音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「アジア太平洋障害者の十年」最終年記念フォーラム 大阪フォーラム報告書

10月23日 特別分科会 ケーススタディ
-地域に根ざしたリハビリテーションにおける医学的リハビリテーションの考え方-

Handojo Tjandrakusuma (MD) (ハンドヨ・チャンドラクスマ)
(地域に根ざしたリハビリテーション(CBR)開発・研修センター インドネシア)

 地域に根ざしたリハビリテーション(CBR)は、障害をもつ人々の問題を解決するための有効なアプローチとしてよく知られている。アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)は、アジア太平洋障害者の十年(1992~2003)のための行動課題として、障害のある人々のQOL(生活の質)向上を目的とする地域に根ざしたリハビリテーションを推奨している。
CBRの考え方では、「リハビリテーション」という言葉それ自体を、通常より広く解釈する必要がある。従来この言葉は、障害のある人に対する専門家によるサービスを指すものと考えられてきた。しかし、CBRの考え方では、障害者の問題を総合的に扱うCBRの活動全体を意味しており、障害者の問題とは以下の図で説明される。

障害者の問題説明図

 ポリオ予防接種など特定の障害原因を予防するための処置では、専門家の果たす役割が大きい。しかし、ポリオ免疫キャンペーンの組織的な活動を成功させるためには、地域の参加が必要となる。家庭内や仕事場で起きる事故、交通事故などの予防には、家族や地域社会が中心的な役割を果たす。これらが、障害原因の一般的な予防活動の一端である。このような場合、専門家の役割は情報を提供し、必要に応じて専門的なアドバイスを行うことである。
障害のある人の個々のQOLを向上させるためには、特定の個人に合わせた専門家によるサービスが必要である。これが、リハビリテーションサービスと呼ばれるものである。具体的には、医療に関するものであれば医学的リハビリテーション、職業訓練に関するものであれば職業リハビリテーション、教育に関するものであれば特殊教育などである。しかし、「障害のある人々」のQOL向上にとって医学的リハビリテーションの果たす役割は非常に限られている。その一つの理由は、医学的リハビリテーションに多くの専門技術が必要となるためである。医療技術を要するリハビリテーションを指導することは容易ではない。多くの時間、費用および人材が必要となる。また、専門的なリハビリテーションサービスが十分に活用されるためには、地域のサポートが不可欠である。
障害のある人々のQOL向上が成功するケースでは、その家族を含めた地域の人々が大きな役割を果たしていることがわかっている。地域が障害のある人々を受け入れ、日常生活において積極的に関わっていくことができれば、障害のある人々のQOLは必ず向上する。
また、医学的、社会経済的側面および政策面においても、障害のある人々の必要や地域の住みやすさなどに配慮がなされなくてはならない。
CBRプログラムでは、障害原因の予防および障害のある人々のQOL向上活動を行う場合に、地域の果たす役割の質や効果を高めるとともに、地域活動の占める割合を大きくすることを目標としている。
以下に具体例を挙げ、CBRプログラムが障害原因予防およびリハビリテーションの分野における集中的な地域発展プログラムであると考えられていること、また、このプログラムを実施することにより地域の人々は障害のある人々の問題に対する理解を深め、障害のある人々に積極的に関わるようになり、これにより障害のある人々のQOL向上が実現されることを説明する。さらに、障害のある人の問題に対応するため、その必要とするものを理解しこれに答えていけるよう、CBRプログラムがどのように地域に働きかけたかを明らかにする。
1996年、CBRは6名のCBRワーカーを対象に1年間の訓練を実施した(休止期間あり)。この訓練の中心となったのは、医学的リハビリテーションである。現在、この6名のうち1名が、知識を習得し実践している。彼は村に戻り、障害のある人の早期発見を積極的に行なって簡単な理学療法を実施するだけでなく、その知識と技術を活用して、障害のある人を正しい手続きで医療リハビリテーションセンターに紹介し、地域に貢献している。

この全般的な経緯は、症例報告に関してはすでに報告が挙がっている。

ある村の障害者の状況と必要な医療

村のプロフィール

 村の名前:インドネシア、中部ジャワ州、Ngalas村
人 口:2903名
最も近い保健センターまでの距離:3km
最も近い地域病院までの距離:3km
農業を基本産業とする村
村の教育レベル:高等学校未就学86%、高等学校卒業12%、高等学校以上2%

