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第3回アジア太平洋CBR会議

1982年に設立されたエデン社会福祉財団(エデン)は、台湾で障害のある人々の福祉のために活動を始めた最初のNGOである。1990年代中頃に、台湾の障害に関する法律が改正され、精神衛生上の問題を抱える人々を、他の障害分類と同様に社会サービスの権利が与えられる障害者として分類すること、これらの人々を包含することと定められた。しかし心理社会的な障害を持つ人々が利用できるコミュニティの資源はつねに不足してきた。例えばこの10年間、台北市で利用できる地域に根ざしたリハビリテーションプログラムは、心理社会的障害のある都市部の住民の1%の需要しか満たしていなかった。台北市内で先駆的なプロジェクト開始する試みとして、エデンは台北市に心理社会的障害のある人々のためのエデン ファウンテン クラブを設立した。これはエデンで最初の地域に根ざしたリハビリテーションセンターであった。

心理社会的リハビリテーションのクラブハウスモデルに強い影響を受け、エデン ファウンテン クラブはリハビリテーションの非医療的、非臨床的な側面に特化ている。参加者を「患者」や「クライアント」ではなく「メンバー」と呼び、彼らがコミュニティに活発に貢献できることを究極目標としている。センターではメンバーとスタッフとは平等なパートナーシップ関係であることを重視している。メンバーとスタッフは、センターの様々な業務を運営する同僚として隣り合って働いている。またメンバーのセンターへの参加は、どのメンバーにおいても完全に自発的なものである。この革新的なプログラムは、台北市内のこの種のセンターのなかでは初めて設立されたものである。このプログラムの成功に続いて、新しいサービスステーション2箇所が、最近台北市の別の地区で開始された。このプログラムは市に承認されており、新しいサービスステーション2つのうち1つは台北市が出資している。エデン ファウンテン クラブには現在スタッフが14人おり、メンバー400人以上と一緒に働いている。メンバーの数は年々増えている。

10年以上心理社会的な障害のある人々と働き、エデンはメンバーの大多数が直面するチャレンジが主に3つあることが分かった。これら3つはお互いに関連している。1つめのチャレンジは、多くのメンバーが自身で決断をする力を失っていると見受けられることである。彼らは自身の精神衛生上の問題から、論理的もしくは社会的に受け入れられる決断を下すことができなくなることがある。しかし徐々に 自分で決断する努力をすべて放棄したいと思うようになり、医療スタッフやソーシャルワーカー、彼らの家族など周囲に判断を頼るようになる。2つめに、自分の病気をあらゆる責任を逃れる言い訳に使う傾向が見られる場合があることである。さらに悪いことに、彼らの介護者やプロのリハビリテーションスタッフが、高い頻度でこれらのメンバーの責任を引き継ぎ、彼らの成長を蝕んでいる。3つめに、精神病について社会的な烙印が蔓延していることで、コミュニティが心理社会的障害のある人々を受け入れるのを妨げているだけでなく、彼ら自身がこの烙印を受け入れている場合も多く、彼らの自尊感情を低くしている。 これら3つのチャレンジの結果、心理社会的障害のある人々は 社会的な役割を果たすことができない。彼らはコミュニティから孤立し、彼らの人間的な潜在可能性を完全に発達させていない。

エデン ファウンテン クラブのメンバーが共通して直面しているこれら3つの問題に挑むため、エデンで彼ら一緒に働いている者たちが、さまざまなプロジェクトを実行した。これらのプロジェクトはCBRコンポーネントのうち、主に社会とエンパワメントを中心にしており、加えて生計コンポーネントを暫定的な支援付き雇用提供としてプログラムに組み込んだ。しかしプログラムの開始当初から、介入の大部分が、社会とエンパワメントのコンポーネントの要素に焦点を当てている。 

