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アジア太平洋障害者の10年の評価<完全参加と平等<へのNGOの展望

シンガポール

障害者福祉協会 名誉副書記長
パトリック・アン

Section A 障害者福祉協会によるシンガポールにおける十年の進行評価

アジア太平洋障害者の十年が 1993年4月に始まって以来、シンガポールは長い経路を経て、多くの分野で経済的、社会的および技術的に進歩しました。そのことが障害を持った人々と同様にシンガポールの NGOも含めた全体に役立ちました。

NGOである私たちは、シンガポール政府が、障害を持った人々の生活を向上させ、地域社会への統合を支援する際に率先して支持する役割を果たしてきた姿を見てきました。シンガポール社会サービス協議会は新しい名前、つまり全国社会サービス協議会 National Council of Social Service)へと改称し、社会サービス分野の大きな発展を支援するための新しいビジョンや使命を設定しました。

シンガポールの社会サービスシステムは、政府が直接的なサービス提供を中止し、促進・支援する役割にかわったことから、「多くの手助け」制度を採用するようになりました。今日では、意識の高い個人および組織、つまり市民が、恵まれない人や苦しんでいる人の支援にあたっています。今日のサービスは、主に民間セクターが提供しており、そこへは以前より多くの政府補助金が投入されています。社会サービスセクターは今日、脆弱で貧困に苦しむ人々だけでなく(これらの人々は引き続き優先的対象ですが)、ごく一般の社会に暮らす人々にも徐々に目を配るようになっています。

これまで、障害を持った人々のよりよい生活という共通した目標のために、多くの NGOがネットワークを形成し、経験や資源を共有し、共に働いてきました。現在も、政府・ NGOの双方により多くの協力活動および協働関係が催されています。重要なのは、提供されるサービスや活動の批判的なフィードバックと評価がなされ、さらなる改良に結びついてきたということです。

地域開発協議会のような異なる組織が社会サービスセクターに登場したことによって、多少なりとも社会の様子に変化が現れてきました。地域開発協議会およびその他民族ごとの自助グループは急速にその影響を広げています。

他の国々と異なるのは、シンガポールには、障害を持った人々のための法律がないということです。しかしながら、活動的コミュニティと民間セクターの成長を促進する政府の支援および他の手段によって、アクセス、交通、教育、雇用など様々な分野において著しい改良が行われてきました。例えば障害者福祉協会には、建築専門家や開発業者が、障害者が利用しやすい建物に関する調査を行うためにしばしば訪れてきました。協会には承認する権限はありませんが、その意見・コメントには信憑性があります。ここには、シンガポールを真にアクセスしやすい場所にしたいという政府当局が発表した姿勢の重要性が明白に現れています。

10年前、外出しようとする障害者、特に車椅子利用者はほとんどいませんでした。これはほとんどの道、建物、団地、観光地等がバリアフリーの工夫がされていなかったからです。しかし、その後数年で事態は変わり、今日、障害を持つ人でも、ある場所から別の場所へとても容易に移動できるようになりました。しかしシンガポールのすべての場所がアクセス可能になったわけではなく、少なくとも車椅子を使用する障害者については多くの場所へ移動できるようになったということです。現在では新しい公営住宅はすべてバリアフリー建築になっていますし、車椅子利用者は援助なしで移動することができます。現在運行している MRTシステム(訳者註:シンガポール島全体を網羅する鉄道)は 2005年までに完全にバリアフリーになります。シンガポール政府は 8000万シンガポールドルを投資し、既存のすべての列車駅にエレベーターやスロープをつけ車椅子でも利用可能にすることになっています。

車を手だけで操作できる装置を使用して運転することができる障害者は車購入の際に特別な助成金を受けることができます。およそ 4万から 5万ドルの登録料および権利料の証明書代の支払いも免除されています。この助成金制度によって多くの障害者が自分の車を持つことができ、かつ移動の問題が解決することができました。そして今、一般労働市場での就職ができるようになっています。

教育分野では、政府は、障害を持っていても利用しやすい学校を国全体に建造し、障害のある生徒から教育の機会を奪わないことを保証しました。例えば、島の東部に住む生徒には、近辺の学校を改良し使いやすくしました。昔はほとんどの学校はかなり利用しにくく、たとえ利用しやすい学校があったとしてもごく少数で遠かったのです。そのため、多くの障害のある子供、特に低収入の家族の場合は教育を断念しなければなりませんでした。すべての、これら、アクセスにおける改良は「建造物バリアフリー・アクセス規定」の 1995年および 2002年の改定によっています。障害者福祉協会は、建造物管理局とシンガポール建築家協会とともに規定の改定に取り組んできました。

建築専門家および土地開発者に対しバリアフリーを啓蒙するため、障害者福祉協会およびシンガポール建築家協会では、シンガポールの中で最も障害者が利用しやすい建物に賞を与える公式行事を定期的に開催しています。この賞が社会に知られたことによって、バリアフリーのニーズの意識が徐々に浸透しただけでなく、競争相手となる他の建築専門家・土地開発者に対しても意識改革の機会を与えることができました。

障害者福祉協会のような NGOは障害を持った人々が社会に貢献できる基本的な技術および身体的な能力を備えられるようエンパワーすることに着目してきました。私たちは高等教育を受ける意志のある障害者に、奨学金を送りました。就職している人には、生涯に亘って仕事がもてるように、生涯学習を受けられるようにしています。周囲に刺激や模範になるような挑戦をした人には賞が与えられました。

