びわこミレニアム・フレームワーク
国連経済社会理事会
項目 | 内容 |
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発表 | 2002年11月8日 |
General E/ESCAP /APPDP/4 2002年11月8日
原文
国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)
「アジア太平洋障害者の十年(1993-2002)」 最終年ハイレベル政府間会合
2002年10月25-28日
滋賀県大津市
アジア太平洋障害者のための、インクルーシブで、バリアフリーな、かつ権利に基づく社会に向けた行動のための地域におけるフレームワークの検討(暫定議題6)
アジア太平洋障害者のための、インクルーシブで、バリアフリーな、かつ権利に基づく社会に向けた行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク(案)(注:「びわこ」は、本ミレ二アム・ワークが検討・採択された「アジア太平洋障害者の十年」最終年ハイレベル政府間会合が滋賀県大津市で開催されたことにちなんでつけられた。)
目次
- 序文
- 「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」の原則と政策方針
- 行動のための優先領域
- 優先領域における目標と行動
- 「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」の目標達成のための戦略
- 「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」の達成のための協力と支援
- モニタリングと評価
1.序文
「アジア太平洋障害者の十年」最終年ハイレベル政府間会合に出席した我々ESCAP加盟・準加盟国政府の代表は、
1. 4億人と推定される障害者は、アジア太平洋地域諸国の発展に寄与する能力を有しており、一致した活動を通してますます地域社会に変化をもたらす主体となってきているが、大多数の障害者は依然として地域社会における教育、雇用およびその他の社会経済的機会を奪われ、最貧困層の20%を占めていることを認識し、
2. 1981年の国際障害者年に続き、1982年12月3日に、国連総会にて障害者の完全参加と平等および権利擁護を目的とした総会決議37/52「障害者に関する世界行動計画」が採択されたことを想起し、
3. 「国連・障害者の十年(1983~1992年)」最終年に「アジア太平洋障害者の十年(1993~2002)」を宣言し、また1992年、北京での同「十年」開始の会議において「障害者の完全参加と平等に関する宣言」および「十年」行動課題を採択することによって、アジア太平洋地域の政府が同地域の障害者の完全参加と平等を実現させるための継続的な決意をしたことをも想起し、
4. 12の政策領域(国内調整、法律、情報、国民の認識、アクセスとコミュニケーション、教育、訓練と雇用、障害原因の予防、リハビリテーション、サービス、支援技術、自助組織、地域協力)において、「十年」の目標を達成するための行動課題において設定された政策ガイドライン、ならびに1995年の政府間地域評価会議で採択され、1999年にさらに強化され、さらに2000年の第56回ESCAP総会で採択された107の目標を確かなものとし、
5. 1990年代、国連の世界レベルの政策やプログラムにおけるイニシアティブが、諸宣言やフレームワーク、戦略的行動計画の中に障害問題を主要課題として取り入れてきたことを認識する。それらの分野には、教育、環境、人権、人口・開発、社会開発、女性の地位向上、児童および人間居住環境が含まれる。特に、1995年3月にコペンハーゲンで開催された世界社会開発サミットは、「社会開発に関するコペンハーゲン宣言」の中で、障害者は世界最大の少数派グループの一つとして、貧困、失業および社会的孤立にしばしば追い込まれていると指摘した。同宣言は、各国政府が国連の「障害者の機会均等化に関する標準規則」を促進し、同規則の実施のための戦略を策定すべきであると提言したことを認識し、
6. 21世紀における人類全体の向上を目指した多数の具体的公約を組み入れて国連総会が2000年9月8日に決議55/2によって「国連ミレニアム宣言」を採択したことで、急速なグローバル化が進む中で経済・社会開発に取り組むという各国政府の決意を表明したことを国際社会が認識し、
7. このような世界レベル、地域レベルでの有利な政策環境の下、ESCAP加盟・準加盟国政府が2002年5月22日の第58回ESCAP総会で、ESCAP総会決議58/4「21世紀におけるアジア太平洋地域の障害者のためのインクルーシブで、バリアフリーな、かつ権利に基づく社会の促進」を採択し、その中で「十年(1993-2002年)」をさらに10年間(2003-2012年)延長することを宣言したことを高く評価する。この決議は、2002年以降のESCAPによる「障害者に関する世界行動計画」および「アジア太平洋障害者の十年」行動課題の実現を更に促進するものである。
8. 「行動課題」の12の全政策領域において、全体的な改善が達成されてはいるものの改善の度合いは一様ではなく、特に障害をもつ子どもと青少年の教育への機会が、ずっと驚くほど低い率にとどまったままであること、そして顕著な地域内格差が見られた点について意見の一致が見られ、
9. 各国政府に対し、2001年12月19日付国連総会決議56/168「障害者の権利および尊厳を保護・促進するための包括的、総合的な国際条約」に留意しつつ、特に障害者にとっての発展の権利という人権の視点に向かって、慈善に基づくアプローチから権利に基づくアプローチへのパラダイムシフトを奨励し、
10. 「アジア太平洋地域の障害者の完全参加と平等に関する宣言」にまだ署名していない国に対し、署名するよう、また、「アジア太平洋障害者の十年」行動課題の107の目標を達成すべく努力するよう促し、
11. アジア太平洋地域の障害者のための、インクルーシブで、バリアフリーな、かつ権利に基づく社会に向けた行動のためのびわこミレニアム・フレームワークを採択する。「インクルーシブな社会」とは、万人のための社会を意味し、「バリアフリーな社会」とは、物理面や人々の意識・行動面において、また社会、経済、文化的側面において障壁のない社会を意味する。「権利に基づく社会」とは、発展への権利を含む、人権の概念に基づく社会である。
12. 「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」は、「知的障害者の権利宣言」(国連決議2856(第26回)/1971年12月20日)、「障害者の権利宣言」3447(第30回)/1975年 12月9日)、「障害者に関する世界行動計画」(37/52/1982年12月3日)、「障害者の職業リハビリテーションおよび雇用に関する国際労働機関(ILO)条約」(No.159/1983年6月20日)、「障害者の機会均等化に関する標準規則」(48/96/1993年12月20日)および「特別なニーズ教育に関するサラマンカ声明および行動要綱」といった障害者関連の国連の国際的文書や命令、勧告と関連付けて位置づけされることを確認し、
13. ミレニアム開発目標(Millennium Development Goal, MDG)実現において、障害者に関する課題への取り組みが含まれることは不可欠であるため、「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」がミレニアム開発目標の達成に貢献することを期待するものである。
2.「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」の原則と政策方針
14. アジア太平洋地域の障害者のためのインクルーシブで、バリアフリーな、かつ権利に基づく社会の実現という目標に向かって進むため、「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」は以下の原則と政策方針の下に策定されるものとする:
- 教育や保健、情報・通信、訓練と雇用、社会サービスおよびその他の分野における、障害者の平等な機会や対応、公平さを享受できる権利に関する法律や政策を制定・施行するこれらの法律・政策は男性も女性も、あるいは都市部・遠隔地、農村部を問わず、あらゆる障害者を含めなければならない。また、権利に基づき、インクルーシブで、多分野間アプローチを促進すべきである。
