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平成16年度厚生労働科学研究、障害保健福祉総合研究、研究成果発表会
「共通言語」としてのICF(WHO 国際生活機能分類)の活用
-医療・介護・福祉の連携のツールとして

ICFのコーディングの実際-医療・介護・福祉の場で活用のために

大川 弥生
(国立長寿医療センター研究所 生活機能賦活研究部 部長)

 では、最後にICFのコーディングの実際ということでお話を申し上げます。
 先ほどの鼎談のあとに急に評価法の話をするのか、と思われるかもしれませんが、あくまでもICFのコーディングといいますのも、先ほどからお話がありましたように、ICFの「生きることの全体像についての共通言語」という考え方にのっとって、それをいかに生かすかの観点からのコーディングを行うものです。
 例えば、お手元の資料の表をご覧ください。「『活動』と『参加』の大分類のチェックリスト」を載せております。

活動と参加の大分類チェックリスト

(問題のある項目の□にレを入れる)

活動と参加の大分類チェックリスト

 ICFについて、今回お見えのほとんどの方は知識をもってお見えになっていると思いますが、上から項目順には並んでいない、これはちょっと変だぞとお思いかもしれません。コーディングといいますと、最初にありますb1のところからチェックをして、1、2、3と何か付けていくのがICFのコーディングではないかと思っていらっしゃったかもしれませんが、そのようにやっていきますと、ICFの考え方を生かしたコーディングにはならないわけです。そこで、ICFの考え方を生かしたコーディングとはどういうものなのかということについて、限られた時間でお話をさせていただきます。
 その前に、私が所属しますのは国立長寿医療センター研究所の生活機能賦活研究部ですが、この生活機能とは、まさに国際生活機能分類の生活機能です。今年の3月に組織替えでこのような名称になりましたが、ICFの生活機能を基本軸としまして研究を進めていくという部門です。もともとは老人ケア研究部というところでしたが、それが研究室も増えましてこういう形態に変わりました。介護保険関係の方はたくさんお見えいただいておりますが、やはり介護保険関係や老健事業の今後の方向性として生活機能は、大きな基本軸になりました流れとも、かなり一致する方向性ではないかと考えております。

 では、今日お話しする内容の全体像ですが、まず、コーディングはなぜ必要なのかということですが、これはいま鼎談がありました内容が、実はかなり答えているわけですので、簡単にお話を申し上げます。そのあと、廃用症候群(生活不活発病)と「生活機能低下の悪循環」について述べます。これは先ほど来のお話にも出ておりますように、保健事業をどうするのかとか、介護予防をどうするのかということを考えました場合、かなり大事な概念になってきますので、この生活不活発病を例にとりまして、ICFのコーディングをどのように考えるのかということをご一緒に考えていきたいと思っております。
 次にコーディングの実際です。これは非常に狭い意味で考えた場合のコーディングの極めてテクニカルなところだとお考えいただければと思います。

