組合開発局の支援もあります。こういう人々を支援する上で非常に重要な、最後の頼みとなるようなところです。もちろんイエテボリ市も支援しています。
ソーシャル・エンタープライズ、ソーシャル・ファームなどもスウェーデンにはたくさんあります。一般的にはソーシャル・エンタープライズもソーシャル・ファームも似たような言葉として使われていますが、スウェーデンではソーシャル・エンタープライズという言葉が頻繁に使われています。
ソーシャル・エンタープライズは通常、労働市場から疎外されている人、縁遠い人たちを社会統合するためのビジネスを行っています。障害を持っている、外国から来ている、あるいはこれまでの事情によって労働市場になかなか入れない人たちのためにビジネスを行い、雇用を創出します。
基本的には自社の活動または同様の活動に利益を再投資します。これまで10年ほど活動してきたわけですが、当初は障害者を対象とし、新しい仕事を立ち上げるということを支援してきました。
かつては、資本を提供してくれる人を募るということもやったんですけれども、うまくいかない時代も続きました。企業というのは収益を上げなければなりません。我々は授産施設ではなく企業であるわけですから、市場で活動をしていかなければいけない。したがって、ビジネス上のしっかりしたいいアイディアが必要です。そうでないとまた失敗してしまうということになります。
例えばスウェーデンのある通りに10軒のカフェがあるとしたら、11軒目を作ろうということはしません。そして、収益は新しい機械を買う、教育に使うなど、さまざまな形で我々の活動に再投資をいたします。
従業員をエンパワメントすることも重要です。それぞれが能力をもっており、それぞれが仕事にアイディアを持っている。それを証明することが重要ですし、それができなければ、本当の意味での仕事にはなりません。
それから私どもの組織は公的なプログラムからは独立しています。このことは非常に重要なことです。もちろん何らかの支援は必要なわけですが、基本的には独立した組織です。
「ウェイアウト、エンパワメントの実践」とスライドにありますけれども、10年ほど前に新たに導入された考え方です。
私たちは上から下にという目線を持って活動はいたしません。下から上にという目線を持っています。つまり一番下にいて、なかなか労働市場に入れない人が、どうしたら力をつけて労働市場に入れるか。エンパワメントとは、どうしたら自分のための解決策を見いだせるかということを自分で考えることです。けれども、それをするためには、様々な人と協力する必要があります。ウェイアウトでは、「お互いをうまく受け入れ合っている」状況です。コンピュータも学習しており、非常によい結果が出ています。
いずれにしても重要なのは、「平等であること」、そして「皆の居場所がある」ということです。すべての人が何かできることがあると信じています。価値のない人、何もできない人は、一人もいません。ですからすべての人が自分の能力を発揮するチャンスを与えられれば、気分よく生活をすることができると思います。
また、大切なことは「民主主義」と「団結」です。私たちがこの活動を始めた当初、長期にわたる病気で仕事ができなくなった人がいました。その人たちのために、まず活動を始めました。例えば、病気であっても病気から回復すればまた仕事に戻りたい、そして意味のある仕事をしたいと思うものです。仕事をしたことで、もっとしたいことができる、あるいはより良く仕事をしたいと自分自身を再教育したいと思うこともあるでしょう。そういう場合には、機会を提供することが重要だと思います。
2003年にソーシャル・エンタープライズ、ウェイアウト協同組合というコンソーシアム・モデルを作りました。
最初は三つの会社から始まりました。ウェイアウト・ソルベ、カフェ・ソルベ、カリンズ・ドーターです。それぞれの会社(協同組合)は独自の組織で、そこで働く人々が所有しています。しかし、協同組合の所有者となるためには、まず3年間働かなければなりません。3年経てば、会員(組合員)資格を得るための申し込みをすることができます。会員資格を持つということは、会社で積極的な役割を果たす共同経営者であり、所有者であるということを意味します。自分自身と共同経営者たちのために働いていると感じることは大変重要なことです。単なる仕事ではなく、ただの雇用機会ということではなく、自分のビジネスでもあるということになります。もちろん、このような協同組合のメンバーになりますと税金も保険もきちんと払わなければなりません。