- 新規・既存を問わず、すべての法律、政策、事業、計画に障害問題を取り込む。
- 障害当事者団体、また障害者のために活動する団体の有効な参加により、障害に関する政策の策定、実施にあたっての調整、および実施状況のモニタリングを行うため、障害に関する国内の調整委員会を設立、または強化する。
- 障害者と障害者団体の発展を支援し、障害に関する国の政策決定過程に障害者自身が参加できるようにし、特に女性障害者の発展に重点を置き、性差別撤廃運動と同様に障害者自助団体への参加にも重点を置く。
- 特に貧困の軽減、初等教育、男女平等、若年層の雇用の分野で、ミレニアム開発目標を達成する取り組みの中に障害者を含める。
- 政策立案と計画実施のために、国の障害統計資料の収集分析能力を高める。
- 早期対応策を、0~4歳の障害児のための療育、保健とリハビリテーション、社会サービスを含むあらゆる分野に採用する。
- 障害原因の予防、リハビリテーション、障害者の機会均等を図る上で、地域に根ざした取り組みを強化する。
- 社会基盤とサービス開発において、特に農村・都市開発、住環境、交通と通信の分野で、経済効率を考慮した全市民のためのユニバーサル・デザインやインクルーシブ・デザインの概念を取り入れる。
3.行動のための優先領域
15. 「アジア太平洋障害者の十年」(1993~2002年)の期間中に十分な進展が見られず、行動が遅れた優先的領域には、更なる努力を集中して投入する必要がある。第58回ESCAP総会決議58/4は、以下を域内政府が取組む優先的政策領域として掲げている。
- 障害者の自助団体および家族・親の会
- 女性障害者
- 早期発見、早期対応と教育
- 自営を含む訓練と雇用
- 各種建築物および公共交通機関へのアクセス
- 情報通信技術及び支援技術を含む情報と通信へのアクセス
- 能力開発、社会保障および持続的生計プログラムによる貧困の軽減
優先領域
各優先的領域には、それぞれ以下の項目が含まれる:(a)重要課題、(b)(可能な場合)ミレニアム開発目標(c)びわこフレームワークの目標(d)これらの目標を達成するために必要な行動。
4.優先領域における目標と行動
1.重要課題
16. 障害をもつ人々を支援し、情報を伝え、その権利を擁護するのに最も適任なのは障害者自身であり、また、その能力を備えているのも当事者たちである。障害をもつ人々が自分たちの意見を積極的に発信し、意思決定に参加することが、障害者自身の生活の質の向上はもちろん、彼らを取り巻く地域社会全体の向上につながるということは多くの例が示す通りである。障害者の自助団体は、障害者が社会・経済的、文化的、あるいは政治的生活への完全参加を確かなものとし、地域社会の発展への貢献を可能とするような政策や法律等の策定・施行に対して、自らの考えを述べる資格を有しているだけでなく、十分な情報を把握し、自らのために声をあげる動機も十分備えていると言える。
17. 障害をもつ人々の自己代表権を認識し、彼らが意思決定過程に参加するために必要な能力を向上させることが肝要である。障害者自身が自分たちのかかえる課題について発言し、身近な地域社会や社会全般において自己の向上を目指し、自立した生活を可能にするような改革の必要性を唱え続けなければならない。しかしながら、自分自身のために声をあげられない子どもやその他の人々については、その必要がなくなるまで親や家族、あるいは他の支援者が本人の権利やニーズについて声をあげられるようにする必要があり、また、奨励されなければならない。
18. 民主的かつ代表制にのっとった障害者運動を展開するという手法は、障害者のニーズと権利に関する政府の適切な取り組みを確保するための一つの手段である。したがって、特に農村のグループや団体、あるいは障害をもつ女性や少女たち、知的障害者や精神障害者のように、取り残されている団体やグループを障害者自助団体に含む必要がある。
2.目標
- 目標1:各国政府、国際融資機関、そして非政府組織(NGO)は、2004年までに、すべての分野の障害者自助団体の結成と発展を推進するため、特にスラム街や農村に住む人々に焦点を当て、適切な資源配分措置を伴った政策を採用するものとする。また、政府は2005年までに、地方レベルにおける親の会の設立を保障するため方策を策定し、2010年までには国レベルの連合組織を結成するものとする。
- 目標2:各国政府と市民社会組織は2005年までに、障害者の生活に直接、あるいは間接的に影響を与えるような計画の策定と実施に関する意思決定過程に、障害者団体を完全に組み入れるものとする。
3.目標達成に必要な行動
- 各国政府は障害問題に関する国内調整委員会の指示の下、障害者の自助団体と各省庁、市民社会組織や民間団体との協議・諮問関係のレベルを引き上げるための施策を実施する必要がある。また、その施策には、女性の障害者をはじめとする障害者が、さまざまな意思決定過程への効果的な参加の仕方を学ぶ訓練が含まれなくてはならない。政府は、協議・諮問のためのガイドラインを作成し、各種障害者団体の代表が定期的にその協議・諮問過程を再検討・評価されなくてはならない。
- 各国政府は、国内の調整委員会の中に、様々な障害をもつ人々の代表から成る政策検討パネルを設置しなくてはならない。このパネルは、障害者に直接あるいは間接的に影響するすべての政策とその実施状況を評価するものとする。
- 各国政府は、国から地方に至るまでの全レベルにおいて、立法・司法機関はもちろん、社会生活のすべての分野における障害者の代表を増やすための措置をとらなくてはならない。また、そのことは差別是正措置や反差別法により促進されなければならない。
- 障害者自助団体は、障害をもつ青年や女性を含めメンバーが、地域社会全般および彼ら自身の団体内で、相談員的かつリーダー的役割を果たすために、そして、自助団体のメンバーのリーダーシップおよび運営能力を発展させるトレーナーとしての役割を果たすことができるように、メンバーたちの能力開発を図る事業を展開する必要がある。
- 国内の各種障害者団体は、農村の障害者が相互支援、意見表明および計画やサービスの紹介を行う自助団体への参加を促進し、また、農村・都市開発NGOや農村開発を推進する政府機関との協調を積極的に進めるための仕組みを開発する必要がある。
- 国際融資機関とNGOは、それぞれの開発政策の中で、障害者の自助団体を促進し強化するための資金配分・技術支援に高い優先度を与える必要がある。
1 重要課題
19. 女性障害者は、女性であり、障害があることによって幾重にも不利な立場に置かれている。多くは貧困者でもあるということから、社会で最も疎外された人々であると言える。障害をもつ女性や少女は、障害をもつ男性や少年と比べると、家庭内で差別を受ける可能性がはるかに高く、保健、教育、職業訓練、雇用および収入を得る機会を奪われており、社会的、地域的活動からも疎外されている。
20. 障害をもつ女性や少女は、さらに、身体的・性的虐待を受けるリスクが高く、子どもを生む権利を否定され、結婚や家庭生活に入る機会を奪われるといった差別を受けている。農村部の女性や少女は、より不利な境遇に置かれており、非識字率が高く、情報やサービスへのアクセスが限られている。幼い頃から障害者としての烙印を押され、拒絶され、また発達の機会を与えられないので、自尊心や地域社会における女性としての役割を持つことなく成長するのである。
21. 域内には、障害をもつ女性が障害者団体の中で更なる差別を受けているという国もある。そのような団体には女性メンバーが少なく、女性がリーダー的役職につくことはほとんどない。障害者団体の主唱議題に女性たちの関心事がとりあげられることはなく、若い女性障害者たちがリーダー養成研修の対象になってこなかった。
22. 女性運動は女性一般に地位向上をもたらしたが、障害をもつ女性たちの生活にはほとんど影響を与えなかった。女性の障害者が一般の女性団体に含まれることはなく、彼女らの問題は特別な問題としか扱われず、更に、彼女らはこの状況を変えるだけの声をあげる力をもっていなかった。
23. 政府は必要な支援サービスを提供し、女性障害者による開発の主流への完全参加を促進することによって、この不平等を是正するという特別な責務を負っている。
2 目標
- 目標3:政府は2005年までに、必要とされる分野において女性障害者の権利を守る反差別施策をとるものとする。
- 目標4:各国の障害者自助団体は、2005年までに、組織の運営、研修・訓練、主張活動を含む諸活動への女性障害者の完全参加と平等な代表権を促進する方針を採用するものとする。
- 目標5:障害をもつ女性が2005年までに国の主要な一般女性団体に含まれるものとする。