 ではまず、「コーディングの実際」を簡単にお話申し上げた上で、具体的な生活不活発病を例にとりながら話を進めたいと思います。「コーディングの実際」は、もうご存じの方もかなりいらっしゃると思いますし、これにつきましては私どもの研究班が1回目、2回目開きました成果発表会でもお話を申し上げております。また、資料も配布させていただいた経過もございますので、本などに書いていないところを特に中心としてお話ししたいと思います。まずコーディングの実際としまして、手順をどうするのかです。これは人の生きることの全体像をとらえるという観点からいきますと、先ほどの鼎談でも何度も出ましたように活動と参加が大事だということで、まずは活動と参加から始めることになります。そして、その中でも特に大分類のチェックをして、中分類、小分類への進めるということです。最初から小分類を細かくやっていきますと、専門家ですら疲れ切ってしまいます。まして当事者の方たちが自分自身のことを整理するときに使うときには、とてもではありませんが、使えないということになってしまいます。特に実際になさった方は分かるかと思いますが、大体aや、bの最初の付近は、なかなか難解な言葉がつづられておりまして、そこからスタートすると、ちょっと嫌だなという感じになりがちです。
 2番目としまして、活動と参加にどのように環境因子が関係しているのかということで、環境因子についてコーディングをいたします。
 そして最後に心身機能と身体構造の順番でご覧になったほうがよろしいかと思います。心身機能と身体構造は、活動と参加にどう影響するのかという観点が大事なのですが、そういうところを見ることなしに、突然心身機能・身体構造に進みますと自分の専門的なもの、自分の関心が深いところを中心としてどうしても見がちであるというところがございます。これは私どもの研究班の研究としまして、そういう観点でどういう順番でやったら、正確に正しくきちんとコーディングできるのか、一人の方を見られるのかという研究をしたところ、それは明らかですので、研究の成果にのっとりましてこういう手順でするのが適切だという提案です。
 さて、次にICFのコードとは、どういうものなのかといいますと、「ローマ字(1字)と数字のいくつかの桁(1~5字)」でコードを表します。例えば、a6でみてみると、aといいますのは、Activity「活動」、ですから、ADLなどの生活行為です。6という数字、これは一桁ですので大分類として「家庭生活に関する活動」になります。まず、このように大きい分類から見ていただき、そのあと中分類として、2桁から3桁の数字が入ってきます。次にa630というと、大分類6の中の630ということです。大きな6というのが家庭生活に関する活動全体を占めるわけでして、その中の「調理の活動」がaの630になります。さらに数字が一つ増えまして、4桁になりますと、6300で「簡単な食事の調理活動」です。もちろんこれはどういう内容かというのは定義がございます。また、同じような小分類の中で、いろいろなものがありますが、6308、それから6309というような8と9とは、他の項目におきましても、8は「その他の特定の」調理活動、9は「詳細不明の」調理活動ということでして、分からないからどこかに入れてしまうということではなく、分からないのは分からないままに詳細不明というふうに一応は分類しておこうというように使っていただくようになっているわけです。
 ローマ字のほうに戻ります。ローマ字でb、s、a、p、eとありますが、bというのはbodyの略で心身機能、structureがsということです。pはParticipationで、参加ということを表します。
 次にこのaとpとの関係について話を進めます。活動aと参加pのコードに関しまして、これは一部誤解があるようですので、ここで少し時間をとりたいと思います。
