アジア太平洋障害者の10年の評価<完全参加と平等<へのNGOの展望
2003.6.29
聴覚障害者の情報アクセス「アジア太平洋障害者の10年」の成果
世界ろう連盟(WFD)
理事 高田英一
はじめに
世界ろう連盟アジア太平洋地域事務局に加盟する各国のろう者組織は、一番新しい加盟国組織アフガニスタンを含めて19カ国です。
日本、韓国、中国など先進国、中先進国では「アジア太平洋障害者の10年」の間にさまざまな成果を上げましたが、その他の国での成果は大きくありません。やはり国の経済条件が桎梏となっていることがうかがえます。
アジア太平洋地域を網羅するには、資料も不足し、調査も不十分ですが、いくつかの国は各国の個別調査の結果を利用することができました。
その他は毎年各国持ち回りで開催される世界ろう連盟アジア太平洋地域事務局代表者会議で、発表されたカントリーレポートのうち、聴覚障害者の情報保障に関する成果をピックアップしました。
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日本
「アジア太平洋障害者の10年」に対応して日本政府は「障害者対策に関する新長期計画」を決定した。そこには、聴覚障害者に対する情報アクセスのバリアフリーに関する事項が含まれ、次のような成果を得た。
- 手話は言語であり、聴覚障害者にとって手話通訳者はそのコミュニケーション保障のためにとりわけ重要である。これまで制度的には手話通訳は認められていたが、2000年に身体障害者福祉法及び社会福祉事業法の改正により、手話通訳事業が初めてそれらに法定された。
- 手話通訳や点字文書の導入により、検察審査会法が聴覚障害者、視覚障害者にも審査員としての資格を認めるよう改正された。
- 著作権法が改正され、聴覚障害者が利用するCS衛星利用のテレビ放送に自由なリアルタイム字幕・手話が付加できるようになった。
また、聴覚障害者の団体を中心として「字幕・手話番組」を専門に放送するNPO「CS障害者放送統一機構」が設立され、放送を行うようになり、その視聴のためのアダプターが国から支給されることになった。 - 全国的な各クラスの手話通訳者養成のために社会福祉法人・全国手話研修センターが設立認可され、研修、宿泊設備を備えた全国手話研修センター・コミュニティ嵯峨野が設置された。
韓国
1999年9月に障碍人福祉法が全面改正され、韓国の障害者福祉は大きく前進した。
- 「国家と地方自治体の長は放送局の長など民間事業者に対して、ニュース、国家の重大事項の中継等、大統領令で定める放送プログラムに、聴覚障害者のための手話また文字放送等を要請することができる」とされた。さらに「国家的な行事その他教育、集会等、大統領令が定める行事を開催する場合は聴覚障害者のための手話通訳を行わなければならず、民間が主催する行事の場合には、手話通訳を行うよう要請することができる」とされた。
- MBC(文化放送・韓国の民間放送局)では2000年から週当たり30時間の字幕放送を実施、将来的に随時拡大の予定。
- 1999年に公職選挙、選挙不正防止法と政党・政治資金法が改正され「合同演説を開催する際、手話通訳士が候補者の演説を手話で通訳できる」ように条文を追加、ろう者が候補者を選択する際の情報提供が可能となった。
- 1981年に韓国聾唖人協会が手話講座を実施して以来、韓国に手話ブームが起こった。1996年から保健福祉部より手話講習会の助成が受けられるようになり、全国で400の団体が手話講習を受けている。
- 保健福祉部の委任を受けて1997年に韓国聾唖人協会は第1回手話通訳者認定試験を実施、1999年の時点で180名の手話通訳者(2001年時点で認定手話通訳者は344名)を認定した。その後国家補助による手話通訳専門課程の設置、国内大学での手話関連学科の開設をめざして運動している。
- 1999年までに協会事業として国家及び地方自治体の負担で、全国16の市、道に手話通訳センターが設置され、手話通訳士27名が配置された。2000年に5か所追加、2001年には28カ所に増加、2002年までに計45か所となる予定。ソウル市内4区役所に手話通訳者が設置された。
中国
- 中国では、手話の全国標準化事業を進め、1990年に中国手話(収録語彙3,300語)を発行したが1994年に続編(収録語彙2,660語)を発行した。これらが現在の標準手話辞典の役割を果たしている。
