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第3回アジア太平洋CBR会議

Introduction to ‘Rhythm Dynamic Program” (RDP)
リズムダイナミックプログラム(RDP)の紹介

RDPは、音楽を様々な人間発達プログラムにおける手法や手段として実践するものである。音楽は変化を起こす道具あるい動因になるのである。

リズムや打楽といった手法は、健常者や障害者といった区別もなく、幼稚園から大学レベルまで、また少数民族やコミュニティーにまで用いられている。

音楽が参加者の関係を構築することになる。この関係構築の目的は対象者の生活をより良くしていくことである。この目的達成のために、独特の音楽的な運動や活動が行われている。これらにはコミュケーション力、認知機能、運動機能、感情、また社会的スキルの発達が含まれる場合もある。また効果的な手法として、歌唱、楽器演奏、リズム体操、言語障害者に対する異なった音域の楽曲鑑賞が挙げられる。

この包括的なプログラムは、障害の研究や、障害者の雇用、教育、健康、精神、社会参加といった面についての理解や啓発にも関係している。実際には、これまで未経験である障害者とコミュニティーの双方が協同し、芸術を取り入れたり、コミュニティーが介入する方法である。

音楽は最も安全な方法だという筆者の意見に、多くの一般の人々は賛同してくれる。音楽は嫌いだという人をご存知ですか?(筆者の長年に渡る経験からすると、限定的な音域しか聞こえない重度の聴覚障害者においても、隠れた才能や創造的また改革的な能力を発掘するような訓練も可能である。)

リズムダイナミックプログラムは1997年に取り組みが始まったが、これは健康増進のためのリズムに関する実際的な指導者であるアーサー・ハル氏との偶然の出会いによる。氏がこの研究に向かうような刺激を与えてくれたおかげで、数年後にリズムダイナミックプログラムが誕生した。筆者にとって最も重要なことは、このプログラムの効果についてである。音楽家であれば、当プログラムを実施することも可能ではあるが、それぞれの音楽的な訓練で何を目的にしているのか、また音楽教育ではないことについても理解しておく必要がある。

RDPは音楽療法ではなく、コミュニティー音楽という分野に属する。(出典:ISME 国際音楽教育協会)1996年、リバプールにおいて、コミュニティー音楽活動の目的をISMEが次のように定めた。「コミュニティー音楽は、全ての人々に自分自身の音楽を作成、創造しうる権利と能力があること気付くよう導く力である。」コミュニティーアートの発展において中核をなすのは、指導者が教師としてではなく、むしろ介入者として活動することにある。音楽活動では、専門家(演奏家、教育者、学生、活動家)と、様々な可能性を持つ一般の人々が協同することで、多様な方法で楽曲を作成したり、創造性の発達や表現に繋がるような経験を得ることが可能である。この場合、関係する個人、団体、コミュニティーが音楽に通じている必要はない。重要な因子は、個々人が持つ価値観、団体の中での役割や位置、あるいは近隣住民との関係や生活習慣といったことになる。これらを背景に、コミュニティーミュージックのプログラムは、個人や社会を発展させる道具として活用することができるのである。

筆者がこのプログラムにリズムや打楽を用いる理由は?その前にリズムについて理解しなければならないが、リズムとは?

リズム‐音楽においては音の強弱や拍を周期的に繰り返すこと

リズムなしでは音楽は成り立たず、活気を与え、秩序性を生み出すリズム独自の潜在力については、音楽における最も重要な因子であろう。例えば、打楽器は創造的なエネルギーを発散させ、表出するための素晴らしい道具である。様々な打楽器やドラムの演奏は、他に類がないような刺激を脳に与えるのだ。ただ、曲譜の理解やリズムの作用を分析すること、またそれらの結びつきは非常に複雑な思考プロセスとなっている。最も近年の研究では、このような脳活動への刺激が定常化することが、IQの向上に寄与するという結果が示された。脳活動に与える打楽器やドラムの演奏におけるその他の効果として、理学療法、ストレス緩和、さらにチームワークといった社会的スキルの向上、自尊心の構築、訓練、論理的思考の向上、創造性の表出、心的平衡、人生のエンリッチメント、素晴らしい気分向上法、フィットネス、そして他の非生産的活動に対する楽しい選択肢としての役割がある。コミュニティーで一緒にドラムを叩き、リズムに乗って気持ちを分かち合うことで、全体の関係はより良いものへと変わっていく。一緒に演奏することで、私達自身がリズムに乗ったメッセージを送り、感情が開放されて豊かになるのである。

