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平成17年度
地域におけるインターネット・パソコンを利用した
障害者情報支援に関する調査研究事業報告書

技術ボランティア取材報告

都立中央ろう学校 主幹
三崎 吉剛

10年前の発足は「パソコン通信」の出会いから

「コンピューターに詳しい人は障害者のことが分からないし、障害者に詳しい人はコンピューターのことがわからない。だから、こうしたコンピューターを使って障害者を支援することが上手くいかないんです。」10年ほど前に、ある車椅子の方のお母様が私にこんなことを話していました。

これから紹介する「技術ボランティア」というIT支援グループは、同じく10年くらい前に「パソコン通信」を通してできたグループです。(パソコン通信とは、ホストになるコンピューターに電子掲示板があり、そこへ電話回線で接続し参加者が自分のコンピューターを使って書いてゆくというものです。インターネットが普及する前に、大手の企業が全国にアクセスポイントをもち、市内通話料金でそのことを可能にしていました。)

IT支援を行っている人が、支援技術を持っている人とネットワークでつながり支援グループができあがりました。これは、支援活動の輪が広がったということですが、一方で、高度な技術を持っている多様な方たちが、自分の意志で自由に活躍できる場をネットワークで知ったということでもあったのです。

独立行政法人国立病院機構箱根病院にて

新宿から小田急線で小田原へいき、そこから箱根登山鉄道で二つ目の駅に風祭というところがあります。そこで下車して、徒歩数分のところに独立行政法人国立病院機構箱根病院があります。私が見学にうかがったのは日曜日でした。人気が少なく、少し迷いましたが、集会場のようなとことろがあるデイケア棟に入りました。

そこも、ひとり二人しかいらっしゃらなかったのです。挨拶をして、本日取材に来た旨をお知らせすると・・・・。「聞いていないな・・・」という返事をいただきました。

その日のあとでわかったのですが、このグループのよいところは、趣旨に賛同される方が月に一度くらい「自然に」あつまり作業をし、去っていくという気軽な形をとっていることなのです。ですから、私が行くことも全員には伝わっていなかったのです。

10時をまわると、数人あつまってきました。自分の子供も一緒に連れてきた方もいます。中心になって動いている青木さんがいらっしゃって私のことを紹介してくださいました。

集まってきたのは、その病院に勤務する言語聴覚士、心理療法士、保育士、作業療法士、病棟で療養されている方、外部のエンジニアさんなど6,7名でした。(写真は青木さん)

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当日の活動

青木さんがホワイトボードに、今日やることを書き出していました。

・半田付け講習
・ECSのLED不調
・マウスの左スイッチ不良
・マウスコネクタ不良
・LAN動作確認

(写真はマウスのケーブルの半田付け)
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「半田付け講習」というのは、マウスの不良コネクタを取り替えるという要望に応えて行っていました。接続ケーブルの内部の多数の導線をつなげる作業で実習していました。病院で働いている保育士さんたちがエンジニアの方から、「始めに導線の被覆をはがした部分に半田をしみこませて・・・」といったことを丁寧に教えてもらっていました。

「ECS」というのは、療養生活をされている重度の肢体不自由者が指一本でテレビや電話、カーテンの開け閉め、ベッドの上下などありとあらゆる自分の環境を動かす装置です。この環境制御装置のコントローラーのランプが不調だということです。このグループは、設立当初はこの環境制御装置の開発や支援を行っていました。ソニーのPDAを使った制御装置も見せていただきました。

マウスの修理は、療養者が慣れている旧式のマウスを修理し再利用していました。

LANは、病棟内の療養者が利用するLANです。その日はこの作業はみることができませんでした。しかし、技術ボランティアに参加している療養者当事者の方からお話しをうかがうことができました。外へ出ることが難しい療養者が多いので、インターネットの環境を整えたそうです。しかし、利用の仕方で問題があったこともあり、自分が管理者として療養者に教えているということでした。

こんなことを見ていると、当事者、病院関係者、外部エンジニアがボランティアとしてうまく手を取り合って仕事をしていることがよく分かります。

まとめ

支援技術は、当事者が

①どんなものが必要であるか探り出す
②どのように実現できるか具体化する
③実際に制作する(あるいは購入する)
④当事者に使ってもらう時に、フィッティングをする
⑤利用者からフィードバックをうける
⑥修理などのメンテナンスを継続する

といったサイクルがあります。

「技術ボランティア」グループは、その全ての段階に、当事者、病院関係者、技術者が関わっていることで成功をしています。そして、なによりも、皆さんが楽しそうに作業していたことがとても印象的でした。これこそが「うまくいっている」ということの証左だと思います。

将来、言語療法、作業療法などと同様に「IT支援療法」といった分野が確立されれば、そうした専門職が療養施設に配置されさらに安定した支援体制ができると思う。そして、そうなればこの方たちを核にして、支援ネットワークが広がると思います。

(写真は、不用になったCDを台にしたスイッチ)
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