3 目標達成に必要な行動
- 各国政府は、女性障害者の権利を擁護し、差別から守るための施策を講じる必要がある。特に、保健サービス、教育、訓練および雇用への平等なアクセスを確保し、性的その他の虐待や暴力から保護するための施策を実施しなければならない。
- 各国政府、NGOおよび障害者自助団体は、女性障害者がおかれている状況について、国民の意識向上を図る事業を実施すると同時に、彼女ら自身の肯定的生き方や役割モデル、そして自己開発の機会を促す事業を実施しなければならない。
- 各国政府は地域、国および国内地方の各レベルで、ジェンダーに関連する適切な情報が女性障害者間で普及するような仕組みの構築を促進する必要がある。その中には、国の法制に関する国際的文書や情報が含まれなければならないが、それのみに限られるものではない。
- 障害者自助団体は、地域、国および国内地方の各レベルで、女性障害者を代表する者が障害者自助団体に加わることを保障しなければならない。
- 障害者自助団体は、会議やワークショップ、セミナーに参加する代表団の少なくとも半数を女性障害者で構成しなければならない。
- 女性障害者は、障害者自助団体が行う運営・管理および総務的な分野の研修に参加することを奨励され、また優先的に機会が与えられなければならない。
- 各国政府、NGO、障害者団体およびドナーは、ジェンダーの問題に対する女性障害者の意識の向上を図り、障害者自助団体のあらゆるレベルにおける政策・意思決定過程へ参加する能力を高め、政府との関係や市民社会で発言し、協議や諮問に関わる役割を果たす能力を高めるため、女性障害者を対象としたリーダー研修を実施しなければならない。
- 女性障害者は、障害者団体内に自助グループを設け、支援のおよび情報の発信や共有化の手段として、地域、国レベルのネットワークを設立しなければならない。
- 女性障害者の団体やネットワークは、障害をもつ少女たちの、特に教育や保健情報、研修、あるいは社会開発へのアクセスを重視した発展を促進しなければならない。
- 国および地域レベルの女性障害者のグループやネットワークは、情報の普及および発信と支援を広げるために、女性障害者とその自助団体を一般の女性団体に含め、女性障害者が抱える課題への取り組みをも含むように、一般の女性団体に向けて提唱しなければならない。
- 一般の女性団体は、利用しやすい会場や使いやすい形式の研修教材、そして必要な支援を準備して、特に障害をもつ女性が研修プログラムに参加できるようにしなければならない。
- 各国政府、NGO、障害者自助団体、ドナーおよび市民社会を含むすべての機関は、障害をもつ女性の選択する自由と自己決定に関する権利を常に擁護し、促進しなければならない。
1 重要課題
24. 入手可能な資料によると、アジア太平洋地域では、障害をもつ青少年のうち何らかの形で教育を受けているのは10%未満にとどまる一方、障害をもたない青少年は70%以上が初等教育を受けている。この状況は、教育はすべての児童の基本的権利であり、2015年までにはすべての児童に初等教育を受けさせるという国際的な指令があるにもかかわらず、この状況は存在している。政府は、次の「十年」において、あらゆる種類の障害をもつ児童のニーズに応える適切な教育を提供しなければならない。障害児の教育については、域内の各国政府の対応に大きな幅があり、児童は種々多様な公式・非公式の教育の場で、別々の、あるいはインクルーシブな形式の学校教育を受けていることが認識されている。
25. 障害児や障害をもつ青少年が教育を受けられないということは、特に職業訓練や就職への機会が減るばかりでなく、収入を得たりビジネスを行うための機会も減るということで、それは、更なる発展への機会から疎外されるということを意味している。教育や訓練を受けられなければ、社会・経済的自立の達成が妨げられ、永続的かつ世代を越えた貧困のサイクルに陥る可能性が高くなるのである。
26. 障害をもつ乳幼児や幼児には、早期発見・早期認定(0歳~4歳)を含む早期対応サービスを受けられることが必要であると同時に、彼らの潜在能力を最大限に引き出すために両親や家族に対する支援や訓練が必要となる。障害をもつ幼児への早期発見・認定および対応だけでなく両親や看護者への支援が提供されなければ、教育によって可能となる障害児の能力の向上までもが制限を受けるという二次的な「障害」に至ることになる。早期対応サービスは、教育と保健と社会サービス事業の協同作業でなければならない。
27. 現在、アジア太平洋地域の多くの国では、障害児および障害をもつ青少年たちの大半は都市部にあるセンター内の養護学校で教育を受けており、その生徒数は限られている。「特別なニーズ教育に関するサラマンカ声明および行動要綱」は、地元の普通校での教育を可能にするインクルーシブ教育が、農村地区を含めて大多数の障害児や青少年に最高の教育機会を提供すべきであると勧告した。個々の児童のニーズに見合うのが特殊学校や施設等での教育のみであるという場合は例外として、ケースバイケースで検討すべきである。障害児の中には、特殊教育が最も適切な教育形態であると思われる児童が存在することが認められている(注1)。地域の普通校で、障害児を含むすべての児童が受ける教育は、社会の中のバリアや、まわりの人々の否定的な態度を打ち砕き、障害をもつ人々が地域社会に溶け込むことに大きな助けとなる。親や地域を巻き込むと、その働きは更に強化される。(注1.「障害者の機会均等化に関する標準規則」に関する1993年12月20日付国連総会決議48/96の別添6.教育、パラ8、参照)
28. 障害児に対して質の高い教育を提供する場合の最大のバリアは、早期発見・早期対サービスの欠如、否定的な態度、排除的な方針や慣習、能力差のある児童を教える一般教師のための研修不足、柔軟性を欠くカリキュラムと評価システム、普通学級および特別学級の教師を補佐する特別スタッフの欠如、適切な教材の欠如および学校環境のアクセス面の不備等である。これらのバリアは、国の全児童・青少年を対象としたすべての保健および教育開発イニシアティブに障害児・青少年を含めて政策や計画を立案し、戦略を実践し、資源を配分することによって克服できる。
29. 各国政府は関係機関と協力し、障害者の生活の向上という基本的人権を満たすため、スポーツやレジャー、レクリエーションの機会とそのための設備を提供することが求められる。
2 ミレニアム開発目標
この優先領域におけるミレニアム開発目標では、2015年までに、男女を問わずどの地域の子どもたちも初等教育課程を完全に修了でき、すべてのレベルの教育を男女が平等に受けられるようにするとしている。
3 目標
- 目標6:2015年までに、すべての男女児童が初等教育課程を完全に修了するというミレニアム開発目標の対象者の中で、障害をもつ児童と青少年は最も重要部分を占める。
- 目標7:2010年までに、障害をもつ児童と青少年の少なくとも75%が初等教育課程を完全に修了できるようにする。
- 目標8:2012年までに、すべての乳幼児(0~4歳)は、生存を保障され、その家族に対する支援と研修を含む地域に根ざした早期対応サービスを受けられるようにする。
- 目標9:各国政府は、子どもの障害の早期発見を保障する。
4 目標達成に必要な行動
- 各国政府は、2015年までにすべての子どもが初等教育を受けるという「ダカール行動計画」および「ミレニアム開発目標」を達成するために、障害児を含むすべての子どもの初等教育を義務化する法律を、実施の仕組みをともなって施行する必要がある。「ダカール行動計画」を受けての「万人のための国内教育計画」を始めとするすべての国の教育計画に、障害をもつ青少年が明確に組み入れられる必要がある。
- 教育省は、障害児の家族や障害当事者団体と協議しながら、教育政策を企画・策定し、障害児が地元の初等教育機関に通学できるようにする教育プログラムを開発する必要がある。政策を実施するにあたり、全ての児童は学校に通う権利があり、学校は生徒の差異を受け入れる責任があることを明確に理解し、状況に応じてインクルーシブ教育のための学校制度を整備しなければならない。
- 一人ひとりの学習ニーズに最も適した学校を選べるように、様々な教育の選択肢が提供されなければならない。
- 教育予算において、特に障害児の教育のため、十分な公的予算が配分されなければならない。
- 各国政府は、適切な早期対応と、教育の提供、資源および支援事業の立案に必要な、0歳から就学期の障害児に関する総合的データを、他と協力しつつ収集しなければならない。