CBRワーカーのプロフィール

 氏 名:Achir Slameto
年 齢:35歳
性 別:男
配偶者:有
職 業:農業

訓練内容

  1. 高等学校卒業
    1. 通常のCBRプログラムの実施(2週間)
    2. 5歳未満の幼児を対象とする障害の早期発見および早期介入のための訓練(1週間)
    3. 脳血管障害に対する理学療法のためのワークショップ(1日)
    4. 地域参加促進のための中部ジャワ州CBR指導者ワークショップ(3日)
    5. 小児理学療法のためのワークショップ(1週間)
    6. 身体的障害のある人を対象とする理学療法実地訓練(2ヵ月)
  2. 訓練および上級コース修得

このCBRワーカーに紹介された医学的リハビリテーション受診者リスト

  1. 脳卒中   7例
  2. 脳性麻痺  13例
  3. 発達遅延   6例
  4. 口唇裂   6例
  5. 内反足   6例
  6. ヘルニア   3例
  7. 肢切断   1例
  8. 対麻痺   2例
  9. 顔面麻痺   1例

計  45例

考察

  1. 1995年10月~2002年4月の間に、このCBRワーカーに紹介された医学的治療を要する患者は、計45例であった。
  2. 患者の80%は、CBRプログラムが実施されているNgalas村より紹介された患者であった。また、残り(20%)もその近郊の村から来ていた。
    1. 障害のある人に関する情報の収集
    2. 当該地域または地域外の障害者団体から来た障害のある人が必要とする治療の組織的サポート(義肢、補装具、車椅子、外科手術費用などの出資者募集など)
    3. 医療施設への患者の紹介
    4. 簡単な運動療法の実施
    5. 退院後の医学的フォロー
    6. 簡単なリハビリテーション補助器具の提供(三脚台、平行棒、歩行補助器、コーナーシートなど)
    7. 家庭内で車椅子を使用する場合のアドバイス
  3. CBRワーカーによる援助の種類

 医学的技術を伝えることは容易ではない。このことは、医学的リハビリテーション活動が、患者を医療リハビリテーションセンターに紹介することに終始している原因のひとつになっている。これは、われわれの望む形ではない。各村落のCBRワーカーを訓練することでCBRが実践され、その地域共同体では(ボランティア、非ボランティアともに)CBRプログラムの発展と実践に責任をもつというというのが、現実としての目標である。

 この訓練モデルは、各村落で実施可能な医学的リハビリテーションに関して、CBRワーカーが専門家に近い仕事を行うための訓練モデルのひとつになると思われる。

結論

 CBRワーカーが医学的リハビリテーション技術を効率的に習得するためのモジュールまたはカリキュラムをみつけるためには、CBRワーカーのための医学的リハビリテーションの視点から、さらに研究を進め、考え方を確立することが必須である。


10月23日 特別分科会
慢性疼痛症候群:障害、管理プログラム、効果研究

Martin Grabois(マーティン・グラボイス)
(RI医学委員会委員長)

要旨

 本プレゼンテーションでは慢性疼痛症候群について説明する。慢性疼痛症候群とは、主な心理社会的問題および労働問題に関連した慢性の痛みである。特に、収入の喪失、失業、生活の質や活動能力の低下などからくる慢性疼痛に関連した高度な障害について説明する。慢性疼痛症候群の治療に効果的な管理プログラム、特に学際的な疼痛管理プログラムについて、プログラムの基準、必要とされるスタッフや設備、評価プロセス、治療プロセスの点から説明する。治療プロセスでは特に、医療管理、疼痛緩和治療、適切な運動・活動プログラム、心理社会面と就労面の調整について強調する。文献等により、学際的な疼痛管理プログラムがコストパフォーマンスおよび効果にすぐれていることが実証されている。従来の治療方法に比べ、学際的な疼痛管理プログラムは、外科的治療や薬品使用の減少、労働復帰の増加や低コスト化を実現している。

序章

 慢性疼痛は管理するのが難しく、患者は好ましくない者として見なされることが多い。しかし、物療医学およびリハビリテーション分野に従事しているわれわれは、そのような患者と接する機会が多い。そのような患者に奨めている治療方法は、総合的かつ学際的な治療方法である。障害をしっかり理解することにより適切な治療を施すことができ、効果研究により治療方法の効果を証明することができる。

