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JANNET研究会
ポストMDGsと障害で話題の「障害インクルーシブな開発とは?」報告書

◆講演【日本の実践】

一般社団法人草の根ささえあいプロジェクト代表理事
渡辺 ゆりか

今西 それでは次のセッションに移りたいと思います。次は渡辺ゆりかさんから日本での活動の事例についてお話しいただきます。

渡辺さんは名古屋にある一般社団法人草の根ささえあいプロジェクトの代表理事をされておりまして、日本でのいろいろな制度から抜け落ちてしまった非常に厳しい環境にある方々への支援を行っておられます。本日はその活動を、今回のテーマであるCBRマトリックスを使いながらどのようなかかわりがあるかということをお話ししていただきます。なお、CBRマトリックスの資料の3枚目に「私の事業、取り組み」という用紙があると思います。この後にあるワークショップのセッションでは実際に皆さんに作業をしていただくのですが、その時の基礎的なものになりますので、渡辺さんのお話を聞きながら自分の仕事、普段の活動というのがどこの分野にかかわりがあるかということも併せて見ていただけたらと思います。

渡辺さん、よろしいでしょうか。それではよろしくお願いいたします。

渡辺 ただいまご紹介に預かりました、一般社団法人草の根ささえあいプロジェクト代表理事の渡辺と申します。どうぞよろしくお願いいたします。今日はこのような会にお招きいただきまして本当にありがとうございます。愛知県名古屋市からやって参りました。皆さんとここでCBRマトリックスを使って一緒に学び合えることを楽しみにやって参りました。つたない報告になるかとは思いますけれども、どうぞよろしくお願いいたします。

では、すみませんが座ってお話しさせていただきます。先ほどのアルビナさんの報告を素晴らしいなと感動して聞いていました。徹底して本人ニーズを汲み取り、草の根レベルで活動しながらきちんと社会や地域に働きかけている、そのダイナミックさを併せ持った活動にすごく感動しました。とても勉強になりました。

私たち一般社団法人草の根ささえあいプロジェクトは、社団法人化してまだ1年半の小さな団体なのですけれども、今日は私たちの活動と、愛知県でホームレス支援をしている団体の2団体を、CBRマトリックスを使って紹介するという試みにチャレンジしてみたいと思います。CBRマトリックスを使いながら、社会的孤立にある方が社会的包摂(インクルージョン)へと進んでいくプロセスを検討していきます。皆さんのお手元にあるCBRマトリックスをご覧いただきながら、一緒に進めていければと思っていますので、お付き合いお願いいたします。

草の根ささえあいプロジェクトの概要

ではスライド(次頁写真1)をご覧ください。私たちは先ほどもお伝えしたように任意団体時代が平成23年4月23日からですので、その期間を含めてもまだ3年に満たない生まれたての団体です。メンバーは86名と書いてありますけれども、後から説明する名古屋市からの委託事業や厚生労働省からの委託事業のスタッフ、ボランティアを合わせますと、今は100名ぐらいになっています。事業に取り組んでいるメンバーは有給ですけれども、草の根ささえあいプロジェクトの活動自体は全員がボランティアになります。草の根ささえあいプロジェクトでご飯を食べている人はいないんです。

(写真1)
スライスド1(写真1の内容)

私たちが何をしているかといいますと、貧困にある方や社会的孤立にある方の応援をボランティアベースでしています。日本で貧困というと、最近は少しお聞きになることもあるかと思いますが、まだなじみがないという印象の方もいらっしゃるかもしれません。

今、日本の相対貧困率は16%にのぼっており、月収10万円ぐらいで暮らしている人が100人に16人いるという現状があります。これは先進国の中で第2位の貧困率になります。先進国の中で第2位の貧困率の国に私たちはいます。貧困にある方、あるいは孤立の状態にある方というのは今は決してマイノリティではないという現状があります。

孤立の問題も日本ではすごく根深くて、月収10万円ぐらいというと生活保護世帯で暮らしている方に該当するのですけれども、生活保護を受けている方のアンケート調査では4人に1人が困った時に相談する相手が一人もいないと回答しています。生活保護を受けている方の自殺率は一般の方の2倍になっています。20代で生活保護を受けざるを得ない方の自殺率というのは一般の方の6倍という数字が出ており、孤立の問題はとても根深い社会問題になっています。私たちはそのような社会問題に取り組んでいるのですけれども、写真(写真1)を見るとすごく楽しそうですよね。本当に暗い問題でもありますし、ふたを開けてみたら大きな社会問題ばかりなのですけれども、それでも私たちは現場の活動と、調査やワークショップを用いた社会活動という両輪で活動しています。

そのように両輪で活動しているものですのでメンバーも多様になってきます。それがまた面白いかなというふうに思っています。障害者の支援団体で活動している人、母子家庭の支援をしている人、ホームレスの支援をしている人など困難を抱えた方の現場支援をしている人もいれば、司法書士、大学の研究者、発達障害や精神障害の当事者、家族に自閉症の人がいるといったような支援現場にはいないけれども、貧困や孤立の問題を何とかしたいと思っているメンバーで構成されています。写真(写真1)のように円になってワークショップをしたりしています。私は午前中にCBRの解説をした鈴木直也さんが主催している「起業の学校」というコミュニティビジネスの学校を卒業して、ワークショップや多様な人たちとの対話技術を学びました。起業の学校を卒業して5年後に一般社団法人草の根ささえあいプロジェクトを立ち上げました。