- 障害児の早期対応、ならびに就学前・初等・中等・高等教育のため、5ヵ年の目標設定が必要である。2012年までに75%の障害児が学校に行くという目標を達成すため、進ちょく状況はよくモニターされなければならない。
- 保健省および関連省庁は、障害を持ったすべての乳幼児(0歳~4歳)を対象とした早期対応サービスのための(専門医の)照会システムと共に、病院やプライマリー・ヘルスケアおよび地域の医療保健施設における障害の十分な早期発見・認定サービスを確立しなければならない。政府は定期的にハイリスク妊婦とハイリスク新生児に対して、出生時またはその後の障害の早期発見を行わねばならない。
- 保健・教育担当省庁は、障害を持った全ての乳幼児(0歳~4歳)とその家族に対し、早期対応、支援および訓練を提供するため、その他の関係省庁、自助団体、NGO、地域ベースの団体と協力し、早期対応サービスを確立しなければならない。
- 教育担当省を含む、政府は、国や地元のNGOと協力し、障害児の家族、学校および地域社会に対して、都市部と農村部の別なく、障害児および障害をもつ青少年のあらゆるレベルの教育に参加する権利について、啓発キャンペーンを実施しなければならない。また、就学比に男女差のある地域においては、障害をもつ女子の就学を特に進めなければならない。
- 域内の各国政府は、障害児を含むすべての児童のための学校で、特殊教育あるいはインクルーシブ教育という形の教育の質を高めるために、必要に応じて以下の施策を講じなければならない。(a)教育関連・学校職員、教師を含む教育関連の公務員の、障害児教育に対する積極的な姿勢を促進すると同時に、障害児が地元の学校で教育を受ける権利について啓発し、障害児および青少年が普通校に通えるようにするための実践的な方法について関心を深めるための研修を実施する;(b)様々な能力をもつ児童の教授法や技術、柔軟なカリキュラムと授業・評価法に関する研修を、教師を対象とした総合的な事前研修や職員研修という形で実施する;(c)教職に適する障害者の就職を奨励する;(d)児童のスクリーニング・認定、配置等の手続き、児童中心の個別指導、そして都市と農村地方におけるリリースセンターや専門的指導者などを含む学習・指導支援体制を確立する;(e)著作権保護の制約を受けずに、適切で利用しやすい教材、機器、器具を確保する;(f)個々の児童の能力に応じた、地域の状況に合った柔軟なカリキュラムを確保する;(g)学習者の多様なニーズに合った評価およびモニタリング手続きを確保する。
- 各国政府は2010年までにバリアフリーな学校および円滑に利用できる交通手段の実現に向けて、積極的な事業を展開しなければならない。
- 各国政府は、様々な障害をもつ児童や青少年を対象とした効果的な教育方法の開発をさらに進めるため、研究機関における研究計画を奨励しなければならない。
- 障害当事者、また、障害者支援団体は、障害児の教育への意見表明を優先事項として取り組むことが求められる。
- 域内での試みや成功事例を共有し、インクルーシブ教育への取組みへの発展を支援するため、地域内協力を強化する必要がある。
1 重要課題
31. 障害者を経済の主流に組み入れるという課題は未だ達成されていない。国際基準が実施され、国によってはモデル的訓練が実施され、雇用法の制定、国によって雇用に関する様々な政策や事業が試みられているにも関わらず、障害者、なかでも女性、青少年および地方の障害者の多くは教育や訓練を受けられず、雇用されず、あるいは不完全雇用で、貧しい状況にある。
32. 障害者には「一定水準の」仕事に就く権利がある。「一定水準の」仕事とは、自由や公正、安全および人間の尊厳が守られた中で行う生産的な仕事である。障害者は一人ひとり異なった能力を有しており、彼ら自身がしたいことを、障害によってではなく能力を基に選ぶ権利を持っている。彼らには、すべての人に与えられるのと同じ教育、職業訓練、雇用およびビジネス環境が必要である。特殊な支援サービスや支援技術、または職種内容の調整が必要となる人々もいるが、それらは彼らの生涯にわたる生産性や貢献に比べれば小さな投資である。さらに、生涯にわたって受け入れられないことがしばしば社会心理的障壁を生むことがあるが、この問題は、障害者の訓練や雇用状況を改善するには避けて通れない問題である。
33. 職業訓練と雇用の問題は、障害者の地域社会への完全参加という観点と、変化する人口統計と雇用というマクロ的な観点からの検討が必要である。更に、グローバル化や雇用の確保、貧困の軽減、青少年や高齢者の失業という問題に対応するには、これらの問題や対応の仕方が障害者にどのように影響するかを考慮しなければならない。
34. 一般的に、障害に関する訓練を受けた有能な職員は不足しており、特に訓練と雇用に関してはその傾向が顕著である。国と地域レベルにおける効果的な政策や計画の開発、実施、評価、普及に関わるその他の能力面の問題についても、引き続き取り組みが必要である。障害者はまた、サービスの消費者としてだけではなく、その意見主唱者、計画者、そしてサービス提供者として、常に積極的に雇用および訓練に関するイニシアティブと関わり続ける必要がある。
2 目標
- 目標10:2012年までに、少なくとも署名国の30%がILO「職業リハビリテーション及び雇用(障害者)に関する条約(第159号 1983年)」を批准する。
- 目標11:2012年までに、全署名国の職業訓練事業の少なくとも30%には障害者を含め、彼らのために適切な支援と職業斡旋およびビジネス開発サービスを提供する。
- 目標12:2010年までに、すべての国で障害者の雇用率および自営率を示す確かなデータをそろえる。
3 目標達成に必要な行動
- 各国政府は「職業リハビリテーションと及び雇用(障害者)に関する条約」(1983年)を検討し、批准、施行しなければならない。
- 各国政府は、訓練、雇用、自営、貧困軽減計画への障害者の参画の度合いを評価するため、政策、文書化した計画、調整機関および仕組みを整えなければならない。この評価活動には、雇用主や労働者団体のみならず、障害当事者団体および支援団体との協議が含まれなければならない。
- 各国政府は障害者の雇用を促進するために、雇用者のインセンティブや戦略を開発し、実践していく必要がある。また、多くの国においては政府自体が主要な雇用主なので、障害をもつ職員の雇用、昇進等においてモデル的な役割を果たすべきことを認識する必要がある。
- 各国政府は、職場および労働市場における障害者の平等な扱いと機会獲得の権利を守る差別撤廃法を検討しなければならない。政府は、民間で障害者の雇用を奨励および促進し、リストラによって影響を受ける障害者の権利を護る仕組みを整えなければならない。
- 各国政府、国際機関、NGO、訓練機関、およびその他の社会団体は、訓練された有能な職員を確保できるように訓練や雇用および職業リハビリサービスを提供するスタッフの数を増やして質を高めるように、より一層協力しなければならない。そのような訓練事業には障害者を積極的に採用し、職員として雇用しなければならない。
- 各国政府はNGOの協力を得て、障害者が一般の職業訓練を受け、雇用されるために必要な支援サービスを得られるように保障しなければならない。また、障害者を除外すると高い代償を払うことになるという認識のもと、参画への障壁を取り除くために必要とされる追加資金を配分しなければならない。
- 各国政府やNGOや障害者団体は、雇用主、労働組合、社会団体と連携して活動を進めることによって、協力関係や政策、相互理解を促進するとともに、障害者が公的、あるいは民間、または自営の場で働く際に利益を享受し、より有効な職業訓練を受けることができるようにしなければならない。
- 各国政府は雇用主団体や労働者団体、障害当事者団体・支援団体およびその他の団体と協力して障害者の職業訓練に関連した現在の政策、実践とその成果を点検し、現状との格差やニーズを認識し、グローバル化や情報通信技術(ICT)の進展により変化する職場のニーズや遠隔地や農村に住む障害者のニーズに対応しなければならない。
- 最重度の障害者のニーズに応えるための資金配分を行い、できる限り尊厳を守り、インクルーシブな環境の中で、就職準備ワークショップや地域に根ざした雇用支援等の方法を活用して、職業訓練と雇用サービスを提供しなければならない。
- 多くの国で正規労働の機会が不足していることを認識し、政府や国際機関、贈与者、NGO、その他の民間組織は、障害者および障害当事者団体・支援団体が、ビジネス開発、起業および資金分配に関する計画に平等にアクセスできるように保障しなければならない。
