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平成17年度
地域におけるインターネット・パソコンを利用した
障害者情報支援に関する調査研究事業報告書

ICTとデジタル・ディバイド

河村 宏
国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所障害福祉研究部長

河村です。こんにちは。IT、あるいはコミュニケーションを入れてICTというときに、どうしてもデジタル・ディバイド、あるいはギャップということが障害と関連して私どもが問題としてきていると考えているわけです。

先ほどモチベーションの話が出ましたが、モチベーションのないところにはおそらくギャップもないしディバイドもないと思うんです。それではIT、ICTのモチベーションが出てきたとき、どこにそれに応える手がかりを見つけていくのか。そこのところをお話ししたいと思います。

ITないしICTが手がけなければならないものというのは、情報、コミュニケーション、そして知識。こういうふうに整理できるかなと思います。

情報というのは必ずしも人と人との情報には限らないと思います。世の中は情報に満ち満ちていて、情報処理で車も動いているし、あらゆるシステムがデータを処理して動いている。そのことを理解していくということが、一つは世の中の仕組み全体を理解する上で重要なポイントになっている。それが現代社会の特徴だと思うんです。

もう一つ、その次にコミュニケーション。これは人と人とのコミュニケーション。そこにITが活用できないのかということです。これはたくさん活用できるわけですね。今日もここに字幕が出ておりますけれども、この字幕、リアルタイムでこの会場の中でやっているわけですが、最近はそれをリモートで、インターネットを活用してその場にいない人にも送れるし、逆にその場にいない人がサポートができるという取り組みも広がってきて、より応用範囲が広がってきていると思います。つまりどんどん広がっていくコミュニケーションの支援、特に盲ろう二重障害の方たちの間には、コミュニケーション手段そのものが同じ障害であっても異なってきてしまっています。指点字あるいは指文字、そして手のひらや背中に文字を書く。そういうコミュニケーションを、ではどういうふうに皆で一致させていくのか、そこをつないでいくのか。そこはITが非常に大きな役割をこれから果たせるチャンスがあるというふうに思います。

次にコミュニケーションというのはリアルタイムのそのとき必要なものですが、もう一つ、私たちが「知識」あるいは「文化」と呼んでいるもの、この部分でのギャップをどういうふうになくしていくのかということが重要だと思います。一番の代表は図書館です。何百年も前からの資料が図書館には山のようにある。世界中の図書館がほぼ同じように著者名、書名、そして出版年といういくつかのキーになる情報をたどれば、同じ本にたどり着ける。そしてその情報が世界中で交換されていて、皆で引用したときに、何を元にこの議論をしているのかということを、非常に正確に記述できる。そして次の文化を生み出す。こういう仕組みがあるからこそ図書の文化というのはずっとこれまでどんどん資料を蓄積して発展してきているわけです。

ところがこれは重要ないくつかの問題点を同時に含んでいたわけです。図書ができる前は、手話を中心に話をしていた人たちと音声言語を中心に話をしてきた人たちとの間で、知識の蓄積方法の上でのギャップはあまりなかったはずですね。どちらもそこで消えてしまう。覚えていなければ消えてしまう。ところが片一方は集積する方法がどんどん発展して、社会的なシステムにまでなった。もう片方はその場で消えてしまう。なんとかビデオができましたけれども、そのビデオが十分に集積されて次の文化を生み出していくというところにきちんと使えるという技術にはまだ発展していません。ところがデジタル技術の進化とともに、そのビデオも本と同じように引用して、次に生み出す文化の元にすることができる。そういうチャンスがいよいよ最近のマルチメディア技術の発展の中で出てきているわけです。

同じように文化的に見ますと、文字のある文化と文字のない文化というのがあるわけです。

これは障害ということとは別ですけれど、言語、文化によってハンディがあるという状態がこれまでありました。先ほどの例えば手話をきちんと記録して次の文化の発展につなげることができる、そういう技術は、文字のない文化、例えば日本ですとアイヌの文化であるとか、あるいはオーストラリアやニュージーランドのいわゆるアボリジナルと呼ばれている人たちの文化。あるいはアメリカのネイティブ・アメリカンの文化を、丸ごときちんと保存して、それを大きな次の糧として活用していくことができるチャンスが生まれてきた。そういう集積された知識についてのデジタル技術の進化、それが新しいチャンスを生み出している。それが、適用されている部分と適用されていない部分との間に大きなギャップが新たに作り出されようとしているというのが、今の状況だと思います。

最後に、こういうふうに皆が集まる場、そこにアクセスできるのかどうかということがもう一つ。結構こういうところで「あ、いい話を聞いた」「こういう人と会った」「次からこういうことをしよう」というモチベーションが生まれ、あるいは情報を発信する、あるいはその人がいたことによっていろんなことが啓発されて、次の自分の大きな方向が決まっていく。そして議会などでは重要な政策決定が行われていく。つまり、同時にある場を形成してそこに参加をしていく。「場への参加」くらいしか今のところ言えないのですが、うまい表現方法が見つかりません。「コミュニケーション」でもなければ「蓄積された知識」でもない。そこに「一緒に参加をする」。そこの部分でのチャンスというのが、やはりIT、ICTの活用によって生まれてきています。それを十分に活用できるのかできないのかということが問われている。

大きく見てこの三つだろうと思うんです。世の中には研究開発を使命とするグループ、団体や人々がいます。そして行政の中にそういった成果を生かしていく。ニーズと成果を結びつけていく行政があります。でもその行政も研究開発をやる人々も、具体的なニーズを持っている、毎日暮らしている人のすぐそばにいるわけではないわけです。いろんな条件を持ち、そしてすぐ隣に一緒に暮らす仲間を持っている人たちが、自分ができることをニーズに合わせて何か形にして支援できるところは支援し、それを通じて人生を豊かにしていく。それがおそらくボランティア活動と呼ばれるものでしょうし、それを少し形を整備していく、そうするとNPOというものになっていくのだろうと思います。

つまり全体の、今日はキーワードが「ネットワーク」ということですので、その「ネットワーク」というときには、ちょっと分析的にいくつか「この点はどうだろう」というチェックリストみたいなものが必要なんだろうと思うんです。それで自分がこれからやろうとするのは、その全体のマップの中のどこに位置づくんだろうかということをお互いに考えながら連携していくということが、とても大事なのではないだろうかと考える昨今です。

特にこれから日本の福祉はかなり財政的には厳しい時代を迎えるというふうに言われています。こういうときにはどうしても経済モデルがいろいろ出てきます。でも経済モデルの前に、生きる人間がいるわけで。その生きる生き方からお互いにより豊かな、あるいはより正確な障害についての見方が生まれる。先ほど、とても大事なことがヘレン・ケラーの言葉として伝えられました。「不自由だけれどもその中にも豊かな生活はあり得る」という障害観というものを、私たちは正確に持ちながら、そして特にご本人が発言するチャンスというものを、発言しにくい障害の方たちに着目して、できるだけ支援をしていく中で、ネットワーキングを展開できたらなというふうに考えているところです。

私のつたない話はこれくらいにして、この後のパネルディスカッションに参加させていただきたいと思います。どうもありがとうございました。