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平成18年度
地域におけるインターネット・パソコンを利用した障害者情報支援に関する調査研究事業報告書

講演「障害の特性に配慮したIT支援について」

講演3
「聴覚障害者のための遠隔情報保障 -支援の現状とボランティアとの連携-」

内藤一郎
筑波技術大学 産業技術学部産業情報学科 教授

筑波技術大学の内藤です。よろしくお願いします。
我々は、インターネットを使った遠隔地からの手話通訳とか要約筆記の支援の研究をしています。本日はその現状と、特にこういう場ですので、ボランティアとの連携に絡んだ話に絞らせていただきます。
内容の関係で、ちょっと写真とか映像が多いので、視覚障害の方には非常に申し訳ないなと思いますが、できるだけ説明するようにしますので、よろしくお願いします。

最初に、うちの大学を紹介しておこうと思います。うちの大学は聴覚障害者と視覚障害者だけを受け入れている国立大学です。こういう大学は日本で我々のところしかないのですが、昨年の10月、三年制の短期大学から四年制大学に変わりました。ですので、四年制大学の学生は今1年生だけです。短大の学生と四年制大学の学生が今一緒に学んでいる状況です。
学生総数は、視覚・聴覚を合わせて総勢約400名に満たない、本当に小さな大学です。授業によりますが、1クラスだいたい10人から15人しかいません。私はこんなふうにたくさんの人の前で話すことはあまりないので、ちょっとこれはたいへんだなと思っているのです。
そんな小さな大学なのですが、実はキャンパスが2つに分かれています。私が担当しています聴覚関係、産業技術学部というのはちょうど皆さんから見て上の写真、天久保キャンパスです。一方、1kmくらい離れたところに春日キャンパスというのがありまして、それが視覚障害関係の保健科学部です。両キャンパスに障害者高等教育研究支援センターというのも併設されております。こういった大学ですので、聴覚・視覚障害に関する教育方法や情報保障等の研究を活発に実施しています。ですから、今日皆さんにご紹介するのは、そうした中の一つです。

次に、我々のシステムについてご説明しようと思います。
うちの大学に情報保障スタジオというのを今作ってもらってあります。皆さんから見て左側、向こう側の写真ですが、手話通訳、要約筆記がそこにおります。一方、支援先の大学の講義室、あるいは学会やイベント会場等とインターネットで結んで、講義室や学会の会場から音声、映像を大学のスタジオに送りまして、そうした情報を見ながら手話通訳を行ったり要約筆記を入力してもらい、その結果を会場に返すという方法をとっています。
我々の大学ができたのはまだ20年弱前なのですが、そのころは、聴覚障害者はまだまだいろいろな大学に入学していない状況でした。今は本当に大学全入時代に入ってたくさんの聴覚障害者が進学するようになりました。そういう関係ですので、他大学で学ぶ聴覚障害者が増えてきました。また、進学することによって研究者になっていくような聴覚障害者も増えてきました。ですので、そういった方々を支援していくということを目的としています。ただ、活動をそれだけに限っているわけではないので、できる範囲でいろいろな支援もさせていただいています。

さて、遠隔情報、こういったシステムの特徴を説明します。まず最初に支援を受ける側、会場側の特徴ですが、状況に合わせて情報保障の画面を表示することができます。たとえば、こういう広い会場の中に1名とか2名しか聴覚障害者がいないのであれば、皆さんから見て左側の写真ですが、その方の前にテレビモニターを置いてそこに出すこともできます。あるいは、広い会場の中に何人も聴覚障害者がいる場合には、今日もここのスクリーンに要約筆記の画面が出ていますが、こういうふうに手話通訳、要約筆記を大きなスクリーンに出すこともできます。特に広い会場になりますと、手話通訳者の身長を大きくするわけにいきませんから、こうして大きなスクリーンで出すことによって後ろまで手話通訳が見やすいという状況を作ることができます。
また、支援を受ける方の希望や企画をする側の希望に合わせて、手話と字幕を合成して出すこともできます。ちょうど写真の左側がそうですが、手話通訳の映像と字幕を会場で合成して出しています。あるいは、スクリーンを2つ立てて別々に出すこともできます。

