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平成18年度
地域におけるインターネット・パソコンを利用した障害者情報支援に関する調査研究事業報告書

考察及び今後の展開

はじめに

平成17年度よりインターネットとパソコンを利用した障害者へのICT支援について、特に地域におけるパソコンボランティアの活動を中心とした調査を行なった。昨年は約100のパソコンボランティア団体にアンケートと聞き取り調査を行なった結果、様々な課題がでてきた。特にIT支援団体と行政との連携や作業療法士などリハビリテーション関係者との連携などネットワークの構築の必要性があげられた。またより良いIT支援のためには、障害の特性に配慮していく必要性もあげられた。そのためには、当事者の観点から考えなければならないという考察も出てきた。
上記のようなことをベースにして、平成18年度は次の3つのことを中心に全国的に聞き取り調査を行なった。

(1)行政とパソボラ団体との連携
(2)パソコンボランティアとリハビリテーション関係機関との連携
(3)障害者に配慮した当事者によるIT支援モデル

また調査だけでなく情報技術の分野における有識者、あるいはこのプロジェクトのために立ち上げられた企画委員会の委員の方々の協力により、昨年に引き続きパソコンボランティアの活動を中心とした「IT支援セミナー」を開催した。これらの活動から考察と今後の展開について述べる。

考察

ここで今年度行なった活動について考察と有用な支援モデルの構築につなげた提言をいたした。また障害者の情報バリアフリー事業を積極的に行なっている日本障害者リハビリテーション協会情報センターで何ができるかを述べて行きたいと思う。
上記の(1)については、県のITサポートセンターと行政の連携が多く見られた。昨年行なったパソボラのアンケートでも、十分な予算がないという回答があったが、そこの部分では行政、あるいは自治体からの支援は非常に有効であると考える。
また札幌チャレンジドの加納尚明氏は、連携の変わりに「協働」という言葉を使用しており、行政に対して対等であることにより有益でユニークな活動ができると指摘している。
(2)の 「パソコンボランティアとリハビリテーション関係機関または関係者とのネットワーク」に関して、神奈川県総合リハビリテーションセンターでは、リハビリテーションエンジニアと作業療法士が協力しあって、利用者にパソコンの支援をする際に、身体状況に応じて入力装置やソフトウェア等、その人にあったものを選定、あるいは、補助装置を自ら製作して対応し、支援を行なっています。そこには、パソコンボランティアとの連携もある。このような連携は障害者支援モデルの1つとなる事例である。
今回の調査の中で作業療法士への調査も行なったが、在宅でパソコンを利用するALSなど重度の障害者への支援は病院と地域の作業療法士、そしてパソコンボランティア団体との連携があった。そこに企業も関わってもらい、極力ユニバーサルデザインに統合していけば、市場ができて、利用者が手ごろな値段で購買できるのではないだろうか。しかしよほど工夫しないと採算が取れない場合が多いので、企業のCSR(社会的責任)に訴えると共に、行政の経済的な支援が必要である。
やはり、調査によると、医学の専門家でないパソコンボランティアは、上記のような連携を希望しているが、そういう連携相手を捜せていないというのが現状である。
しかし、平成17年度に総務省から公表された「障害者IT利活用支援の在り方に関する研究会」の報告書の中で、「リハビリテーションの分野では、IT支援を本来業務として進めやすいのは作業療法士である。」という結果を受けて日本作業療法士会(OT協会)のなかに、都立多摩療育園医療課主任の田中裕次郎氏がリーダとなり、IT支援組織が作られた。この組織とe-AT 協会と一緒に立ち上げたATネットを通して、作業療法士の仕事を紹介していく予定になっている。今後の進展が期待される。
(3)については、当事者の視点が大事だということがわかった。そこで当事者が関わるIT事例についても調査・報告も行なったので本報告書を参照してほしい。今年度のセミナーにおいても、本事業の企画委員などの協力を得て、様々な障害分野の特性を生かしたIT支援についてそれぞれの専門家からお話をいただいた。その中で障害者に何を支援するのかという点が特にクローズアップされた。セミナーの中で、でてきたポイントが以下である。

  • コミュニケーション支援
  • 生活支援(自立への支援に結びついていく)
  • 就労あるいは様々な社会活動参加の支援
  • 情報や文化へのアクセス支援
  • 場の提供

以上のことを考えたときに「IT支援というのは、やはり生活支援の一環として、あるいは生活の流れの中で支援していくべきで、ITだけが先にあるのではない。」という星城大学リハビリテーション学部の畠山卓朗教授の言葉は、まさにパソコンボランティアのあり方を述べているように思う。

今後の展開

本調査・研究プロジェクトは、今年で終了するが、地域における障害者IT支援の向上、ネットワークの構築、支援者と利用者の広がりを目的にIT支援団体データベースおよびマップを作成したので多くの関係者に利用してもらいたいと思う。詳細は本報告書の「IT支援団体データベース及びマップについて」を参照いただきたい。
また今回の調査・研究で学んだことを当協会の「パソコンボランティア指導者養成事業」研修の中で生かしていきたい。と同時にこの指導者養成事業を通してさらに障害者の地域におけるより良い支援の調査・研究を続けていきたいと考える。