- 障害者団体を含む地域内の機関は、政府や国際機関との協力の下、特に地域的、文化的ニーズを反映した職業訓練と雇用のすべての側面における成功事例に関する情報収集と普及の仕組みを構築しなければならない。
1 重要課題
35. アジア太平洋地域の国々では、公共交通機関を含む各種建築物の円滑な利用ができないことが、依然として、障害者が積極的に社会・経済活動に参加することを妨げる主要な障壁となっている。国によっては、各種建築物への平等なアクセスが障害者の基本的権利として認められている。利用できない建築物や道路、交通機関を作ることは、障害者を一般社会から差別することを意味する。円滑に利用できる、つまりアクセシブルな環境整備を求めた障害者の運動の成果として生み出されたのが、ユニバーサル/インクルーシブ・デザインという考え方である。ユニバーサル/インクルーシブ・デザインの概念に基づく取り組みは、障害者だけでなく、高齢者や妊婦、幼児連れ等、社会の他の人々にも有益であることが証明されている。
36. 世界の高齢者人口の大部分がアジア太平洋地域に居住している。現在の人口動態の傾向からすると、その数は急激に増えることが予想される。また、豊かな国、貧しい国を問わず、ほとんどすべての国で男性よりも女性が長生きするため、高齢女性の割合が着実に伸びている。そして、男女を問わず、さらに多くの人々が長生きすれば、障害を持つ高齢者数も増加する。加えて、高齢者はしばしば重荷や負担と見なされるために、加齢に伴って現れる身体的障害は高齢者の社会的イメージを悪化させるだけであろう。しかし、老若を問わずすべての障害者は共通の問題をかかえており、等しく影響を受けている。共通の問題としては、我々をとりまく環境の中にある障壁で、例えば、各種建築物や公共交通機関へのアクセスの問題が含まれる。
37. ユニバーサル/インクルーシブ・デザインに基づく取り組みは、事故発生率を下げることにつながり、万人のための、より安全な環境を提供する。物理的障壁は、障害者の完全参加を妨げ、社会的、経済的生産性を低下させることがわかっている。したがって、建築上、設計上のバリアの除去と防止を目的とした投資が経済的に有効であることは、特に社会的・経済的参加に最も重要な領域(交通機関、住宅、教育、雇用、医療、行政機関、文化・宗教活動、余暇とレクリエーションなど)において十分証明されている。施設だけでなく、サービス全体が利用可能であるべきことを確認するのは重要である。この関連で、職員の訓練カリキュラムの中に障害者との接し方を重要課題として盛り込まなければならない。
2 目標
- 目標13:各国政府は、農村・農業関連も含む、公共施設やインフラ設備と交通機関の計画のため、アクセシビリティ基準を採択し、施行しなければならない。
- 目標14:新たに建設、または改築する陸上や水上、大量・軽量鉄道輸送および航空輸送システムを含むすべての公共交通システムは、障害者と高齢者にとって完全に利用可能でなければならない。既存の陸上、水上、航空公共交通システム(車両、停留所、ターミナル)も、可能な限り早急に利用可能なものにしなければならない。
- 目標15:インフラ開発向けの全ての国際的ならびに地域融資機関は、その融資・補助審査基準にユニバーサル/インクルーシブ・デザインの概念を採り入れなければならない。
3 目標達成に必要な行動
- 各国政府は、障害者団体およびプロの建築・土木協会等民間団体と協力し、展示や図書館、研究施設、情報センター等の活用を通して、アクセシブルな環境整備を実現するため、国および/または地域の情報交換のための仕組みの構築を支援し、研究機関や建築・土木関係の教育機関とネットワークを築かなければならない。
- 建築、設計と造園、建築と土木関連の専門教育や学問講座にインクルーシブ・デザインの概念を盛り込み、障害者の積極的な参加を得る移動ワークショップ等を含む地域内のすべてのデザイン学校が行う教員対象の講座に、実用的でアクセシブルナなデザインに関する効果的な指導を行うようにする必要がある。更に、CBR従事者のような最終的に障害者と密接に関わる専門家や他の経験豊かな実務者が、インクルーシブ・デザイン技術の普及の成功事例を学ぶことができる継続的教育開発研修コースを支援することが望まれる。
- アクセシビリティを高め、地域独特の知恵や素材の応用例を発掘するため、デザイン・コンテストや建築関係の表彰、ならびにその他の支援を通じて、革新的な技術開発を奨励することが必要である。例えば、触知できるブロックや滑らないタイルといった建築物のアクセシビリティを高めるものの材料を地元で開発し、入手可能にすべきである。また、革新的な技術を普及させるネットワークの立ち上げも望まれる。
- 各国で、どのように規定や基準が開発され適用されたか、またどのようにこれらがアクセシビリティを高めたかについて評価する制度設立への支援が必要である。広報活動や結果報告および改善策の指摘等により、個々の新築、または改築された建物より、むしろ地域全般についてのフィードバックや事例研究が重要である。
- 利用者としての障害者団体との協議など、さまざまな協議過程を通じ、公衆衛生施設や飲料水供給を含む障害者のアクセス・ニーズがすべての農村/農業開発事業に盛り込まれる必要がある。ただし、この場合のニーズは、公衆衛生施設や飲料水供給へのアクセスのみに限るものではない。
- 国、地方、地域の各レベルでアクセス担当官または担当部署を設置する必要がある。その役割には、建築家やデザイナー、開発者に対して技術的助言やアクセス規定に関する情報、インクルーシブ・デザインおよび農村部や都市部、都市部周辺における自然や人工的な環境にふさわしい技術について情報を提供することが含まれる。
- 障害者団体は、肢体、視覚、聴覚障害者だけでなく、知的障害者を含む様々な障害当事者団体のニーズを一つの声にまとめて代表し、建築物に関するニーズを一括して効果的に提示するため、自信を生み出す施策や権利擁護を推し進める施策を実施しなければならない。
1 重要課題
38. ICTは、経済成長の原動力として経済のグローバル化に拍車をかけている。しかしながら、ICTの発展は、持てる者と持たざる者、また先進国と途上国との間に格差をもたらした。
39. ICTが障害者へ与える影響には、良い面と悪い面の両方が存在する。ICTの発展により多くの障害者はその恩恵に浴し、新技術は、どんな技術レベルの障害者にも雇用機会を与え、地域で自立して暮らす機会を与えた。適切な訓練を受けた盲ろう者は点字表示機能のあるスクリーン・リーダーを使い、重度の脳性まひ者はインターネット上での情報交換に参加している。しかしながら、その恩恵のほとんどはまだ先進国の障害者に限られている。ICTの急速な発展によって、障害によっては予期しなかった問題が生じている。例えば、オンライン登録や銀行業務、買い物取引は、認知/知的、肢体、視覚障害・聴覚障害を併せもつ人々にとって利用できない場合がある。
40. 途上国の農村部では、ICT利用による大きな潜在的恩恵が考えられるが、アジア太平洋地域の途上国に居住する障害者の大多数は、貧しく、ICT利用から疎外されてきた。
41. 2000年11月、アジア・太平洋電気通信共同体(APT)主催による世界情報社会サミット・アジア地域会合が東京で開かれ、「21世紀におけるICTを通じたアジア・太平洋ルネッサンス」に関する東京宣言が採択された。東京宣言は、2005年までにアジア太平洋地域の人々が可能な限りインターネットにアクセスできるようにすべきだとし、デジタルディバイドの原因の一つとして、収入、年齢、性別とともに障害をあげている。また、2003年にジュネーブで、そして2005年にチュニスで世界情報化社会サミットが開催される。サミットでは、障害者や他の社会的弱者の問題が取り上げられなければならない。
42. 情報社会において、情報と通信へのアクセスは、基本的人権の一つである。版権所有者は、その内容が障害者を含むすべての人にアクセス可能となるよう責任を持つべきである。いかなる対海賊版行為管理技術もまたはデジタル権管理技術も、障害者による情報・通信へのアクセスを妨げるべきでない(注2)。情報通信技術は、テレコミュニケーション(電気通信)と放送システムのバリアを打ち破らなければならない。途上国はICTの分野で、より強力な支援を必要としている。(注2.情報と通信への権利は、例えば以下のようなものに対するアクセスを含む:)>
- 国の機関により購入・使用され、または公共の利用のために民間企業により購入・所有されるコンピューターのハードウェア・ソフトウェアおよび付属機器;
- 公共の通信設備;
- 地元ラジオ、ビデオの内容およびデジタルTVを含む放送システム;
- 電話サービスを含む電子通信システム;