定義

 本プレゼンテーションでは、以下の通りに定義する。病理は解剖・生理的な異常である。例えば、腰椎椎間板ヘルニアには、解剖学的または生理学的な異常や損失などの障害がともなう。これらの障害は客観的なものであり、臨床評価や検査により医学的に判定することができる。例えば、筋痙縮などがそうである。その人にとって正常とされる範囲内の活動または機能が障害によって制限される。例えば、椎間板ヘルニアにより20ポンド以上は持ち上げられないといったことがある。多くの制度はこれを障害と捉えている。障害とは、医学的に判定可能な身体または精神的な障害、死に至る障害、12ヵ月以上継続したまたは継続すると思われる障害により、十分に労働活動に従事できないことである。この用語は手当給付の判定基準に用いられるため、明確でない部分も多く、障害による身体的な制限以上の要因が生じてくる。

疼痛と障害の相互関係

 研究および臨床実験から、疼痛や組織傷害と機能障害の程度との間に明確な関係がないことが証明されている。社会保障制度では、疼痛による傷害で給付を受ける場合には、十分な身体的な証拠または疼痛のパターンや活動の制限を提示する必要がある。その際には、疼痛の分類や適格証明方法および疼痛の測定方法などが問題となる。Milhousらは、労働活動能力および腰痛患者の傷害の評価には身体的な能力以外の要因も考慮する必要があると述べ、人口統計、労働、心理的な要因を挙げている。

傷害の発生とコスト

 Wayne Evansは、米国において疼痛が流行しており、さらに拡大していると述べている。米国民の間で、疼痛が障害要因として増加している。Nuperin Reportは、米国における疼痛の再発性および持続性の広がりを報告している。それによると、(1)人口の27%が年に101日以上疼痛を患い、就業できず損失を被っており、就業できなかった日数、生産性の低下、労働者手当、保険費用など年に700億ドルを支出している。
SnookおよびWebsterによると、米国成人の16.5%が障害を抱えており、その半分が就業できない状態にある。その障害の大半が筋骨格障害によるものである。筋骨格障害は通院理由の第二位、入院の第三位、外科治療の第三位を占めている。すべての筋骨格障害を合わせた、米国における総経済費用は年に650億ドル以上に上り、275億ドルがケガによるもので、合計で年に約400億ドルに上る。保険に加入していない者や保険がすべての障害をカバーしていない場合もあるため、この数字はほんの一部の費用に過ぎない。
他の慢性的な障害に比べ、腰の障害が急増している。社会保障制度における障害給付額は年に約168億ドル、労働者給付は年に161億ドル、個人保険給付は年に52億ドルに上る。
WalshおよびDimitruによると、米国の障害給付制度は特定の種類の障害頻度を増やす仕組みになっている。さらに、給付を受けている腰痛患者と受けていない腰痛患者の間の心理的な違いを示す証拠はあまりないが、給付が回復を遅らせている。個人保険の場合、障害の定義は、適切な教育、訓練および経験がありながらその責務を遂行できない者、または他の職務には従事可能であるが自分の職責を果たせない者となっている。病状が検知されにくい、またはされない疼痛だけでは給付を受けるのは難しい。支給額はそれぞれ異なり、あらかじめ決められた待機期間を経て、一定の期間内にあらかじめ決められた額が支給される。対象者は症状に関する書類の提出を求められ、あらかじめ決められる。個々に内科的および物理医学的評価を求められる。