- 国連「障害者に関する世界行動計画」に基づき、1990年に障害者保障法が採択された。法には特殊教育教師及び手話通訳者は特殊教育手当を受け、政府の関連部門は点字、手話研究を組織、支援するとされている。また、テレビに手話番組を設けること、映画、テレビ作品に字幕、音声解説(盲人向け)を増やすことを規定している。
- 南京リハビリテーションセンターが、ろう幼児のために就学前のバイリンガル教育(手話と音声語による二言語教育)の実験クラスを設けてから、天津のろう学校が同様のクラスを設けるなど、ろう児に対する新たな方法を開発している。(世界ろう連盟アジア太平洋地域事務局代表者会議2002年度カントリーレポート)
- 映画とテレビのシリーズ番組に字幕をつける実験的放送が始まる。(世界ろう連盟アジア太平洋地域事務局代表者会議2002年度カントリーレポート・以下2002年度レポート)
マレーシア
- マレーシア手話プロジェクトは、フインランドと日本政府の援助を受けて開始され、第1冊目の「マレーシア手話の本」を発行、次いで第2冊目を準備中で、手話を広める啓蒙活動を行っている(2002年10月現在)。国会事務局及びマレーシア国家統一・地域開発省も支援している。(2002年度レポート)
- マレーシア政府は2002年10月現在手話通訳派遣を認め、謝金の30~50パーセントを政府が行うことになった。(2002年度レポート)
タイ
- 1998年から2000年まで財団法人全日本ろうあ連盟の技術援助とボランテイア貯金の資金援助により、タイの標準手話辞典を6巻まで編集発行した。1巻の語彙は200語を越える程度で、最終的に1500語を収録した。2003年には自力で第7巻を発行する予定。
- 国立マヒドル大学の一部門ラチャスダ大学では、手話通訳者を養成する講師としてろう者講師の養成を行い、講師にはろう者が採用されている。
- スウエ-デン等の援助によりタイ国ろう協会事務所に事務職員及び手話通訳者が採用されている。手話通訳者には政府も援助を行っている。
シンガポール
- 手話通訳の需要が増え、専任手話通訳者2名、ボランテイア通訳者は42名が活動、今後手話通訳者の研修会を開催予定。(2002年度レポート)
- 手話講習会参加者も増加している。外部団体からの手話指導の要望も前年比89パーセント増加した。(2002年度レポート)
オーストラリア
- NAATIという政府組織が一般手話通訳者と専門分野通訳者の二つの分野でオーストラリア手話通訳者の認定を行うようになった。(2001年度レポート)
モンゴル
- ろう者のためのテレビ番組に手話通訳者が協力した。(2001年度レポート)
- アメリカの手話教科書の翻訳を完了したが、資金不足のため300冊しかろう協会員に配布できなかった。この教科書に基づいて会員は手話の研修を受けている。(以上2001年度レポート)
ネパール
- ネパールろう者・ 難聴者連盟(NFDH)はろう者を中心に、健聴者も対象に手話講習会の開催を奨励、12地域の12会場で文章教室や啓蒙プログラムを実施した。
- NFDHは全国手話開発委員会を設け、1年で500手話単語の新しい手話を開発、ろう者に提案した。デフコミュニティに承認されれば実際に使われるようになるだろう。
- 手話開発委員会は、これまでの手話を分類し直して3巻に掲載されていた1500の手話単語を1冊の本として出版した。これは全国的に統一した手話教材として活用されるだろう。(以上2002年度レポート)
インド
- インド国内の手話統一のために、多くの会議、ワークショップなどを実施したが、進み具合は芳しくない。そのため、手話通訳者として認定された者はいない。また、手話通訳養成の機関もない。インドでは手話研究センターを設立、運営を維持するために多くの支持と援助を必要としている。(2000年度レポート)
パキスタン
- パキスタンに初めて手話通訳者の団体が設立された。家族にろうの兄弟などをもつ25人以上の健聴者に手話通訳やろう者の相談に応じられるように研修を行っている。(2000年度レポート)
香港
- 1998年12月現在、社会福祉省は1.5人分のフルタイム手話通訳者の給与を助成している。手話通訳の重要が増えることが予想されるので社会福祉省はその増額を検討している。
- ニュース、ドキュメンタリー、ドラマなど多くのテレビ番組に字幕がつくようになった。また、香港ラジオ・テレビ局は週に1度、その週におきたニュースをまとめて放送する番組に手話を付けるようになった。(以上2000度レポート)
フイリピン
- フイリピンろう連盟(PFD)は手話通訳と教育の質向上のためのシンポジゥムをろう学校教員と生徒の参加を得て開催した。(2000年度レポート)
以上