障害者福祉協会では現在、全国社会福祉協議会と協働して「アクセスブックレット」の改訂作業に取り組んでいます。アクセスブックレットには、障害を持った人々にもアクセス可能な建物の詳細、観光名所、ホテルなどが掲載されています。したがって、特に外国の障害を持った観光客がシンガポールのアクセスについてすぐ知りたいときに役立つでしょう。

シンガポールでは、この十年間で多くのリハビリテーション・センターが島の至る所に新設されました。虚弱な高齢者も含めた障害のある人々は、自宅から近距離圏にあるセンターへ容易に行けるようになりました。リハビリテーション・センターは、政府病院、民間福祉団体および個人組織が運営しています。障害者福祉協会は、リハ・サービスを会員だけでなく地域にも広く提供しており、すべての人に利用しやすいように、利用料には補助金が支給されます。障害を持つ人は定期的に肉体と手足動作を向上させるか、少なくとも維持できるようにリハ・サービスを受けるべきでしょう。10年前、シンガポールではリハビリテーション設備が不足し、多くの障害者がサービスを受けることができませんでした。

シンガポールが工業の時代へ進むとともに、ますます、NGOは、障害をもつ人たちが日常的な活動の中で補助器具を利用するよう促すと同時に、技術や雇用適性を高める方法を学習する機会を与えるようになっています。障害者福祉協会では、情報開発公団やさまざまな高等専門教育機関と協働し、情報技術産業界に障害をもつ人たちが参入できる機会を開拓してきました。急速な技術進歩は、福祉サービスの中でも情報の共有およびサービス供給に大きな影響を与えるでしょう。

Section B シンガポールの障害をもつ人々の完全参加と平等を実現するための課題

  1. 身体障害を持つ人々にサービスを提供する民間福祉団体(VWO)として、私たちは交通機関を完全にバリアフリーにしてもらいたいのです。鉄道システムは利用できますが、バスはアクセス可能ではありません。車椅子使用者が電車から降りた際にもまだ、家路につくまでに困難が残ります。タクシー利用が次に考えられる方法ですが、多くの障害者の資力を超えているだけでなく、 (必要なときに使えるかどうか )当てになりません。一方電車やバスの場合は、特定の時刻に決まった路線で運行されるので、明らかに利用しやすいのです。
  2. シンガポールには障害を持った人々の雇用に対して依然偏見があります。雇用者は、健常者とまったく変わらなくても、障害者でなく健常者を好む傾向がありますし、さらに障害をもった労働者に特別の設備を与えようとしないのです。
  3. 今後さらに高等教育を受けた障害者が増え、そのことで福祉サービスへ何らかの影響が現れるでしょう。サービスは専門性に基づいた高標準のものが求められるため、頻繁に改良していかなければならないでしょうし、福祉サービスへの寄付金の使途に関する公の介入が増えるでしょう。現在すでに「寄付者の疲労」が伝えられており、したがって資金助成機関と受給機関のつながりや、あるいは寄贈者とサービス提供機関との関係のいっそうの強化の必要があります。
  4. 障害者自身が運営する組織として障害者福祉協会は、管理委員会に新しい人材を取り込むことで、将来のリーダーシップを構想しなければなりません。そうでなければ、協会の進歩は止まるでしょうし、サービスは停滞して質が下がるかもしれません。

Section C シンガポールの障害者関係基本情報

  1. 障害者福祉協会 Handicaps Welfare Association
    16 Whampoa Drive
    Singapore 327725
    Tel. (65) 62543006
    Fax (65) 62537375
    E-mail: HWA@HWA.org.sg
    Contact Person: Executive Director
  2. 全国社会サービス協議会 National Council of Social Service
    NCSS Centre
    Ulu Pandan Community Building
    170 Ghim Moh Road
    Singapore 279621
    Tel. 62102500
    Fax 64681012
    Contact person: Chief Executive Officer
  3. シンガポール聴覚障害者協会 Singapore Association for the Deaf
    227 Mountbatten Road
    Singapore 397998
    Tel; 73449284
    Fax: 63457706
    Contact Person: Executive Director
  4. シンガポール知的障害者活動 Movement for the Intellectually Disabled of Singapore
    800 Margaret Drive
    Singapore 149310
    Tel: 64795655
    Fax: 64790706
    Contact Person: Executive Director
  5. シンガポール視覚障害者協会 Singapore Assn of the Visually Handicapped
    47 Toa Payoh Rise
    Singapore 298104
    Tel: 62514331
    Fax 62537191
    Contact Person: Executive Director
  6. シンガポール脳性麻痺児協会 Spastics Children’s Assn of Singapore
    25 Gilstead Road
    Singapore 309070
    Tel 62560831
    Fax 62504177
    Contact Person: Executive Director

Section D 基本データ

  1. シンガポールでは、過去十年の間にも障害者数がわかるような調査が行われていません。したがって単にシンガポールの総人口に対する障害者数のおおよその割合を割り出すことしかできません。
  2. どれだけのシンガポール人が以下の知識があると思いますか?
    1. アジア・太平洋障害者の十年 -1993~2002- について: 1%未満
    2. 政府はアジア太平洋障害者の十年について国民に通知したか: はい
    3. 1975年国連・障害者の権利宣言について: ほとんどゼロ
    4. 1981年国際障害者年について: 1%未満
    5. 国連障害者の十年 -1983~1992- について: 1%未満

(訳:日本社会事業大学社会福祉学部 4年生 中尾文)