管理のコンセプト

 Swansonとその同僚達は、疼痛が慢性化すると複雑化が増し、治療に対して抵抗が付いてしまうと述べている。医療モデルにおける一連の通院、入院方法を続けても通常の慢性疼痛患者には効果がないというのが、一般的な見解である。
慢性疼痛症候群は医学と心理社会学的側面を持った複合的な問題であるため、評価および治療に対して総合的かつ学際的なアプローチが必要である。患者が医学的および心理学的範囲内で最高の機能目標を達成できそうな場合、医師はアルコール中毒、発作、脊随損傷などと同様に慢性疼痛症候群を真剣に考慮する必要がある。治療効果を最大限に高めるため、疼痛管理プログラムでは総合的かつ学際的なアプローチにより、慢性疼痛患者を評価、治療する。
物療医学やリハビリテーションなどの慢性疼痛管理プログラムは、第二次大戦中に開発された比較的新しいものである。Alexanderにより開発され、Bonicaが普及させたこれらのプログラムの数は近年倍増し、現在では数千を数える。
最近では「マネジドケア」が登場し、学際的な慢性疼痛プログラムで慢性疼痛患者の評価および治療を行うという考え方がさらに受け入れられにくくなっている。これに対する対策が必要である。最近の米国疼痛協会(American Pain Society)会議で、「マネジドケア」推進者は、一般国民が慢性疼痛患者をよりよく理解し、ペインクリニックによる慢性疼痛患者の評価および治療を受け入れるために役立ちそうなコンセプトを説明した。低価格、高顧客満足度、好結果、知名度、利便性、評価や治療の手引きやクリニカルパスの開発が重要なポイントとなる。利用状況のレビュープログラムを設けることにより、コストを管理しながら、患者に対して好結果を上げることができる。患者のためのアクセス/紹介機能を備えた、垂直統合されたヘルスケアネットワークは学際的なペインクリニックの維持に大いに役立つ。
米国において、疼痛管理はヘルスケアサービス提供の重要な問題となっている。認可団体(例、ヘルスケア団体認定共同委員会(the Joint Commission on Accreditation of Health Care Organizations)および医師は、オピオイドの合法的使用と副作用、流用、乱用による制約を規定したガイドラインが必要であると考えている。一般的に用いられる治療方法であるにもかかわらず、疼痛は誤って管理されることもある。オピオイドの医療使用に関する一般的通念には全く根拠がなく、その神話はほとんど払拭されてもいない。疼痛管理の必要性に対する意識の高まりを受け、規制内容が変更され始めている。
ペインクリニックは総合的かつ学際的で、様々な治療技術を提供できるのが理想的である。しかし、ペインクリニックには複数の種類がある。国際疼痛学会(International Association for the Study of Pain)では、物理療法、疾病、学際方式の3種類に分類している。
一般的なペインクリニックの組織では、ディレクタが全体を統括し、コーディネータが日常の管理を行う。患者のケースマネージャは担当医師の場合もある。医療チームが定期的に患者を評価、目標を設定、患者を治療、治療結果を評価する。チームは通常、医師、心理学者、理学療法士、職業カウンセラー、作業療法士、社会サービスカウンセラー、薬剤師、栄養士、看護士で構成される。その他に、医療の準専門家が通常、コンサルテーションベースで対応可能で、さらに定期チームミーティングに参加し、評価、治療、進捗状況の監視対象となる患者を選考する。
医師はチームのリーダーとして、プログラムをコーディネートし、全般的な医療管理を行う。心理社会/職業チームは心理学者、ソーシャルワーカー、職業カウンセラーで構成され、慢性疼痛による行動パターンの変化の評価や治療および適切な就労アドバイスを主に行う。セラピーチームは通常、看護士、薬剤師、栄養士、理学療法士、作業療法士で構成される。チームは、投薬レベルを管理し、痛みを緩和させ、患者による活動を活性化させるための日常のセラピーを行う。
患者の紹介は通常、医療面および非医療面の双方からなされる。医療履歴書が提供され、患者は疼痛に関する質問用紙に回答する。最も適している患者は、プログラムに参加する意志を持ち、改善を妨げるその他の二次的利得がなく、プログラムの目標を理解し、受け入れることができる慢性疼痛患者である。

治療の目標

 慢性疼痛症候群の原因を医療と心理社会面の両面から判断し、疼痛の出所を突き止める。疼痛のもとを緩和または除去することが重要であり、真っ先に実施されるべきである。続いてその他の治療方法を検討する。
学際的なプログラムの治療目標は、疼痛の緩和、機能の向上、ヘルスケアの利用を減少させることである。疼痛の医薬治療や疼痛行動パターンの変更、メディケア依存の減少、運動による活動の活性化により、これらの目標を達成していく。
慢性疼痛症候群の患者の治療には、行動の変化に関するFordyceモデルが役に立つ。この患者の目標は疼痛を治療することではなく、健全な行動パターンを励行し、患者に対する適切な目標を設定することにより、疼痛行動パターンの悪化サイクルを断ち切ることにある。目標として、薬品使用の低下、疼痛反応の調節、運動の増加、疼痛行動パターンの低下などがある。