 活動と参加から全体像をとらえるという観点でいきますと、非常に重要な考え方も含んでおります。まず、aとpに関しましては共通リストになっています。共通リストとはどういうことなのかと言いますと、ここで例にとっております調理とは活動でもあるし、参加でもあるというような面を含んでいるわけです。その両方の共通リストということで、dというローマ字を使っております。ICFの分類リストをご覧になりましたら、aとか、pはなくdという項目しか表示されておりません。そのdをどのようにとらえるのかということですが、dという項目を活動として使うときにはaというローマ字になります。参加としてみる場合はpというローマ字を使うということになりますから、具体的なコーディング、具体的な評価のときに、dという言葉は使わないわけです。
 ですから、分類表の中にはdという言葉はありますが、実際に使うときにはdというローマ字は絶対に出てこないとお考えください。例ですが、同じ630でも、分類表ではd630と書いています。しかし、実際に使う場合にa630として使う場合はaですから活動ということ、p630という場合は参加というように使っていただくことになります。
 次に、aとpとの関係についてですが、これは臨床におきましては非常に重要なことかと思います。
 まず第1点目に活動制限と参加制約、また活動と参加とは1対1の対応ではないということです。ですが、どうしても1対1に考えてしまい、非常に狭い範囲の対応で終わっていることがあります。
 例えばd9201のスポーツに関して、p9201としての参加制約があれば、a9201のスポーツの能力がないからだというだけで終わりがちです。しかし、スポーツで例えればゴルフに関しての参加制約があるにしましても、それはゴルフの能力だけではなく、例えばゴルフ場に行くまでの公共交通機関の利用(a4702)はどうなのだろうか、自家用車の運転(a4751)はどうなのだろうか、ゴルフ場に行ったときのゴルフ場での排泄(a5300)はどうなのだろうか、ゴルフが終わったあとのシャワーを浴びたり、着替えたりするのはどうなのだろうか、ゴルフ場のキャディさんとのコミュニケーションはどうなのだろうかと、いろいろなa(Activity)レベルの生活行為レベルの問題が関係するわけです。ですから、参加を向上させるための基本となります、参加の制約をどのような活動制約が影響しているのかを考えるときには、決してpとaとが1対1ではないということです。
 例えば職業ができない場合も、職業能力だけではなく、職場でのトイレはどうなのか、職場での移動はどうなのか、洋服の脱ぎ着はどうなのかと考える必要があります。狭いロッカールームで洋服の脱ぎ着ができないから復職できなかった人もいらっしゃるわけです。ですから、そのようなaとpの関係をこのように考えていただきたいということです。
 次に2点目として、共通リストで同項目について、「活動」と「参加」の両方をみる必要があるということです。これも「参加」からみることが大事であり、例えばp9201.4という評価点の場合を考えてみましょう。小数点以下の4というのはスポーツに全く参加していないというような評価点としては低い評価点ですが、これがどういうaの状況かということですが、p9201.4というスポーツに全く参加していないという参加レベルの状況は、例えば、1.にa9201.40と「能力があるのにできていない(環境が悪い)」ということもあります。a9201.44と「能力自体がない」ということもあります。それからa9201.42のように「中等度の能力低下」もあります。これには「環境にも問題がある」場合も考えられるわけです。
 ですから、参加を見て、活動がどのように影響しているのか、1対1の個々の対応ではないということです。「参加」の具体像が「活動」であるという表現を私どもはよくしますが、具体的なコーディングの仕方でもそのように考えていっていただければと思います。
 そして、最後に心身機能と身体構造のコーディングを行います。大橋先生の例えでありましたが、呼吸と生きることということを考えますと、呼吸障害がある方を私どもは見るためにこのようなコーディングすると、良くするためにコーディングをするということで、その場合は参加や活動を見ていって、それに呼吸の状態はどのように影響をするのかを見るのが大事です。最初から呼吸の状態だけを見ることと、どのように生活に呼吸の障害が影響しているのかを見るのは全く違う見方になります。以上がコーディングの基本です。