- ウェブ、マルチメディアコンテンツ、インターネット電話を含むインターネットおよびウェッブコンテンツを作成するソフトウェア;
- 携帯通信機器を含むその他の消費者利用電子通信機器;
- 自動販売機を含む双方向取引機器;
- 電子情報システムを通じて得られるサービス;
- 教科書、教師用の教材、電子学習環境を含む学習機材;
- 手話を通した話し言葉と、話し言葉からの手話;
- 文字を持たない土着の言語を含む母国語による情報とコミュニケーション;
- コンピューター・スクリーン・リーダーや点字、その他あらゆる方法によって得られるすべての文字情報;
- 公共利用のための今後のICT
以上の事項へ障害者が直接利用することが何らかの理由で直ちに確保されていない場合は、ICT開発者は、その製品と障害者の利用する支援技術サービスとの効果的な相互運用性を確保しなければならない。
43. アジア太平洋地域の多くの国々で、手話、点字、指点字(触読手話)は、未だ標準化されていない。これらや他のコミュニケーション手段の開発および普及が必要である。このようなコミュニケーション手段へのアクセスなくしては、視覚障害者、盲ろう者、聴覚障害者はICTの発展から取り残される。より重大なことは、彼らが日常生活の中の言語とコミュニケーションの活用という基本的人権を奪われるということである。
2 目標
- 目標16: 2005年までに、障害者が域内の各国に住む他の人々と、少なくとも同じ割合でインターネットとその関連サービスにアクセスできるようにする。
- 目標17: 2004年までに、国際的ICT基準に責任のある国際機関[例、国際電気通信連合(ITU)、国際標準機構(ISO)、世界貿易機関(WTO)、ワールド・ワイド・ウェッブ・コンソーシアム(3WC)、モーション・ピクチャー・エンジニアリング・グループ]は、国際的なICT基準に障害者のためのアクセシビリティ基準を組み込む。
- 目標18: 2005年までに、各国政府はそれぞれの国のICT政策に障害者のためのICTアクセシビリティ基準を導入し、適切な施策によって、障害者を受益対象者に含む。
- 目標19: 各国政府は、それぞれの国で、標準手話、指点字、触察手話の開発調整・および普及に努め、出版物やCD-ROM等のあらゆる手段を使って、その成果を広く知らせる。
- 目標20: 各国政府は、それぞれの国で、手話・指点字通訳者、点訳者および音読者の養成と派遣を行い、これらの人材の雇用を促進する制度を確立する。
3 目標達成に必要な行動
- 各国政府は、情報と通信に対する障害者の権利をモニターおよび保護するための法律、政策および計画を公布し、施行しなければならない。例えば、障害者がアクセスできる情報コンテンツの作成を行う機関に、一定の条件下で著作権の適用を免除する法律などである。政府は、他の関連機関や民間組織と協力し、以下を行わなければならない。
- ICTを管轄する省庁・調整機関内に、内外との調整を行うICTアクセシビリティ担当部局を設置し、民間企業内にも同様の部局の設置を奨励する。
- ICTに関する政策決定者、管轄省庁およびICT関連民間企業の代表および技術者を対象に、障害問題に対する意識向上のための研修を行う。障害者がかかえるICTアクセスの必要性、ならびに自らも社会の生産的な一員になることへの要望やそのための能力があるということを知らせることも目的の一つである。
- 障害者がソフトウェア・ハードウェアの開発者や規格関連機関に自らのニーズを伝えるにはどのように意思疎通を図ればよいかの研修を行い、障害者のコンピューター識字教育と能力開発を支援する。
- 障害者が使用するICT機器の免税や支援技術機器の費用助成を含むさまざまな形の優遇制度を提供し、必要とする障害者が購入できるようにする。
- 国、地域、および国際的レベルの協同組合をはじめ、障害をもつ消費者の様々なネットワークを構築し強化することを支援し、個々に購入すると一般に高額なICT製品やサービスの購買力・交渉力を高める。
- ICTアクセシビリティ関連施策と基準の開発・策定において、障害者団体がその全過程に関われるように、あらゆる必要な措置をとる。
- あらゆる分野の障害者のために、ICTのアクセシビリティへの長期的取り組みを確保するため、ユニバーサルかつオープンであり、共有の国際的基準に基づいたICT開発を採用・支援する。その際、特に有効性が証明済みのアクセシビリティの内容や特徴を備えた基準に重点を置く必要がある。例としては、ワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアム(W3C)のウェブ・アクセスビリティ・イ二シアティブ(WAI)やDAISYコンソーシアムがある。
- 現地語ソフトやコンテンツに、統一モデル言語のような国内および国際標準文字エンコードおよびモデルを使用するよう要請し、文字エンコードおよびモデルについて、アクセシビリティの必要条件に関する対話を奨励する。
- 障害者のニーズを代弁し、その意を汲む民間団体が、障害者に必要な国際的、地域的基準の更なる統一に向けての議論に参加できるように支援する。そのような国際的基準がない場合、各国政府は国際的基準との適合性や相互運用性に留意しつつ、それらのニーズに応える別の活動を支援する。
- 二国間・多国間の支援機関や国際的支援機関は障害者のICTアクセシビリティを 向上させるという社会責任に基づいた報償基準を設け、障害者のICTアクセスを促進させる。
- 新しい技術や既存の技術が、障害を含めた基準やユニバーサルデザインの概念に基づいて開発されることを保障するため、ICTやテレコミュニケーション、放送の基準開発のための地域作業部会を設置、支援する。ICTに加え、標準化された手話や点字の開発を含む障害者のコミュニケーションを保障する施策も策定する。
G.能力開発、社会保障および持続的生計プログラムによる貧困の軽減
1 重要課題
44. アジア太平洋地域には、4億人の障害者がおり、その40%以上が貧困生活をおくっていると推定される。これらの障害者は、社会の他の人々が受けている保健、食べ物、教育、雇用、その他の基本的な社会サービスを含む権利の享受から疎外され、地域社会の政策決定過程に参加することからも疎外されてきた。
45. 貧困は障害の原因でもあり結果でもある。貧困と障害は相互に増長し合い、弱体化や疎外へと更に推し進める。栄養不足、危険な労働・居住環境、不十分なワクチン接種や保健と妊婦ケア、不衛生、そして障害の原因に関する不十分な情報、戦争や紛争、自然災害が障害をもたらす要因である。これらの多くは防ぐことができるものである。障害はまた、生計手段へのアクセスが限られることや、労働市場や経済から疎外されることによって貧困を促進する。これは個人だけでなく、しばしば家族全体に影響を及ぼす。
46. 高齢者数とその割合の増加は、障害者の増加につながり、さらに人類の貧困を促進する要因となりうることを示してきた。高齢者の問題は、加齢に伴う障害の発生と、適切な保健サービスや社会保障の提供と関連している。高齢化社会においては、特に、現行の社会保障制度が十分かどうかという意味において、これらの課題が国の保健行政や長期的な介護システムに大きな影響を与えるであろう。
47. 貧しい障害者のための社会サービスが低いレベルに留まっている主要な原因は、個々の家族や地域社会に根ざしている。しかしながら、アジア太平洋地域の途上国の障害者福祉レベルが低いことの決定的な要因はほとんど知られていない。要因分析のために必要な、家族や地域社会レベルの社会・経済調査データが欠如しているのである。地域社会レベルのインフラ開発が、貧しい障害者へのサービスの提供にどの程度影響があるか調査することが重要である。
48. 障害原因の予防とリハビリテーションと障害者のエンパワーメントと意識や行動の変化とを関連付けた統合的な取り組みが必要である。障害の意味を開発の主要な課題として認識すべきである。その重要性を貧困や人権、ならびに国際的な合意を得た開発目標の達成と関連付けて認識することが望まれる。世界の貧困撲滅は障害者の権利とニーズへの考慮なしには達成され得ない。
49. 国連ミレニアム開発目標の一つに、貧困撲滅という具体的な目標がある。これは前向きなアプローチである。しかしながら、障害者が不釣合いなまでに多数を占める極貧層ではなく、貧困から救出するのが最も容易な層にばかり目標達成のための努力が向けられる可能性があるので、この戦略には被害を受けやすく、忘れてはならない障害者層を見逃す危険性がある。障害者の貧困の根本原因は、複雑で多面的である。それゆえ、ミレニアム開発目標を達成するための貧困緩和戦略において、障害者を対象グループに優先的に含むよう意識的に努力しなければならない。
