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第3回アジア太平洋CBR会議

ブータンでの地域に根付いたインクルーシブ開発(CBID)による貧困削減:国民総幸福の国

地域に根付いたインクルーシブ開発(CBID)は、障害のある人(PWDs)へのエンパワメントおよび地域の開発の維持にも最も適した手法である。本会議での発表テーマである「地域に根付いたインクルーシブ開発による貧困削減と持続可能な開発目標」は、CBRの医療モデルから社会モデルへの移行が強調され、重要な岐路に立っている現状に深く関連している。まず初めに、本会議の成功のため惜しみない尽力を注いでくださった会議主催者の方々に厚く御礼を申し上げます。日本は、人間社会全体の幸福のために開発支援を差し伸べている最も寛大な国の一つであり、ブータンもその恩恵を受けている。したがって、この非常に重要な会議がここ東京で開催されるのは、とてもタイムリーなことである。日本の経済成功とその寛大な政策により、アジア太平洋地域のDPOsおよびPWDsは、半世紀以上もの間、インフラ開発および能力構築において恩恵を受けてきている。

障害に関する世界報告書2011によると、10億人以上、もしくは世界人口の約15%が何らかの形の障害を持って生活をしている。世界中で、障害のある人たちは、身体的、経済的、そして態度面でのバリアーに直面しており、それにより対等な社会の一員としての完全かつ効果的な社会参加から排除されている。障害のない人と比べてPWDsの死亡率はより高いことに加え、世界の最貧困層のうちPWDsの占める割合は非常に高く、また教育、雇用、医療、社会および司法支援制度といった基本的なリソースへの平等なアクセスも欠いている状態である。しかし、このような現状にもかかわらず、一般の開発アジェンダおよびそのプロセスで障害問題が取り扱われることは皆無に近い。

国際障害運動は、多くの素晴らしい結果を達成した。その一例である2006年の障害者権利条約の採択は記念すべき功績と言える。条約採択後も、障害に対する態度とアプローチ方法を変え、障害のある人の完全な平等と社会参加を実現するため、国連による何十年にも渡る活動が続けられることとなる。この条約は、明確な開発特性を備えた人権に関する法律文書としての役割が意図されている。しかしながら、障害のある人の平等と参加を実現するためには、障害問題が全ての開発過程に含まれなければならず、特に新たに策定に向けて取り組まれているポスト2015開発フレームワークに障害問題が取り入れられることがさらに重要である。

ミレニアム開発目標(MDGs)やその他の国際的に合意された開発目標の真の達成のためには、国、地域、そして国際レベルでの開発取り組みに障害のある人の意見、権利、福祉のインクルージョンおよびインテグレーションが必要不可欠であると、国連総会で繰り返し強調されてきている。

2011年に「その先へ: 2015年以降に向けた障害インクルーシブな開発アジェンダ」というテーマのもと、閣僚および首脳級での開発と障害に関するハイレベル会合(HLMDD)が国連総会により開催されたことは励みになることである。国連の歴史での中でも極めて大事なこの時期に、この重要なハイレベル会合が開催されたことは、極めて重大なことである。この会合が開催されたのは、国連障害者権利条約が発行された5年後、障害に関する世界報告書が発表された2年後、そしてミレニアム開発目標達成の目標期日であり、その後はポスト2015アジェンダおよび新たな開発優先事項が開始される2015年という節目まであと2年という時期であった。

採択されたHLMDD成果文書は行動重視の内容となっており、障害インクルーシブな社会構築に向けての国際公約を具体的行動へと移すため、そして社会および開発の全ての側面への障害のある人のアクセシビリティとインクルージョンの保証に向けた世界的な努力の強化を促進する政策ガイドラインを提示している。本会議は、政府、国連機関、市民社会、障害団体といった全ての関係者への参加機会、そして受益者と実施者の両方の立場から、障害のある人の開発へのインクルージョンに関連した課題を考える機会を提供している。

ブータンは、国民総幸福量開発政策による幸福の国として最もよく知られている。国民総幸福政策領域内では、貧困削減が現開発計画における主要目的とされている。これは、非政府組織および政府組織両面の振興を通して、PWDsの成長とエンパワメントにつながる環境づくりを意味している。CBRプログラム活動が1997年から開始されているにも関わらず、いまだにブータンのPWDsは、険しい地形および障害フレンドリーではない開発体制という問題に直面している。今まで以上のPWDsのインクルージョンおよびエンパワメントの必要性から、Draktso、アビリティー・ブータン・ソサエティ、ブータン障害者協会という3つの障害者団体(DPO)が設立された。これら3つの非政府機関は、PWDsのニーズへの対処、アドボカシーおよび活動の場の提供という道を切り開いたパイオニアであり、非常に重要な役割を担ってきている。