 次に評価点ですが、評価点につきましてはいろいろと検討しなければいけないとなっておりまして、私どもも検討を進めてまいりました。
 環境因子の評価点についても検討を行ってきました。小数点の次の評価点は阻害因子です。プラス(+)が付けば促進因子ということです。本来、プラス(+)をいかに活用できるのかということが臨床上は大事なことです。
 ICFはいろいろなところにいい点はありますが、環境因子に促進因子と阻害因子という二つの因子が明確に分かれているというところも重要な点だと思っております。我々専門家からしますと、やっていることは全部いいことだとついつい思うところがございますが、やっていることもマイナスになることすらあるということで、きちんとサービス提供者というコードもあります。それがプラスになるのか、プラスなしになるのかというのは、かなり大事なことかと思います。
 以上のことが、コードと評価点であります。評価点の話をしますと、もう面倒だな、使いたくないなと、つい思いがちです。最初はこの評価点まで使わなくても結構ですよと申し上げたいと思います。ですが、先ほど話しましたようにこのように活動と参加とはどういう考え方であるか、1対1の対応ではないというところなどを臨床に非常に生かしていただきたいと思います。また、活動のところで、少なくとも実行状況と能力の二つを分けるという観点は臨床の中で絶対に生かさなければいけないことです。あえて絶対と申し上げます。やはり、能力をいかに引き上げることができるのかということは、特に今後のケアマネジメントにおいては大事なことかと思います。ケアマネジメントというのはケアマネジャーさんがやるということではない意味のケアマネジメントです。
 また一個一個の活動項目に関して、どういうふうな環境因子が影響しているのかという考え方は生かしてください。ある環境因子はすべて活動や参加に、同じように関係しているということではありません。一個一個の活動に関して影響の仕方が違うのです。時間も限られておりますのでコーディングをどうするのかということの全体像だけお話申し上げました。
 なお、活動と参加の大分類までのチェックリストをつくっております。これはまず全体像を見るということで、大きい項目としてこれを全体的にチェックしていただくというのが、一番適切かと思います。左側に活動、右側に参加がありますがこれも研究の成果としまして、例えばセルフケアに関しまして参加はありません。これは国によって検討するようにとICFでも進めておりまして、そういうことを決めるのも私どもの研究班の役割です。そこで検討した結果ですが、参加に関しましては、その右側の抜けているところに関しては、これは参加レベルに関しては見なくてもいいというか、参加レベルの問題ではないと今のところ位置付けております。ほぼ最終決定の内容ですが、このようになっております。
 上から順番に見ていくというのが、少なくとも患者さんや利用者さんを拝見するときには、この順番が適切かと思います。一番上がセルフケア、それから家庭生活、対人関係、こういう順番で聞いたり見たりしていきます。それからご本人自身がお使いになるときも、この順番でなさるのが適切です。ですから、専門家が見るときも、それからご本人が見るときも、大体この順番で一通り見ていくのが抜けがなくていいと思います。
 特にご本人の場合は、間違ってもa1からやり出すと、ここで挫折しますので、そういう使い方はなさらないようにしていただきたいと思います。専門家が評価をして、そのあと説明していきますが、そのときにもa1から説明しだすと、大体もう聞いてくれなくなってしまいます。
 次に「活動と参加の中分類までのチェックリスト」をあげています。中分類は2から3桁というところです。
 この二つは内容としては全く同じものです。先ほどの表も含めまして、これを皆さん方はどしどしお使いいただいて結構です。本日の共催者であります日本障害者リハビリテーション協会等のホームページにも載せようと思っておりますので、それもご活用いただければと思います。ただし、出版物にお使いになるときには、一言ご連絡をちょうだいしたいと思います。
 具体的にどう使うのかについては、また別の機会に書いたり、講演会などを開きたいと思っております。
 では次に、生活不活発病を例にとりまして、具体的にどういうふうにコーディングを考えていくのかということのご説明をしたいと思います。
 この生活不活発病という言葉をお聞きになったことのある方は少ないかと思いますが、これは学術的には廃用症候群というものです。廃用症候群は、今後の介護予防の非常に大きなターゲットになると思われます。さて、ではなぜ生活不活発病という名称を提案したかということからすすめたいと思います。廃用症候群は、ほとんどの介護保険の対象者の方はもっていらっしゃいます。認知症で非常に動いている方以外は、ほとんどすべての方がもっていらっしゃるのです。それから進行する危険性を含んでいらっしゃるとお考えください。
