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平成18年度
地域におけるインターネット・パソコンを利用した障害者情報支援に関する調査研究事業報告書

「障害の特性に配慮したIT支援について」

講演1
「肢体不自由児・者の視点から」

田中勇次郎
都立多摩療育園 医療科 作業療法士

今、ご紹介いただきました田中です。よろしくお願いします。

私は日本作業療法士協会(OT協会)にも属しております。今日のお話ですが、協会にITサポートという組織ができましたので、そのことと、あとは障害に応じたパソコンの操作方法や意思伝達装置の操作スイッチの選択方法などのお話をしていきたいと思います。よろしくお願いします。(スライド1~2)

まず、OT協会についてご紹介したいと思います。OT協会ができたのは昭和47年です。現在の会員数が約3万人います。そして養成校が158校あって入学定員が6,898人です。まだ学校が増えていますので毎年7,000人ぐらい卒業生が出てくると思います。この様な状況の中で、作業療法士は医療、保健、あるいは教育、職業、福祉というところで仕事をしています。(スライド3)

次に障害者IT支援についてですが、総務省の「障害者IT利活用支援の在り方に関する研究会」という研究会の報告書が出されました。先ほどお話しされた畠山さんがここに関わられておられたと思います。この報告書の中に、「リハビリテーション分野では、IT支援を本来業務として進めやすいのは作業療法士である」と書かれています。このことに対して「組織として対応を急がねばならない」ということになりました。そこで、今年度からIT支援組織を作って活動を開始したところです。私がこの部門のリーダーになり、現在、e-AT協会という組織と一緒に仕事をしています。
次に挙げますATネットが総務省のバリアフリーポータルサイトを引き継いだホームページです。この中に、作業療法士のIT支援に関する仕事を紹介しようと動いています。これが充実していけば、皆さんによりよい情報が提供できると思います。また、作業療法士自身のIT支援に関する知識・技術の向上にも役立つと思い、ホームページ作りを進めております。また、事業部でも障害者ITサポートに関する研修会を始めています。OT協会の仕事を簡単にご説明しました。 (スライド4~7)

この画像はリウマチの方が頸椎の手術後にパソコンを操作している画面なのですが、障害に応じたパソコン操作方法の選択については、神経難病の方を例にとってご紹介します。
まず神経難病のご説明をしようと思います。(スライド8)
神経難病は原因が不明であり、的確な治療法がなく、予後が不良で長期・慢性の経過をたどり、療養に高額な費用がかかり、患者・家族の精神的・物質的負担が極めて大きくなります。このような難病の条件を満たした神経原因性の疾患を神経難病といいます。(スライド9)
次に神経難病の運動機能障害の特徴と代表的疾患についてご説明いたします。簡単に書いてしまったのですが、運動機能の障害として、一つは協調運動不全です。手が震えたり揺れたりする状態が起こり、掴んだり触れたりすることが正確に行えなくなります。その代表的な疾患としては脊髄小脳変性症(SCD)があり、その中では多系統萎縮症(MSA)が数的に多い疾患です。他の疾患ではパーキンソン病があります。
もう一つは、筋力低下が主症状になっている疾患です。筋力低下があると力が落ちてしまいます。こういう病気の代表的な疾患は筋萎縮性側索硬化症(ALS)です。あとは脊髄性筋萎縮症(MSA)で、ウェルドニッヒホフマン等の病気があります。(スライド10)

機器導入にあたって考えるべきことを触れたいと思います。機器導入に際してチェックしておくべきことは、一つには導入の目的を明確にすることです。何のために機器を導入するのか。電子メールを利用するのか?あるいは会話に利用するのか?そのためには、利用者の能力を知らなければいけない。例えば、意思伝達装置の導入を考える場合、漢字変換機能があったほうがいいか?レッツチャットのように会話だけでいいか?検討することになります。次に、使用環境を知ることです。設置場所がどのようなところになるか?介助者はいるのか?使用頻度はどの程度か?コールとして利用する必要がるのか?あるいは、操作スイッチはコールだけ利用できればいいのか?コミュニケーションエイドの操作も必要か?このようなことを考える必要があります。
その他として、他の用具と比較することです。漢字変換を利用して文章を作るというワープロ作業の場合、意思伝達装置でもいいし、パソコンの入力支援ソフトを使ってもいい。どちらがいいのか比較する必要があります。(スライド11~12)

