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国際シンポジウム
ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携
報告書

報告5 ヨーロッパにおけるソーシャル・ファームの概観

ゲーロルド・シュワルツ(ドイツ/セルビア)
IOM(国際移住機関)プログラムマネージャー

フィリーダ・パービス:次に、ゲーロルド・シュワルツさんにお話ししていただきたいと思います。現在はセルビアで国連の仕事をしていらっしゃいます。ソーシャル・ファームの開発分野で長い経験がおありです。ドイツでソーシャル・ファームをお作りになりましたし、またソーシャル・ファームを支える中間組織でもお仕事をされてこられました。ドイツだけでなく、他の国でも活躍をされました。また、ソーシャル・エンタープライズの発展に関して、イギリスを含むEUの研究調査をしてこられました。今日は、いろいろな国におけるソーシャル・エンタープライズ、ソーシャル・ファームについての調査のまとめをお話しいただきます。日本においても、そういった調査結果を参考にして今後どうしたらいいかの示唆をしてくださると思います。それではお願いします。

スライド1
(スライド1の内容)

ゲーロルド・シュワルツ:ご紹介ありがとうございました。本日は、お招きいただきましたことを大変うれしく思います。

日本のソーシャル・ファームをいくつか見せていただき、大変感銘を受けました。私が日本でのセミナー/シンポジウムに参加するのは5~6回目になります。昨年の訪日を受けて、ヨーロッパの様々なソーシャル・ファームの動きについて集約する時期にきているのではないかと考え、主催者と話し合いこの調査をしたわけです。みなさんの議論のベースにしていただければと思い、ディスカッションペーパーというタイトルを付けました。

この調査の結果をご紹介させていただきます。

スライド2
(スライド2の内容)

まず、ソーシャル・ファームの定義と位置づけです。

ソーシャル・ファームは、今のヨーロッパではどのような意味を持っているのか。そして、いくつか統計的な数字をご覧いただきたいと思います。

次に、ヨーロッパ各地におけるソーシャル・ファームに関する法的枠組みについて、また大変重要な中間組織やソーシャル・ファーム支援制度を見ていきたいと思います。最後にヨーロッパや日本において、ソーシャル・ファームの分野における次のステップが何なのかということを考えたいと思います。

スライド3
(スライド3の内容)

定義については時間をあまりかけずにスキップしたいと思います。

スライド4
(スライド4の内容)

ソーシャル・ファームの位置づけについても、サリーさんからお話がありましたのでとばします。ソーシャル・ファームというのは、広い意味での第三セクターの一部、あるいは社会経済の一部であり、その一角を占めるソーシャル・エンタープライズ、その中でも雇用統合型ソーシャル・エンタープライズの一部です。

スライド5
(スライド5の内容)

さて、ソーシャル・ファームというのは他の企業と比べてどう違うのでしょうか。

先ほどからも定義についてのお話が出てきています。仕事というのは非常に重要なものです。仕事をすることで生き甲斐を得ることができますし、またお金を得られるわけですから自立した生活ができる。こういうことはとても重要なことではありますけれども、炭谷さんの最初のお話の中で出てきたエンパワメントという言葉も大変重要だと思います。

ちょっと曖昧な用語ではあるんですが、ソーシャル・ファームのエッセンスがどこにあるかというと、やはりそこにあると思います。

ソーシャル・ファームというのは、他の企業と同じように一人ひとりが意見を表明することができるし、他の働く人たちと同じ権利と義務を持ちます。イタリアにおいてソーシャル・ファームが最初に生まれたと言われているわけですけれども、当時は民間セクターの企業に代わるものとして紹介されました。民間企業というのは人を搾取する。様々な人を統合するということはなく、仕事が十分できなければ放り出されることもある。そういうような社会の中でソーシャル・ファーム、ソーシャル・エンタープライズは、別の形の働き方を提供する。それは人を大事にするモデルとして作り出されたと言われています。ダニエルさんからも、スウェーデンで実際にどのような形で行われているのか紹介がありうれしく思いましたが、ヨーロッパ各地でソーシャル・ファームの重要な要素として推進されています。

その上で、実態を全体的に注意深く見る必要があると思いました。これまでそれぞれの国の状況を把握する調査・分析もあまり行われてこなかったので、興味深いのではないかなと思いました。