穴を見つける会

写真(写真1)の左上に背の高い男性がいるかと思うのですけれども、これは当時、内閣府参与で現在は社会活動家の湯浅誠さんです。3年前に知多にある社会福祉法人むそうが主催した「ふわりんクルージョン」というイベントで湯浅誠さんと出会いました。今でも草の根ささえあいプロジェクトの活動を湯浅さん、戸枝さん、鈴木さんに見守っていただいています。そもそもですけれども、私たち草の根ささえあいプロジェクトの活動の発端というのは「穴を見つける会」という名前の会でした。これは湯浅誠さんがパーソナルサポートサービスというものを世の中に普及させようとした時に分科会でやったワークショップがきっかけでした。私たちが応援している社会的貧困や孤立にある方というのは、今の日本の福祉サービス、高齢者サービスにはなかなかのることができません。制度と制度の狭間にいらっしゃる方がとても多いです。そういう現状を踏まえ、制度と制度の狭間で誰も助けずに、助けも得られずに、応援も届かずに、複数の困り事を抱えている人というのを湯浅さんは「穴にいる人」と定義し、穴にいる人というのはどんな人なのかを書き出すワークショップを行いました。

多くの支援者を目の前に、あなたの周りで穴に陥っている人はどんな人かを書き出してくださいと言われました。その時に、私たちは残念ながら誰一人筆が進まなかったんですね。どういう人を書いたらいいのかがわからなかった。

じゃあ質問を変えますと湯浅誠さんがいいました。あなたの身の回りで困っているとわかってるんだけど、制度にのらないし、ちょっとやっかいな人だし、仕方ないよねというふうに、「わかってるんだけど仕方ないんだよね」と言われている人はいませんか。その人がどんな人なのかを書き出しましょうというふうに質問を変えられました。そうしたら周りの支援者たちから、あの人ね、この人ね、私の支援現場にもいるし、私の近所にもいるし、私の隣にもいるしというようにどんどん人物像を書き出すことができたんですね。私はその時にびっくりしてしまいました。「わかってるんだけど仕方がないんだよね」という人が私の周りにいかに多いか。そういう人たちをいかに見て見ないふりし、放置してきたかという現状を突き付けられました。

「わかっているんだけど仕方がないんだよね」というふうに放っておかない社会をつくるにはどうしたらいいのかを考えたいという思いで、草の根ささえあいプロジェクトは活動しています。

草の根ささえあいプロジェクトの活動

私は講演の機会をいただくたびに、「わかっているんだけど仕方がないんだよね」という言葉を言うのですけれども、これは草の根ささえあいプロジェクトを生み出し、今の活動に進むためのトリガーワードであると思っています。「わかっているんだけど仕方がないんだよね」と言ってしまっている人たちはどういう人なのか、どのように応援していったらいいのだろうかということを私たちは考えています。

草の根ささえあいプロジェクトの周りにいる「わかっているんだけど仕方がないんだよね」と言われている人たちというのは主にコミュニケーションが苦手な方たちです。学習障害や精神障害などの個人特性に加え、DVや貧困など恵まれない家庭環境で育った方々です。コミュニケーションを取ることがすごく大変な方がほとんどです。

コミュニケーションを取らずに生きていくというのはとても大変なことです。その方々はことあるごとに社会に対して自分の思いを伝えようとしたり、伝え直そうというようなチャレンジをされるのですけれども、ことごとく失敗して、周りから嫌われたり疎まれたりしてしまいます。そういう人たちというのはある程度の年齢に達すると人間に対する不信感をつのらせてしまい、解決を半ばあきらめかけたり、人とコミュニケーションを取るのが怖くて遠ざかったりしてしまいます。そういう人たちを丁寧に取りこぼさずに発見し、寄り添って見守っていったり、あるいは私たちの前からフェイドアウトして消えていってしまわないように見守り続けるといったことを目標に活動しています。

草の根ささえあいプロジェクトには現場支援の活動と、調査やワークショップなど社会運動的な活動がありますけれども、今日は現場の支援のほうの説明をさせていただきます。皆さんから見てスライド(図1)の左側に、よりそいホットライン、子ども・若者総合相談センターとありますが、こちらが私たちの活動の入り口の機能になっています。

(図1)
スライスド2(図1の内容)

よりそいホットラインというのは厚生労働省からの委託を受けて開設している24時間365日の何でも悩み相談電話です。

今日も稼働していまして、40人の電話相談員で24時間365日を愛知県地域で動かしています。1日に全国で4万件のお電話をいただく巨大な電話相談となっています。それだけお困り事がある方がいらっしゃるのですけれども、電話に出られる架電率は4%を切っていまして、96%の方のお悩みには答えられないというほどお電話が殺到しています。「今すぐ死にます」、「仕事がなくて、両親に愛想を尽かされて所持金が30円しかありません」といったような方のお電話を中心に、「上司に明日休みますという手紙を出したいのですが、どうやって書いたらいいのですか」という悩みまで、本当に何でも相談だなということで毎日受けています。