結果

 臨床判断は、現在の治療の論理付けとしては大変役立っているが、効果の科学的裏付けとはならない。しかし、慢性疼痛症候群に関する既存の文献の多くが過去の記録、調査、記事のレビューで構成されている。多くの実験および模擬実験が報告されているが、多くの場合は統制グループや不等統制グループが少ないこと、統計分析の不徹底、内外的な有効性に対するその他の制約より、それら文献からの推論は信憑性に欠ける。
慢性疼痛症候群の評価および治療、そして学際的な疼痛治療センターの効果に関して、複数の一般およびメタ分析レビュー記事が発行されている。Florらは学際的な疼痛治療センターの効果に関するレポートのメタ分析を実施した結果、65から300の研究レポートが分析に適したレポートであることが分かった。それらレポートの多くが学際的な疼痛治療センターの価値を認めている。分析担当者はさらに、ペインクリニックによる治療効果には持続性があることも指摘している。疼痛の主観的評価と(労働復帰の増加やヘルスケア制度依存度の低下等)客観的な測定の両者で改善が報告されている。立案された研究の品質と研究の実施方法に関する記述には誤差がある場合もあるため、結果を慎重に解釈する必要があると分析担当者は述べている。研究の立案とレポート方法については今後も改善していく必要がある。
Culterらは、レビューおよびメタ分析の中で、疼痛治療センターによる外科以外の治療を受けた患者の労働復帰について調査した。レビューを行つた171の研究の内、7つが分析の選択基準を満たしていた。方法論的な問題があるにもかかわらず、プログラムに参加した患者に顕著な効果があるという結果となった。結果は、(1)外科以外の治療を受けた慢性疼痛患者の労働復帰が増加している、(2)労働復帰が多くなったのは治療方法に起因している、(3)治療の効果は一時的なものではない、ことを示している。
このような肯定的な結果にもかかわらず、Turkは、特に一般国民の間でペインクリニックについて疑問が付きまとうと述べている。各種データの結果集約を簡単に否定すべきではないが、学際的な疼痛治療センターによる治療結果に関する完全な研究は未だ皆無である。
Turkは選択した研究をまとめて、学際的な疼痛治療センターの効果に関する以下の結果を報告した。(1)一般の学際的な疼痛治療センターで治療を受けた患者は、外科的治療を受けた患者と同様に、16%から60%ほど疼痛が緩和している。疼痛の緩和は治療後5年間ほど有効である。(2)学際的な疼痛治療センターで治療を受けた患者の65%以上がオピオイドの使用を中止し、プログラム終了後1年経過しても投薬治療を行っていない。一方、学際的な疼痛治療センターで治療を受けていない患者の場合、治療終了後1年経過して投薬が減っているのは6%に過ぎない。(3)学際的な疼痛治療センターで治療を受けた患者の平均65%が治療後に活動が活発化している。一方、学際的な疼痛治療センターで治療を受けていない患者の場合は35%に過ぎない。(4)学際的な疼痛治療センターで治療を受けた患者の平均労働復帰率は67%である。一方、学際的な疼痛治療センターで治療を受けていない患者の場合、24%に過ぎない。学際的な疼痛治療センターでの治療後に労働復帰した患者数は、治療前に労働復帰した患者数よりも約43%多い。(5)学際的な疼痛治療センターで治療を受けた患者は、学際的な疼痛治療センターで治療を受けていない患者に比べて、3倍から6倍の割合で治療後に入院する可能性が低く、外科的治療も大幅に少ない。(6)障害に関する請求の終了件数の調査でも、学際的な疼痛治療センターで治療を受けた後3ヵ月以内に64%から89%のケースが終了している。一方、外科的治療後の終了件数は、39%である。(7)最高86%の未解決訴訟が学際的な疼痛治療センターで治療を受けた後に解決している。
Stiegらがコロラド州労働省と共同で実施した調査から、学際的な疼痛治療プログラムの治療を受けた患者の場合、医療費および障害コストを節約できることがわかった。これらの患者のほとんどは治療開始時に治癒不可能な障害者とみなされていた。今後のコスト節約効果が証明された。
Simmonsらは、(a)2年間に渡って3ヵ月毎に測定した労働復帰数、(b)治療終了後の投薬依存度の(最初の基準値からの)低下、(c)疼痛治療センターでの治療前の1年間のコストと比較した、メディケア利用の減少、(d)リハビリテーショントレーナーなどの装置で治療終了後に等速測定した機能の上昇(治療開始時の記録を基準として比較した)、(e)職業訓練校への復帰数など、コストパフォーマンスに関する実用的な測定方法について述べている。
慢性疼痛治療結果の測定には、薬品の使用状況、歩行距離、体力、柔軟性、座っていることができる時間、疼痛行動パターン、就労、ヘルスケア制度の利用状況などがある。米国医学疼痛学会(American Academy of Pain Medicine)では、疼痛治療プログラムによる治療結果を実証するために、digimed. comというオンラインの結果計算プログラムを開発した。他のプログラムとの比較を行う際には、各プログラムの参加している患者の種類、治療の種類、改善を測定するための基準、フォローアップ時間を評価することが大切である。理想的な疼痛リハビリテーション対象者の成功率は80から90%である。しかし、心理社会的問題と二次的利得の発生が増えると、この成功率は40から50%に低下する。精神医学的問題や二次的利得が増大すると、成功率はさらに20%以下に低下する。