ビジネスとして見た場合、ソーシャル・ファーム、協同組合というのは、他の企業と変わりはありません。何か新しい形でビジネスをやろうというわけではありません。ソーシャル・ファームももちろん製品やサービスを作って販売しなければいけない。それは普通の民間企業と競争できるものでなければならないということは先にも出たとおりです。

しかし、ソーシャル・ファームをビジネスとして見た場合、普通の企業との違いは主に二つあると思います。

例えばドイツの数字を見ますと、企業がビジネスを立ち上げた後、5年後に生き残れる事業は30%以下です。つまり最初の5年間で60~70%は失敗するわけです。この数字はヨーロッパ全土でだいたい同じだと思います。ソーシャル・ファームの場合は、立ち上げ後に失敗するという話はあまり聞きません。

その理由の一つとして、非常に能力の高いビジネスマンがやっているのかと思うわけですけれども、そうではないと思います。多くのソーシャル・ファームは、障害者に対して住宅や職業訓練を提供するような、より大きな非営利団体が立ち上げたものです。このような背景がある場合、ソーシャル・ファームがビジネスを立ち上げるときに、傘となる大きな組織の中で相乗効果を活用することができます。それが失敗例が少ない理由ではないかと思います。

しかしさらに詳しく見る必要があると思います。ソーシャル・エンタープライズやソーシャル・ファームの立ち上げに関する文献を調べることも興味深いと思っています。単独型の場合は、製品の販売促進も重要ですし、大きなリスクをとることにもなります。また企業の雰囲気が違うということも言われています。しかしその辺りもしっかりと見る必要があると思います。

もう一つは、ソーシャル・ファームにおいてはコンソーシアムやクラスターと呼ばれるグループの一員であるということで相乗効果が生まれるということがあると思います。ダニエルさんからも先ほど詳しくその構造についてお話しいただきましたね。

ソーシャル・ファームというのはもちろんビジネスではありますけれども、通常の中小企業とは違うところがあります。協力のレベルがかなり高いということがその一つです。つまり、グループ内の他の企業、他の母体との協力関係が強いということです。それが成功の秘訣だと思います。

日本に来る前にソーシャル・ファームを運営しているベルリンの友人と話をしたところ、25の事業ユニットを持っているそうです。また、金融危機がソーシャル・ファームに与える影響はあまりなかったと友人は言っています。ある特定の契約に依存した事業でない限り、より大きなネットワーク企業の一員であることによって、影響を埋め合わせたり、スタッフを別の協同組合の事業所に移すということも行われたそうです。イタリアでもそのようなことが行われました。そういうことについて日本でももう少し見てみる必要があるのではないかと思います。

スライド6
(スライド6の内容)

ヨーロッパにおけるソーシャル・ファームのモデルについて、既存の調査に基づいて全体像を明かにしようとしたんですけれども、実際には使える調査というのはそれほどありませんでした。今後の宿題になるかと思います。例えば数や売上など少なくとも最低限のデータを収集するべきだと思います。国際的な論文は3件しか発表されていません。

法的枠組みなどがある例えばフィンランド、イタリア、ドイツではデータを定期的に収集していますけれども、あまり系統的なものにはなっていません。それ以外の国では、データがないということに驚きました。

スライド7
(スライド7の内容)

スライド7の表はデータのまとめにすぎません。信頼あるデータだと思うものだけを使っていますのでもう少し数は多いのではないかと思いますが、はっきりしたことはわかりません。ソーシャル・ファームの数は4,000ぐらい。約10万人の雇用を満たしています。そのうちの約42,000人が障害者であろうと思います。ヨーロッパでこういうデータを定期的に集められるようになるまでに時間がかかるでしょう。おそらく各国政府やEUなどに働きかける必要があると思います。

数が最も多いのがソーシャル・ファームの起源の国であるイタリアですね。大変興味深いポイントは、先ほどサリーさんがイギリスでは立ち上げのときのサポートは得られないと話をしていましたけれども、イタリアの市町村のレベルではかなり支援があるということです。これはタイプB、雇用統合型社会的協同組合に限られます。あまり豊かな資金の援助ではありませんが、イタリアでは事業を始めて、軌道に乗れば、継続的な支援を受けられるシステムがあるのです。