子ども・若者総合相談センターというのは今年の6月25日に開設したばかりのセンターで、名古屋市在住の39歳までの方を対象にした、ニートや不登校や引きこもり問題のための総合相談窓口です。よりそいホットラインも、子ども・若者総合相談センターも共通しているのは問題解決型であるということです。複数の悩みを同時に抱えた方々が多いので、その方々の悩みを受け止めるのですけれども、そこでお電話を傾聴して終わってしまうのではなく、該当する支援機関や支援者につないでいくといったことをしています。つなぐ際には、まずは制度できちんとつないでいけないかを考えるのですが、ここにご相談に来られる方は生きづらさは抱えているけれども、障害者手帳を持ってないとか、病気はあるんだけれども、今まで嫌な思いをしてきたのでどうしても医療にかかりたくないとか、制度にのれなかったり、あるいはのるのを拒否されたりする方がすごく多いです。なので私たちはスライド(図1)の右側にあるインフォーマルネットワークというものをつくり、制度にのらなかった方々を民間の草の根団体のネットワークで、本人を包括して解決できないかということを考えました。

それでもそこまでできないという細かい困り事というのは残るんですね。そこで残った小さな生活の困り事でもご本人にとっては深刻で大事で、それを放置しておくと後々大きなひずみを生むということもあります。そうしたことに関して、ご本人のご自宅まで伺ってお困り事を聞くボランティアバンクを今年の1月に作りました。それを困り事ささえあい隊猫の手バンクと呼んで、いま活動しています。

猫の手バンクとCBRマトリックス

猫の手バンクの事例をCBRマトリックスを使って説明させていただきます。事例の前に、まずは猫の手バンクが何をしているのかをCBRマトリックスで表現してみたいと思います(図2)。猫の手バンクが直接的にしているサービスというのはCBRマトリックスに当てはめてみるとパーソナル・アシスタント、アドボカシーとコミュニケーション、スキル開発の3つだけであるということがわかりました。やっていることはたったの3つだったんです。

(図2)
スライスド3(図2の内容)

パーソナル・アシスタントというのは、例えば精神障害がおありで、家族と絶縁していて、単身でごみ屋敷に住んでいて、所持金がほとんどないという方からお電話いただいたとすると、まずは家庭に駆けつけて何にお困りですかというふうにお聞きします。ご本人の状態を見れば、専門家であればすぐに医療や生活保護につなごうと思うかもしれないのですが、先ほどもご説明したようにこれらの方々は制度や支援者や医療に対して不信感をもった方がすごく多いので、そんな所には行きたくないとおっしゃられたりします。ですので、まずはご本人が何に一番困っているかをお聞きするようにしています。そうするとご本人は病院なんか行かなくてもいいから、この部屋を片付けたいとおっしゃいます。私たちはお部屋片付け隊というチームを作ってお部屋をきれいにする応援から始めます。あくまでご本人の希望を主体として、ご本人が今後どうなりたいかというプランニングも別途同時にしながら、問題解決の方法をいろんな資源を使いながら一緒に考えます。このようなパーソナル・アシスタントを一番大事にしています。

アドボカシーとコミュニケーションということでは、ご本人と今後どうしていこうかというパーソナル・アシスタントをしていくうちに、私たちとご本人との人間関係ができてきます。そうすると、私たちの人間関係を軸にもう少し手伝ってくれる人を増やそうということで、例えばもう一人応援団を連れていったり、私たちも一緒に行くからということで病院につなげてみたりということをしていきます。ご本人の周りに応援団を一つ一つ増やしていきます。今まで一人の時は失敗していたコミュニケーションが私たちと一緒だと上手くいくことがわかってきます。社会につながるためのコミュニケーションがどうあるべきか、どうすると上手くいくかということをご本人と一緒に体験しながら学んでいきます。そのようなコミュニケーション支援をしています。

スキル開発ということでは、ご本人の特性やご本人の一番心地いいやり方に落とし込んでいき、私たちがいなくても、自らコミュニケーションができるようなツールの開発、例えば伝え方を一緒に学習したり、ごみ屋敷にならないようにごみの分別方法を教えて差し上げたりということもしています。生きていくための技術を一緒に開拓していく活動につなげています。

パーソナル・アシスタント、アドボカシーとコミュニケーション、スキル開発の3つをやると、ご本人がコミュニケーションのスキルを身につけていき、社会につながっていくのも悪くないなというふうに思ってくださいます。あとは芋づる式にといいますか、いろいろな項目につながっていきます(図3)。例えば社会保障、医療、文化・芸術といったところにつなげていくことが可能になります。私たちがやらなくても担い手につなげることができるのです。それに対して私たちは今度医療に行ってきてくださいとか、今度学歴を書いてきてくださいとか、今度制度の申請に行ってきてくださいというのではなく、一つ一つ同行をして社会とご本人との通訳機能を果しています。そうすることでご本人が同じ失敗を繰り返さないようにする応援をしています。これを同行支援というふうに呼んでいます。