10月23日 特別分科会
合併症を有する糖尿病のリハビリテーション

佐藤 徳太郎
国立身体障害者リハビリテーションセンター総長

はじめに

 糖尿病発症頻度が上昇し、我が国では40歳以上の人口の約10%が糖尿病である。糖尿病のリハビリテーションの目標は個々のケースに適切な治療を行い、できるだけ合併症のない健康な状態を維持するとともに、活動制限(activity limitation) および 参加制約(participation restriction)を最小限にするための支援・調整を行うことである。
本稿では、合併症予防のための科学的根拠に基づいた糖尿病医療(evidence-based medicine:EBM)について、日本糖尿病学会による「糖尿病診療ガイドライン」を中心に概説するとともに、糖尿病発症や合併症発症等をICFの視点から組み立てることを試みる。

1.EBMと「糖尿病診療ガイドライン」

 これまで、診療上重要な多くの科学的根拠(evidence)が報告されてきており、各専門分野において、それらを整理することによってガイドラインが提示されている。糖尿病に関してもCanadian Diabetes Association (1998), American Diabetes Association (1999) 日本糖尿病学会(2002)等が「糖尿病診療ガイドライン」を作成した。日本糖尿病学会による「糖尿病診療ガイドライン」は厚生省医療技術評価総合研究事業の報告書に、平成13年の重要文献を補遺して平成14年2月に報告された。

2.糖尿病治療の指針

 糖尿病はインスリン作用の不足による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝障害であり、成因の面から分類されている。我が国の糖尿病の大部分は2型であり、1型は5%程度である。糖尿病治療の指針に関する科学的根拠の多くは、1型、2型それぞれについて提示されている。

1)血糖コントロール基準
多くの1型糖尿病に見られるインスリン依存状態では、ただちにインスリン治療を開始する。2型糖尿病では多くの場合食事療法と運動療法を2~3月程度続け薬剤治療の要否を決定する。
インスリン頻回注射による厳格な血糖コントロールが1型糖尿病における合併症の発症と進展を阻止しうることがUDDPによって証明された。2型糖尿病を経口血糖降下剤やインスリンなどによって治療した場合にも同様に合併症の発症・進展に効果のあることがUK Prospective Diabetes Study GroupやKumamoto Studyによって示された。このような根拠を基に糖尿病治療における血糖コントロール評価が示されている(表1)。症例によって血糖コントロールの目標値を定めるべきではあるが、一般には「優」(excellent)ないし「良」(good)とすべきである。血糖コントロールの目標はできるだけ正常値に近づけることであるが、薬剤使用例では低血糖を起こさないことも重要である。

表1 血糖コントロールの評価

  excellent good fair poor
HbA1c(%) <5.8 5.8≦ <6.5 6.5≦ <8.0 ≦8.0
Fasting Blood glucose (mg/dl) <100 100≦ <120 120≦ <140 ≦140
2 hours postprandial(mg/dl) <120 120≦ <170 170≦ <200 ≦200

 富永ら(1999)による舟形研究においてIGTも心血管合併症の危険因子であることを報告しているが、実際には上記のレベルでのコントロールでも満足すべきものではなく、さらにIGTのレベル以下にコントロールできれば理想的である。

2)血圧コントロール基準
糖尿病にしばしば高血圧を合併するが、両者は独立した心血管系疾患の危険因子である。
日本高血圧学会のガイドラインでは糖尿病があり、血圧が140/90mmHg以上であれば降圧剤による治療を開始するとし、目標血圧を130/85mmHg未満としている。

3)血清脂質コントロール基準
糖尿病には高中性脂肪血症や高コレステロール血症を合併することも多く、冠危険因子の相対リスクが2-4倍高くなる。心血管障害の予防には合併する高脂血症の治療も重要であり、薬剤による介入試験の効果も示された。その目標値は表2のように示されている。

