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第3回アジア太平洋CBR会議

新たに現れたグループ: ネパールにおける心理社会的障害のある人たち

Mr. Shaurabh Sharma, CBM / Ms. Leela Khanal, KOSHISH

背景

個人の社会的排除に起因し、心理社会的障害が急速に増加しており、また新興経済における家族およびコミュニティーの大志を挫く大きな要因ともなっている。

世界保健機関(WHO)の推定によると、4人に1人が生涯で一度は何らかの精神障害症状もしくは心理社会的問題を経験しており、その結果、世界中で約6億人が障害者となっている。

心理社会的障害は、現代の最も切迫した開発問題の一つである。貧困と飢餓、紛争と外傷、保健と社会医療への不十分なアクセス、そして社会的不平等が大きなリスク要因となっており、地方に住んでいる低所得および中所得層の心理社会的障害のある人たちをより一層弱い立場に追い込んでいる。

ネパール政府は、障害をきたす症状7つのうちの1つとしてメンタルヘルス障害を定義しており、メンタルヘルスサービスを基本優先保健医療項目に含んでいるにも関わらず、ネパールのメンタルヘルスサービスの大規模な進展は見られていない。WHOメンタルヘルス・システム評価方式(WHO Assessment Instrument for Mental Health Systems) (WHO-AIMS)による2006年の研究によると、ネパールの全保健関連支出のうち、メンタルヘルスに充てられているのは1%以下(0.17%)であると報告されている。ネパールでは1961年までメンタルヘルスサービスに関して全く知られておらず、1997年までは精神科医、臨床心理士、精神科看護師のための訓練機関は存在しなかった (Sedain, 2014) 。ネパールでのメンタルヘルスサービスへのニーズが増加してきたのは、紛争後の社会不安、暴力、強奪、災害に国全体が動揺している近年のことである。

1982年以降、CBMはネパールの地域のパートナー機関と提携し、障害のある人たちとその家族が以下の項目へのアクセスが保障されるよう活動している:

  • 低価格で包括的な医療ケアおよびリハビリテーションプログラム、特に眼科、耳鼻科、整形外科、心理社会的ケア
  • インクルーシブ教育プログラム
  • 障害のある女性、男性、子供の生計を立てるための機会と能力開発

障害のある人たちと共に活動をしながら、CBMは社会の全側面への障害のインクルージョンを提唱し、その達成のため中央政府関係者とも協働している。

KOSHISH i は、心理社会的障害を全ての開発側面に取り入れること、また開発プロジェクトへのインクルージョンと地域のイニシアチブへの関与を通し、心理社会的障害のある人たちが地域で積極的役割を担えるようエンパワメントすることを目的として活動している。この目的達成のため、コミュニティーレベルで保健と障害の問題に取り組もうと、2010年にCBMがKOSHISHと共に古都バクタプルを訪れた際は、郡レベルでさえも、一つのイニシアチブも存在しない状態であった。2011年国勢調査とその割合によると、バクタプル郡の人口は304,651である。バクタプル郡の障害のある人の正式人口は791であり、そのうち心理社会的障害のある人は86人である。カトマンズ盆地の一部であり、いくつかのINGOSやNGOのプログラムが運営されている地域にも関わらず、メンタルヘルスサービスは皆無であった。メンタルヘルス障害のある人に対する不名誉な烙印(スティグマ)、差別、そして排除が横行しており、チェーンで巻きつける、丸太に縛り付ける、部屋に閉じ込める等の、メンタルヘルス障害のある人たちに対する非人道的扱いが郡全領域で行われていた。

介入

前述した状態の中、我々はいくつかの段階に別れたプロジェクトを発足させ、その全段階で、心理社会的障害を持って生活をしている人たちのインクルージョン実現に向けた包括的アプローチのための取り組みが行われた。CBRガイドラインの方針に沿い、このプロジェクトの目的は、心理社会的障害のある人たちの保健、生計活動、エンパワメントサービスへのアクセスの向上であった。保健分野では、心理社会的障害のある人たちのメンタルヘルスの向上のため活動してきている。その取り組みの一つに、バクタプル病院との提携での精神科外来の開設がある。しかしながら、外来のサービスを受けている人の多くは処方薬を購入することができず、患者の服薬順守率は非常に低かった。郡の機関のほとんどは、郡の開発アジェンダにメンタルヘルスプログラムを取り入れることの緊迫した必要性に全く気付いていなかった。CBMは、現存する心理社会的障害およびその原因となりえる症状の予防のためのプロジェクトの支援を行った。

プロジェクトの二段階目は、メンタルヘルスサービス利用者へのエンパワメントを通して、心理社会的障害のある人たちの生活の質の向上への取り組みであった。KOSHISHとCBMは、まずバクタプル病院が運営するクリニックへの啓蒙活動から開始した。自助グループを活用することで、保健教育の提供、地域にいるクライエントの把握、治療の照会、再発防止の手助け、相互支援の提供が可能になることがクリニックに説明された。

また、第三のプロジェクト構成要素として、能力および事業開発と所得創出活動を通して、自助グループのメンバーへの経済的エンパワメントにも取り組んできている。

方法

このような状況のもとで、バクタプル市の心理社会的障害のある人たちとその家族、およびKatunje村開発委員会(VDC)で、Aasha(希望)とSahara(支援)と呼ばれる2つの自助グループを組織した。