(図3)
スライスド4(図3の内容)

司法、政治への参加のところは専門性が高く、信頼できるネットワーク先に直接依頼をしています。ほとんどの青いところ(図3、太線部分)は私たちがお付き合いをして、該当先の支援機関とご本人と私たちの3者、あるいは複数のチームで対応しているのですけれども、例えば司法ということでは、学校でのいじめ問題で悩んでいるお母さんが学校に第三者委員会をいれたいというような高度なことも出てきます。そうした場合はリファーと呼んでいるのですけれども、専門家の所に一番始めに同行し、ご説明を差し上げたら、後は専門領域にお任せするというような形になります。この3つで結構埋ってきたかと思います。

マトリックスを使って発見したこと

私たちがやっているのはこれだけなんですけれども、この3つを丁寧にやることでたくさんの支援機関につながり、後々ご本人自らが社会資源を使えるようになります。これはCBRマトリックスを使って、私が今回発見したことです。ですので、まず一番は個人に寄り添って身近な課題を解決する。本人が一番解決したいと思われていること、かなえたいことにまずは丁寧にそのままストレートに寄り添うことです。次に支援者や地域の方とのコミュニケーションの支援ということで、本人が社会とつながるための効果的な関係性の構築をサポートしていきます。最後は生活、社会的スキルということで、暮らしやコミュニケーションのコツをご本人に伝えていくことで社会とのつながりを自分で維持したり、拡大できるようにしたりというような応援をしています。そして、この3つに丁寧に取り組んでいくと本人を取り囲む社会資源は急速に広がっていきます。私たちはこの広がっていく時の転換期をブレイクポイントと呼んでいるのですけれども、ブレイクポイントを迎えた本人というのは私たちが何も応援しなくてもただ見守ってさえいれば、自らコミュニティを動かしていきます。逆にいえば困り事を抱えた方が地域を動かして、地域の支援者と支援者のつながりをつくってくれたり、地域のつながりを強化してくれたり、社会資源を掘り起こしてくれたりすることにつながることが猫の手バンクの活動を通してわかってきました。

猫の手バンク―Aさんの事例とCBRマトリックス

(図4)
スライスド5(図4の内容)

ではここで、猫の手バンクで取り組んでいる事例を一つご紹介したいと思います。名前はAさんです。私たちとは2年のお付き合いになる40代の女性です。出会った時のCBRマトリックスはこのような形(図4)でした。ご覧になるとわかると思うんですけれども、1つも色が付いていないですね。今日の午前中に自分の人生をマトリックスで図ってみようということで、皆さん印を付けられたかと思いますが、その時に「○」が一つも付かなかった方というのはこの中にいらっしゃいますでしょうか。いないですよね。この方は私たちと出会った当時は40代でしたが、一つも「○」が付かない状態でした。

これは何も印が付いていない方をご紹介したくて持ってきた特別な事例ではありません。草の根ささえあいプロジェクトで初めて出会う方々の多くはCBRマトリックスに何もチェックが付かないような状態です。小学校は不登校、中学校も不登校でほとんど行っておらず、いじめを受け、高校はもちろん行っていません。家族とも絶縁されています。あるいは本当に生活が困窮しているのですが、生活保護等を受けておらず、精神疾患があっても医療につながっていないといった状況でした。

この女性、Aさんは東京でホームレスをしていた時に保護され、草の根ささえあいプロジェクトにご相談がありました。どうやら名古屋に家があるらしいということで私たちのもとにお電話がかかりまして、名古屋で支援をしてくれないかということでご紹介を受けました。一番始めに会った時に、ご自宅はあるというふうにおっしゃるのですけれども、自宅にはどうしても戻れないから東京まで逃げたとおっしゃいます。どうして戻れないかというと、ポストに不動産屋から電気メーターを見に来ますという通知が入っていたんですね。その時に、本人は発達障害か軽度の知的障害をおもちだと思うのですけれども、勘違いをしてしまって家の中を見られると思ったらしいんです。この方は家の中がものすごいごみ屋敷でした。それを見られると追い出される、怒られると怖くなって東京に逃げてホームレスをされていました。

大家族で生まれていらっしゃるのですけれども、もともともって生まれた発達障害傾向やコミュニケーションの出来なさで家族とも大きなトラブルをいくつも繰り返していました。家族とも当然絶縁されていました。お父さんはお母さんに暴力をふるい、娘にも暴言をはくということで、お母さんはそのせいで重い精神疾患を患ってしまい、その精神疾患をこじらせて母親もご本人を罵倒したり、突然パニックに陥ったりする中で育ちました。その方は日本の景気が良かった時は何とか派遣の仕事を食いつないでやってきたのですけれども、それもかなわなくなって生活困窮に陥っていました。

