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第3回アジア太平洋CBR会議(東京)
扶康會(フー・ホン・ソサエティ)(香港)による報告書(全文)の提出

題目:障害者インクルーシブ事業

プレゼンテーションのタイトル:
社会的事業戦略による障害者のインクルーシブの機会と課題:香港の文化的名所における配膳事業の経験談

マク・シルビア氏、クオック・ジョセフ氏

1. 序論

香港のソーシャル・ワーカーにとっての大きな課題は、障害者が自分に合った有給の仕事に携われるよう促進することです。2013年度香港の障害者における貧困状況報告書(13ページ目・2014年香港特別行政区政府より)で、労働年齢層(18~64歳)の障害者と老年期の障害者のうち経済活動人口の割合はそれぞれ39.1%、2.1%であることが分かっています。それら両方の数値は香港全体の経済活動人口(それぞれ72.8%、7.9%)に比べるとはるかに低いです。

扶康會(FHS)は香港の主要な非政府組織(NGO)であり、35年以上に亘って知的障害者、心理社会的障害者、複合障害者および障害者の家族に対してサービスの提供や支援を行っています。何年もの間、FHSは作業能力のある障害者が自分に合った就職先を見つけられるよう手助けする中で課題の対処に向けて熱心に取り組んできました。戦略の一つは、社会的事業(SE)に従事することであり、さまざまな持続可能な事業の運営を通して、障害者のために就職インターンシップや有給の仕事を提供することを目指します。この報告書では、配膳事業に関する社会的事業の目的とビジネスモデルについて論じ、「5R構想」すなわち、リハビリテーション(Rehabilitation)、享受(Relishing)、追憶(Reminisce)、くつろぎ(Relaxation)、記憶(Remembering)がこの事業の運営のためにどのように応用されているかについても議論します。

2. 香港における障害者の雇用状況と社会的事業

悲しいことに、障害者の貧困率45.3%というのは香港の人口全体の貧困率19.9%と比較すると著しく高い(2.3倍)です。(2014年香港特別行政区政府より)さらに報告では、労働市場に参加している労働年齢層の障害者に関して、その失業率(6.7%)は全体の同年齢の失業率(3.7%)より顕著に高く、職場における大きな課題の結果として、障害者に大きな経済的負担をもたらしていることが明らかになりました。(15ページ目・2014年香港特別行政区政府より)

SEは障害者インクルーシブ雇用を強化するという最終目標とともに、具体的な社会的目標を達成するため、起業家的方針や戦略をもって運営される革新的な事業です。香港におけるSEは1990年代初めに始まり、2000年以降に急速に発展しました。(10ページ目・2007年チャン氏より)SEでは、失業している障害者に福祉の支援を提供するのではなく、障害者が自力で働き、自立することを奨励するための「ワーク融合」アプローチを採用しています。

今までSEの普遍的な定義はありませんでした。一般的に用いられる定義は次の通りです。「社会的事業は営利と社会的目標という、いわゆる「二重の利益」を維持する一般的な事業と異なる。事業の運営は最終的な社会的目標を達成するための手段である」(10ページ目・2007年チュア氏より)2015年までに香港では500件以上のSEがあり、配膳事業、家事手伝いサービス、リサイクル業など幅広い分野の事業にわたります。資金源や資金調達の仕組みは綿密に計画されています。政府からの資金を事業の立ち上げ費用に充てる場合もあれば、事業の運営のために民間資金を受ける場合もあり、また民間企業によって始められた事業さえもあります。したがって、社会的(福祉や雇用機会の創出)目標と経済的(収入)目標の両方を重視すると、香港におけるSEは財政的に維持していくことが非常に難しくなります。

3. 扶康會と社会的事業

FHSは政府から支援を受けている非営利団体で、1977年に香港で設立されました。FHSの目的は、障害者が地域社会に完全に融和したメンバーとして、自分のあらゆる能力を向上させ、彼らの生活状況の中で出来る限り最大の自立を達成できるような機会を提供することです。現在、FHSは50以上のサービス部門を運営しており、約4,000人の障害者と彼らの家族に対してリハビリテーション、開発、福祉、支援サービスなど幅広い分野のサービスを提供しています。

康融服務有限公司(ホン・ユン・サービス株式会社)(HYSL)は2003年、FHSによって設立された社会的企業で、FHSの社会復帰リハビリテーションサービス(VR)の役割を担い、事業経営を通して障害者のために仕事の斡旋や雇用の機会を提供することでソーシャルインクルージョンを強化しています。HYSLは配膳事業、清掃事業、 害虫駆除業、小売業を運営しており、従業員全体の75%を占める障害者に対して50以上の就職口を提供しています。HYSLはここ12年で、障害者に対して300人分前後の雇用機会を提供し、約400人分の職業訓練や就職先の斡旋を行いました。