スライド8
(スライド8の内容)

それでは、国内の法的枠組みを見ていきたいと思います。

6つのヨーロッパの国において、ソーシャル・ファームに特化した法律があり、イギリスにはソーシャル・エンタープライズに関する法律、その他の国にもソーシャル・ファーム型のWISEを対象とする法律が存在しています。

〔法的枠組みにおける〕ソーシャル・ファームの目的やターゲットグループの定義は、多かれ少なかれ、(社会的企業の定義よりは)狭義です。フィンランドでは、ターゲットグループに長期失業者を含むなど広く定義していますが、ドイツでは障害者としているなど、国によって異なります。

もちろん共通点もあります。社会的に不利な方々を雇うということ、一定のパーセンテージの雇用を満たさなければいけないというような法律の定めがあります。それに応じて政府からの支援も得ることができるわけです。

政府による支援の種類ですけれども、7ヶ国で大体共通のものがあります。

フィンランドの場合には、障害者のための賃金補助金があります。法律で規定されているため、全国に適用されています。

その背景にある考え方には、社会的に不利な方々が働く場合には、その生産性が平均的な労働者よりも低いということがあります。従って、ソーシャル・ファームが他の一般企業と同じ土俵で仕事ができるように国が助成をするということです。つまり、ソーシャル・ファームの不利な条件を補完する目的で賃金補助金が払われているのです。

その補助金の支給期間を設けているところもあります。例えばドイツの場合には賃金補助として最初は多くをもらえますが、しかしそれはだんだん減っていきます。こういう人たちがしばらくソーシャル・ファームで働いていると、だんだん生産性が上がり、一般企業の従業員と差がなくなるだろうということが想定されているわけです。

ソーシャル・ファームは毎年このようなタイプの支援に対する申請をしなければなりません。そして、何名の社員は生産性が低いというようなデータを政府に示さなければならないのです。

また、立ち上げ資金についての支援も共通に見られるものです。

スライド9
(スライド9の内容)

いろいろな国が様々なアプローチをとっています。理由は様々ですが、イタリア、ポーランド、ギリシャでは一番いい法的形態は協同組合だと考えたようです。これは非常にユニークだと思います。ほかの国はもっとオープンです。フィンランドとドイツでは、ソーシャル・ファームはどのようなタイプの会社でもいいということになっています。必ずしも非営利である必要はなく、それぞれの会社の決定に任せるということです。

特別に優遇された条件が公共調達において認められている国もあります。リトアニアの法律は非常に変わっていると思いますが、市場から得るべき収入の最低基準が示され、80%と言われています。実際にどのように確認されているかわかりませんけれども、そこまで調べるのは非常に複雑だと思います。

ギリシャでは、協同組合の組合員と理事会についてのきまりもあります。いわゆる理事会メンバーの何%は障害者でなければならないということが定められています。また精神科医など、ソーシャルケアにあたる人たちも参加しなければならない、あるいは市議会のメンバーも入るべきと書かれており、ギリシャの社会的企業は、かなりユニークな取り組みをしていると思います。また、ギリシャでは、自治体のコミュニティにベースを置いた一つのモデルを開発しました。コミュニティのヘルス・サービスやソーシャル・サービスとリンクしたものになっています。

ギリシャとリトアニアにおいては、公的なスペースあるいはビルの使用を優先的に認めるということが法律に定められています。ですからコミュニティ・ベースの企業だと言えると思います。ギリシャでは市議会がビルを貸し出していますし、リトアニアでも同じようなことが行われています。

次は公的調達です。EUは社会条項を導入する指令を出しています。そしてEU加盟国での採用は少しずつですが広がっています。

イタリアが初めてこの社会条項という指令を採用しました。そのことによっていわゆる公的調達あるいは契約においてはソーシャル・ファームが優遇されていました。しかしながら、不公平な競争が行われると非難され、イタリアは法律を変更しました。10年以上の議論の末、イタリアで指令が復活、EUはこの指令を採用することを決め、全ヨーロッパに紹介されています。ドイツは2006年、この指令を導入しました。これからはこのEUの指令が法的な意味で大きな意義を持ってくるのではないかと思います。