この方とは一番始めにデニーズで会ったのですけれども、その時にあまりにも泣いて自分の今までの恵まれない人生を訴えたり、否定的なことを言われるので、ちょっと元気になってもらいたいなと思い、最後の最後にだめもとでもしあなたの夢があったら教えてくださいというふうに聞いてみたんですね。そうしたら、「私、夢が一つあります」とおっしゃるんです。何ですかと聞いてみたら、架空の夫と娘がいる設定なんですけれども「娘の手を握って、夫に、私もうあなたの面倒を見きれないので実家に帰らせてもらいます」というのが夢だというふうにおっしゃるのです。私は初めそれは冗談かと思いまして笑ってしまったんですね。そうしたらものすごく怒られた。彼女は本気だったんですね。「私には実家に帰らせてもらいますと言える夫や家族はいないし、娘もいないし、ボストンバックも持っていないし、帰るための実家もない」。だから、実家に帰らせてもらいますというのは非常にネガティブなストーリーですけれども、彼女にとってはそれが精一杯の幸せの形だったのです。そんな方でした。

Aさんの変化

この方は先ほどお伝えしたようにごみ屋敷に住んでいました。どれぐらいかというと玄関の戸を開けると一歩も中に入れないのです。入り口が全部ごみで埋ってしまっていました。なので、これはホームレスになるしかないし、人はこうやってホームレスになっていくんだなということを彼女から教わりました。これはちょっと私たちの手に負えないので、保健所に入ってもらい、ごみを一度に持っていってもらいましょうと彼女に提案したのですけれども、絶対に嫌だとおっしゃいます。なぜなのかと聞くと、以前、保健所の方と大げんかをしたことがあり、そしてこのごみの中に唯一大好きだったおじいちゃんのお手紙とメリーちゃんというぬいぐるみがあるからだといいます。

お父さんにDVを受けていたので当然男性は大嫌いなので、女性でお片付け隊を作り、3カ月ぐらいですか、週に1~2回お片付け隊の誰かが訪問し、お手伝いをして差し上げて、お部屋の中を住めるようにしました。女性だけでやっていますので、非常に労力もかかるし、大変なんですけれども、ちょっとずつそれをすることで彼女と仲良くなっていきました。決定的だったのがメリーちゃんもおじいちゃんのお手紙も見つかったんですね。そこから彼女との信頼関係ができるようになりました。

そうすると本人がいろんな要求を私たちにしてくれるようになります。例えば自分はいじめられて育ったんだけど、小学校の時にゴム跳びが流行っていて女の子たちとゴム跳びをするのが夢だったというふうにおっしゃいました。じゃあ私たちとゴム跳びをしましょうということで40代女子でゴム跳び隊を作ってゴム跳びをみんなでしました。CBRマトリックスでいうと、レクリエーション・余暇・スポーツのところに当たります。

交友関係・結婚・家族というところにも、アドボカシーとコミュニケーションをすることでつながったということで色を付けてあります。これは何かというと、お部屋のお片付けをしながら打ち解けていく中で実はお母さんはまだ生きており、精神病院に長年入院しているんだけれども、ずっと怖くて一人では会いに行けなかったので一緒に会いに行ってほしいとおっしゃいました。他県の山奥なんですけれども、車をスタッフが出しましてお母さんに会いに行ってきました。お母さんは認知症が酷くてご本人のことはほとんどわからない状態でしたが、最後にお母さん帰るねと言った時に、最後の最後にふっと正気になられて、私たちのスタッフに「この子は本当になかなかコミュニケーションが取れなくて手間がかかる子かもしれませんけど、これからも友達でいてやってくださいね」とおっしゃってくださったのです。それをスタッフと一緒にご本人も含めて涙を流しながら聞いた訳なんですけれども、それから彼女は急に変わりました。

コミュニティを動かす

コミュニケーションを学んだ結果、私たち以外の他人にも活用できるように、彼女から教えてほしいと言ってくるようになったんですね。例えばけんかをせずに、暮らしに必要な手続きや契約をするにはどうしたらいいのとか、お店の人や学校の先生など偉い役職が付いている人というのは一切間違ったことを言わないと思い込んでいて、相手が少しでも間違うと、けんかをしていたのですけれども、そうではなくてそういう人たちというのも間違うんだねということをご本人がおっしゃったり、コミュニケーションのスキルをどんどん獲得されていきました。そうするともうご本人自らが社会とつながれるようになり、出会った当初はすれ違う人ともけんかをしていてどうしようかと思っていた方なんですけれども、今は週に5回ほど自助グループや地域の活動センターに通って、アート活動をしたり、新しく来たメンバーさんに施設を紹介する役をされています。

まさに彼女自身がコミュニティを動かしている訳なんですけれども、彼女のこれからの夢は所得創出です。安いキッチンスタジオを借りてクッキーを焼いて、それを売ってお金を集めてみたいとおっしゃっています。そのお金はどうするのかとお聞きしたら、DV被害で苦しんでいる方に寄付をしたい、そういう政治団体に寄付をしたいのでクッキーを売りたいというふうにおっしゃっています。はじめは「実家に帰らせてもらいます」というのが夢だった彼女ですが、今はDV被害を受けている同じような境遇の方を応援したいという夢をもつようになりました。というのが猫の手バンクの事例です。