表2 糖尿病に合併した高脂血症のコントロール基準

LDLコレステロール 100mg/dl以下

TC

180mg/dl以下

HDL

40mg/dl以上

TG

150mg/dl以下

4)体重のコントロール基準
体重減少によってIGTから糖尿病に進行を予防に有効である。さらに、body mass index(BMI)が25を越えると肥満に伴う健康障害が合併しやすく、BMI25以上を肥満と診断する。糖尿病に肥満を合併した場合には、肥満の是正を行うべきであり、我が国の研究ではBMI22で最も疾病が少ないと報告されていることから、 体重の目標をbody mass index(BMI)22とする。
最近の報告で、Danielらが、オーストラリア先住民2,626例をBMI別に22未満、22~24.9、25~29.9、30~34.9、35以上の5群に分けて比較したところ、BMIの上昇とともにIGTおよび糖尿病の発症率は上昇し、BMI22以上群はIGT発症リスクが BMI22未満群の3倍、糖尿病発症リスクは4倍であった。この結果からすると、BMIが22未満に維持すればIGT症例の34%、糖尿病の46%を予防できることとなる。先に述べた舟形研究の結果を考慮するとBMI22未満を目標とする体重のコントロールはたとえ軽症例においても極めて重要である。

5)糖尿病治療法
糖尿病治療においては、自己管理法に関する患者教育が有効であり、具体的治療内容について十分な教育を行うことが重要である。糖尿病患者の治療の基本は、食事療法と運動療法にあり、2~4か月で十分な効果が得られない場合に薬物療法を併用する。肥満糖尿病では、インスリンやスルホニア尿素剤の投与により体重が増加することが多いので、肥満糖尿病では特に注意が必要であり、同時に低血糖予防に対する配慮も重要である。
我が国ではその際に使用できる糖尿病のための食品交換表が作成されており、食事療法の教育に汎用されている。食事内容に関しては、特に脂質組成として不飽和脂肪酸の選択が推奨されている。2型糖尿病患者においては、運動により血糖コントロールの改善、血清脂質や血圧の低下が認められる。
一方、1型糖尿病においては、運動は必ずしも血糖コントロールを改善しないが、心血管系疾患のリスクを減少させる。インスリン治療例では血糖自己測定を行い、運動量等に応じた食事摂取、インスリン使用量や注射部位の変更を行う必要がある。
2型糖尿病に使用される経口血糖降下剤には、スルホニル尿素薬、ビグアナイド薬、グルコシダーゼ阻害薬等がある。経口血糖降下剤は、インスリン分泌を促進させる作用があり、低血糖の発症にも注意する。ビグアナイド薬には低血糖の危険は少なく、体重コントロールの面からも優れている。
インスリン療法は、1型糖尿病、糖尿病昏睡では絶対適応となり、感染症、外科手術時にも勧められる。1型糖尿病の多くは厳重な血糖コントロールを目指すために、インスリン強化療法が必要となる。インスリン強化療法では、1日3-4回のインスリン頻回注射法や小型ポンプを用いるインスリン持続皮下注入(continuous subcutaneous insulin infusion, CSII) が行われ、血糖自己測定が併用されることが多い。
2型糖尿病においても厳格な血糖コントロールのためのインスリン療法が適応となることがある。しかし、低血糖、高インスリン血症、体重増加などのインスリン自体の副作用を考慮する必要がある。
血糖自己測定には種々の機種が提供されており、それを用いた測定精度も実用上問題なく、1型、2型のインスリン治療には必要である。インスリン療法患者で低血糖無自覚を示す例を安全に治療するためには血糖自己測定を行うことが基本である。なお、インスリン製剤として超速効型インスリンも登場している。

3.ICFにおける糖尿病の理解

 ICFにおいて糖代謝機能はb540の一般代謝障害に含まれているが、糖尿病はインスリン作用の不足による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝障害であり、その代謝障害が糖代謝を中心とすることから、その分類にはICFのb540の項を用いることができよう。
現在、糖尿病の成因分類が用いられることが多いが、従来の病態からの分類では、障害の程度によって正常、耐糖能障害(IGT),インスリン非依存型糖尿病(non-insulin dependent diabetes, NIDDM)、インスリン依存型糖尿病(insulin dependent diabetes、IDM)に分類され、さらに代謝状態の維持が極めて困難なブリットル糖尿病(brittle diabetes)がある。ICFでは、これらはそれぞれb540.0、b540.1、b540.2、b540.3 and b540.4, と分類されうる。糖尿病の主要原因が膵ラ島にあるとすると、臓器の障害は膵臓のs550の項で分類され、それぞれs550.000、s550.189、s550.229、s550.329、s550.419となる。
ICFではさらに、指導上糖尿病による活動と社会参加の制約となる事項を最小限とする事を盛り込んでいるが、糖尿病のリハビリテーションにおいては、障害の重症度や家庭・社会環境における制限因子を最小限とする方法を各ケースに応じて分析し、指導することが求められる。