2 ミレニアム開発目標
50. この優先分野におけるミレニアム開発目標は、2015年までに、現在一日の収入が1ドル未満の人々や飢えに苦しむ人々、そして安全な飲み水を入手、購入できない人々の割合を半減させるというものである。
3 目標
- 目標21: 各国政府は、1990年から2015年の間に、現在一日の収入/消費額が1ドル未満の障害者の割合を半減する。
4 目標達成のために必要な行動
- 各国政府は、極度の貧困と飢えの根絶に関するミレニアム開発目標を達成するため、国の貧困緩和事業の主要な対象グループとして障害者を直ちに組み入れる必要がある。
- 各国政府は、障害者のためのサービスに十分な農村開発と貧困緩和の財源を割り当てる必要がある。
- 各国政府は、貧困障害者の基礎データを確保するため、ミレニアム開発目標のための収入と貧困、教育、保健等の基礎データの収集や分析に、障害の規模と貧困層分布図、障害を含めなければならない。
- 貧困障害者に対する資源配分の増額および障害に対する社会的資金割り当ての導入
- 市民による評価方式の活用を含む、より効果的な方法を使った現行の社会、経済政策の参加型評価
- 身体障害や精神障害をもつ高齢者や障害児がいる貧困家庭に対する奨学金および/または健康保険など、適切な社会保障計画の策定
- 障害者とその家族を対象とした包括的開発政策
- 各国政府は、以下の施策を通じて、障害問題を対貧困層開発戦略の中心に位置付けなければならない。
- 各国政府は、各省庁や市民社会組織、民間セクターの能力開発のモデルとして、障害者の貧困緩和の成功事例を文書化し、普及させなければならない。
- 各国政府は、障害問題を開発政策に盛り込むという観点から、国連の支援を得て、政治家、障害者団体および地域社会開発機関に対して障害者問題の重要性を訴え、戦略的な協力関係の構築を促進しなければならない。
- 障害の原因を減らし、リハビリテーション・サービスの提供を目的とした予防策は、政府、民間セクターおよびNGOの通常業務の主要部分を占めなければならない。障害原因の予防とリハビリテーションを目的とする事業は、国家計画や政策および予算に含まれるべきである。
- 各国政府は、障害原因の予防および障害者のリハビリテーションに関する国の戦略を立案し、採択しなければならない。
- 障害者のリハビリテーションに関する国の戦略において、3つのアプローチ、すなわち施設型、アウト・リーチ型、そして地域に根ざしたCBR型のすべての役割を認める必要がある。特に、CBR型のアプローチは、最大限の範囲に対してサービスを提供し、費用対効果が最も高い点を強調しなければならない。
- 保健サービス供給システムには、政府系、非政府系を問わず、理学療法や作業療法といったリハビリテーション・サービスや必要な支援機器サービスの提供を含まなければならない。精神障害や肢体不自由をもつ高齢者の保健や性別を重視した対応策についてはほとんど知られていない。精神病を患う高齢者のためのサービス提供には、注意が必要である。農村部や都市部の貧困地域を含む地域レベルにおいてサービスを受けることができる点を特に重視しなければならない。
- 各国政府は、障害者が相互支援をしたり、人権擁護活動をしたり意思決定過程に参加したりする際に必要な能力の向上を図るため、農村部や都市部の貧困地域において、障害者の自助団体およびその連合組織の設立を支援しなければならない。
5.「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」の目標達成のための戦略
51. 下記の戦略は、各国政府が市民団体との協力の下、4節に挙げている目標を達成するのを支援しなければならない。
52. 「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」(2003~2012年)を国および地方レベルで実施するためには、障害に関する国の行動計画が不可欠である。
- 戦略1: 各国政府は、2004年までに、障害者団体およびその他の市民団体と協力して、「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」(2003年~2012年)の目標・戦略実施のための、包括的な国の5ヵ年行動計画を策定し、採択しなければならない。この計画には、一般の開発計画・事業に障害を盛り込むようなインクルーシブな障害政策・事業が含まれなければならない。
53. 障害問題への取り組みを前進させるに当たっては、権利に基づくアプローチをとらなければならない。障害者の市民としての権利や文化的、経済的、政治的、社会的権利に留意し、これを保障する必要がある。障害問題は、開発や人権問題に関する議論として扱い、国の計画に組み入れなければならない。世界的には、40以上の国が障害者差別禁止法を採択したが、アジア太平洋地域では、わずか9カ国が採択したにとどまっている。
- 戦略2: 各国政府は、特に差別撤廃を実現するために、障害者の権利を保護する法律と政策の採択について、あるいは現行の法律について見直しを行わねばならない。その中で、障害者に対する差別の中身が何であるか、明確で具体的な定義をする必要がある。そのような法律や政策は、国連が定める人権と障害に関する基準に適合していなくてはならない。障害者は、そのような法律の下で権利を行使できるように、効果的な対処法へ平等にアクセスできるようにすることが望まれる。
- 戦略3: 各国の人権機関は、障害者の人権に対する人々の関心を高め、障害者が全力でその役割を果たせるように統合を図らなければならない。障害者の人権を擁護するため、各国政府は各地域の具体的状況に合わせて、独立した障害者人権擁護機関を設立することを検討しなければならない。
- 戦略4: 各国政府は、市民社会の障害者団体を含む障害者が、自分たちの生活に影響を与える法律や政策の策定作業に協力し、そのよう法律や政策の実施状況をモニター・評価すると同時に改善を提案することに初期の段階から十分に参画できるようにしなければならない。
- 戦略5: 各国は、中心となる国際人権条約 (注3)の批准を検討しなければならない。障害者団体との協議後、各国政府は批准した条約の監視機関に提出する報告書の中に、障害者の権利に関する具体的な情報を盛り込むことが望まれる。 (注3.6つの中心となる国際人権条約とは、「市民的及び政治的権利に関する国際規約」、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」、「拷問禁止条約」、「子どもの権利条約」、「女子差別撤廃条約」および「人種差別撤廃条約」である。)
- 戦略6: 各国政府は、「障害者の権利と尊厳の促進および保護のための統合的かつ包括的国際条約」の策定に向け、総会決議56/168(2001年12月19日)により設置されたアドホック委員会の業務を支援し、これに貢献することを検討しなければならない。また、その際に、世界のすべての地域からの幅広い範囲の障害者団体による完全参加を促進・円滑化しなければならない。
- 戦略7: 各国政府は、「障害者権利条約(案)」(注 国連決議56/168 2001年12月19日)の策定、採択過程に国、地域、国際レベルにおいて障害者や障害者団12体が参画できるようにしなければならない。この条約が採択されれば、障害者の権利と責務について、当事者主導の強力な監視システムが確立されることになるであろう。
54. 充分なデータがないことが、アジア太平洋地域において、計画の実施を監視および評価する政策と施策の策定を含む障害問題の軽視につながる最大要因の一つになっている。多くの発展途上国では、収集したデータには障害の分布が完全には網羅されていない。このようにデータが限定される要因として挙げられるのは、適用される概念的な枠組み、調査対象と範囲、障害データの収集に使われる定義、分類および方法論等である。また、障害の定義と分類に使われる共通体系が、域内で一律に適用されていないことも認められている。この点に関して、共通体系を作成する基盤として、アジア太平洋地域諸国で「国際生活機能分類(ICF)」をより広く利用することが望まれる。
- 戦略8: 各国政府は2005年までに、障害関連のデータ収集と分析の体系を作成し、政策決定と計画策定に役立つように、障害別に分類した適切な統計資料を作る必要がある。
- 戦略9: 各国政府は、2005年までに、地域内の国別の比較が可能となるように、「障害者統計の開発のためのガイドラインと原則」(注4.国連の出版物 販売No.E.01. XVII.15.)に基づく障害の定義を採用する必要がある。