このような事例が本当にたくさんあります。もちろんどれもこれもこのように成功している訳ではなく、この方に関しては2年がかりの試行錯誤でようやく今の関係性に達しました。孤立した方の日々の生活の不安、苦しさ、上手くいかなさを軽減して差し上げること、その間を寄り添って見守ってあげることで、ご本人が自らの力で動き始めるんだなということを学びました。

草の根ささえあいプロジェクトの事例のご紹介をさせていただきました。

のわみ相談所

今からはもう1つ、のわみ相談所さんというホームレス支援団体のご紹介をしたいと思います。のわみ相談所さんは愛知県一宮市にあります。団体の目的は、孤立した方を社会的包摂につなげること、ご本人の力で社会につながる応援を目指していくことです。目的については草の根ささえあいプロジェクトと一緒ですけれどもずいぶんアプローチ方法が違いますのでそのご紹介をさせていただければと思います。お手元の資料の中に、のわみ相談所さんの沿革と組織図(次頁図5)がありますのでそちらも参考にしながらお聞きいただければと思います。

のわみ相談所さんは広義のホームレスを対象とした孤立者の支援をされています。広義のホームレスというのは、住居が全くない方だけではなく、例えば医者の息子で立派な屋敷があっても家庭に居場所がなければホームレスということになります。社会的に孤立して誰も応援をしてくれない方々を一手に引き受けて応援されています。そのために地域に6カ所のシェルターを持っていらっしゃいます。女性シェルター、男性シェルター、両方持っていまして、私たち草の根ささえあいプロジェクトでも緊急の場合はお電話するんですけれども、何の審査もなく、「困ってるならおいで」の一言で泊めてくれます。

この団体の特徴は「衣・食・住」ではなく、人間は「住・食・衣」なんだという考え方です。自助を中心とした寄り添い見守り支援で、ホームレスの方が地域での役立ちや就労につながるように応援をしています。なので、シェルターに入る方というのは大抵生活保護を受給されるのですけれども、このシェルターでは生活保護を受ける方が1.8%しかおらず、残りは就労につながっているのが特徴です。ここで支援された方は必ず支援される側から支援する側へ回るというのもすごく特徴的で、最終的に困り事を抱えた方がコミュニティを動かしています。

(図5)
スライスド6(図5の内容)

組織図(図5)については、相談の入り口は生活保護、ホームレス・生活困窮者支援、DV支援、外国人支援というふうにあります。シェルター運営ということでは、先ほどもお伝えしたように6カ所のシェルターを有し、そこに必ず交流サロンというものを設けて人々が行き交う場所にしています。あとは無料の健診や断酒会や共同墓地などを持っています。右側は炊き出しを中心とした食べること、働くことの応援です。便利屋をやっていまして、元ホームレスの方々に庭の草刈り、大工仕事などをあっせんしています。のわみ相談所さんは儲けるのが下手なので、時給1000円で仕事を請け負うのですけれども、元ホームレスの方に時給1000円をお支払しているので儲けはまるでありません。カフェレストランも経営しています。ほとんど無料で提供されているのでお金をかけずに食事をすることができます。リサイクルショップでは、ショップといっていますが、タダで衣服がおいてあります。ホームレスや生活困窮の方がいらなくなったものを何でも持っていけるようになっています。

(写真2)
スライスド7(写真2の内容)

最近はどこにも雇われなかった方が働ける場として弁当工場を立ち上げられました。こちらは写真(写真2)で少しご紹介します。左上の女性が鈴木さん、その下が三輪さんです。のわみ相談所を運営されている方です。このお二人がスタッフであとは全部自助で行っています。元ホームレスの方や、シェルターに来られた方が運営しているというとても自助の力が強いグループです。右上のちょっと可愛いお部屋が女性シェルターの談話室です。

(写真3)
スライスド8(写真3の内容)

こちらの写真(写真3)は、右上が炊き出しの風景です。月に2回必ず炊き出しを行い、そこをお困り事のある方の相談の入り口にしています。右下が先ほどいいましたリサイクルショップです。何でも持っていっていい所です。その隣はみんなでワイワイと食事をしている風景ですが、これはセカンドハーベスト等を使った食料支援を軸に寄付でまかなっている無料の食堂です。ここを運営しているスタッフも全てボランティアで、地域の方がシフトを組んで365日食堂が回るように運営しているそうです。

(写真4)
スライスド9(写真4の内容)

こちら(写真4)は救生の会といいますが、これがのわみ相談所さんの中核をなしている事業です。月に2回、当事者の方が社会のことを勉強するために集まる会になります。これは8年間、一度も休まずに開催されているそうです。左下に救生の会で黙とうをしているシーンが写っていますけれども、これはアルコール依存で仲間を亡くされた直後の勉強会の冒頭の様子です。この後に、皆さんでアルコール依存の勉強会をされたそうです。

(写真5)
スライスド10(写真5の内容)

便利屋、弁当工場、農業、建築の写真(写真5)を付けさせていただきました。のわみ相談所さんがおっしゃるには、ホームレスの人は一人ではとても弱い存在だけれども、きちんと見守っていけばものすごいスキルと能力をもった方々なんだというふうに言われています。シェルターも全て元ホームレスの方が自分たちで建築をされました。