私たちがここまで到達するには時間がかかりました。例えば会計処理もきちんとしなければいけません。帳簿もつけなければなりません。税金を払って給料を払って、その他、企業としてすべてやるべきことをやらなければならない。それができて初めてコンソーシアムのメンバーになることが許されるわけです。そのために、経理の専門家を雇ったり、他の民間会社からも必要な技術を得るようにしました。さらに、労働市場に入りにくい人を雇うことが、その要件になります。
現在では、このような〔スライド6〕事業をやっています。この中には、他の会社で働いていた人たちのアイディアを活用したものもあります。こちらのチューリップマークがついている園芸の事業は、外のアイディアを取り入れて始まったものです。それぞれ個人の庭仕事を引き受けるということで、今では20人を雇うことができるようになっています。
このようなコンソーシアム・モデルを活用しているのでリスクもあります。いろいろな雑誌に広告を載せていますけれども、15の広告をするのではなく、コンソーシアムとして一つの広告を出すだけということになるわけです。
こういう事業体のどこかで仕事を始めると、他のことをやりたいという気持ちも出てきます。そういった場合には奨励します。カリンズ・ドーターでは、女性のための職業リハビリテーションも実施していますが、このような場所をはじめて作りました。マネージャーも含めてキャリアを積んでいくことも奨励されています。
新しい組合や事業体なども出てきています。現在では15の社会的協同組合があります。イエテボリだけではありません。全国にあります。我々はひとつのコンソーシアムです。このプロジェクトは2001年に始めたのですが、そのときには4人しかいませんでした。私たちはビジョンと高い理想を掲げてここまでやってきたわけです。現在は、80名以上の従業員がいます。毎日100名以上が、活動に参加しています。この方たちは、実地訓練を受けたり、あるいはハーフウェイハウスを利用したりしています。
私たちは授産施設ではなく本当の雇用を創出しています。きちんと勤めれば1月に1回給料がもらえます。福祉からの給付ではなく、働いて給料をもらう。これは個人に大きな影響を与えます。そしてそれは周りの人たちにとっても良いロールモデルになります。
しかし、これは福祉制度の一部ということにもなります。例えば病気になった場合には福祉制度の一環として扱われることになります。また、団体労働協約なども結んでいます。
また、とても重要なのは、借りを返すことです。たとえば、多くの人たちが税金を納められない状態にあり大きな問題になっています。借金を返すという意味も含めて、自分自身で借りを返していると感じられるということはとても重要です。
4つの都市にハーフウェイハウス(ターゲットグループを対象とした宿泊兼就労施設)があります。ソーシャル・フランチャイズ方式で進めています。
ここは二つの使命を持っており、それは生活と就労ということです。受刑者や保護観察下にある者、あるいは社会福祉サービスの受益者に対して生活の場を与えるということです。
最も大きなクライアント・グループは受刑者です。刑務所から出た後の最初の数ヶ月から1年くらいは、ハーフウェイハウスに住み、ソーシャル・トレーニングを受けます。その後、社会に戻っていくことになります。もちろん、必要なメンタル面でのケアを受けながらですけれども。
また私たちは、労働市場に縁遠い人々のために職場を創造します。ですから新しい一般就労先で仕事を見つける人もいますが、こうした橋渡しをするのが、ハーフウェイハウスの役割になります。
もちろんこのハーフウェイハウスでは薬物は禁止です。ホテルではありませんので、一日中何もしなくてもいいというわけにはいきません。活動しなければなりません。
義務もあります。例えば薬物中毒者の更生会やアルコール中毒者更生会に出席し、セラピー・セッションに毎週出ることが義務づけられています。
もちろんどういう方々が来ようがそれはいいのですけれども、子どもや家族とうまくいっていなければ、仕事に影響することがあります。そこで、家族や子どもたちとの関係も重視します。
もちろん、職場では、インテグレーション〔統合〕、能力開発、社会起業家としての精神を育て、エンパワメント、積極的な参加を促進します。それらはとても重要です。単なる就労だけではないわけです。もちろん私たちが人々を雇用するときには、必ず薬物禁止を条件にしています。