 それを前提としてですが、必ず患者・利用者ご本人へ状態を正確に説明する必要があります。これはインフォームド・コンセントの前提だと私は思います。そのときに廃用症候群についての説明をする必要があります。その際、「廃用」とはどういう字を書くんですかと聞かれ、説明しますと、廃棄物の廃ですか、廃(すた)れるという字ですねなどというように不快感をもたれる方が非常に多いのです。
 それに加えて、生活が不活発であることが原因であり、生活を活発にすることが大事ということをきちんとご理解いただくには、生活不活発病にしたほうがいいのかなということで、生活不活発病というのを提唱したという経過がございます。「病」というのは、あまりじゃないかと言われるかもしれません。
 実はこれは非常にホットな話題でもあるわけです。どういうことかと言いますと、中越地方で大きな地震がございました。これに関しまして、本日ですが、11月12日付けで厚生労働省の老健局におきまして、新潟県と新潟市などに「新潟県中越地震による避難生活の長期化に伴う廃用症候群の発症の予防について」という通知が出ております。その中でも「廃用症候群(いわゆる生活不活発病)」ということで、これに対してきちんとした対応をするようにということになっております。ですから、そういうホットな話題だということも含めて考えていただければと思います。
 廃用症候群(生活不活発病)の症状自体は、心身機能レベルです。これはICFでコーディングしますと、bすべてのコードに関しまして生活不活発病の症状は出ます。そのため、まず心身機能からチェックをしだしますと、要介護状態の方、それから、ある程度の病気のある方というのは、全部ここは引っかかってくるわけです。そういうチェックの仕方でいいのだろうかというのも分かっていただけると思います。
 さて、このような生活不活発病である心身機能の低下がどのようにして起きるのかということですが、そのときに三つのタイプがあります。
 出席者の名簿を拝見しますと、ほとんどの方が医療関係者か、介護保険に直接関係なさっている方、もしくは福祉系の大学の先生方ですので、ほとんど廃用症候群という概念自体はご存じの方だということを前提としてお話をさせていただくわけですが、どうしても廃用症候群は病気のときに起きるんだという感じを多くの方がもっていらっしゃいます。では実際はどうかを研究した結果です。
 まず「活動」の「質的」な低下を契機とするタイプです。その原因の多くは「心身機能」のうち特に運動機能低下です。
 この「活動」の質的低下によって生じた廃用症候群により、更に「活動」の質的低下が増強するとともに、量的低下も加わってきます。また「活動」の質的低下により「参加」の低下も出現します。ある生活機能のレベルで低下が起きれば、実は他のところにも影響します。それがどんどん影響し合って、その人全体として見た場合に全ての生活機能が低下をしていくのです。
 そのときに例えば「活動」と「参加」の関係でいえば、どのようなa(Activity)レベルの項目が、どのようなpのレベルに影響をしていくのかとコーディングし、分析をしていただくことになるわけです。ですから、こういう因果関係を考えながらコーディングしていくことが大事なのです。要するに評価用紙のaの一番上のところから丁寧にやっていくのではなく、この人にとっての生活機能低下のスタートは何なのか、どのように影響をし合っているのかという大事な因果関係を見ながらコーディングしていただきたいのです。これは現状の分析においても、それから具体的なプログラムを進めていくにあたっても大事なことかと思います。
 さて、次に活動の「量的」な低下の契機型というのがございます。
 私は、最初は内科の大学院で勉強をしたのですが、今から思いますとかなり多くの方たちにこれをつくっていたなと反省させられます。というのは、どういうことかといいますと、「『活動』の質(やり方)自体には問題ないが、生活行為を行う『量』が減少したことによる生活の不活発化」ということです。「原因の多くは、一般疾患(運動機能低下を生じないような疾患)+必要以上の安静」ということです。必要以上の安静とは、これは安静度を長く、低いレベルにとどめたということもあります。それに加えて、もっと動きなさいということをきちんと指導していなかったのです。こういうやり方をすればいいんですよ、こういうやり方で一日に何回、何時から何時までやりなさいとやったほうがいいですよと指導していなかったのです。それはなぜならば、生活不活発病をつくらないためですよという説明をしないで、放っておいたということは、これはすなわち必要以上の安静ですから、そういうふうにしてつくられた方々がたくさんいらっしゃいます。私自身も昔、そういうふうにしてつくってきたなという反省がございます。その場合、私は環境因子として医療サービス提供者として、阻害因子になっていたということです。ですから、病気を治すということに関しての環境因子としてはプラスになるように、最大限の努力をしてきたつもりです。しかしながら、こういう生活不活発病に関しては、阻害因子になっていた危険性があるということです。同じ私という医療サービスの提供者も、「活動」や「参加」項目によってはかなりプラスにもなるしマイナスにもなるとお考えください。