(写真6)
スライスド11(写真6の内容)

これ(写真6)は大型スーパーのイオンで実施されているイエローレシートというものです。お買い物レシートを自分の気に入った地元のNPO団体に投票すると、それが寄付金になるという制度です。のわみ相談所さんは一宮地域で毎年1位か2位をとっています。「のわミー」というゆるキャラを派遣しているせいもあるのかもしれないですけれども、地域でホームレスの支援団体というのは大抵嫌われますが、そこで1位をとるというのはすごく大変なことですし、珍しいことだと思います。

(写真7)
スライスド12(写真7の内容)

共同墓地(写真7)は最近出来上がったそうです。人は死後の安心を得られないと本当に日々安心して暮らせないという理念をもとに、全部寄付でまかない、墓地を建設されています。

のわみ相談所とCBRマトリックス

少し時間が押してしまっているのですけれども、のわみ相談所さんをCBRマトリックスにおとしてみました(図6)。先ほどの草の根ささえあいプロジェクトの活動との違いを探しながら聞いていただければと思います。

(図6)
スライスド13(図6の内容)

草の根ささえあいプロジェクトでは上の3つが埋ったかと思うんですけれども、のわみ相談所さんが間違いなく埋るのは生涯学習と社会保障のところです。社会保障は、シェルター、レストラン、炊

き出し、リサイクルショップなどで、まずは生活のリスクを取り除き、安心した暮らしをしていただくことを基本としています。それだけでは終わらずに、仲間と自助の中で学んでいくということで、生涯学習をされています。これが活動のベースになっています。人が集う場所、コミュニティをもっていらっしゃって、そこで困っている方を応援するというスタイルです。

社会保障と生涯学習を丁寧に進めていくと、生涯学習の中では芸術を鑑賞したり、レクリエーションをしたり、社会保障で安心したら今の困り事を一緒に解決しようということで、司法に相談をしたり、パーソナル・アシスタントということで丁寧に解決のお手伝いをしていきます。その間、働く意欲を失ってシェルターにタダで寝泊まりしてご飯を食べているだけという方もいらっしゃいます。それでものわみ相談所さんは一切彼らを非難しないというのがポリシーだそうです。

生涯学習で定期的に通える場所を開設しつつ、社会保障でご本人の安心した暮らしを支え見守り続ければ、必ずスキル開発、所得創出、賃金雇用といった社会の役立ちにつながっていくといいます。1年待って駄目な人は1年半待ちます。1年半待っても駄目だったらどうしますかと聞いたら、2年待ちますというふうにおっしゃっていました。その間、シェルターはふさがってしまいますが、そのことで怒る人は誰一人いません。卒業生の皆さんもここに巻き込みながら、徹底した見守りの中で本人の役立ちや自立に向かって励まし続けています。

コミュニティが動く

そうしていくと、先ほどのイエローレシートもありましたけれど、地域の方々が支援団体を応援し始めます。ホームレスの方々が「元ホームレスです」といって便利屋として地域で活動をされるので、皆さん放っておけなくなるんですね。確実にコミュニティが動いています。のわみ相談所さんの周りの人たちというのは常に何か食べ物を持ってきたり、困り事はないか聞きにきたりというふうに、地域自体がホームレスの方を中心に活性化し、社会資源がどんどん豊富になっていく様子が年々うかがわれます。その中で共同墓地というものをもちました。これは先ほどもお伝えしたように、死後の安心がなければ人は本当の安心を得られない。本当の安心を得られないということは真の暮らしに向かうことができないというポリシーのもとに、寄付金を集めて共同墓地を建設しました。「共同墓地に入ります」というふうに手を挙げた方々は生涯学習に参加する率が上がるそうです。卒業生として困っている方の相談にのったり、建築や農業のボランティアをしたりするなど、自分を使って人に役立たせるという行為というのは墓地に登録した人はてき面に上がるそうです。

ホームレスに陥る方というのは発達障害や知的障害の方が多いと聞いているんですけれども、そういう方々というのはそもそも将来のこと、自分のより良い暮らしというものをイメージできません。暗がりの中にいらっしゃるんだと思うんですけれども、その暗がりに明かりを灯すために勉強するんだそうです。例えば自分がホームレスになってしまった理由が社会的背景や自分の特性や経済状況のせいであって、自分が怠けていたからではないということを知ることで、今まで否定し続けてきた自分を少しずつ受け止められるようになってきます。

そうするとご本人というのはどんどん生涯学習の場で発言をされるようになるそうです。参加の率も上がります。学び続けることによって本人の自尊心が養われ、主体性がさらに喚起されます。共同墓地も生涯学習のほうも効果として発揮しているのは、支援される側から支援する側に本人が劇的に変化していくということです。草の根ささえあいプロジェクトも、のわみ相談所さんもそうなんですけれども、生まれ持った困難さの中にあってもその人なりの小さな一歩をあきらめずにいられる場所を作っていきたいなというふうに思っています。その姿を常に見てくれる人がいる、見守ってくれる人がいる社会がいいなと思って活動しています。

