アジア太平洋障害者の10年の評価<完全参加と平等<へのNGOの展望
東チモール
RNN カントリー・レポート
東チモールの障害者
2002年9月
Timor Lora Sa'e:東チモールに日が昇る・・・
新しい国家として・・・
1975年にインドネシアがこの島を侵略し、支配権を得るまで400年以上にわたって、東チモールはポルトガルの統治下にあった。1999年にチモール人はこれまでで最も大きな蜂起をやってのけた。数カ国の軍隊の支援を受け、彼らをほぼ25年にわたって統治してきたインドネシア国民軍に対して団結したのである。1999年8月、インドネシア国民軍による暴力と脅迫が広範囲に行なわれていたにもかかわらず、世界が見守るなか、チモールの有権者のうち98%が選挙において無記名投票を行なった。 2002年5月20日、東チモールは独立を手にし、いまや世界でもっとも新しく、最も若い国であるとみなされている。
東チモールに日が昇る・・・これは Timor Loro Sa’e の意味である。いまや、東チモールはいかなる国家の支配も受けず、独立を享受しているが、同時に経済的独立という課題に直面している。 780,000強という人口は管理しやすいように思われるが、未経験であり、いまだ自らの足で立つ方法を模索中である。圧倒的多数の人々は、いまや貧困と解雇に苦しみ、荒廃した建物とインフラストラクチャーは立て直すか撤去することを必要とし、経済は基礎固めと支援を必要としている。これらはまさに即座に対応することが必要なマクロ戦略上の事柄である。
国連は、その暗黒の時代から、東チモールをさまざまな社会的 - 政治的場面を通じて導いてきた。国連安全保障委員会第1272決議(1999)に従い、国連東チモール暫定行政機構(UNTAET)が1999年10月に創設され、2001年1月まで存続した。UNTAETは東チモールにおける安定の確保と政権移行の確実化を図るために創設された。UNTAETの段階的撤退にともない、国連東チモール支援代表団(UNMISET)が入国し、現在この国の再建と開発を指導している。防衛と安全のため、UNMISETは平和維持軍(PKF)と国連文民警察(UNCivPol)を引き続き維持している。
その上、この国においては国連のほとんどすべての組織が他の組織を代理している。すなわち、UNDP、ILO、UNIFEM、UNHCR、WHOである。その他の国際開発団体で現在この国にいるものは世界銀行、ADB、IMF、WFP、IFRC、JICA、AusAID、ブリティッシュ・カウンシル、CIDA、USAID、OXFAM、セーブ・ザ・チルドレンのグループ、カリタス、ハンディキャップド・インターナショナル、IRC、キリスト教こども財団である。
基礎的統計
東チモールは13の地方からなる。すなわち、ディリ、モナトゥト、アイレウ、エルメラ、ボボナル、コバリマ、リキカ、アイナロ、バウカウ、ヴィクク、ラウテム、アムビノ(オエキュッセ)である。ディリは、社会・経済・政治活動の中心である。商業、貿易、教育などの活動が盛んであり、政府の所在地である。
2002年のキー指標の値/データは以下のとおり
- 平均余命 55-58年
- 乳幼児死亡率 85/1000
- 主要な死因 結核とマラリア
- 一般的に見られる病気 下気道感染
- 成人識字率 51%
- 初等教育学校の設置 暴動以前には788校。暴動の後に再開したのはそのうち734校であり、学校に戻ってきた生徒は163,000人である。いずれの学校も一日に3時間だけ授業を行っている。生徒対教師の割合は24:1である。
- 平均世帯月収 20USドル。400,000人の労働力のうち75%が農業に従事している。
- 国民的貧困線 2001年11月の時点で75%。人口のうち90%が、一日の現金収入が1USドルである。
- 平均世帯人数 7人
- 食料不安 2002年1月の時点で80%
- 住居の占有 30%の人が住居を持っていない。(2000年の時点)
- エネルギー(電化) 780,000人のうち、630,000人が自宅において電気なしで生活している東チモールの10%の村のみが電力を使用することができる。
- 医師の配置 160人の登録医師のうち、135人は国外に出国した。
2002年の初頭に世界銀行によって報告された優先度の高い領域は以下の通りである。
- すべての人に対する基礎的教育
- 予防的ヘルス・ケアと家族計画
- 農業生産の改良
- すべての部門(特に政府)を受け入れる建物
- 特にインフラストラクチャーの再建築
貧困は広範囲に及んでいる。多数の無職または雇用されていない人の存在はこの国において現在最も大きな課題である。この文脈において、障害者( PWDs )は非常に貧弱な条件、ほぼ何の保護もない状態と推測することができる。
