音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

平成18年度
地域におけるインターネット・パソコンを利用した障害者情報支援に関する調査研究事業報告書

NPO法人札幌チャレンジドの挑戦
―行政との協働の実践―

この記事は2006年10月、NPO法人札幌チャレンジドに聞き取り調査を実施し、理事・事務局長の加納尚明氏に伺ったお話をまとめたもとです。

協働のプロセス

札幌チャレンジドは2000年より障害のある方々へのIT支援による社会参加と就労支援を目的として活動を開始した。その頃札幌市も障害者へのIT支援の実施について模索しており、札幌チャレンジドに講師派遣依頼を行い、IT講習会を実施した。この段階ではまだ「協働」とよべる取り組みではなかったと理事・事務局長の加納尚明氏は振り返る。
2003年10月、札幌チャレンジドは「障がい者ITサポートセンター」を札幌市から受託したが、実現に至るまでの札幌市との断続的な交渉により真の「協働」が生まれた。
前年の2002年5月、札幌チャレンジドは厚生労働省が2003年度予算で、「障害者ITサポートセンター」を概算要求したという情報をキャッチし、これをぜひ札幌チャレンジドで実施したいと願った。そこで、「北海道に求められる障害者ITサポートのグランドデザイン」という資料を1週間でまとめあげ、自ら道庁の保健福祉障害者担当部局とIT部局、札幌市の障害部局とIT部局に、それぞれ同じものを持っていき、北海道で必要な障害者ITサポートセンターについての提案をした。この提案書は、「障害者にとってのITとは」、「障害者のIT利用実態」、「現状把握」、「ITサポートに対する協働のデザイン」、「札幌チャレンジドの願い」等などを数字や図表を使ってまとめ、それをもとに経験をふまえた説得力のある提案を行った。「障害のあるかたがITを活用するとこんなに素晴らしくQOLが上がるんだよ。そして、ITサポートセンターは、決して行政だけとか民だけでやるのではなくて、協働でやるべきでこういう部分はこういうふうに協働でやりましょう、と具体的に提案しました」と加納氏は語る。
札幌チャレンジドの提案は受け入れられ、「次年度予算」策定の中に載り、翌年10月から、「札幌市障がい者ITサポートセンター」という事業が始まった。

関係はフィフティ・フィフティ
  • 一に提案!、二に提案!!(職員の知恵袋になれ!)
  • 地道な活動実績作り
  • 人脈作り
  • 受託収入に屈しない信念と他の収入源確保
  • オンリーワン要素を創れ!

「NPO側が行政に提案をするということが、とにかくスタートですよ。待っていても何も来ないし、行政が考えたことというのは完全に行政の下請け的にならざるを得ない。こちらから考えたものは、向こうもできるだけ行政の中で設計していくから、わりとちゃんとしたものができるんです。」と加納氏は語る。しかし、NPOが行政を納得させるような地道な活動をしていることが大前提だと釘をさす。その上で、行政側との人脈作りを少しずつ作っていく。「いくら偉そうなことを言っていても『あんたたち、何、やったの』と問われたときに、実績のない団体には絶対に契約を結んでくれない。それは当たり前と言えば当たり前。行政は税金を預かっているわけだから、やっぱりちゃんとした所に発注しないと、説明責任を果たせないので」

また、役割分担に関しては、「NPOの役割分担、領域設定をきちんとすること。障害者のITサポートはいろいろ幅広いので、重度障害者の方の支援は、基本的にはやはり行政が積極的にやるべき。その対極にあるのが就労支援で、これは本来民間が頑張って、障害者の雇用を増やしていくべき。そのあいだには、行政と民間がフィフティ・フィフティで協力してやるべきことがあり、この領域についてお互いが共通認識を持つということが必要である。」と語る。

そして、NPO側にオンリーワンの要素があるかが、キーポイントと札幌チャレンジドは考える。「行政というのは公平性の原則がありますから、札幌チャレンジドと同じことをやっている団体が例えば市内に3つあったら、常に天秤に掛けられます。そうすると値段競争とかになり得るから、やはり自分自身が、いかにオンリーワンを作り出していって、これを社会の中でできるのはあなただけよね、というNPOになっていかないと、なかなか協働をより推し進めるということは難しくなってくる」 札幌チャレンジドは常に障がいのある方にとって有益でユニークな活動を展開しようと心がけている。

札幌チャレンジドが考える「協働」とは、対等な立場で議論して両者が納得する結論を導き合いながら進めること。交渉の際、妥協できない問題が発生したときには、とことん話し合い、それでも行政の要求が札幌チャレンジドの信念からかけ離れていれば場合によっては、事業受託を断念するという覚悟も必要。そこで重要なのが、「受託収入に屈しない信念と他の収入源の確保」だ。収入がないと結局は断れないので、対等な立場で話し合うためには独自の財源を持つということが重要になってくる。

小さなことから始めよう

札幌チャレンジドはもはや押しも押されもしないNPOに成長した。これからIT支援をやってみたい、また様々な悩みを抱え、行政の支援を受けたいと思っているボランティア団体やグループへのアドバイスを伺った。「今でこそ札チャレは組織も大きくなったし、しっかりしてきたけど、何もないところから始まったんです。みんなと同じですよ。だから、ちゃんと一つ一つ積み重ねていけば、だれだってこうなれるんですよ。もし場所がなければ、最初から大きな行政に訴えるのではなく、自分たちの住む地域にアプローチをしてみる。こういう活動を、何とか地域密接で自主的にやりたいんだけれども場所がないんだよ、場所だけ貸してよと。全くそういうのがなかったら、小学校とか中学校に僕ならアプローチする。コンピュータ室があるから、何とかそういう所を土曜日だけ貸してもらえませんかとか。何か問題があったとき、考えればいっぱいあるはずなんです。一人で考えないで、ブレーンストーミングする。『パソコンを教えたい、じゃあ、パソコンはどこにある?』『ああ、じゃあ、企業にパソコンあるよね』とか。『ノートパソコンがどこかから借りられれば、割とどこでもできるよね』。『ノートパソコンは持ち寄ることにして、場所だけ。パソコンがあるんだったら、場所だけで本当に良ければ、もっとこういう場所の選択肢あるよね』とかいうことを、やっぱりちゃんとブレーンストーミングしていく。その中で本当に行政が必要な分は『ここの部分だけ行政お願い』とやればいいんだから。」
大事なことは、まずは訴える前に、自分たちでできることを考えることだという。ゼロからスタートし、問題があってもみんなで知恵を出し合い、工夫を重ね、揺らぐことのない信念を持ち続け果敢に挑戦してきた札幌チャレンジドの実践は、障害分野に関わらず多くのボランティアグループやこれからやってみようと思っている人たちにとって何よりも励みになると取材を終えて実感した。

NPO法人札幌チャレンジド

札幌市中央区北5条西6丁目 札通ビル8F
TEL:011-261-0074 FAX:011-219-1811
URL:http://www.s-challenged.jp/
Eメール:challenged@s-challenged.jp

・札幌チャレンジドの活動内容については以下平成17年度の聞き取り調査によるまとめを参照して下さい。
平成17年度 地域におけるインターネット・パソコンを利用した障害者情報支援に関する
調査研究事業報告書 (p22~p24)
(財団法人日本障害者リハビリテーション協会平 成18年3月発行)
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/conf/it2005/kikitori1.html