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アジア太平洋障害者の10年の評価<完全参加と平等<へのNGOの展望

教育タスクフォース・レポート
アジア太平洋障害者10年における地域NGOネットワーク

タスクフォース・コーディネーター

第1部:植村英晴(日本社会事業大学教授)

第2部:セタリキ・マカナワイ(フィジー障害者協議会会長)

第1部 アジア

本報告は、アジア太平洋障害者10年を検証するなかで、地域NGOネットワーク・イニシアチブの一環として教育タスクフォースが準備した教育に関する質問表に対する8カ国からの回答を基にしたものである。 質問表は20ヶ国に送られ、インドネシア、マレーシア、モンゴル、パキスタン、スリランカ、タイ、ウズベキスタン、ベトナムの8カ国から回答が寄せられた。 それぞれの国々での報告者の立場が必ずしも明確ではないものが2、3あり、また、それぞれのNGO活動に基づいた報告は、不明瞭かつ不完全なものもあったことを指摘しておきたい。 とはいえ、本報告では、10年に関した行動計画の教育政策目標に組み込まれた様々な問題を反映する以下の各分野で8カ国の達成度を総括してみたい。

  1. 障害児を含めたすべての子供たちのための義務教育を規定する法規あるいは政策の存在 ‐8カ国ともすべての子供たちのための義務教育を規定する政策を実施しているが、パキスタンとモンゴルの2カ国では、障害児はその中に含まれていない。
  2. 障害者の数についてのデータと、様々な障害を持つ子供たちに関する公式データ ‐3カ国(パキスタン、タイ、ウズベキスタン)は、障害者人口を明らかにするための全国調査を行っている。しかし、インドネシアには、様々な障害状況を含めて学校に在籍している障害児の人数に関するデータがある。
  3. 教育へのアクセス、障害児のための教育的なサービスの有無とタイプ、あらゆる種類の学校に在籍している障害児の割合‐8カ国とも、障害児は政府やNGOが提供している教育へアクセスしていることを示している。スリランカとベトナムは既に、インクルーシブ教育を実施しているが、他の5カ国(インドネシア、モンゴル、パキスタン、タイ、ウズベキスタン)ではこの方法の導入を計画中である。 学校に在籍している障害児の割合はどの国でも不明である。
  4. 障害を持った幼児や小児のための早期療育に関する規定‐8カ国とも障害を持った幼児や小児のための早期療育を提供している。タイでは、教育法(B.E.2542;1999年)に基づいて誕生時から早期療育が提供されている。
  5. 多様な能力、障害を持った子供たちを教育する教師の養成‐7カ国(インドネシア、マレーシア、パキスタン、スリランカ、タイ、ウズベキスタン、ベトナム)では現在、障害児を教育する教師を養成するために、特殊教育の中で事前訓練と現任訓練サービスを提供している。 モンゴルでは、障害児を教育する教師を養成するプログラムはない。
  6. インクルーシブ教育政策、万人のための教育(EFA)の実施に向けて国のあらゆる政策・計画およびプログラムの中に障害児を含めること‐前述の通り、スリランカとベトナムでは既に、インクルーシブ教育を実施しているが、他の5カ国(インドネシア、モンゴル、パキスタン、タイ、ウズベキスタン)では導入を計画中である。 しかし、万人のための教育の推進はどの国にも普及している。タイでは、教育省がすべての障害児の同等な教育に対する権利を保障するために戦略的な計画を打ち出している。 万人のための教育の推進は、アジアの国々では、徐々に認知され、注目を集めていることは特筆すべきである。
  7. 過去10年間(1993年~2002年)に見られる障害児教育の進歩‐8カ国とも、過去10年間に、それぞれの国々で障害児教育は大幅な発展を遂げたと述べている。特殊学校による特殊教育が開始され、能力のある障害児は一般校にメインストリーミングすることが奨励され、早期教育が促進され、特殊教育政策が構築され、教師に対する事前訓練や現任訓練が実施されている。
インドネシア

多数の特殊学校が設立され、その数は1993年の899校から2001年には1,300校に急増した。特殊学校の生徒数も、1993年の38,616人から2001年には49,483人に増加した。

マレーシア

障害児のドロップアウト(退学)率が2000年には50%まで低下した。

パキスタン

障害の全国タスクフォースが特殊教育を推進している。地方政府との協議の下に、企画委員会が5ヵ年計画を作成し、実証している。

ベトナム

過去10年間に、障害児教育施策が大幅に進歩した。1993年に特殊学校に在籍していた障害児は約15,000人で、ろう、盲児が殆どであったが、現在では特殊学校、特殊学級および一般校に在籍している障害児は60,000人である。

タイ

アジア太平洋障害者10年(1993年から2002年)によって、障害者の生活に大幅な変化がもたらされた。タイでは、障害児への教育的なサービスに関する規定を盛り込んだ教育法(B.E.2542;1999年)が制定された。

第2部 太平洋

本報告は、アジア太平洋障害者の10年を検証するなかで、地域NGOネットワーク・イニシアチブの一環として教育タスクフォースが準備した教育に関する質問表に対する8カ国からの回答を基にしたものである。質問表は14カ国に送られ、オーストラリア、クック諸島、フィジー、パラオ、パプアニューギニア、サモア、トンガ、ツバルの8カ国から回答が寄せられた。

それぞれの国々での報告者の立場が必ずしも明確ではないものが2、3あり、また、それぞれのNGO活動に基づいた報告の中には、不明瞭かつ不完全なものもあったことを指摘しておきたい。とはいえ、本報告では、10年に関した行動計画の教育政策目標に組み込まれた様々な問題を反映する以下の各分野で8カ国の達成度を総括してみたい。