次に、どのような基準で機器を選択するかと言うことをお話しします。基本的にはご本人が希望する方法です。皆さん手を使うことを望まれますので、そこでやれるように考え、駄目ならば他の部分、例えば足を利用するという考え方です。また、用具の選択としては一般製品でやれることを考え、駄目なら特殊なものを使うという考え方です。
次は構造が単純なもの。それが駄目ならば複雑なものでもよい。自由度が高いもの。それが駄目なら低くてもよい。キーボード操作ができればそれを利用し、キーボードが無理ならマウス。それも駄目ならスイッチという考え方です。
あとは、なるべく経済的な負担がかからないものにする。これは給付制度のあるものとないものということも関係します。こういう基準で考えています。(スライド13)

次に、パソコン操作方法の選択フローをご説明します。(スライド14)皆様のところに、この部分だけ印刷したもの(パソコン操作方法の選択フローとその解説)が配布されていると思います。これは10年くらい前になるのでしょうか、リハ工学関係のある委員会があって、畠山さんも一緒におられたと思うのですが、そこで作ったフローチャートを少し改良させてもらったものです。
まず、キーボードが直接指で操作できて、同時打鍵もできて、目的の文字が正確に入力できれば普通のものを利用できる。こういう流れで考えています。キーボードの操作が指でできない場合は、腕を吊るか支えればできるのではないかと考える。それで同時打鍵や目的の文字を入れられれば普通のものを使うことができる。
次に、同時に同時打鍵できない場合はどうしたらいいのか。これはキーをロックさせる仕組みを作るとか、Windowsのパソコンであればユーザー補助がありますので、その設定をして目的の文字を入れられるようにする。これだけでは、目的の文字をうまく入れられない場合は、キーガードやいろいろな用具、補装具などを導入して利用できないかを考えていく。隣接した文字を間違えて入力してしまう場合は、これもユーザー補助の設定でキーの応答特性を変更してみる。この様にして、一般のキーボードをそのまま使えるような方法を考えます。
キーボードが使えない場合は、タブレットやポインティングデバイスとオンスクリーンキーボードなどを使う入力手段を考えていきます。最終的には、パソコン入力支援ソフトと操作スイッチで利用することを考えます。
異なった手段として音声認識という方法があります。音声認識ソフトが利用できる場合があります。音声認識手段をフローのどこに入れるべきか検討が必要ですが?これも加えたフローを出しますのでご覧下さい。(スライド15)

我々がよく使う補助具に、ポータブルスクリーンバランサー(PSB)という腕を吊る用具があります。これで腕を吊ってキー操作をさせると簡単にできる場合があります。この方々はALSですが、上から吊るしたり、下からトラフで支えたりする方法でやります。(スライド16)

これはWindowsのユーザー補助設定画面です。フィルターキー機能の設定が有効で、特に手の震えのある方は、入力を保持させるような設定や、オートリピートを消すような設定をするとMSAの方などに有効です。これがその画面です。(スライド17)

このように入力キーボードの付いたウェブ端末を使われている方の場合は、ユーザー補助の設定ができないので、アクリル板等を利用してキーガードを作り、そこにキーをロックさせる仕組みも作ります。キーガードにリング状の部品を取り付け、キーをロックさせる時はリングを縦にしてキーを押し込むようにします。筋力低下で手指が曲がってしまう場合は、装具で関節を固定して指を伸ばした状態にさせます。この様な工夫を施し、今まで使われていた機器を利用できるように考えていきます。(スライド18)

これは少し古い画像ですが、指が全て伸びてしまって曲げられない状態への対応です。このよう場合は、触れてはいけない指を包んでしまう。人差し指だけでキー操作するようにベルト状の装具を作りました。(スライド19)

これはタブレット型の入力装置です。KBマウスという畠山さんが作られたものです。これを使っている筋ジスの方です。自由度が高いことで活用していました。(スライド20)

これはオンスクリーンキーボードです。MS-IMEのソフトキーボードとATOKのクリックパレットです。これらは有効に使えます。(スライド21)

ポインティングデバイスとオンスクリーンキーボードを組み合わせて利用しているALSの方ですが、クリックボタンが押しにくくなってしまって、その部分を外に出しています。外に取り付けているスイッチはマイクロスイッチです。また、「手に汗をかきマウスから手を離すことが困難になり困る」という訴えがあり、綿の手袋を装着させて汗で手がくっついてしまうことを防いでいます。(スライド22)

この方は、ビクターのハンディマウスという製品を改造して利用しているSMAの方です。ポインティングデバイスを改造して、顎あるいは口の動きでポインターレバーを操作し、改造したクリックボタンを手で操作しています。インターネットで大学の講義を受けることに活用しています。在宅の現場でいろいろと工夫をした方です。(スライド23)