それぞれ、いい面と悪い面があります。たとえば合成して出しますと、一つの視野の中にすべての情報を見ることができます。これは非常にいい面なのですが、悪い面としては字幕の行数が3行くらいに限られてしまうことです。ですから、字幕の情報量としては減ります。一方、別々のスクリーンに出して何行も表示しますと、たとえば自分がちょっとメモを書いて見上げても、前の情報が残っている。ですから自分が視線を外したときの情報も得られるという利点があります。どちらがいいかというのはケースバイケースですので、その時々の要望に合わせて出すことができます。
後でお見せしますが、大学の授業とか学会になると難しい専門用語がいっぱい出てきます。あるいは今日みたいにこうやってパワーポイントを使った説明も多くなります。こうしたものも、画面の中に合成して一緒に出すことができます。

またインターネットへの接続が可能であれば、全国どこでも利用可能です。我々は今まで支援とか接続をいろいろやっていますが、北は仙台、南は鹿児島県の奄美大島まで接続したことがあります。特に屋久島等で学会を開いたときには、屋久島には手話通訳、要約筆記者はいないということでしたので、そういった地域へもネットワークさえつながっていればサービスをすることができます。

さて、今度は支援者側、すなわちスタジオ側の特徴を説明します。遠隔情報保障では、手話通訳者あるいは要約筆記者の前方や手元に、さまざまな情報を提示できます。実は今日、手話通訳者がいなくなってしまったので残念ですが、手話通訳というのは非常に特殊でして、実は皆さんに向かって通訳をしなければなりません。通常、音声通訳の場合ですと、資料を手に持ちながら、私を見て、あるいはスクリーンを見ながら通訳できますが、手話通訳者はスクリーンとか話者を背中にして通訳しなければなりません。しかも手を使っていますので、資料を見ながらの通訳もできません。ですが遠隔手話通訳の場合は、実はカメラに映らなければ何でも出すことができます。自分の前方にいろいろな資料を出すことができます。それを確認しながら通訳ができます。
あるいは、大きな会場で普通に通訳をやっていると、通訳者と待機中の通訳者の距離が離れてしまいますが、スタジオ内ですとカメラに映らなければすぐ近くに行ってアドバイスすることもできます。

専門用語、固有名詞を我々はできるだけ出すようにしています。というのは、手話通訳の方も要約筆記の方も決してその分野の専門家ではありませんので、難しい言葉がわからない。これではちゃんとした情報保障ができないということで、そういう情報も出しています。
実は先ほど言いましたように、画面の中にキーワード等を合成することができますので、合成したキーワード等を指さしながら通訳することができます。専門用語とか、たとえば外国の学者の名前などは手話がありませんから、どうしても指文字になります。指文字というのは実は、我々がちょうどカタカナで全部本を読んでいるようなもので、非常に読み取りにくい。通訳者もやりにくい。それを画面に合成して出すことによって指さして示す。それによって通訳はしやすくなるし、授業を受けている学生にとっても内容を理解しやすくなると考えています。

では、支援の事例をちょっと見てもらおうと思います。これは筑波大学の実際の講義室、ちょうど100人から200人くらい入るような部屋なのですが、ここで実際に支援したときの様子を見てもらおうと思います。一番前に座っている学生の中央、3人座っていますが3人の中央が聴覚障害者です。両脇に座っている学生が実は学生ボランティアで、要約筆記をやってくれています。先ほど皆さんに見せましたように我々ですべて、手話通訳と字幕を出すこともできるのですが、学生ボランティアが活動しているとき我々はそれをやらないことにしています。というのは、我々が支援をやめてしまうと、その大学で支援がなくなってしまうというのは決していいことではありません。ですから、このように大学内でやられている支援があるなら、そうした取り組みと連携しながらやるようにしています。そして、互いに我々も彼らも、刺激し合いながらやっていけたらなと思っているのです。ちょっと様子をビデオで見ていただこうと思います。

今ちょっと映像を流しました。聴覚障害者1名に対して2名の学生のボランティアがいたのですが、彼らが打っている文字情報を講義室内で合成しまして、手話通訳映像の中に3行ほど字幕を入れて提示しています。そういう形で支援した事例です。一緒に出すと要約筆記の人は頑張ってできるだけ速く打とうとしますが、それでも多少遅れます。ただ、支援を受けた学生に聞くと、指文字などが出て読めなかったときにちょっと下を見ると、遅れて文字が出てくる。それが却ってよかったということもありました。