薬物に依存していた人たちが問題なく仕事に就くことは良いロールモデルになります。
また、ウェイアウト協同組合では職業訓練と職業リハビリテーションもやっています。ハーフウェイハウスではできません。ここまでやると負担が大きくなりますので。
カリンズ・ドーターは協同組合のひとつです。これは女性のためのものでありますが、手工芸品の取引をしています。
スクリーン印刷は若者の働く場所でイエテボリ市の郊外にありますが、ソーシャル・フランチャイズも、いずれは果たしたいと思っています。
企業に対してサービス、たとえば企業のロゴのプリントなどを行います。製品を顧客に提供し、販売することを通じて、企業と関わることを学びます。
ケータリングとカフェでの職業訓練はとても良いです。なぜなら、ケータリングを通じて一般社会と接触することで、とてもよい訓練になります。
先ほども言いましたけれどもカフェがあります。Accoglienzaというのはイタリア語で「温かいおもてなし」という意味です。
イタリアで始まったル・マット・ホテルをイエテボリでスタートしました。(これは、「不利な立場にある人」を雇用することによって、より質の高いサービスが提供できるという「逆転の発想」に基づくもので、ソーシャル・フランチャイズ・システムで拡大しているものです。)
私たちは、一年間かけてどのような障害の人たちが私たちのそばにいるかを調べました。またいろいろな意味で不利な立場にある人たちが見つかり、そのような人を集めたのです。
もちろん彼ら自身もホテルでどのように接してほしいのか知っているので、どのような仕事が必要なのか、また、ホテルでお客様とどのように触れ合うべきかがわかっています。
ホテルの仕事の90%ぐらいは清掃の仕事なんですけれども、この清掃の仕事をゲストサービスと呼んでいます。清掃というと何となく嫌な感じですが、ゲストサービスとなると、非常にやりがいも出てくると思います。ほこりだらけではお客様は喜んでくれません。
イエテボリにおいでの節は、ぜひル・マットホテルのことを思い出してください。
他の都市の人がこのようなホテルを開業するには我々の協同組合との連携が必要になります。立ち上げたいと思いますと、ます素敵な部屋やレセプションデスクが話題の中心になるのですが、実際には清掃作業が全体の90%を占めるんです。実際に発生する仕事とは何か、というような研修が必要になります。そして私たちの価値観と同じであれば、いろんな都市でソーシャル・フランチャイズ方式で展開していくことができます。
もちろん知識を得るという意味もありますけれども、もっと一般の民間企業とも対等に競争していくという意味でも、同じブランドのソーシャル・フランチャイズというのは強いと思います。政府からの契約も多く請け負うことができます。
ル・マット・〔ホテル〕スウェーデンですけれども、キーワードは、「歓迎」です。もっと詳しくお話する時間があると良いのですが。
私たちはソーシャル・フランチャイズ方式を確立しました。ヨーロッパにネットワークを作って、もっと活動を高めたいと思っています。ル・マットはヨーロッパで実現した最初の協同体としてのソーシャル・フランチャイズ方式です。
国際的な活動もしています。
ル・マットはドイツ、ロンドン、フィンランド、デンマーク、ノルウェーでも展開していますけれども、恐らくル・マットで働く人はいろいろな国に派遣されることも可能なわけです。そうするといろいろな言語を学ぶこともできますし、イエテボリだけではなく、大きな世界のなかで仕事をしているということになります。
それからフレア(FLARE:Freedom Legality and Rights in Europe)というものがあります。イタリアの組織で、リーブラ・テラというのがあります。これは自由な地球という意味で、随分前のことになりますが、マフィアから自らを守りたいというような会社が一緒になって作られたわけです。そして今ではイタリアで大きな組織として育っています。
このフレアも、やはり犯罪組織から自らを守るという意味で組織化されています。フレア21は、若い人たちのための組織で、ヨーロッパで有名になっていると思います。若い人たちは将来を担う指導者ですので、大事にしたいと思っています。
子どもの視点も大事にしています。単に一人の人間を雇っているというよりは、その背後の家族をも重要視しています。
どうもありがとうございました。これがウェブサイトのアドレスですので、ぜひこちらの方もご利用ください。どうもありがとうございました。