Benefits.
効果

音楽やリズムは、生徒の学習において強さや弱さがすぐに分かるような能動的な学習プロセスである。音楽的またリズム的要素を用いることには、多面的な効果がある。音楽は記憶力向上、想像力育成、数的知識の発達、また自己表現力の向上をもたらす。さらに文化や歴史、科学、言語(文法構造を含む)、芸術を反映する。

音楽は患者や参加者同志の関係を形成する。この関係構築の目的は、患者や参加者の生活をより良くすることにある。また、個々の目的に沿うよう、具体的な音楽的訓練や活動が分類されており、目的としてコミュニケーション、認知、運動、感情、社会的スキルの向上が含まれる。さらに、そのために用いられる手法としては、歌唱、楽器演奏、リズム体操、言語障害者支援を目的とした音楽のリスニングがある。

楽器演奏の学習は、発達遅滞、脳損傷やその他の運動機能障害を持つ症例おいて運動機能向上を図る、優れた音楽的活動である。また、刺激のコントロールや協調運動の訓練にもなる。歌唱は関節運動、律動、呼吸運動を発達させる。歌詞を記憶することは、知的障害者にとって良い試みになるだろう。さらに、音楽的動作の創造は協調運動機能、筋力、平衡機能の改善に関係する活動である。

音楽記憶法は記憶想起の方法として用いられる。リズム、頭字語、歌は全て記憶法の例である。教育関連文献においても、音楽記憶法は効果的な学習法とする考え方が支持されている。

その他の領域では、例えばダンスアートと心理学といったことも同様であろう。患者や参加者はこの経験を通して、音楽的能力が高まるとはいえ、それが主たる目的ではないのだ。本当の目的は患者や参加者が本来持つ力を向上させ、障害を改善していくことにある。

RDP and CBR Network Malaysia.
RDPとCBRネットワークマレーシア

CBRネットワークマレーシアは2009年に活動を開始、2010年に開催された第1回CBRアジア太平洋会議の会期中に、RDPとして障害者グループと若者のグループによる初めての活動を報告した。

2011年には、子供と若者の交流活動を進めるべく地元のNGOと協定を結んだ。この活動には7歳から17歳までの150名の参加者を得た。参加者は年齢層別のグループに分けられ、おおよそ6ヵ月の間、毎週末に5名のファシリテーターがRDP活動を行ってきた。さらにRDPがRIPEと呼ばれる活動へと発展した。RIPEを立ち上げた目的は、以下のようなリスクを抱える若者への支援である。

  • 強さ(立ち直り)、妨げや不利な状況からの立ち直り
  • 関係構築、活発な若者との共同活動
  • 意図(目的)、行動の方向や希望の持つこと?
  • 資格、夢を現実にするための技能習得

毎週、平均85%が続けており、長期参加者のうち10名は、現在地元の大学に通っている。

CBRネットワークマレーシアでは2012年に独自の訓練センター運用を始め、成人の障害者に対する就労支援に向けて活動している。高い能力を持つ障害者のための伝統的なセンターであり、精神的発達やソーシャルスキルの向上を目指すことで、対象者は現実社会に向けてより立ち向かえるようになることを目指している。同時に、若年の障害者に対する早期介入や学習支援についても対応するようになった。訓練生のうち6名は既に就労、自立した生活を送っている。このプログラムは現在進行中であり、RDPもそのプログラムモジュールに含まれている。

2013年、RIPEプログラムを10ヵ月間実施した。ここでの対象集団は、都市部の貧困地域出身者や高いリスクのある若者からなっていた。プログラム開始時には約100名の参加があったが、最終的には明確に効果のあった30名が残った。そのうち7名が専門学校、大学、職業訓練に進んでいる。

2014年から現時点まででは、訓練センターの近隣地域に住む、高リスク若年者の少人数グループを対象にRIPEプログラムが進行中である。このプログラムは隔週土曜日に開催している。

Observations.
観察

個人やグループを地域サービスへ委ねようとする場合、地域の利益に繋がるプログラムを創出するか、あるいはそういったプログラムへ同調することになるだろう。その場合、障害者の生活改善や福祉を前提に、100%の支援と責任を負う。対象者の意欲や精神的支援がなければ、活動すべきことが非常に多くなるのである。

両親や介護者は、子供のためになるような様々なプログラムや療法に対し、常に警戒心を持っているようだ。そういった例では、実際の対象児に対して活動する前に、彼らを教育することが重要になる。療法士と両親あるいは介護者との間で、対象児に最もよい訓練はどうあるべきか、定期的に面談や議論をしていく必要があろう。