次の支援事例は、福岡のビジネススクールでのパソコン実習を支援したときのものです。これはビジネススクールなのですが、実は福岡県の障害者の職業能力開発校かなにかの就労事業の一環としてやられたものです。このとき、我々のスタジオ側に手話通訳者と要約筆記者を用意していますが、現地の福岡県の会場にも要約筆記に来ていただきまして、筑波側と福岡側で要約筆記の連携をやってもらいました。何を目的としているかというと、たとえば地方などでやったときに、会場で要約筆記者の数が確保できない、こういったときに多地点間で協力し合うことによって支援できないかという実験をしました。福岡側で組んでもらって、筑波側で組んでもらって、交代で打ってもらうというスタイルと、福岡と筑波で一緒に組んでもらって一緒に打ってもらうというスタイルをやりました。これも映像があるので見てもらおうと思います。
非常に狭い実習室なのですが、約10名くらいの聴覚障害、20代から50代くらいまでの人でハローワークに来ていた方、申し込んだ方を対象に行われたものです。狭いので通訳の映像とその下に字幕を縦方向に配置しています。こんなふうにして支援しました。地域間で連携して打ってもらったのですが、要約筆記と一言に言っても、地域とかグループによっていろいろやり方とかルールが違ったりします。こうした支援の結果として、そういう問題点もわかってきました。ただし、基本的には事前に密に打ち合わせをすると遠隔地間の連携も可能だということがわかってきました。ですので、先ほど言った地方などでやるとき、あるいはいろいろなところで要約筆記者が足りないような状況では、こういったシステム整備を進めることで連携し合いながらやっていくことができるのではないかなと考えています。

この後ここで紹介するのは、今現在我々が支援している最新のシステムです。手話通訳者、先ほどの映像にもありましたが、専門用語等が出たときには合成したキーワードを指さしながら、指文字を使わずに通訳してもらうという方法をとっていますが、もう一つ課題だったのが、パワーポイント等のスクリーンを指さすというのがなかなか難しいということです。というのは、画面に向かって、画面につられて指を出す、手を出すと映像として逆側になるということが起きてしまいます。ついつい熱中してくるとつられやすいという問題があります。それともう一つは、現場にいるとスクリーンに対して上のほう、下のほうという指し方ができるのですが、遠隔でやるとそれがなかなか難しいということがありました。

だったら、画面の中に合成してしまいましょう。ちょうど天気予報とか手話ニュースみたいに画面の中に全部入れちゃいましょうという方法をとりました。実際にはタッチペン式のPCを使って、重要な部分、あるいは先生がしゃべってパワーポイントにないような部分も、書き込んでしまうという方法をとっています。
ではちょっと、この様子をまたビデオで見てもらおうと思います。

今見てもらいましたように、画面の中のパワーポイントに適宜書き込んでもらって、あるいは重要な部分には線をひいてもらって、それをうまく指さしながら通訳してもらう、こんな方法を現在採り入れております。
では、実際の現場での、その通訳を受けている講義室側の映像を見てもらおうと思います。実はこの授業、だいたい500名くらい入る大教室で、500人近い学生が受けているそうです。聴覚障害者が3名受講しているのですが、ちょうどこの写真で見ると一番前に3人座ってもらっています。モニターが4つくらい並んでいるのですが、先ほど見た手話通訳の映像が2つのモニターに出ています。間に挟むように1個1個モニターがあるのですが、これは現場の学生ボランティア、ノートテイクの学生のノートテイクの映像を出しています。ですから、聴覚障害の学生は授業を受けながら、手話通訳の映像を見たり、あるいはノートテイクの映像を見たりしながら、自分で適宜選びながら授業を受けています。
あと先生に向かって1つモニターがあるのに気づくと思います。我々はこういう情報保障をするときに、先生にも手話通訳の映像を出しています。というのは、人間、私もそうなのですが、通訳がつく、要約筆記がつくというと非常に安心します。どうなるかというと非常に話が速くなります。たとえば外国に行って、英語はろくにしゃべれないのだけれども、通訳がついたと思った瞬間にとても安心してぺらぺらぺらぺらしゃべたります。そうなると通訳がついてこられなくなりますので、先生にも示して、「先生、ときどき確認してください」とお願いしています。

今日最後にまとめで改めて言おうと思っているのでが、よい授業というのはシステムだけでは絶対にできません。支援する人間、あるいは受ける学生、授業をする先生、みんながお互いに問題や意識を共有し合わなければできないということがあります。ですので、先生にも示しています。これもちょっと映像を見ていただこうと思います。

今見てもらいましたが、画面の右隅にあった白い画面がノートテイクの画面で、ビデオを合成するときにちょっとホワイトバランスの関係で真っ白になっちゃっています。でも、実際にはちゃんと読めるようになっています。