ガンジーの言葉

先ほどのアルビナさんの発表の中にガンジーの言葉がありましたが、私が一番好きなガンジーの言葉は「あなたが見たいと思う未来の姿にあなた自身がなりなさい」です。のわみ相談所さんも、私たちもどんな困難さの中にあってもその人が小さな一歩をいつでもやり直すことができる。それを誰かが頑張ってるねと言いながら見守っていてくれる。誰も孤立しなくていい社会にしたいと思っています。そのために、私たち草の根ささえあいプロジェクト自身がまずそうあるべきだと思っています。私たちはのわみ相談所さんのような大きな社会的アクションというのはまだ起こしていないのですけれども、今後、コミュニティというのが暖かな見守りのある社会になるよう試行錯誤しながら活動していきたいと思います。

つたないご報告でしたけれども、ご清聴どうもありがとうございました。

今西 渡辺さん、どうもありがとうございました。日本の事例で、CBRマトリックスの非常に面白い使い方があるんだなと思いました。

◆渡辺さんへの質問タイム

今西 それでは質問を受け付けたいと思いますが、質問のある方はおられますでしょうか。

会場の参加者 日本CBRネットワークの渡邊です。貴重なお話をありがとうございました。名古屋には、社会資源が多くあるのかどうかはよくわかりませんが、自分たちの団体が直接支援できるとは限りません。マトリックスで見ると数がかなり多く増えています。地域にある社会資源の見出し方、作り方、あるいは育て方について何かよい方法がありましたらお聞かせいただきたいのですが。

渡辺 ありがとうございます。名古屋は幸いにも社会資源は多い所だと思います。ただその中で、草の根ささえあいプロジェクトにいらっしゃるような制度と制度の狭間にいる方、例えば軽い知的障害で手帳申請ができないとか、65歳に至ってなくて高齢者福祉サービスを受けられないという方々のサービスが充足しているかというと、やはりそれはないのが現状です。お一人お一人のニーズに合わせて、今は社会資源に見えないようなものも社会資源化してしまうというソーシャルワークの力量が求められているというふうに思っています。

私たちは草の根ささえあいプロジェクトのメンバーの中で人伝に、例えば「囲碁の相手になってくれる人いない?」、「お掃除隊を結成するんだけど一緒にやってくれる人いない?」、「生活保護の申請のできる人ついてきてくれない?」ということを尋ねながら行っています。自分たちのメンバー内のソーシャルワークはできているのですけれども、それをその方のお住まいの地域の方々に委譲していくところがまだ下手くそで、先ほどのアルビナさんのお話しだとそこがすごくダイナミックに巻き込めていたり、のわみ相談所さんでは地域の中で放っておいても人が社会資源になっていくというプロセスがあると思うんですけれども、そこがまだすごく苦手です。これからの課題だと思っています。

徹底してご本人を中心として、その方々の問題解決を何とか手伝ってほしいというふうに頭を下げるといろんな支援機関や、いろんな地域の人々や、心ある人というのは意外と手伝ってくれるものだなというのが最近の発見で、今のところ頭下げ作戦で人を巻き込んでいます。

会場の参加者 どうもありがとうございました。

今西 他にご質問のある方はおられますか。よろしいですか。ワークショップの最中に渡辺さんも回ってくださったりしますので折に触れてご質問いただけたらと思います。それではこのセッションの最後に、アルビナさんから渡辺さんの発表に対してコメントをいただけたらと思いますので、よろしくお願いいたします。

アルビナ 素晴らしいプレゼンテーションをありがとうございました。CBRマトリックスがさらに拡大しているのを目の当たりにしました。といいますのは、発表の最後のところのスピリチュアルなものが加わって、死後の不安が無くなることでさらにエンパワメントが高まるといった考えは、私にとっては新しい発見でした。マトリックスがさらに前進したように思えます。初めて聞くことでしたので本当に興味深く聞かせていただきました。

このようにCBRマトリックスが活用されることは本当に嬉しく思います。CBRマトリックスを最初に開発し始めた頃というのは、障害者の障害の観点から考えて開発してきました。けれども、今の発表を聞いて障害者に限らず人間全体に対して使えるものであると思いました。最初は社会、エンパワメントからはじめ、そして、生計、生涯学習、社会保障と、これは全ての年代の人たち、特に高齢者にも適応されるものなのだということを私も学びましたので、今日学んだことをぜひ持ち帰りたいと思います。

CBRはCommunity Based Rehabilitationという言葉が示すように基本的には障害セクターのことから始まりました。けれども、今はCBID、Community Based Inclusive Development(コミュニティにおけるインクルーシブな開発) という方向に進んでいます。インクルーシブな社会、安全な社会ということは同じことだと思いますし、コミュニティや安全性について話すとき、支援される側から支援する側への変化についても考えさせられます。こうして発表にありましたようにマトリックスに落とし込んだのを見ますと、障害を越えたさらなる向こうの開発および人間全体の有り方を問うものであると感じました。ありがとうございました。

今西 アルビナさん、ありがとうございました。それでは渡辺さんのプレゼンテーションセッションを終わりたいと思います。