 さて、三番目に「参加」の低下を契機とするタイプです。これは『参加』の低下によってそれまで行っていた『活動』を行わないことによる量的低下と、質的低下が生じて、これによって生活不活発病が生じます。実はこれは思った以上に多いものです。
 具体的には例えば、定年のあと、伴侶と死別したあと、それからお子さんと同居してお嫁さんが「お母様、私がしますから家事をやらなくていいわよ」といわれて、手持ちぶさたになるという主婦業という参加レベルが低下をすることによって生活が不活発になるなどです。それによって廃用症候群が起き、心身機能が低下し、それによって更に活動の質と量が低下するという悪循環にはいってしまう、ということになります。この場合も、最初は家事の調理に関しての評価点だけが落ちていても、それは次々に他の項目にどのように影響していっているのかという観点で見ていただくということが大事になってきます。コーディングも、どのように生活機能が影響し合っているのかということを頭に置いた上でしていただくことになるのです。
 先ほどホットな話題として、地震のことをお話申し上げましたが、それもこのタイプです。地震は大きな環境因子で、それによって「参加」が低下し、生活不活発病がたくさん起きております。では、阻害因子になっている環境因子である地震を除いたら良くなるのでしょうか。実は、以前の地震の関連記事で地震が寝たきりをつくるというようなセンセーショナルな書き方を新聞がしていましたが、そういうものではないのです。その因果関係をきちんと分析していないと、本質的な解決策や対策はみつからないのです。
 さて、では最後に提案として、本日の資料の一番後ろに図があります。これはいろいろな県の介護保険関係の方々ともご相談しながら作っていったものです。日常の業務の中で生かしていただくようなICFの活用法を明確にするというのが、この研究班の大きな役割でした。そういう観点からこの図を作ったものです。生きることの全体像を見るという観点から、このようなICFのモデル図をもとにつくっているものです。
 特徴は活動の欄を最も大きくして、「できる活動」と「している活動」に分けております。また心身機能より参加のほうが、広くなっております。そして、参加であれば、参加の中に参加制約があり、活動の中に活動制限、心身機能の中に機能・構造障害があるというように、大きな生活機能のプラスの中に各レベルのマイナス面があるという見方ができるようにしております。これがあるかないかによって、実は見方が全く違うということも、調査をした結果明らかになっております。これがないとマイナスばかりが、この中で分析されるわけです。かなり意図的にマイナスの枠を小さくしたのですが、そうすると、極力そのプラスのほうを見ようという形になります。
 また「している」と「できる」を絶対に二つに分けておく必要があります。そうしませんと、二つは全くごちゃごちゃになりますし、「できる」の視点で見ようということにはならないということになります。
 それからICFの客観的な面だけでなく、主観的な側面も入れています。主観的な体験もプラスとマイナス、どうしても患者さんや利用者さんとしてみようとする場合には、マイナスの面ばかりをどうしても見ようとしてしまうのです。主観的な場合においても、プラスの面を見るという観点でこういう図をつくりました。これは主観面の把握に関しても非常に活用できます。
 次に一番上の健康状態ですが、この中に生活不活発病の欄を作ったバーションをもってまいりました。これは介護支援専門員用のものですが、やはり生活不活発病を忘れていただいたら困るということで、特にこれを明記したものです。
 ではこの図ですが、一人の要介護者・患者さんにつき、基本的には3枚つくります。一つはご本人用のもの、二つ目は専門家用のものです。三つ目は目標のためです。ご本人たちがこのICFの考え方で整理することは、非常に役立つことです。その時点だけでなく、その後将来にわたって、自分の課題を考えるときには非常に効果的なものです。
 時間がないので、結論だけを申し上げましたが、そのようなICFでの整理した考え方を、本人にできるのかとお思いかもしれませんが、それはできます。それをお教えするのも私ども専門家の役割です。それをやらなければ、本当の意味の自己決定権の尊重というのはできないと考えております。
 大層早足になってしまいましたが、あとでお手元の資料などもご覧いただいて、ご活用いただければと思います。生きることの全体像を見るという「共通言語」、生きることの全体像についての「共通言語」というのがICFですから、そういう観点でICFのコーディングをしていただければと思います。

 この発表会は手作りですので、また司会に戻ります。そして更に手作りだという感じがなさるかと思いますが、最後に、今度は、本日の共催者であります日本障害者リハビリテーション協会の顧問としまして、上田先生からごあいさつ申し上げます。