ジョイスティックや操作スイッチでオンスクリーンキーボードを操作する方法の例で、マウスコントローラーという機器を利用しているALSの方です。それぞれのジャックに操作スイッチのプラグを入れて、マウスの動きを6個のスイッチで行っている画面です。(スライド24)

これはNECのオペレートナビという入力支援ソフトと操作スイッチの例で、スイッチボタンを足で操作しているALSの方です。(スライド25)

音声認識ソフト、これはViaVoiceです。これは動画なのですが、音が出せないので静止画像にしています。この方は呼吸器を装着していますが、呼吸器のリズムで声が出るので、音声認識ソフトをどの程度認識するかやってみました。ある程度認識してくれることが分かり、キネックスと併用することでパソコン操作が結構速くできるようになることが確認できた方です。(スライド26)

事例を紹介しようと思います。(スライド27) この方はMSAの50歳代の方です。合併症治療の入院期間中にパソコンの操作を指導してパソコンが使えるようになり、退院後インターネットを活用することでいろいろなことがきるようになった方です。(スライド28)キーガードが便利に使えていた例で、その画像がこれです。(スライド29)このキーガードは手作りでなく、業者に依頼して作ってもらったものです。MSAのように手が震える方でも他のキーを触れないで済み有効です。Windowsのユーザー補助設定は必要なくこれを取り付けるだけで十分でした。

次はALSの方で、この方は人工呼吸器を常時装着しており、会話は通常文字盤をアイコンタクト方式で利用しています。(スライド30)意思伝達装置は「伝の心」を使っていて、入力手段はタッチセンサーです。この画面はちょっと見づらいのですが、アンティーク用品のWebサイトの画面です。(スライド31)以前からアンティーク用品の収集が趣味だったようです。ショッピングができるようになってとても喜ばれました。神経病院の在宅診療の中でフォローしていた方で、「お買い物もこういうやり方ができますよ」とお話ししたら、ネットショッピングにハマってしまいました。

これは30代のALSの方で、この方は車椅子に座ることができています。(スライド32)発声はかなり厳しくなって文字盤を使っています。仕事でパソコンを使われていた方なので、パソコン入力支援ソフトのオペレートナビと、らくらくマウスというスイッチ型のマウスを導入しました。これらを利用して仕事をされている画面です。
仕事の内容は物品の管理で、パソコンに送られてくるデータをチェックし、必要な物品を発注することです。(スライド33)以前から在宅勤務が可能な仕事であったようです。
ALSの方は手の障害から始まる方が多く、上肢は全廃状態でも足は動くという方が結構おられます。以前、神経病院の作業療法室で在宅患者さんのQOLの状態を調査したのですが、この方は以前と変わらずに仕事をされているので、QOLがほとんど低下していないという結果がでました。

今までお示しした方々がIT機器を活用できたのは、当然本人の資質や家族の介助・協力もありますが、お医者さんがご本人に神経難病であることを伝え、十分に病気の説明をして、ご本人がそれを受け入れたことが大きな要因になっていると思います。(スライド34)その他、在宅医療支援体制が整っていて、介護にあたる家族や介護者も安心して在宅療養生活を送ることができたこと。具合が悪くなれば入院できるという安心感が得られていたこと。機器の不具合や運動機能の変化に対して、作業療法士が出向き迅速に対応したことなどが挙げられます。
次に参ります。
今度は操作スイッチのことをお話したいと思います。(スライド35)
これはALSの例ですので、他のタイプの障害の方に合うものかどうかは分かりません。これもお手元に資料(ALSの操作スイッチ選択フローチャート)があると思います。基本的に操作スイッチで動かす意思伝達装置などは、手が動いていても目で操作するという方はいません。手が動けば手を使いたいと思われる方が多く、指が使えれば指、そういう流れでスイッチを選択していけば良いと思います。ただ、ナースコールは頻回に操作しなければならないので筋力が落ちてくると、手以外のほうがよく動く場合があります。それでもご本人が「いや、手でやりたい」と手にこだわられることもあるし、また「いや、違うところでも」という方もおられる。このような場合は、よくお話して替えていくことになります。なるべくご本人の希望に沿うようにする。動作に必要な力を軽減させるために、スイッチからセンサーに替える。違うところでよければ、動くところに替える。このような流れを載せてあります。手以外のところは、左から足、口の回り、額、眼球の動き、水平眼球運動をとるセンサーを使ったりします。そして、左の上のほうに脳血流量YES/NO判定装置というものがあります。今は製品化されています。これは全く動きがなくなってしまう、Totally Locked-in Stateという状態の方が対象となります。これは生体反応を利用してYES/NOを判定するものです。100%確実というわけではないのですが、脳血流量の変化を見るということで意思伝達する。一つの手段です。神経病院にいたときに何人かの方に試させてもらいました。ちょっと時間は掛かりますがよく反応していました。(スライド36)