1)環境因子としての糖尿病治療法の進歩と活動・参加の向上
不安定型糖尿病の旅行の例を表3のようにまとめた。我が国において自己注射が許可されておらず、血糖自己測定も行われていない1981年以前には、血糖の自己管理が不十分であり、海外旅行には大きな困難を伴っていた。

表3 不安定型糖尿病における活動・参加と治療法の進歩

活動と参加 環境因子
1970 d450.04 (歩行)

d920.34 (旅行)

e110+4 (インスリン)
1979 d450.04 (歩行)

d920.34 (旅行)
e110+4 (インスリン)
e115+2 (CSII,血糖自己測定)
e355+2 (医療技術:インスリン強化療法)
2010 d450.04 (歩行)

d920.34 (旅行)
e110+4 (インスリン)
e115+3 (人工膵島)
e355+3 (医療技術:人工膵島の指導法の習熟)

  現在は、インスリン持続皮下注入療法(CSII)などの強化インスリン療法によって血糖コントロールがより安定し、インスリン・スライデイングスケールも可能であり、たとえ不安定型糖尿病の人でも海外旅行が可能となった。今後、人工膵島が完成すれば、血糖コントロールはさらに容易になり、旅行にはほとんど問題がなくなるものと推測される。このように、治療法の進歩による活動・参加の向上をICFの枠で検討することができる。

2)ICFと糖尿病および合併症の発症経過
糖尿病の典型的経過として、糖尿病の素因に肥満、ストレス、加齢等の外因が加わることによって耐糖能が次第に低下し糖尿病が発症する。その後の糖尿病管理が不十分であれば、10-20年で種々の合併症を発症する。
この経過を、現在25歳で肥満のある男子を例にICFの視点から概観してまとめた。両親糖尿病であることからHLA分析を受ける機会があったが、でDW54であり、糖尿病素因を有することが強く疑われるが、ブドウ糖負荷試験の結果は正常であった。糖尿病発症予防には肥満の是正が必要であるか、そのための十分な指導を受けていない(e450.2)。職場の経理事務が多忙を極め、上司も含め会社では社員の健康管理には無頓着である(e430.1)。当然のことながら、この時点では運動機能に問題なく食事摂取を含むADLは自立している。健診がなく(e450.2)、28歳時にIGT(b450.1)になるが、不良な生活習慣が継続した。
35歳時に糖尿病を発見されて、インスリン治療が必要となる(b450.4)。インスリン治療(e110+4)と病院での指導(e450+2)により、身体機能は低下することなく、多忙な経理事務(e430.1)は継続できているが、血糖管理が不十分で時に入院治療が必要になる(b450.1)。50歳時に脳梗塞を発症し、右片麻痺となり、経理事務と摂食等が不可能となる(b450.4, b7302.3)。その後、リハビリテーション(e450+3)により利き手交換し摂食自立となる(d550.14)。職場での経理事務も利き手交換で以前の60%程度の作業は可能となる(b7302.2)。障害者雇用率制度も活用(e5752+2)しながら復職する(d850.24)。

3)糖尿病リハビリテーションにおける活動・参加と環境因子
インスリン非依存型糖尿病では血糖コントロールが安定していることが多く、合併症がなければ、仕事に支障を来すことはない。しかし、就職活動ではこのことが理解されずに、不採用となることも多い。この内容を表4に示した。

表4 インスリン非依存型および不安定型糖尿病における活動・参加(就労)と環境因子

身体機能 活動・参加:実行状況の評価点 能力評価点 環境因子
b540.2
(NIDDM)

d850.1_ d850._ 1
(就労)

e110+1 (糖尿病治療薬)
e330.1 (会社の雇用条件)
b540.4
(brittle diabetes)

d850.1_ d850._ 3
(就労)

e330.1 (会社の雇用条件)
e115+1 (CSII,血糖自己測定)
e355+3 (医療技術者)

 一方、不安定型糖尿病では、血糖コントロールが難しく、就労阻害因子となりうる。それを改善する手段としてCSIIがある程度有効である(e115+1)。その他の治療法の指導と正しい実行によって就労の困難性も相当に緩和されうる(d850.13)。
以上のように、治療法と活動・参加の関係などもICFの枠を用いて検討することができる。