あといくつか紹介させていただきます。これはボランティア養成の支援をしたものです。今年の9月に、PEPNet-Japanという日本財団や我々の大学が中心になってやっていますが、聴覚障害者の高等教育を支援する組織があります。そこが各大学のノートテイカーの指導員を養成する講座を開きました。東京会場で開いたのですが、うちのスタジオから東京会場のノートテイカー指導員養成講座を支援しました。それと同時に、せっかく開くのだから全国の希望する大学には配信しようということで、情報保障画面と講義の内容を筑波から金沢大学、愛媛大学、同志社大学にも配信しました。こんな取り組みもやっています。

また、我々こういうのをやっていく中で、実際の場面でも我々の研究が応用できないかということを検討しています。たとえば皆さんから見て左側ですが、学会会場などです。今日ですと要約筆記者は一列に並んで見やすい状況ですが、向き合うように座る場合もあります。そうするとやはり要約筆記もスクリーンを背にしたりします。ですので、要約筆記者の前にモニターを立てて、パワーポイントの画面、キーワード等を映したりします。あるいは手話通訳者の前方にもモニターを1台置いて出すことによって、後ろで出ている情報が何なのかというのがわかるようになります。特に通訳の人は後ろが見えないのに講演者が「これは大事なんですよ」と言ったら「これ」が何だかよくわからないということが起きますので、そういうのもわかるように。

こういうことをしていると、内藤先生のグループは手話通訳者、要約筆記者ばかり支援しているのではないですかと言われます。ですが、支援を受けた学生たちにアンケートをとって聞きますと、要約筆記とか手話通訳がしやすい環境で行われた時の情報保障は、良いということを言います。ですから、要約筆記者や手話通訳者が支援しやすい環境を作ることが、最終的には内容のある情報保障を実現すると考えています。

我々はシステムデモンストレーションなどの取り組みもしています。声がかかればどこへでも行ってシステムのデモンストレーション等を実施します。学会から声がかかれば行きますし、それこそ手話サークルなどから声がかかっても行ったりします。ネットワークがつながれば、ネットワークをつないで筑波からデモンストレーションをすることもできますが、ネットワークがつながらないような、利用できないような環境であっても、それこそその場でネットワークを作って、現地の臨時のスタジオから支援したりします。たとえばこの写真は、今年の11月に北九州でやった日本福祉機器展なのですが、ここでは臨時のスタジオを作りました。ちょうど皆さんから見て右側の写真がデモンストレーションしているところですが、この衝立の向こう側にもう一つモニターが見えると思います。衝立の向こう側に臨時スタジオを立てました。衝立のこっち側と向こう側にネットワークをはりまして、北九州市の手話通訳者に来ていただいて、実際に我々のシステムを体験してもらったりしました。ですので、皆さんから声がかかれば、いつでも僕たちは自分たちの研究費や日程の都合がつく限り出かけていって、実際に見てもらったり体験してもらったりしています。

ボランティアとの連携なのですが、情報保障というのは互いの信頼が基本です。先ほどちょっと簡単に言いましたが、どんなにいいシステムを作ってもそれだけでは問題は解決しません。ですから我々は、たとえば授業支援をするのであったら、先生と支援者と我々と、そして学生とともに、できるだけ時間を作って意見交換をするようにしています。あるいは学生たちにアンケートに答えてもらって、翌週の支援にもし改善できるものがあったらどんどん採り入れるようにしています。またお互いの信頼がありませんと、どうしてもお世辞に「いいですね、いいですね」で終わってしまうのですが、やはりお互いに信頼をもって手話通訳や要約筆記の人たちから率直な意見が聞けることが、本当にいいシステムを作る基本だと考えています。
いくつかビデオを見てもらいましたが、現場のボランティア団体があればそういうところとも連携できるように、柔軟なシステム作りをしています。ですから、我々だけで閉じているだけではなくて、互いに刺激し合うことがよりよい情報保障、あるいは社会環境を築いていくものだと考えています。

最後に、先ほどちょっとシステムデモンストレーションの話をしましたが、声がかかればどこへでも出ていきます。我々は今のところ学会や授業の支援を中心にしていますが、そういったシステムデモンストレーション等を通していろいろな連携が深まっていく中で、さらに新しい連携活動の可能性があれば良いなと考えていますので、もしよろしければいつでも遠慮なくご連絡ください。今日、パンフレットを入れてあると思いますので、私のもとへ連絡をいただければ、できる限りのことをさせていただきます。
ただ、いつも最後に付け加えますが、私も授業などがあったりします。一番私が優先するのは自分の授業なものですから、自分が担当している聴覚障害者を自習にしてまで支援はしないので、それはご理解ください。以上です。