政府の構成
選挙で選ばれた独立政党の大統領であるサナナ・グスマオ大統領は東チモールの民主共和制を統治している。首相であるアルカチリは議会を主導している。以下は主要な省庁である。
- 教育、文化、青年、スポーツ省
- 保健省
- 計画・財務省
- 水・公共労働省
- 通信・交通省
- 農業・水産省
- 内務省
- 労働と連帯庁
- 外務省
PWD関連の部署は、労働と連帯庁にある社会サービス課の管轄下にある。
東チモール支援のための国連代表団(UNMISET)
UNMISETは、ほぼすべての国連機関と少なくとも 10 カ国の平和維持軍と文民警察の支援を受けている。国連機関を別にすれば、東チモールにはこれらの国の大使館と国際的な開発・財政機関が駐留しており、特に首都のディリに拠点を置いている。国連病院は最近になって政府に委ねられた。国連病院は、市民に無料のサービスを行なう国立病院に合併された。
東チモールにおける障害をもつ人:状況
労働と連帯庁の管轄下にある、東チモールにおける障害者関連の部署は、 2002年6月16日、17日にディリで全国的なワークショップを開催した。このワークショップには少なくとも 100 人の障害者と、関連する障害者に携わる政府機関および非政府機関が出席した。
ワークショップの中では以下の主要な関心領域が話し合われた。
- 障害者に対する国家政策、権利および、障害をもつ人に関する大衆の意識化
- 障害者に対するヘルス・ケア:地域に根ざしたリハビリテーション community-based rehabilitation
- 障害者のトレーニングとリーダーシップの開発
- 障害者の教育
- 障害者の開発におけるジェンダー間の平等
関心領域
二日間のワークショップは社会的、経済的、政治的問題における予測される結果を提出した。貧困はこの分野が直面している最も大きな課題である。近年の暴力行為と武力紛争の影響はいまだ生々しい。政府は外部による支配からの独立からたった5ヶ月しか経っていない国家を再建し、作りあげ、構築し始めたばかりである。
近年の紛争によって多くの家族が元の居住地から追われ、死者と身体障害者が生み出され、経済的な混乱が招かれ、不安定な状況におかれた子供や孤児が生み出された。人々の大部分が戦争による損害から回復し始めたばかりである。東チモールにおける障害をもつ人 persons with disabilities と重度の障害者 truly disabled people についてのサーベイ調査を含む情報収集のためのシステムは構築段階である。ワークショップの中では、最も限定的な試算でも、障害者人口は 35,000人と推定されている。 2002年の独立の日からまったくサーベイ調査が行なわれていないため、実際の数字はもっと大きい可能性がある。概算で、現在の人口 787,000人のほぼ10%から15%だと推測される。
新憲法は「すべての市民」の「平等な権利」を宣言している。そして第16条と第21条という2つ特定の条文が障害者に関するものである。
第16条 いかなる人もその肉体的・精神的状態にもとづいて差別されるべきではない・・・。
第21条 障害をもつ市民はその他の健常な市民と同様の権利を享受すべきである。そして国家は障害をもつ人の権利を促進し保護すべきである・・・。
この国における身体障害の主要な要因は、特に、栄養失調、ポリオ、事故、ハンセン氏病、そして劣悪な健康状態である。報告されたように、乗り物の衝突事故は、若年層、成年層に共通する主要な身体障害の要因である。
この国においては、大部分の人間が基礎的教育、保健・その他の社会福祉サービス、生計(の安定)と雇用といった機会の欠如に苦しめられている。もしも障害をもたない普通の市民がこうした機会を探すのに苦労しているとしたら、障害者の場合にはより深刻である。人口の 75 %を構成する貧困者のニーズを充足するための設備と資源は不十分である。もっともなことであるが、政府はその組織のための設備の再建と強化を優先しており、障害者の領域には十分な関心がいまだ払われていない。
アクセス設備
この国における建物とその他のインフラストラクチャーは、一般的に、障害者のための準備はなされていない。スロープのようなアクセス設備はほとんどすべての建築物に設置されていない。しかしながら、現在、建物の再建築あるいは修繕が検討されている時期にあたるというのは、非常にタイムリーであると言える。これらのアクセス・ポイント/設備はインクルージョンのために主張されるべきである。
社会的サービスと保健サービス
障害者の数は増加しつつある。より多くの人々が毎日乗り物の衝突による事故に遭遇しているからである。この国においては、ドライバーを教育・訓練することに対する意識的な努力がなされていない。同様に、交通設備もまだ配備されていない。