またNPOが非営利型の有限責任会社として、ソーシャル・ファームを行うようになってきています。ドイツのモデルは大変興味深いものです。ソーシャル・ファームが採用すべき特定の法人形態を規定してはおらず、また企業はひとつの部門としてソーシャル・ファームを開設することもでき、実際にそのような形でも行われています。それに加えて、ソーシャル・ファーム法、ドイツの場合にはNPOの税法になりますが、この法律によりますといわゆる非営利型の有限責任会社が認められるようになりました。つまり、いかなる法的形態の企業も非営利のステータスを申請することができます。

この条件を満たす場合には、例えばVATその他の税金の支払いを免除されるという条件が提供されます。もちろん、これらの会社は社会的なミッションを掲げています。そしてNPOの規制にのっとった利益の使い方をしていることを示さないといけません。

スライド10
(スライド10の内容)

ヨーロッパにはソーシャル・エンタープライズやソーシャル・ファームに対する多くの支援組織があります。この支援組織がどのような効果を上げているのか、民間のビジネス支援とどう違うのかということに注目しました。広範な支援機能が提供されていますが、以下のような3つのレベルにまとめることができます。

まず、経営および個々のビジネスに対する直接の技術的支援。次にビジネスコンソーシアムやクラスターに対する組織的・戦略的ビジネス支援、そしてネットワーク作り、意識啓発、政策立案、政府・資金提供者への主張といった分野での戦略的支援となります。

このようにソーシャル・ファーム支援組織は通常の中小企業支援組織と良く似た機能を有してはいますが、いくつか特徴もあります。一つは、いわゆる非営利セクターの人にも主流のビジネスに関する知識が利用できるようにすることです。それから広報及び啓発活動。IT業界がIT企業を立ち上げる、または建設業界が建設会社を立ち上げるためにはそう苦労はしないのですが、ソーシャル・ファームの場合は時間がかかります。これならうまくいくというモデルを作って、それを広報することが必要になりますし、多くの人の役に立つと思います。

また、研究、評価、そして費用対効果分析のための新たな方法論の開発も重要です。つまり、資金提供者(主として政府)に対し、ソーシャル・ファームへの投資は利益を生むこと、ビジネスとして見ても理にかなっていることを証明するためのモデルを開発し、そして政府の認識を高めるために広報していくことになります。

スライド11
(スライド11の内容)

最後になりますが、EUのモデルからもっと多くの雇用を創出できる可能性があると確信しています。ヨーロッパだけでなく日本、そしてより広いアジア地域でも可能性があるということです。日本もハブとして重要な役割を演じることができるのではないかと思います。

また、どのようにソーシャル・ファームを立ち上げ、運営するかについて、具体的な実践例を踏まえたガイドラインやハンドブックが役に立つでしょう。すでに開発された材料を活用することもできます。また交流プログラムや共同研究を通して緊密なネットワークを構築すること、調査を進めより系統だった見方をすること。それにより私たちの努力・協力がより具体的に結実していくことができるのではないかと思います。

どうもありがとうございました。

フィリーダ・パービス:ありがとうございました。皆さんを代表し、心よりゲーロルドさんに感謝申し上げたいと思います。このような調査はそれぞれのヨーロッパの国における経験を集約する上で極めて重要だと思いますし、これを基礎に次の段階へと進めていきたいと思います。

ソーシャル・ファームのやり方はいろいろあるんだということを何度もおっしゃいました。そして失敗率は低いともおっしゃいました。福祉制度などに組み込まれた支援制度があるがために、失敗率が少ないともおっしゃいました。

協同組合、クラスター、コンソーシアムなども日本の参考になると思います。私はいつも第三セクターにおいて、政府が果たすべき役割は何かを問いかけてきました。EUの経験から見て、政府が果たせる役割は非常に大きいと思います。例えば法的な枠組み、優遇政策ないしは建物、公共調達における優先的な扱いと、そしてここにおられますような組織もまた極めて重要です。様々な知識や皆さんにわかるような効果を伝える上でも重要ではないでしょうか。

ご関心がある方は、ぜひ今後の協力の可能性についてお話いただきたいと思います。日欧の間の協力は多くの方々に恩恵をもたらすことができるのではないでしょうか。

*資料は国際交流基金のウェブサイトでお読み頂けます。