プログラムで実行されている社会コンポーネントの要素は次の3つで、交友関係、文化・芸術、レクリエーション・余暇・スポーツである。最終目標は、社会的な烙印に挑戦すること、コミュニティとの関わりを構築すること、究極的には社会的な役割と責任を全うすることである。メンバーは創造的なアート活動、執筆活動に取り組むことを奨励され、一般の人々に向けて自分たちの作品の展示会を運営する機会がある。革新的なプロジェクトが数個実行されており、このようなプロジェクトの例として「ヒューマンライブラリー」イベントがある。このイベントではメンバーが、彼らの人生を共有する貸し出し中の本として参加する。このプロジェクトは、メンバーが生きている本を「借りる」というかたちで、自分たちの話を他の人に共有するよう奨励するだけでなく、後々心理社会的な障害へ意識を向上させるためのコミュニティ支援プロジェクトとなっている。「市民ジャーナリズム」もメンバーのためのコミュニティ支援プロジェクトである。メンバーは「市民ジャーナリスト」になり、他のさまざまな仕事に従事している人に掘り下げたインタビューを行う。彼らインタビュアーは写真と文章に記録し、それらを一般の人々に公開する。コミュニティの一般の人々と直接コンタクトを取ることを通して、メンバーは 他人との関係の構築により自信を持つようになる。それと同時に、彼らに対する否定的な態度が変化する。

さらにスタッフは、メンバーが彼ら自身の社会的責任を引き受ける方法を練習できるコミュニティ環境を、エデン ファウンテン クラブ内に創り出そうと努力する。「パートナーシップ」と「自発的」の2つの原理は、プログラムの根本をなすものである。メンバーはスタッフからリハビリテーション計画を教えられるわけではなく、自分の人生でしたいこと、彼らがコミュニティにポジティブな貢献をする方法、目標を達成するために他のメンバーやスタッフと共に働く方法を考えるよう働きかけられる。当初、この慣例にとらわれないアプローチに抵抗するメンバーもいた。しかし心理社会的障害のある人々が自己決定する力と自分の人生に責任を持つ力を喪失しているのは、主に介護者とリハビリテーションスタッフの過保護が引き起こしていることをエデン ファウンテン ハウスのCBRワーカーが信じ、メンバーは常に自分自身に責任を持つ信頼関係のあるクラブハウスの仲間となるよう働きかけられた。結果として、大部分のメンバーは彼らの能力を向上させ、家族生活およびコミュニティでの生活に復帰した。

エンパワメントコンポーネントでは、「政治への参加」と「自助グループ」の要素について部分的に実行された。実際、エデンは心理社会的障害のある人々のインクルーシブ政策キャンペーンを行うため他の障害CSOと協働した。ピアサポートと自助グループはエデン ファウンテン ハウスで支援された。

実は資源の大部分は、「アドボカシーとコミュニケーション」の要素に投入された。

エデン ファウンテン ハウスでは、CBRワーカーと開始したセルフアドボカシープログラムの発展により、メンバー1人1人の声を尊重する意識が目覚めた。

メンバーはスタッフミーティングに参加し自分の意見を言うよう働きかけられる。スタッフはメンバーとすべての提案について実行可能性を議論し、合意形成し決定をする。定期的に行われるオープンなディスカッションを通じて、メンバーは新しい情報を得て、自己認識を強化し、コミュニケーションスキルを向上し、他人と協力することを学ぶ。メンバーのセルフアドボカシーによって、彼ら自身の権利を促進してポジティブな行動を発達させることができる。そのような例として、メンバー2人に国際会議に出席して、台湾で心理社会的な障害がある人々の投票を妨げている障壁について発表を行うよう、働きかけが行われた。スタッフはこのメンバー2人と、20分間の発表の準備のために4ヶ月を費やした。このプロセスを通じて、メンバーは情報収集や口頭発表、他国の人々との意見交換などの幅広いスキルを身につけた。新しく得たスキルと知識は、メンバーの自信と自尊感情を高めるだけでなく、台湾で心理社会的障害のある人々の政治参加を向上させる必要性について、彼らが注意深く話すのを助けるものである。

エデン ファウンテン ハウスは、精神衛生的な問題を抱える患者を、心理社会的な障害のあるアクティブな市民に変えることを目指した台北の革新的なプログラムである。このハウスでは病院と、家庭およびコミュニティの間の過渡的な場を創り出すことを試みている。平等なパートナーシップの原理に重点を置き、メンバーはリハビリテーションの最初のステップとして、スタッフの支援を得て自分の責任を取ることを要求される。心理社会的障害のある人々のリハビリテーションの医療的な側面を補完するために、非医療の革新的プログラムがコミュニティでさらに利用できるようになることが望まれる。