新しい国家になるにあたって、資源は、人的資源でさえ、障害者を含む大多数の人々のニーズを充足するには不十分である。障害者に対する特別な設備は、カチロサKATILOSAのようなNGOによって供給されたものを除いて、知られていない。
障害者に対する奨学金の機会も、特別な教育施設も存在しない。多くの子供と青年は紛争の後学校に戻っていない。貧困がいまだ主要な理由であり、教師不足はほとんどすべての学校において、大きな問題である。教師の給与は教えることに魅力を見出すのに十分ではない。
ほとんどの障害者は何もせず家におり、家族と親類への依存度が高い。家族は生計を立てるのに忙しいため、教育を受けることは阻害されている。大部分の障害者はその日暮らしの存在である。
予期されることであるが、母親が栄養失調の影響について自覚的でないため、より多くの子供が栄養失調の状態で生まれてくるだろう。母親たちを責めることはできない。経済的な発展の可能性の欠如がこの国家を広く覆っているからである。
障害者に対する政府・非政府組織
これまで、この国においては、 3つの主要なNGO組織が障害者問題を中心に扱うものとして公的に知られている。すなわち、カチロサKATILOSA、アヒサウン財団とフエナ・ベランである。ハンディキャップ・インターナショナルは現在この国に駐留している。その他の国際的なネットワークがドン・ボスコを含む東チモールにおいて現地事務所を構えている。
政府は、障害者についての部署を、労働と連帯庁長官室の管轄下にある社会サービス課に置いている。同じ庁のもとに、障害者研究グループが作られ、定期的に会合を持っている。しかしながら、政策、計画そしてプログラム、プロジェクトに関しては、多くのことはなされていない。計画されている障害者についての全国的なサーベイ調査はまだおこなわれていない。
カチロサはこの国の障害者に対するNGOとしては、もっとも活発に活動していることで知られる。この団体は、第8回世界パラリンピック大会とその他の国際的な集まりに何名か運動選手を送っている。この団体は、WHOと緊密に連携し、現在はオーストラリア代表団によって援助されているWHOの地域に根ざしたリハビリテーション community-based rehabilitation をともに進めている。カチロサはまた、現在は存在しない労働省の古い建物を平和維持軍によって修繕する機会を与えられている。まもなく、この建物はカチロサの事務所および障害者のための職業・技術訓練の場として提供される予定である。また、障害者の主要な活動のための集会所としても使用される予定である。労働と連帯庁長官室とカチロサの間の覚え書きはこの目的のためのものである。
障害者によって提示された対策
全国的なワークショップとカチロサによってベコラの一部、ディリにおいて実施された小規模調査の結果は以下のようである。
社会福祉とヘルス・ケア
- 特に障害をもつ子供に対する栄養と食物の供給
- 住居の支給
- 地域に根ざしたリハビリテーション
- 医療的サービス
- プライマリー・ヘルス・ケア( e.g. 母子ケア、水と衛生)
教育
- 奨学金の機会
- 能力育成
- 公的な学校教育
- 障害者訓練のためのセンターの建設
- 市民教育
経済的な発展
- 雇用と独立生計を可能にする適切な職業的・技術的スキルの訓練
- 収入創出プロジェクトのための、種まきとしての資金(スタート資金)の貸付
- 障害者の製品の販売など、その他の支援メカニズム
コミュニケーションと移動
- 建物におけるスロープ等のアクセシビリティ設備
- 障害者の表現の場として、本の出版、雑誌またはメディア
政治的参加と法的サービス
- 障害者に関連する問題における政府と NGO の決定過程へのアクティブな関与と参加
- 障害者に対する法的・準法的サービスの支給
- 障害者団体の強化と、この国における障害者の全国評議会あるいは協会の創設
最近、ILOと協力し、労働と連帯庁長官室を通じて行なわれた政府による研究は、以下の対策を指摘している。
- 障害者に関係するすべての問題において、政府への助言機関としての、また政府の手足として活動するための、障害者のための全国評議会と独自の事務局の創設
- 障害者の権利を保護し、促進するための法律と政策の形成と実現
- 提示された、全国評議会に対する資金及びその他の資源の支給。この評議会は多方面からの成員からなる。(i.e. NGO、障害者の代表、政府および経済の代表、障害者に関する国際的・全国的な開発機関)
Klibur Aleizadus, TIMOR LORO SA’E (KATILOSA)
訳:早稲田大学大学院文学研究科 麦倉 泰子