  1. 障害児を含むすべての子どもたちのための義務教育を規定する法規あるいは政策の存在‐オーストラリア、クック諸島、パプアニューギニア、サモアでは、教育を必要とする障害児のための一定の特殊教育政策がとられている。
    フィジーにはそのような政策はないが、特殊教育計画が全国民のための教育プランのもとに組み入れられている。 パラオ、トンガ、ツバルには現時点では政策は何もない。
  2. 障害者の数についてのデータと、様々な障害のある子どもたちに関する公式データ‐8カ国とも障害者の統計があるとしているが、障害各種別の比率はほとんど不明である。 クック諸島は人口が少ないため、II(インクルージョン・インターナショナル)アジア太平洋地域の援助を得て障害者数を確認する全国調査を行うことができた唯一の国である。 オーストラリア、フィジー、サモアにはさまざまな障害の状況を含めて学校に通っている障害児数のデータがある。 サモアは現在、国内の成人障害者数を確認するための全国障害調査を行なっている。 フィジーでは、フィジー全国障害者協議会の指導と政府からの資金のもとで全国障害調査を計画中である。 キリバス、バヌアツ、ソロモン諸島などのいくつかの太平洋諸国に対して、IIアジア太平洋地域が、障害者数を確認するための全国調査の援助に乗り出していることは特筆すべきである。
  3. 教育へのアクセス、障害児のための教育的なサービスの有無とタイプ、あらゆる種類の学校に在籍している障害児の割合

    ‐8カ国とも、障害児は主に特殊学校で、一般校と同じように教育を受けていることを示している。オーストラリアとパラオはインクルーシブ教育の採用に努めており、フィジーでは視聴覚および肢体障害児の一部は一般校に組み入れられるようになっている。学校に通っている子どもの割合はほとんどの国で不明だが、クック諸島49.5%、パラオ95%、サモア81.5%、トンガ60%である。

  4. 障害のある幼児や児童のための早期療育の提供

    ‐早期療育は、90年代にAUSAIDや太平洋地域視覚障害者協議会などのさまざまなイニシアチブによって進められ、オーストラリア、フィジー、パラオ、パプアニューギニア、サモアでは現在の通常の有効な教育課程となったようである。クック諸島、トンガおよびツバルは早期療育サービスはないと答えたが、とくにフィジーでは早期療育を行う特殊学校がある。

  5. 5.多様な能力と障害をもった子どもたちを教育する教員の養成

    ‐8カ国とも障害児教育の訓練プログラムは教員養成課程の必須部分となっている。

    オーストラリア、フィジー、パラオ、サモア、トンガ、ツバルでは特殊教育における専門家養成課程をも設けている。

  6. インクルーシブ教育政策、万人のための教育(EFA)の実施に向けて国のあらゆる政策・計画およびプログラムの中に障害児を含めること‐オーストラリア、クック諸島、パラオ、パプアニューギニア、サモア、ツバルではすでにインクルーシブ教育政策が教育プログラムの中に盛り込まれているが、フィジーとトンガではまだそのような政策はない。しかし、万人のための教育(FEA)はすべての国に普及しており、フィジーでは障害児教育はEFA全国計画の中に明確に盛り込まれている。 また、ユネスコのイニシアチブにより、ほとんどの太平洋諸国の中でEFAがより認知され注目を集めるようになったことは特筆に値する。 トンガだけがEFA政策を実行していない。
  7. 過去10年間(1993年~2002年)に見られる障害児教育の進歩‐8カ国とも、この10年間に、それぞれの国々で障害児教育は大幅な発展を遂げたと述べている。特殊学校による特殊教育が開始され、能力のある障害児は一般校にメインストリーミングされることが奨励され、早期療育が促進され、特殊教育政策が構築され、教師に対する事前訓練や現任訓練が実施され、殊に海外での訓練が実施された。

パラオでは1994年に、特別なニーズのある子どもの教育の成果を維持するために必要な健康、社会、環境支援などための合同チームが設立されたということである。1997年、学校は肢体障害のある子どもたちのためにアクセシブルな歩道、トイレ、教室を提供し始めた。

サモアでは1992-93年に法案が通過した義務教育法により5歳から14歳の子どもは学校へ通うことが義務づけられた。教育局は、特殊教育と早期教育が優先的な領域としてなされるという1995~2005年の政策と戦略を発表した。サモアの特殊教育の教員養成は、1998年にサモア国立大学でなされた。

トンガは障害のある子ども・大人ともに教育とスポーツへの参加が増えたことを強調した。

パプアニューギニアでは1994年に特殊教育政策を採り入れ、全国の特殊教育を取り扱う全国特殊教育委員会設立、すべての初等教員養成大学における特殊教育コースと講師の設置、国内各地の11カ所に特殊教育リソースセンターを設置したことなどの成果が出ていることをあげた。

ツバルは、「生活のための教育」プログラムに15歳までのすべての子どもたちのための教育を含めるようになり、その結果特別なニーズのある児童が一般校へ通うことが奨励されることになったが、そのために必要な社会基盤とスタッフ養成にとって、依然として財源問題が主たる制約となっていることを強調した。

フィジーは、特殊教育カリキュラムの草案・試行、3つの初等教員養成大学と南太平洋大学での特殊教育コースの導入および特殊教育計画の構築を、特別なニーズをもつ子どもの教育に関するこの「10年」の最大の成果として記している。

(訳:第1部は植村英晴(日本社会事業大学教授)、第2部は荒木薫)