D.障害原因の予防、リハビリテーションおよび障害者のエンパワーメント強化のための地域に根ざしたアプローチ
55. アジア太平洋地域の発展途上国の多くは、従来の施設型であり中央集権的なリハビリテーション事業や計画から、それぞれの地域に適したアプローチに切り替え、あるいは補いつつある。社会的・経済的環境としては貧しく、失業率が高く、社会サービス資源が限られた地域に適したアプローチであり、その中心をなすのが、地域に根ざしたリハビリテーションプログラム、つまりCBRプログラムである。地域に根ざしたアプローチが特に功を奏するのは、障害原因の予防と障害児の早期発見・早期対応、農村に住む障害者への対応をはじめとし、社会的・文化的・宗教的活動を含む、地域におけるすべての活動への障害者の完全参加を実現するための啓蒙活動や人権擁護活動においてである。教育や訓練、雇用におけるニーズを満たすことも、このアプローチによって可能となる。CBRでは、障害者自身がイニシアティブをとって、その選択・管理する主体となることが不可欠である。
- 戦略10: 各国政府は、障害者団体や市民団体と協力して、障害原因の予防や障害者のリハビリテーションとエンパワーメントを目指して地域に根ざしたアプローチを促進するために、国の政策の策定が未だの場合は直ちに策定しなければならない。CBR全体が人権に基づくアプローチに裏付けされていること、そしてピア・カウンセリングなど、自立生活の考え方をモデルとしていることが不可欠である。
6.「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」の達成のための協力と支援
56. この新たなフレームワークの重要な力点の一つは、小地域レベルでの政府間の協力と連携を強化することである。同一小地域内の諸国には共通の問題や要望があり、共通の制限にしばられているため、相互支援や連携のためには最適の立場に置かれているといえる。この意味において、小地域内の各国政府は「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」の実施にあたり相互支援するためにも、自地域内で独自の優先事項と行動計画を策定することが求められる。
- 戦略11: 各国政府は、APDF(アジア太平洋障害フォーラム)のような関連NGOやアジア太平洋の小地域内の障害者の自助団体と協力して、「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」に掲げられた目標と戦略達成するため、2004年までに、各国政府を支援するための小地域独自の仕組みを築かなければならない。
- 戦略12: 小地域内の各国政府は関連NGOと協力して、小地域内における障害に関する活動調整のため、適切な小地域機関を選んで連絡調整の拠点を設置しなければならない。
1. アジア太平洋障害者センターとの協力
57. アジア太平洋障害者センターは、2004年を目途にバンコクに創設され、「アジア太平洋障害者の十年」の成果としてアジア太平洋地域における障害者のエンパワーメントとバリアフリー社会の促進を目指す。同センターの主な活動は、障害者および障害者と共に活動する人々を対象とした訓練と情報提供である。
- 戦略13: 各国政府、国連、市民組織、および民間団体は、アジア太平洋地域の障害分野において同センターの訓練・コミュニケーション機能を協力して支援し、活用しなければならない。太平洋地域における障害者の能力開発についても、同センターによる明確な取り組みが望まれる。
2. 特定領域の卓越した研究拠点(Centers of Excellence,COE)のネットワーク化
58. アジア太平洋地域の障害の分野で新たなアプローチを実施するにあたって、政府機関だけでなく、市民組織や民間団体も研究開発に携わっている。これらの機関や団体を「卓越した研究拠点」と認定し、最大限の協力や連携が実現するように、機関・団体間の情報、経験、人材の交流を通じたネットワーク化を促進することは有益であろう。このようなネットワークを構築し、維持するにあたっては、アジア太平洋障害者センターが中心的な役割を担うことが出来るであろう。
- 戦略14: 各国政府、市民組織、および民間団体は、協力関係や協調を最大限に生かすため、特定領域内に卓越した研究拠点のネットワークを構築しなければならない。
- 戦略15: ESCAPと他の国連機関は、特定領域における卓越した研究拠点を認定し、その振興を図ることによって、拠点間のネットワーク構築を支援しなければならない。
- 戦略16: アジア太平洋地域内の各国政府は、貿易、技術移転、人材資源の開発にあたり、迅速かつ効果的な資源の共有が可能となるよう協定を結ばなければならない。各国政府はまた、地域内協力を促進して情報交換を推進し、「びわこミレニアム・フレームワーク」の目標を達成した良い事例については記録に残すことが求められる。
59. 「アジア太平洋障害者の十年」(1993~2002年)は、特にアフリカ諸国において国際的なレベルで開発に影響を与え、1999年には2000~2009年を「アフリカ障害者の十年」とすることが宣言された。また、アラブ諸国も2003年~2012年を「アラブ障害者の十年」と宣言することになって、これは新たに延長されたアジア太平洋地域の障害者フレ-ムワークと時期を同じくするものである。地域的のプログラムを強化し、他の地域の経験を学び、地域ごとの障害に関するフレームワークが相乗効果を生み出すためには、地域間の交流を押し進めることが重要である。
- 戦略17: アジア太平洋地域とアフリカ地域、ならびに西アジア地域が、地域間の情報や経験、専門知識の交流を通じ、各地域の十年計画の実施にあたって相乗効果を生み出すためには、協力と協調を強化する必要がある。それによって、すべての地域が利益を享受できるであろう。
7.モニタリングと評価
60. 「21世紀におけるアジア太平洋地域の障害者のためのインクルーシブで、バリアフリーな、かつ権利に基づく社会の促進」に関するESCAP総会決議58/4(2002年5月22日)は、ESCAP事務局長に対し、「十年」の終了まで2年ごとに、その実施の進捗状況に関する報告書をESCAP総会に提出するよう求めている。ESCAPは達成状況の評価と、「行動のためのびわこミレ二アム・フレームワーク」の実施に必要な行動を確認するために2年ごとに会合を開催する。この会合には、政府省庁、NGO、障害者の自助団体およびメディアによって構成される各国の障害者問題国内調整委員会の代表が招かれ、国および地方レベルでの「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」の実施状況を評価する報告書を発表する。障害者の自助団体は、この評価活動に積極的に参加することが求められる。地域会合では、毎回以下のテーマ領域内で採択された目標に焦点を当てる。
- 障害者の自助団体、女性障害者、教育、訓練および雇用
- 各種建築物および情報・通信へのアクセス
- 社会保障と持続可能な生計手段の確保による貧困軽減
61. 各小地域内の各国政府は小地域会合を開催し、それぞれの小地域の優先事項と行動計画に基づいて、上記の地域レベル会合と同様に達成状況の評価と「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」の実施にとって必要と思われる行動の確認を行わなければならない。
B.「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」の調整およびモニタリングのための地域作業部会
62. 地域作業部会は国連と各国政府、そして地域内の障害者団体を含む市民組織から成り、定期的に会合を開催し、「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」の実施について調整およびモニターを行う必要がある。
C.「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」の中間評価
63. 「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」の中間評価が行われなくてはならない。この評価に基づいて、この「十年」の下半期の目標と戦略的計画を修正し、新たな目標と戦略的計画の策定を行うことができる。
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