FHSは障害者のソーシャルインクルージョンと雇用機会の向上を目指して、配膳事業への競争入札や公開入札に参加することで積極的に対応しており、ここ2年で2件の事業の落札に成功しました。1件は香港海防博物館(HKMCD)での事業、もう1件は香港歴史博物館(HKMH)での事業で、どちらも香港の歴史的名所です。

4. 経験の共有―香港の文化的名所で実施された障害者インクルーシブ配膳事業

シティ・カフェはFHSの運営する飲食店の一つで、香港の歴史的名所であるHKMHの中にあります。FHSは競争入札で落札し、2014年10月、シティ・カフェの営業権を獲得しました。シティ・カフェは自己調達資本に加え政府からの助成金で始められ、3年以内に自立可能であると期待されています。政府からの助成金の支給基準の一つは、少なくとも50%の障害者を雇用しなければならないことです。

FHSはシティ・カフェの操業開始当初と営業後の3年間まで政府からの助成金を得られますが、長期的に事業の存続を達成しなければなりません。持続可能な障害者インクルージョン事業の概念を実現させるために、FHSは5R構想すなわち、リハビリテーション、享受、追憶、くつろぎ、記憶を応用することでシティ・カフェを運営しています。シティ・カフェは5Rを応用し、博物館のテーマに合った歴史的なスタイルに内装された空間で香港の伝統的な料理を提供し、障害者インクルーシブ配膳事業の中で顧客にとって記憶に残る楽しい経験を作り上げることを目的としています。したがって、シティ・カフェは、あらゆる階層の顧客が料理を楽しみ、香港の歴史や食文化について語らい、あっと言う間に過ぎる人生の中でくつろぐための理想的な場所であり、障害者が社会と融和するためのリハビリテーションの場です。また、そのカフェは、思い出に残る楽しい所だったという記憶を訪問客に呼び起こさせる場所としての目的もあります。

5Rの中の1つ、リハビリテーションは障害者インクルーシブ事業を生み出し、雇用機会を向上させることを目指す私たちの重要な目的ですが、その他の4つはカフェの経営と促進を成功させるための重要な事業要素です。5R構想の応用で、カフェの運営はうまくいき、成功するということが分かりました。シティ・カフェは現在、全従業員のおよそ70%である、12人の障害者を雇用しており、政府からの助成金提供の基準を優に超えています。そのカフェは2015年5月における障害者の高い雇用率が認められ、政府社会福祉局から「思いやりのある社会的企業」を受賞しました。2015年7月までに、売上収益は1か月当たり3万8,500米ドル(30万香港ドル)近くであり、1日当たり300以上の注文取引が行われました。顧客は障害者から提供されたサービスを快く受け入れています。つまり、障害のある従業員は、やりがいのある仕事の機会に携わっているだけでなく、効果的な障害者インクルーシブ事業の中でも働いているのです。

カフェの運営をさらに成功させるために、FHSは有名企業や個人コンサルタントなど広い社会的ネットワークを結集し、配膳業やマーケティングの専門家を送り、カフェの運営に関わる事業の助言を提供しています。これがカフェのメニューや料理の品質の向上につながっています。

5. 結論

5R構想によって、カフェの運営は円滑に始めることができると思われます。しかし今後、本当の意味での課題が私たちを待ち構えています。社会的(障害者の雇用機会の創出)目標と経済的(3年以内の自立運営)目標という2つの目標があるので、シティ・カフェは営業開始後3年以内に、財政的な持続可能性を達成しなければなりません。2011年5月1日からの最低賃金法の導入により、事業の運営費は増加しています。リハビリテーションサービスの供給に携わるNGOとして、FHSは障害者インクルーシブ事業の発展を強化する機会を求め続けます。

最後に、私たちは香港において近い未来、「すべての事業がソーシャルインクルーシブ事業」になることを願っています。

以上

参考文献

チャン, K.T. (2007)「香港における社会的企業」,『社情』2007年6月18日発行, p.10, 香港社會服務聯會,http://webcontent.hkcss.org.hk/cm/cc/scenario/download/18_focus.pdf(参照2015-7-23)

チュア, ホイ=ワイ(2007)「香港における社会的企業」,『社情』2007年6月18日発行, p.10, http://webcontent.hkcss.org.hk/cm/cc/scenario/download/18_focus.pdf(参照2015-7-23)

香港特別行政区政府(2014)「2013年度香港の障害者における貧困状況報告書」, http://www.povertyrelief.gov.hk/eng/pdf/Hong_Kong_Poverty_Situation_Report_on_Disability_2013(E).pdf (参照2015-7-23)