これは、指を持ち上げてスイッチを操作する。股関節の外旋で操作する。さっきの画像を大きくしたところです。ニューマティックセンサーを足で押す。顎でタッチセンサーを操作する。唇で触れて操作する。額のところで操作する。眼球の水平方向の動きで操作する。こういうものがあります。(スライド37~44)

病院などの施設では、操作スイッチをナースコールに接続する必要が起こります。センサーの間に入れてナースコールに接続する機器も出ています。一つの機器を載せました。センサーコントローラーです。(スライド45)

医療との関わりの必要性を述べます。(スライド46)これは私の弟です。脳性マヒです。首が悪くなってしまって頸椎の手術をした後、「伝の心」を使っている文章を作成しています。その画面です。療養施設で生活する中、今まではキーボードを押せていたのですが、加齢による問題で不可能になりました。(スライド47)
神経難病は当然ですが、他の疾患でも加齢と共にいろいろな二次的問題が起こってきます。それぞれの状況に応じて適切な治療が必要になると感じています。これは神経病院の例ですが、入院から在宅という方向を示していますが、入院から在宅も含めて医療のサポートは重要です。(スライド48)

神経病院の難病の患者さんの診療形態ですが、当初は外来通院です。時期がきて診断確定のために入院し、その後また外来通院しながら生活します。だんだん通院ができなくなり他院に入院するか、神経病院の在宅診療になるか、あるいは地域移行するか選択することになります。ただ、在宅診療や地域移行となっても、合併症やショートステイで、また神経病院に入院することはあるわけです。こういう流れで患者さん方は生活して、医療のサービスを受けていくことになります。(スライド49)

これは、長年入院していたお子さんの例ですが、今はもう20代になっています。乳幼児期から在宅までずっとフォローしました。乳幼児期から入院しており、主治医から活動の幅を広げて欲しいと依頼され、パソコン操作を利用した学習を指導しました。その後在宅診療の中でフォローしました。(スライド50)
これはベッドサイドで、幼児期の取り組みの例です。呼吸器を付けていましたので移動させることが容易でなく、ベッドサイドで行いました。古い画像で白黒です。(スライド51)
この頃、ちょうどよいソフトがなく自作しました。スイッチも現在のようなモノがなく作りました。1、2、「2回押す」などのことが理解できるのか?試してみているところです。(スライド52)
現在はブログを作って、今日のゲストなど書いて、国際福祉機器展に来た場面や、私が訪問した時のことなどを紹介する文章を書き活用しています。これが彼女の生き甲斐になっています。(スライド53)

次は地域に移行したALSの患者さんの例です。(スライド54)ショートステイで入院された時に、キーボードが押し辛くなったので良い方法を教えて欲しいと言われ、腕を吊って行うことを提案しPSBを紹介しました。(スライド55)その後、人工呼吸器を装着し「伝の心」を活用して、『心に翼を』という本を出版されました。(スライド56)また、PSBは絵を描くことに活用していました。(スライド57)

外来で脳性マヒの方を最後にご紹介します。(スライド58)
私の弟は、手術後あまり状態がよくなかったのですが、この方はとても手術後状態が良くなられた方です。最初の入院時に、足で絵を描くためのホルダーを作ったりしながら信頼関係を構築していきました。頸椎症が悪化して呼吸苦が起こり再入院した時は、頸椎手術への不安や悩みを聞きそれらの解消に努め、手術を受けることを促しました。 結果、頸椎症の悪化した部分がきれいに取れて手が使えるようになり、キーボードを押すことや携帯電話のボタンを押すことができるようになりました。(スライド59~62)現在は、ホームページを作ってボランティアの募集や自分の気持ち伝えられています。(スライド63)

在宅でIT支援の充実をどうすれば良いかというのを、今活動しているところです。病院や地域の作業療法士、あるいはITサポートセンターなどとネットワークを作って、在宅におられる方々のサービス向上を行っていかなければならない。(スライド64)
その実践として「コミュニケーション用具支援ネットワーク研究会」というのを作りました。これはスイッチを作る実習をしながら仲間づくりをしています。これは今年の10月1日、ITサポートセンターでの画像です。(スライド65)

以上で終わります。