それぞれの自助グループはバクタプルで活動しており、心理社会的障害のある人たちとその家族15名で構成された。複数の公式および非公式の啓蒙活動を立ち上げた。公式プログラムの一つに学校での啓蒙授業があり、メンタルヘルス障害の特性と症状、および可能な対応方法について、子供たちに対する基本的情報提供を目的としていた。また、自助グループは市およびVDCの地域レベルでの集会にも参加し、メンタルヘルスサービスのための資金配分要求を提出した。提出された要求は、VDCおよび市議会でも引き続き話し合われた。要求通りの十分な資金を得ることはできなかったが、メンタルヘルスという事項が地域開発考案過程での重要課題であるという印象を残すことができた。

結果と成果

バクタプルにある四年制のコミュニティー・メンタルヘルス・プログラムは、限られた経費で良い成果を上げてきている。まず一つ目の成果は、メンタルヘルス障害のある人たちのサービス利用率が上がってきていることである。2011年1月に初めて精神科外来が開始された当初、外来サービスを利用した心理社会的障害のある人はたった7人であった。その後、2011年12月末には17人に増加した。同様に、2014年12月末には30人にまで達した。現在では、毎月40人が自らの地域でメンタルヘルスサービスを利用している。2つ目の成果は、心理社会的障害のある人たちが、障害IDカードの取得に向けての戦い、およびメンタルヘルス問題を当然のアジェンダとして地域開発過程へインクルージョンする活動を通して、エンパワメントされたと自ら感じていることである。18人の自助グループメンバーは自分たちの権利と特権に関する研修を受けている。6人のメンバーは、市およびVDCにおける2つの地区レベルの集会に参加した。集会ではまず、心理社会的障害のある人のための障害カードについて議論することができた。2つ目の議論は、市および村の開発計画へのメンタルヘルスプログラムの挿入とその予算であった。3つ目は、無料必須薬リストに記載されている向精神薬の利用可能性について議論された。それに加え、彼らが地域事業へ参加することで収入を得ることができ、自分の価値の自覚が芽生えただけではなく、自ら自立して薬を購入することができるようになった。2011年以来、自助グループメンバーはプロジェクトから薬の支援を受けている。メンバーは地域のマーケットでベルベットの靴を売ることで、2014年12月までにはNPR13,000を稼ぐことができ、2014年末までには、自分たちの薬を自ら購入できるようになっている。(文章的には近い未来のように書いてあるので、もしかしたら2015年の間違いかな?と思いながらも、そのまま訳してあります。)最も意義深い成果は、メンタル/心理社会的障害が、バクタプルの重大な保健および障害課題として認められたことである。その後も、バクタプル病院および自助グループメンバーが主体となって、地域でのメンタルヘルスサービスを継続している。現在では、毎月自助グループメンバーとバクタプル病院スタッフが精神科訪問を行っている。同様に、KatunjeのChyamasingアーバン・ヘルス・クリニックも、KOSHISHおよびCBMと連携して、精神科外来とカウンセリングサービスの設立を要望している。

結論と提言

自助グループとは、そのメンバーにとって自分たちの経験を話し合える場、また、生活、感情、回復についての考えを共有できる場であることが分かった。メンタル/心理社会的障害のある人たちの回復は旅であり目的地ではない。それは、メンタル/心理社会的障害による制限を受けながらも、満足して希望に満ち、そして社会に貢献しながら日々の生活を送るということである。回復に向けての旅のあらゆる過程で、自己管理と自己主導性を取り戻さなくてはならない。メンタル/心理社会的障害のある人たちで、その障害のため不名誉な烙印を押された経験のある人たちは通常、自分自身を恥じているかやる気をなくした状態であるが、自助グループでは、不名誉な経験を、全てのメンバーがそこから対処能力を学ぶことができる共通の経験と見方を変えることで、その経験を財産へと変えていく。

この心理社会的障害のある人たちの自助グループの成功は、現在ではその他の人たちの模範となっている。この成功に倣い、国中のメンタル/心理社会的障害のある人たちの心理社会的福祉を向上することができるであろう。我々は、新たに選ばれたTanahun郡でも、同様のアプローチを活用できると自信を持っている。Tanahunのプロジェクトでは今回の成功に倣い、自己エンパワメントの向上および自立した団体としての自助グループ運営のための能力構築も目的としている。この実現には、コミュニティーおよび地域の政策決定機関とのより一層の連携と能力構築を通し、多様な経験を集約し、学習機会を広めていくことが必要である。

いくつかの提言で、本発表を締めたいと思う。まず、プログラムはボトムアップの変化を働きかけるものであるべきであり、なぜなら、それにより心理社会的障害のある人たちの自信とアドボカシー能力の構築を助長することになるからである。そしてその結果、サービスとリソースへのアクセスが改善される。二つ目の提言は、グループでの所得創出活動を選ぶ際に、長期的な持続可能性を確保するために、地域で利用可能なリソースを活用することである。また、この持続可能性の実現のために、グループ貯蓄の促進の重要性も提案したい。また、プロジェクトの受益者および実施機関の、プロジェクト計画・実施へのより一層の関与を通し、この持続可能性という目的の達成を助長することができるかもしれない。

参照

i KOSHISHとは、ネパール語で尽力を尽くすという意味である。本発表では、社会の態度の変化、そして人権の擁護および促進に取り組む心理社会的障害のある人たちを指す