ブータンでは、1997年にCBRが導入された。開始当初CBRは、理学療法士および保健スタッフに対するCBRの概念とCBRマニュアルの使用方法についての研修という形で実施された。地域の保健ワーカーへの研修は、障害問題およびリハビリテーション方法の概念を理解してもらう非常に良い機会となったが、PWDsの生活面への実影響はほんの僅かであった。これは、保健ワーカーの予防および治療活動の日々のスケジュールの多忙さが原因の一つとして挙げられ、またPWDsのリハビリは短期的な治療とは異なり、継続的で長期的なプロセスであることにも起因していた。それに加え、保健の専門職は通常医療モデルに従っており、社会モデルの概念を理解するのは難しかった。これにより、地域でのCBR実施による双方向参加型アプローチというよりは、一方的なリハビリテーションのプロセスとなってしまった。

PWDsのエンパワメントを目的とし、3つの障害者団体が設立され、正式登録された。Draktsoは、正規教育を受けられない、もしくは高等教育に進学できないPWDsへの職業訓練を提供している。アビリティー・ブータン・ソサエティは、障害のある子供達へのリハビリテーションサービス、またアドバイスやモチベーションを必要としている親へのサポートを提供している登録障害団体である。ブータン障害者協会(DPAB)は、障害のある人たちの声となるために、障害当事者グループにより立ち上げられ、障害に関連した課題と問題を訴えかけていくことを目的としている。DPABは、UNCRPDの批准および障害法の可決の促進に向けての運動も開始する予定である。

ブータンの山岳地帯は、移動障害のある人にとっては非常に困難な環境である。車椅子を使用している人は、近所もしくは家の中でさえ自立して移動することが難しい状況である。問題は環境面での障害のみでなく、建築デザインも障壁となっている。頻繁に使われる郵便局、銀行、映画館やホテルなどの公共建築物でさえも車椅子使用者にとって使いにくいものとなっている。ブータンの厳しい環境でも移動できる強化車椅子のような適切な補助器具の欠如も大きな障壁となっている。車椅子、松葉杖、補聴器などの補助器具は輸入品で、インドからのものが大半である。クライエントが必要な時に店に在庫がない場合が多く、注文・購入まで何ヶ月も要することもある。

インクルーシブな社会の構築の妨げになっているもう一つの要因は人々の態度である。多くの場合、慈悲または苛立から、障害のある人は過剰に保護されるか、無視されるかのどちらかである。対麻痺のある人が退院後自宅に戻る際、クッションや車椅子などの適切な座席環境の有無によっては24時間前後の待ち時間をベッドの上で過ごさなくてはならず、その結果、床擦れやその他の合併症を引き起こすことになる。

これらの問題を解決するため、保健省は1997年からリハビリテーションリソースセンターの設立を計画していた。しかしながら、資金および人的資源不足により、未だ実現化されていない。このようなセンターはPWDsのリハビリの場、そしてカウンセリングの提供、歩行援助器具やその他の支援器具などのモラルおよび現実的支援の提供の場としても非常に役に立つことになるであろう。このセンターは、人的資源および補助器具の提供の両面でのバックアップ機関としての役割も果たすことができるであろう。

国民総幸福開発政策の実施にも関わらず、ブータンではPWDsの地域に根付いたインクルーシブ開発の達成には程遠い状況である。ブータンのPWDsの直面している最大の問題としては、険しく岩だらけの山岳地域、アクセシブルではない建築デザイン、適切な補助器具の欠如が挙げられる。我々PWDsは、政策立案者だけではなく一般社会に対しても訴えかけ、この国の社会経済開発への貢献、教育および就労へのアクセスの面で機会に恵まれなかった我々の同僚の支援に力を注いでいる。1973年に設立された盲学校がPWDsのための唯一の施設だった時から比べると、私たちは大きな進展を遂げた。現在では、軽度から中度の障害のある児童のための統合学校が8校、盲・弱視学校とろう学校がそれぞれ1校づつ、そして前述した3つのDPOが存在する。本会議から多くのことを学び、ブータンの施設および政策の今後の発展に寄与できることを望んでいる。

本会議を興味深い内容に作り上げ、そして成功に導いた主催者の皆様のご尽力に厚く御礼を申し上げます。

ご静聴ありがとうございます。
Tashi Delek

Sanga Dorji
ブータン